ダンジョンキャンプ in ダンジョン
どうも赤木英雄です。
ただいま、俺はセントラルの外壁から伸びる謎に伸びる杉の樹のうえにいます。
え? 経験値を取りにいかないのかって?
それがですね、予想GUYなことになりまして本日の業務を遂行できない可能性が出てきたわけです。
というのも、セントラルにほかの探索者たちが入って来たわけですね。
そして、みんな精神に異常ステータス『怖気』『喪失』を患っていました。
『怖気』は震えが止まらなくなり、モンスターに立ち向かう気力を失うそうです。
『喪失』は昏倒を引き起こし、短期的な記憶喪失、重症になれば自我を喪い、ついには廃人になるとか。
このダンジョン思ったより危険な場所らしいです。
俺が助かっているのはたぶん精神ステータスが高いおかげ。
そう考えるとこれまでの精神鍛錬のデイリーミッションも無駄じゃなかったんだなて思える。思いたい。本当に思いたい。
そういうわけで廃人病人集団を放っておくわけにはいかないので、俺たちは一旦上へ帰ってきました。
というのも、シマエナガさんを貸し出そうと思ったからです。
「はい、シマエナガさん、ここでみんなを癒してあげてください」
「ち、ちー!(訳:強制労働だちー!)」
「魔女エナガ事件でやらかしてますよね? 社会貢献しないと修羅道さんに事件のこと言っちゃうかもしれないですけど……」
「ちーちーちー(訳:ちーは悪い厄災じゃないちー。誠心誠意、精神を患ったみんなを癒して差し上げるちー)」
修羅道さんの名前を出した瞬間、コロっと態度を変えた。
シマエナガさんにとって修羅道さんに身柄を突きだされることは極北の網走刑務所に追放されるに等しい。
この集団相手に指男チャンネルをやるかどうか非常に迷う。
俺は先ほど気が付いたのだが、地上へ戻ってもっと一般人相手にかましたほうが俺へのダメージが少ないのだ。
だから、別にいまやらなくてもいいんじゃねって……
俺が悩んでいると、ハッピーさんがやってきました。
「指男、会議をするって」
「会議ですか」
「そう会議」
え、それ、俺も出席するのが当たり前みたいになってません?
ハッピーさんに連れられ、探索者たちの間を抜けて歩きます。
「『トリガーハッピー』だ……」
「乱射娘がいるなら心強いな」
「いっしょにいる奴は誰だ?」
声がこそこそ聞こえてきます。
やっぱり、俺を指男と認識してくれる人いない。
ミームの影響で俺という存在を記憶から探し出せないせいか。
杉の樹のうえのほうで、皆さん待ってました。
ベンヴェヌートさんとジウさんとハッピーさんのほかに3名いますね。
「やあ、君が都市伝説の探索者『指男』かな。若杉のように細く薄い若者だが、その力は本物だと聞いているよ」
最初に話しかけて来たのは筋骨隆々のオーバーオールを来た浅黒い男だ。
豊かな髭を蓄えていて、木こり感がすごい。
そこら辺のホームセンターに売ってそうな斧を持ってるけど、きっとすごい
この人がジウさんの言っていた『花粉ファイター』さんで間違いない。
俺は『花粉ファイター』さんからその横に立つ鋭い目つきの中性的な人へ視線を向けます。たぶん男性。顔半分を髪の毛で隠してます。
武器らしいものは持ってないけど、タンクトップみたいな服装着ているので、肩とか腕の筋肉がやばいことから猛者感がプンプンします。
俺と目を合わせてくれない。
話しかけて来る感じもない。
たぶんこの人がAランク第6位『ブラッドリー』さんかな?
「赤木、久しぶりだな。元気そうだ」
「ミスターもお元気そうで」
さっきから分厚いシルエットが見えてたけど、あえて後回しにしてました。はい、すみません。
最後のひとりは我が魂の師ともいえる大探索者『ミスター』です。
もう特に語る必要がないけど、とにかくすごくてやばい人です。
相変わらず凄まじいバルクを誇ってます。
比べたら申し訳ないけど、『花粉ファイター』よりもひと周り大きいです。
分厚い片手斧が腰のホルダーに収まってますけど、よく見ると別に片手斧じゃないって言うね。普通の成人男性が燃てば振り回すだけで身体持ってかれそうなくらい重たそう。
「あの時の少年が指男だと言うのは予想がついていた。いろいろな噂が私のところまで届いていたからね」
ミスターはそう言って、ニコリと笑うと指をパチンパチンと鳴らしました。
俺の事覚えててくれたのか。
なんだか嬉しいな。
「旧交を温めるのにはもう十分だろう。さっさと話し合いとやらを始めろ」
『ブラッドリー』さんがイラついて言います。
「赤木、やつはたぶんお前を好いてない」
ええ、ミスター、言われなくてもとっくに気づいております。
チラッと見れば、一瞬だけ刃のような目と視線が交差しました。
私の経験から言わせてもらえば人間を5人くらい殺めてる眼ですね。ええ。知らんけど。
「それじゃあ、このベンヴェヌート・ヨコ・チチガスキーから話させてもらおう」
「なんであんたが仕切ってる。ユーロの外野は引っ込んでろ」
「うぉ、恐ぇ……流石は殺し屋ブラッドリー君だ。圧が違うねえ」
ベンヴェヌートさん、一撃でブラッドリーさんに黙らせられます。
「……。では、私から話をしましょう。それで構いませんね、ブラッドリーさん」
「財団職員はあんただけだ」
というわけで、ジウさん淡々と話をはじめました。
内容は主に現状の確認と今後の行動について。
目標は脱出経路の確保。
黒い濃霧のなかでも活動できるであろう最高位の探索者たちの精鋭を送り込み、セントラル最下層のどこかにあると思われる、暗黒の信徒が使用している空間転移の道を見つけることが何よりも優先される。
参加するつもりなかったけど、話聞いてる限り、俺もその脱出経路を探すことになってますね。これ強制ですか?
「……。作戦は2時間後に開始します。それまで準備を整えておいてください」
ジウさんは説明を終えると、花粉ファイターさんと何人かの探索者を連れて杉の樹を登っていきました。15階層に残して来た物資と探索者たちをこちらへ呼ぶためらしいです。2時間と言うのはそのための時間なのでしょう。
「それにしても、よくこれだけの探索者が一か所に集まりましたね」
会議が終わって、俺とミスターは腰を落ち着けました。
救助隊が配ってくれたカステラを食する。なお、レーションとカステラの二択でしたが、誰もレーションを選んでいる人はいませんでした。美味しくないんでしょうね。
「アルコンダンジョンに迷い込んでこれだけの人間が遭難し、なお死者がでていないとは、相当に幸運をもっているやつが紛れ込んでいるらしい」
ミスターは崩落直後、銀色のデカい蟲に出会って戦闘をし、このダンジョンがほかの探索者たちにとって危険な場所だと悟ったらしいです。
で、みんなを積極的に集めていたら、奇跡的にぽんぽんと数が集まり、最後にはセントラルの近くで救助隊と遭遇、杉の樹のうえまで避難することになったらしいです。
その段階ですでに多くが『喪失』の状態異常を患っていたので、何人かはわけもわからずセントラルのなかへ入っていったとか。
黒い濃霧。暗黒の霧。
スキル『鋼の精神』を持っていて本当によかった。
「それじゃあ、またあとでな、赤木」
「はい」
ミスターと別れました。
さてと、それじゃあ、そろそろ行きますかね。
「おい、全裸マン」
外壁の近くで黄昏ていた全裸に話しかけます。
なお、いまは俺の『アドルフェンの聖骸布』を貸してあげてるので全裸じゃないです。まあ、コートの前を開いたら全部見えちゃうので余計変態度は増してるけど。
「指男、話は終わったのか」
「終わったよ。2時間後に再突入だって」
「せっかちな女だ。しかし、確かに暗黒を狩るのなら迅速なほうがいいだろう」
「本当に協力してくれるのか」
「するほかない。このまま何もしなければ、ただ余生を冷たい檻の中で過ごすことになる。ならば『メタル柴犬クラブ(本家)』の誇りをかけて、我々を愚弄した暗黒の信徒どもを討ち取る」
敵の敵は味方ってやつか。
「そこまで言うならついてこいよ。道案内にもあんたは役立ちそうだ」
「任せろ。命を助けられた分の義理くらいは返してやる」
ん? 俺って全裸マンの命助けたっけ。
「ねえ、ちょっと」
背後から声が聞こえた。
ふりかえると、ハッピーさんが不満げな顔して立っていた。
ちょっと頬が膨らんでいてくぁいいです。
「なんの話してるの」
「全裸について(イケボ)」
「キモ」
うっ、銀髪美少女に罵られてる!
我々の業界ではご褒美で、ぅ!
「そんな男、信用できないでしょ」
「なんだと、メスガキが。さっきまで指男の眷属の毛のなかでぶっ倒れていただけの三流探索者がイキリ散らすんじゃあない」
全裸マン、得意げに言います。
ハッピーさん、手が出ました。
コンパクトに放たれた右フックが全裸マンの顎を打ち、脳を揺らして、ひざまずかせます。
これも我々の業界でご褒美に相当するものです。よかったな全裸マン。
「指男、あんた抜け駆けするつもりなんでしょう。2時間も待たずに」
「……バレてましたか」
「ふふん、当然。私は指男のことわかってるからね(満足げな表情)」
「はい。正直、2時間も待ってられません。確信しました。残されている時間は多くないと」
黒い暗殺者とメタルの機兵。
両者が戦っていた。
つまりそれはメタルの機兵が倒されてしまう危険があるという事。
さらに言えばSランク探索者ミスターに、なんかめっちゃ強そうな花粉ファイターさん、そしてブラッドリーさん、あんな人たちといっしょに攻略なんかしたらまず間違いなく獲物を横取りされます。
ボーナスタイムの残り時間は多くないんだ。
「(残されている時間は多くない……指男にだけわかる隠された何かがあるってことだね。指男は危険を顧みず、それに立ち向かおうとしてる。やっぱり、あんたは本物のヒーローだ)」
「経験値、経験値が……」
「……(kill cant gone……狩りは終わらない)なら、その狩り、私を連れて行きなよ、少しくらい、なにかの役に立てるはず」
ハッピーさんは横髪を手でいじりながら、視線を逸らして言いました。
シルクのような艶のある銀髪がはらはらと肌に落ちる。白いうなじにトーチライトの照明が反射して、儚げな輪郭を削りだす。
心臓の律動が、俺の理性を追い越そうとしている気がする。
こういう感覚を高校生のころに味わいたかった。
さて、どんな返事をかえしたものか。
ハッピーさんはまだ若い。
探索者としては大先輩だけど、それでも人生レベルで見れば俺の方が年上だろう。
22歳の大人な俺から見て、この少女はやや無鉄砲に見える。
なのですこしお小言をしましょう。
「ハッピーさんは残るべきです」
「っ」
「はっきり言いましょう。得物もなにもないハッピーさんが俺について来てもできることはないにもないと思います」
「……なんでそんなこと言うの」
「それにハッピーさんはさっき暗黒の霧のせいで正気を失ってました。シマエナガさんがいなかったら危なかったかもしれません」
「……」
「だから、ついてこない方が言うより、そもそもセントラルへ突入して長時間の活動をすること自体が難しいと思います」
「私だけAランク探索者のなかで劣っているって言いたいわけ?」
そういう訳じゃないけど……。
あんまり頭よくない俺からして見ても、ハッピーさんに分が悪い状況だと思うのは確かだ。
「最悪。不愉快。こんな屈辱的な気持ちにさせられるなんて……」
ハッピーさん、ごめんね。
嫌われたらかな……うーん、やっぱ言わないほうがよかったな。難しいなぁ。
にしても前から思ってたけど、ハッピーさんって結構……素直だ。悪く言えば、子供っぽい、とも言えるけど。
銀色の双眸がこちらをギロっと睨みつけてくる。
俺も殴られるのかな、と思っていると、ハッピーさんはぎゅっと唇を結びました。
「……私じゃ釣り合わないってことなんだね」
「?」
「わかった。指男、いまはまだあんたを救ってあげられない(深刻な病気持ちの指男には、わかってあげられる私が必要なのに……私にはその資格がない)」
いったい何の話をしてるんでしょうか、ハッピーさん……。わかってない俺の方に問題があるのですか。そうなんですか。指男、話し合わせます。やー。
「ここを出たらすぐに追いついて見せる」
「……。ふぅん(伝家の宝刀発動)」
「後輩のくせに本当に生意気……うん、今は認めてあげる。あんたの言う事が正しいって。でも、いつか認めさせる。私がふさわしいって」
「……………。ふぅん」
そう言ってハッピーさんは背を向けて向こうへ行ってしまいました。
結局、最後まで何の話をしていたのかよくわかりませんでしたけど、多分、後輩の俺に実力で抜かされてムカつくー! ムキーってことかな。ふふふ、まあ、俺も強くなっちゃったから嫉妬されるのも仕方あるまいね。
さて。
それじゃ、俺もそろそろ行こうか。
銀髪ロシアンJK美少女ではなく、全裸とナメクジさんを連れて最深部へと……待てよ……なにかがおかしいぞ。どこで間違えたんだ……?
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