宇宙悪夢的な融合
銀色の影が絶え間なく動き回り、竜巻のように指男のまわりを包囲している。
指男は一歩も動かずにただ軽く腕を持ち上げて指を鳴らした。
大爆発が起こる。
銀色の残骸があちこちへ散らばる。
包囲網のなかから飛び出す機兵が大きな斧をふり降ろす。
斧があと数センチのところまで迫る。
指男はふりかえらず、顔横に手を持ってくる。
自分の背後を爆炎で吹っ飛ばした。
腕をもちあげ、指を鳴らすまでの所作が異常なほどに速い。
その速さだけで言えば、指男は銀色の使徒たちを大きく上回る。
ゆえにこそ彼は敵に攻撃を打たせ、あとから被せることでカウンターを間に合わせることができた。
どんなに近くで爆発させようとも、決して指男が燃えることはない。
爆炎と彼との間に見えない絶対の壁があるかのようだ。
ただひとつのスキルを使い続け、極めた者のみがたどり着けるスキルコントロールであった。
しばらく後
指男は消し炭の山を築き上げた。
「ぎぃさん、回収を」
「ぎぃ!」
厄災の軟体動物が一声鳴くと、足元が黒く泡立ち、大量の黒沼の怪物たちが姿をあらわした。
メタルの機兵から『千式メタルキット』を集める係である。
指男はライターに天の川を形成するほどの光の粒子──膨大な量の経験値を収納し終えると「明かりは必要だからね」という口実をつけて、ライターの炎を灯した。しきりに鼻を近づけてビクンビクンしている。ちょっとは後ろめたさを感じて欲しい。
指男は頭のなかで鳴り響くレベルアップの音に昇天しかける。
「ぎぃ(訳:横領罪です)」
「あ、ぎぃさんが勝手に……」
厄災の軟体動物はライターを取り上げる。
代わりに今度は自分で経験値を吸い始めた。
みるみるうちに大きくなっていくすべすべナメクジボディ。
指男のうちにわだかまる罪の意識が「ま、まあ、俺も横領したしね」と、公然の横領を黙認させた。腐敗のはじまりである。
5分後
「ちょ、ちょっと、ぎぃさん! 流石に大きくなりすぎでは!?」
「ぎぃ(訳:ライターが上手く閉められません。ナメクジだから。だからこれは仕方ないんです)」
「ぎぃさんが暗黒面に!?」
言い訳をして大きくなり続ける厄災の軟体動物からなんとかライターを取り上げる頃には、シルエットだけならシャチに匹敵するほどの巨大ナメクジが誕生していた。
厄災の軟体動物は度重なる横領罪を盾に、経験値を総取りできる瞬間を狙っていたのだ。
「ぎ、ぎぃさん……なんて酷い、約束が違うじゃないですか」
「ぎぃ(訳:どうやら私の本性を理解していなかったようですね。ですが、我が主、あなたも同罪ですよ。ふっふっふ、我が主の内に宿る罪の意識が見えます。私を責めることができないのでしょう)」
「な、なんてずる賢い。これが新しい経験値犯罪だとでも……っ」
「ぎぃ(訳:鳥である先輩にはこの事は内緒です。バレてしまったらきっと食べられてしまいます。先輩は虫属性に圧倒的な優勢をもちますから)」
経験値ジャンキー、経験値クズ、唯一の救いまでも今や経験値インテリクズと化したチーム指男の明日はどこへ。
「まあ、いいでしょう。ぎぃさん、この地下でのことはシマエナガさんには内緒ですよ」
「ぎぃ(訳:もちろん。これは私と主のトップシークレットです)」
「ところでぎぃさん、チェックです」
指男は厄災の軟体動物にステータス開示を求めた。
────
──赤木英雄
ぎぃさんの驚くべき本性が明らかになりました。
やはり厄災。闇の面を誰しもが抱えているものですが、ぎぃさんも例に漏れなかったようですね。
ところでちょっとステータス見せてねっと。
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ぎぃさん
レベル80
HP 3,021/254,800
MP 6,012/526,400
スキル
『黒沼の呼び声 Lv3』
『黒沼の惨劇』
『黒沼の武装 Lv5』
────────────────────
はい、有罪です。
修羅道さん、あとはよろしくお願いします。
「ぎぃさん、やっちゃいましたね」
「ぎ、ぎぃ」
「いや、これで無害アピールは流石に無理があるでしょ」
一応、『黒沼の呼び声 Lv3』と『黒沼の武装 Lv5』も確認しますかね。
もう有罪は確定してますが。
───────────────────
『黒沼の呼び声 Lv3』
黒沼の怪物の一部を召喚し攻撃する。
2時間に1度使用可能。ATK1~300,000
ストック999
MP200でクールタイムを解決。
───────────────────
あーあ、ATK30万出せるようになっちゃった。
これいつも使ってる触手でしょ、君?
なにあの感じで撫でられたらATK30万で吹っ飛ばされることかい?
ちょっとしたバグやん。
───────────────────
『黒沼の武装 Lv5』
黒沼の武装を召喚する
MP1~100,000
2時間に1度使用可能。
ストック999
MP200でクールタイムを解決。
───────────────────
ほう。
確か『黒沼の武装』はMPを消費して武器を召喚するスキルだったかな。
以前の無印はMP1,000の武器をだして、青龍刀を出す感じのあんまり危機感は感じないスキルだったけど……。
「今はぎぃさんのMPが足りないから召喚できる最大の武器”MP100,000の武器”が何かわかりません……。仕方ないです。あとで検閲しましょう」
なんとなくだけどろくでもない物が出て来る気がします。
「ん、あれ、ライターの火が消えちゃいましたね」
壊れちゃったのかなぁ。
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『貯蓄ライター Lv3』
経験値は貯蓄する時代です
0/99兆9,999億9,999万9,999
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あ、やっべ!!
大事な大事な経験値貯金がア!!
「ぎぃ!(訳:まずいです、これじゃ先輩に隠しとおせません!)」
さしもの経験値インテリクズも慌ててます。
鳥がそんなに怖いんですね。
「ぎぃさん、落ち着いてください」
「ぎぃ……?」
「こうすればいいですよ」
『貯蓄ライター Lv3』なんてはじめから無かった。
俺はジッポを叩き潰し、ぽいっと捨てる。
「ぎ、ぎぃ……(訳:我が主がこんな知恵を持っているなんて……! やはり経験値がからむと途端にIQがあがる特性があるようですね……)」
「いいね。ライターは壊れちゃったんです。だから、経験値が漏れ出ても仕方のないこと。ね? ね?」
「ぎ、ぎぃ(訳:主人の圧が……っ!)」
シマエナガさんには口裏を合わせて対応しよう。
そうね。謹慎も解除かな(残された最後の罪の意識)
だってね、500億×100……5兆経験値を使っちゃったって事実はシマエナガさん知らないしね。うんうん、大丈夫よ。問題は明るみにでなければ問題じゃない。
「ぎぃ(訳:チーム指男に隠蔽体質が宿ろうとしてます)」
「え、なんです? なんか言いましたか、ぎぃさん(真顔)」
「ぎぃ……」
ところでずいぶんレベルアップしちゃってたけど、俺、いくつになったのかしら。
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赤木英雄
レベル255
HP 33,155/191,800
MP 17,120/51,400
スキル
『フィンガースナップ Lv6』
『恐怖症候群 Lv8』
『一撃 Lv6』
『鋼の精神』
『確率の時間 コイン Lv2』
『スーパーメタル特攻 Lv8』
『蒼い胎動 Lv4』
『黒沼の断絶者』
『超捕獲家 Lv4』
『最後まで共に』
『銀の盾』
装備品
『蒼い血 Lv5』G4
『選ばれし者の証 Lv4』G4
『迷宮の攻略家』G4
『血塗れの同志』G4
『メタルトラップルーム Lv3』G4
『夢の跡』G4
────────────────────
成長したなぁ。
HP19万越えたか。これは指パッチンし放題だ。
「ぎぃ(訳:眷属たちが帰ってきました)」
「やあお疲れ様、君たち」
というわけでみんなが広い集めてくれた『千式メタルキット』を腕に装着していきます。
あ~これこれぇ~。
この静脈を武骨な機械に撫でられてる感じ。たまらねぇぜ。
これで俺の防御力は保障されたも同然さ。
「う゛ッ! し、心臓がッ!」
25個目の『千式メタルキット』を入れたあたりで猛烈な吐き気と、心臓を潰されているような痛みに襲われました。
「な、なんで、いったいどうして……っ!
「ぎぃ……?(訳:理由しかないのでは……?)」
しばらく陸に打ち上げられた魚みたいにのたうちまわってると痛みも吐き気もなくなってきました。
「はあ。落ち着いた」
「ぎぃ(訳:我が主、別に全部使わなくても……)」
「よし、もう大丈夫です。原因不明の症状ですけど、まあ、足首つるのと似たようなものでしょう」
「ぎぃ(訳:正気ですか?)」
そのあとも防御力強化のために『千式メタルキット』を使い続けました。
定期的に「心臓麻痺ってこんな感じなのかなぁ」ていう謎の痛みに襲われましたが、無事に100個の異次元機械を搭載し終わりました。
(スキルレベルがアップしました)
(スキルレベルがアップしました)
(スキルレベルがアップしました)
(スキルレベルがアップしました)
(スキルレベルがアップしました)
(スキルレベルがアップしました)
(スキルレベルがアップしました)
(スキルレベルがアップしました)
なんだかうるさいアナウンスです。
「ステータス表示」
────────────────────
赤木英雄
レベル255
HP 33,356/191,800
MP 17,120/51,400
スキル
『フィンガースナップ Lv6』
『恐怖症候群 Lv8』
『一撃 Lv6』
『鋼の精神』
『確率の時間 コイン Lv2』
『スーパーメタル特攻 Lv8』
『蒼い胎動 Lv4』
『黒沼の断絶者』
『超捕獲家 Lv4』
『最後まで共に』
『銀の盾 Lv9』
装備品
『蒼い血 Lv5』G4
『選ばれし者の証 Lv4』G4
『迷宮の攻略家』G4
『血塗れの同志』G4
『メタルトラップルーム Lv3』G4
『夢の跡』G4
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あれ何が変わった……って、『銀の盾』くんが……!?
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『銀の盾 Lv9』
銀色の恩寵の最たる特性
人と融合し開闢を見る
衝撃から身を守る銀の盾
転換レート DEF10,000,000 : HP1
解放条件 銀色の恩寵と宇宙悪夢的な融合をする
───────────────────
はえ~千式メタルキット全部吸われた~。
でもDEF1,000万をHP1のリリースで特殊召喚できるのはぶっ壊れちゃってるからヨシ!
てかこれもう俺、怪我しないのでは……?
もしかしなくても、メタル指男なのでは……?
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