光と闇があわさって最強に見える



 みんなみんなしまっちゃいました。

 皆さん、脱出したがってたけど、こうすればよかったんじゃね、って今気づきました。まる。気づかなかったことを許して欲しい。なんでもしますから。


 と言い訳を重ねながら落下してくる巨塔へ向かってフィンガースナップ。


 ATK5,000万:HP10,000の絶槍で風穴開けてやったります。


 見えた。

 巨塔ごと霧に大穴を開いた先、ボスがぐんぐん上へ上へ逃走中。


 ちょっと遠い。

 スキルの補正に頼ってオートエイムで狙ってもいいけど、個人的にそれだと負けな気がするので素直に近づくことにします。


「ちーちーちー!」


 おや、シマエナガさんが何やらやる気だしていますね。

 

 

 ────



 神喰らいの騎士シーステリ・ノーテリア

 人を捨て、人を失い、上位世界に近づいた八人の騎士。

 うちひとり、最も残忍に銀狩りを行った騎士。

 それが銀狩りの王ホールグラッピアである。

 彼は長き眠りの枷によりその力のすべてを使えずにいた。

 銀色の使徒たちを贄としてなお、まだ足りない。


「ぉ、ボウ、お、血の樹が、クるな……」


 銀狩りの王ホールグラッピアは腐れどもの悲鳴とともに首をもたげる。


 下方から光の柱が昇った。

 当たらないように滑らかに回避をする。


 あれを殺すには完全なる状態でなければならない。

 

 銀狩りの王ホールグラッピアは気配の揺らぎを感じ取り、おもむろにすぐ横の壁へタックルし、壁の向こう側へ侵入した。


 そこは救世ダンジョンのおよそ30階層に相当する場所であった。

 銀狩りの王ホールグラッピアは鼻をひくひく動かし、無数の歯を剝き出しにして醜悪な笑みをうかべると、餌に飛びつく獣のように救世ダンジョンを進みはじめた。


 追いかけるのはチーム指男。


「ちーちーちー!」

「シマエナガさんがついに鳥キャラとしての役目を……っ」


 指男と厄災の軟体動物は、偉大なる白翼ではばたくもふもふな背中を借り、獲物を追跡していた。


 壁に空いた穴を発見し、厄災の禽獣は着地する。

 シュタっと着地する指男。サングラスの位置を直し「ここか」とあちこちに残るタール状の液体を確認する。


「ぎぃ(訳:先輩、やっぱり少し大きくなってませんか?)」

「ちーちーちー(訳:気のせいちー。言い掛かりをつけるならこうするちーよ)」


 厄災の禽獣はくちばしを「ぱちんっぱちんっ」と打ち鳴らし、邪悪にちーちー。

 厄災の軟体動物は震えあがり、それ以上の追及を先送りにした。

 

 指男は駆ける。

 白光りする迷路を黒い痕跡を頼りにひた走る。


 たまに空気中に微量の経験値が滞留しているのに気が付く。

 常人では感じ取れない微粒子レベルの経験値だ。


「これは……まだ新鮮な経験値。あのボスモンスター、もしかして救世ダンジョンのモンスターを倒しながら進んでるのか」


 はてなぜだろう。

 指男は難しい顔をする。

 だが、3秒で思考をやめた。


 モンスターの思考など考えても仕方ないことだと思ったからだ。


 ──10分後


 指男たちは厳かな雰囲気の巨大な門の前にいた。

 門にはわずかに霧がかかっている。

 暗黒の霧のような邪悪なものではない。

 白くもやがかった挑戦者の意思を確かめる霧だ。

 霧には文字が浮かび上がっており『ダンジョンボス:救世の白金竜』と書かれている。通常なら白い文字はいまは黒く濁っている。


 黒い痕跡が門にべったりとついていた。

 銀狩りの王ホールグラッピアがなかへ入ったことは明白であった。


 指男はサングラスの腹を中指で軽く持ち上げる。

 パチンっと軽快に指を鳴らした。


 門が吹き飛ぶ。

 木っ端微塵と化し、道がひらけた。

 指男は肩にナメクジを、胸ポケット豆大福を納め、いざ足を踏み入れた。


「もう逃げられはしない。おとなしく経験値」

「ちーちーちー!」

「ぎぃ」


 くちゃくちゃくちゃ。

 濡れた音がする。


 聞くだけで不快感を催す生理的すぎる音であるからだろうか。

 内側に潜む獣性の語る声を意識してしまうからだろうか。


 砂塵を抜ける。

 視界が晴れる。


 そこはドーム状のエリアだった。

 かつて指男は何度か同じような空間にたどり着いたことがある。

 ここは同じだ。


 違うのは全体的に白く光っているところだ。

 神聖さすら感じる淡さのなかに、ひたすらの穢れが蠢いている。

 その様はある種、指男が儀式の間で最初にバケモノを発見した時に似ていた。


 銀色。そして救世。

 ふたつの恩寵は敵対勢力の上位者たる銀狩りの王ホールグラッピアには決して宿りはしない。

 だが、ふたつを取り込めば、あるいはごく一時、反発しあう力の共存は可能かもしれない。


 その証明を銀狩りの王ホールグラッピアは行った。


 ドームの中心。

 銀狩りの王ホールグラッピアが喰らうのは巨大な竜であった。

 全長30mにも及ぶ大きい竜だ。


 千葉クラス4救世ダンジョンのダンジョンボス『救世の白金竜』である。

 超大型ダンジョンクラス4のボスであり、破格の力を持っている。

 もし指男が『冒涜の眼力』でもって竜を調べたのならば、その驚異のステータスにおののいたかもしれない。

 HP20億。MP10億。対人ATK4,000。

 

 ダンジョンボスとはダンジョンの力の集合体であり、通常のモンスターとは次元の違う力を有している。

 ダンジョンという最強のサポーターから膨大なバックアップを受けているのだ。 

 ゆえにその討伐には、無数の探索者が連携を取り、たくさん物資を用いての大規模なレイドバトルが繰り広げられるのが常だ。

 

 銀狩りの王ホールグラッピアはそんなダンジョンボスの心臓を喰らった。

 

「ボ、ぅ、おお、ぐ」


 銀狩りの王ホールグラッピアの背中から白金の六翼が突きだす。

 脇腹を破り、竜の前足が生えて来る。

 邪悪さの対極に位置する神聖なる竜の諸相。

 銀の巫女ルーサス・オーサスを喰らい、救世の白金竜を喰らい、銀狩りの王ホールグラッピアはその力を手にしたのだ。


 新しい神話がはじまる。

 かのいにしえの大英雄は、眠りからの解放を果たし、かつての力を取り戻したばかりではなく、その先にたどり着いた。


「ち、ちー!(訳:なんかとてつもなく神々しいちー!?)」

「ぎぃ(訳:さっきまでとは次元が違いますね)」


 厄災たちは遠い起源を同じくする力の融合が恐ろしいことを招くと本能で知っていた。

 

「ちーちーちー!(訳:光と闇があわさって最強に見えるちー……! はやく逃げるちー!)」

「ぎぃ(訳:よくないことが起こる気がします。今は逃げましょう)」


 指男は『蒼い血 Lv5』を取り出し、首に注射する、

 MPを1,200ほど吸わせ、再び注射し、HPを回復させる。


 ────────────────────

 『蒼い血 Lv5』

 古の魔術師がつかっていた医療器具

 MP1で充填。使用すると体力を回復する。

 転換レート MP1:150

 ────────────────────

 

 MP1,200:HP180,000

 HP180,000回復。

 

 ────────────────────

 赤木英雄

 レベル255

 HP 191,800/191,800

 MP 15,710/51,400


 スキル

 『フィンガースナップ Lv6』

 『恐怖症候群 Lv8』

 『一撃 Lv8』

 『鋼の精神』

 『確率の時間 コイン Lv2』

 『スーパーメタル特攻 Lv8』

 『蒼い胎動 Lv4』

 『黒沼の断絶者』

 『超捕獲家 Lv4』

 『最後まで共に』

 『銀の盾 Lv9』


 装備品

 『アドルフェンの聖骸布 Lv4』G4

 『蒼い血 Lv5』G4

 『選ばれし者の証 Lv4』G4

 『迷宮の攻略家』G4

 『血塗れの同志』G4

 『メタルトラップルーム Lv3』G4

 『夢の跡』G4


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「ちーちーちー!!(訳:なにしてるちー! まさか戦うつもりちー!? あれはやばいちー! 光と闇が合わさって最強に見えるのがわからないちー!?)」

「もちろん。倒します」

「ちーちー……(訳:どうして戦うちー……)」

「約束をしてしまいましたから。あとは俺が引き受けると。ここで逃げたら裏切ることになる。美人さんを泣かせることはできません」


 厄災の禽獣はハッとする。

 厄災の軟体動物は静かに主人の判断を信じる。


「ちー(訳:仕方ないちー。ちーの信じた英雄は確かにこういうやつだったちー……)」


 銃弾の雨をくりだすマフィアのボスとの戦いが厄災の禽獣の脳裏をよぎった。

 厄災の禽獣は己の信じてくれた主人を信じることにした。


「ちーちー(訳:ちなみにブサイクなメスにも同じく泣かせないように頑張るのかちー?)」

「たぶんこっちから泣かせます。拳で」

「ちーちーちー(訳:ブスに厳しいちー、世の中の潮流に逆らっていくちー、死ぬほど正直ちー)」


「ぎぃ(訳:ご主人、先輩)」


「ん、どうしました」

「ちー?」


「ぎぃ(訳:来ます)」


 指男と厄災の禽獣がキョロっと視線をうえへ向ける。


 暗黒救世竜は腕を束ねて、黒触手と白金の鱗がからみあった両手を掲げていた。

 右手に暗黒の槍を、左手に黄雷の槍を。

 それぞれ召喚しただけで、ドーム空間に暴風域が展開された。

 それだけにとどまらない。

 解き放たれた力の渦は、ドームを内側からバキバキっと砕き、なおも拡大し続ける。風速数百メートルの降れるだけで肉塊になりかねない大気圧というデスゾーン。


 蟲は定位置にいるのは危険と判断し、肩から鳥の住まう胸ポケットに避難済みだ。

 鳥は後輩に押し出されないよう、胸ポケットから飛ばされないよう、涙目でしがみつく。


 一方の指男は棒立ちだ。

 サングラスがズレるので軽く押さえる。

 静かな視線は竜を値踏みしていた。


「エクセレント。凄まじい経験値を感じる」

「ちーちーちーッ!(訳:この期に及んで馬鹿なのかちー!!?)」

「ぎぃ(訳:先輩、もっと詰めてください。狭いです)」

「ち、ちー!(訳:後輩、やめるちー! はみでるちー!)」


 暗黒救世竜は雷を投擲した。

 次に闇の槍を投げつけた。


 ふた振りの神槍が着弾。

 「ちぃぃぃいいーーー!!」という悲鳴は、爆雷に掻き消され、誰にも届かなかった。


















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