背徳者の信念


 

 どうも、赤木英雄あかぎひでおです。

 急速に落下中です。

 どんどん経験値キングが離れていきます。

 あー俺の経験値ー。待ってろよ、すぐに追いつくからなー。

 

 地面が近づいてきたのでズドンっと着地。

 うえから瓦礫が落ちてくるから、避けようと思いましたが、どこもかしもまっくらで全然見えません。


 なにがなにやらわからず、とりあえずぎぃさんを抱きかかえて守ります。

 ぎぃさんは柔らかすべすべ敏感肌なので潰れたら大変です。


「ぎぃ」


 あと不本意ながら全裸マンも守っておきます。一応。


 すべてが収まりました。

 瓦礫に6回くらい頭頂部を刺激されましたね。

 将来の薄毛事情に一役買ったことでしょう。つら。


「ここはどこですかね」


 それにしても暗い。

 暗すぎて蔵杉英雄になるわね(?)


「視界を確保するためにライターをつけますね」

「ぎぃ……」

「なあに。シマエナガさんにはバレませんって……じゃなくて、視界を確保するために仕方なくです。ええ、仕方なく」


 『貯蓄ライター Lv3』をつける。

 ブワッと橙色の炎がともる。


 炎から青白い粒子が飛沫してます。

 炎の熱さによって揺らぐ空気は、夜空の星々を思わせるよう。

 宇宙を切り取ってのぞいている気分です。不思議ですね。そしてとってもきれい。


 粒子を鼻に近づけて胸いっぱいに吸い込みます。


「うおォおおおおお来た来た来たぁあああーーー!! ん゛ん゛ん゛ん゛ウウウ気持ぢぃいいいいー!!!」


 無事に昇天。

 ちいさいお子さんには見せられない。


 身体を駆け巡る快楽で頭が地面につくくらいエビぞりしちゃいます。

 ああ、まずい、これでは指男の尊厳が失われてしまう。

 

「ああ、だめ、だめ、んん、だめえ~」

「ぎぃ(訳;まわりに誰もいなくて本当によかったです)」


 痙攣が収まり、なんとかまともに立てるようになります。

 

「さてと、明かりは確保できました(仕切り直し)」

「ぎぃ(訳:無かったことにされてます)」


 ライターで全裸マンを照らしてあげます。

 穴と言う穴から血をだして、黄色い液体もでちゃったます。


 治してやりたいが、先ほど『蒼い血 Lv5』を使った時に「次使われたら、私は死ぬ。確実に」とか言って、めっちゃ嫌がられたからなぁ……。


 注射がダメなら俺の回復スキルでどうにかならないだろうか。

 

 ──────────────────

 『蒼い胎動 Lv4』

 人ならざる者の血を受け入れた証。

 新しい命があなたの中でめぐっている。

 1秒ごとにHPを2回復する

 ──────────────────

 ───────────────────

 『黒沼の断絶者』

 黒沼からの侵略に抵抗した証。

 あなたは世界を保つひとつの楔となった。

 即座にHPとMPを最大まで回復させる。

 720時間に1度使用可能。ストック2。

 ───────────────────


 『蒼い胎動 Lv4』は自己回復。

 『黒沼の断絶者』も自己回復。

  

 ふむ。


 ───────────────────

 『最後まで共に』

 眷属は主人のために尽くす

 主人は眷属に応えねばならない

 眷属を蘇生する

 消費MP100

 ───────────────────


「全裸マン、お前、俺の眷属になれば助かるかもしれないぞ」


 俺はスキルの詳細画面を全裸マンに見せる。

 

 全裸マンが俺の眷属になり、そして俺が介錯してやれば、こいつを死から蘇生することができるはずだ。


「ばか、な……蘇生スキル、だと……?」


 全裸マンは充血した目玉をおおきく見開く。


「指男……そうか、貴様もまた神血の末裔だったのか……あの時、あの場所で、本当に私を蘇生した、というのか……」

「どうするんだ。このままだと死ぬぞ」

「はあ……はあ……」

「……」

「はあ、はあ…………」

「……」

「……」

「……がはっ、ごふッ……ふざける、なよ……。私は、貴様の眷属になど、なるわけがない……断らせもらおう」

「そうか」


 そいつは決意を宿した目でしっかりと俺を見つめて言った。



 ────



 その男の戦いは、すべて無き妹のために行われた。

 最愛の家族であった彼女はある日、唾棄すべき悪逆のすえに命を落とした。

 妹を辱め、命まで奪った醜い犯罪者に男は私刑を下した。

 絶望的喪失のなかで彼は悪へと落ちて行った。

 

 ふるい神を信仰し、奇跡の技を知った。

 

 以降、忠実なる銀色の信徒として財団を相手にたちまわり、おおいなる罪を正気のままで犯し、大勢の命が失われようとも己の目的と信じる世界のために尽くした。


 それしか彼にはなかった。

 この世に救いがあるとは思えなかった。


 だが、最後の瞬間、彼は神に裏切られた。

 そのことはわかっていた。

 

 ダンジョンへの侵入者へ、情報を提供してしまった。

 洗脳されていたとはいえ、その失態は許されない。


 結果、男が20年の修業を経て蓄積させた銀色の神秘は暴発し、彼を体の内側から残酷に破壊した。


 どうして神は応えてくれないのか。

 信徒は再びの絶望を感じながら、なお、それまでの20年間を無駄にしないために、最後まで神を称え続けた。


 指男によって生を与えられた時、彼は現実を否定をした。

 ただ頭がすこし混乱しているだけだ、と言い聞かせた。

 

 同時に選択を迫られていた。


 自分を裏切った神にまだ忠実である義理がどこにあるのだろうか。

 いっそ神を殺そうとする指男側につくのはどうだろうか。


 決断をする勇気は男にはなかった。

 

 戦いを経ていくうちに指男の超常的な性質を知っていく。

 そこに新しい神聖すら感じた。


 彼ら神喰らいの騎士シーステリ・ノーテリアすらしりぞけ、蘇生スキルなどという奇跡を宿していることを知って、疑念は確信に変わっていく。


「全裸マン、お前、俺の眷属になれば助かるかもしれないぞ」


 甘美な誘いだった。

 その誘いを受ければ、命は助かる。

 死の瀬戸際だ。

 なし崩し的に”銀色”を裏切ろうとも自然である。言い訳はできる。

 それに先に裏切ったのは”銀色”である。


 なにを迷う必要があるのか。

 

 男は考え、考え、考え、そして、誘いを断った。

 

 背徳者には信念があった。

 自分の信じた道を、時間を、夢を。それらに泥を塗ることなかれ。

 信じた奇跡はたしかに存在するのだ。

 それを信じた自分を裏切り、否定することは誰にも許されない。

 たとえ自分自身でも、過去を裏切ることはできない。


 だからこそ、拒否した。

 でもそれは人道を棄てるという意味ではない。


 男は過去の自分を肯定し、今の自分をも肯定する。

 

 その選択を後悔無き生涯の締めくくりにするために。


 銀色の信徒として屈するのではない。

 指男、お前に命を救われた分、で返させてもらおう。

 


 ────


 

 ──赤木英雄の視点

 

「指男、明かりを、こっちへ……」


 全裸マンにライターを近づける。

 魔導書を開いて、かすかに開いた片目でページを追ってます。


「もしかしたら……そういうことか」

「なにかわかったのか」

「儀式の間の下方に位置する大きな地下空間……ああ、間違いない……ここは銀の巫女ルーサス・オーサスさまの覚醒後にともに目覚める兵力の貯蔵庫だ……」

「兵力……」


「この先に……連れていけ」


 全裸マンを抱えて、奥へと向かいます。

 奥には壁一面に石棺が並んでいました。

 とんでもない数だ。

 その意味は俺にもわかる。


 70……80、90、いや、100くらいはある。あるいはいる。


「私は……お前の敵だ」

「そうだな。あんたは俺の敵だ」

「ははは……あーはははははっ! げほげほっつ! おぼエ!(大量吐血)」


 高笑いできてないです。

 勢いよくむせたまま、全裸マンは地面へ自分から転げ落ちます。


 這いつくばるように石棺が大量にならぶその真ん中に鎮座する石板に、もたれかかるようにして立ちあがります。

 血がべっとりと石板につきました。


「本来、銀の巫女さまだけが、許される祭壇の起動であるが……ははははっ、貴様を殺すため、侵入者を葬るためならば……致し方あるまい」

 

 石棺がズズズっと開いていく。

 中から銀色の光沢を持った鎧武者たちが出て来る。


 そいつらは俺を見るなり、武器を構え、銀光をまとい、いっせいに襲い掛かって来た。


「はは、この数、この兵力……だが、貴様は倒すのだろう……」

「当然」

「減らず口を叩く……なら、ば……やって見せろ。我が敵よ」

「あくまで自分の信念を通すか。なら俺もまた俺の信念を通させてもらう。──というわけでどうも皆さん、指男チャンネルの指男でーすっ! 今日は神の機兵100体消し炭にしてみたをやっていきたいと思いまーすっ!」


 はーい、消し炭~消し炭~!

 どんどん消し炭にしちゃおうねぇ~!


 経験値史上最大のパーティがはじまる。

 え、シマエナガさん? 知らない鳥ですねぇ……。

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