神の機兵
──赤木英雄の視点
世界は残酷で溢れている。
デイリーミッションとの邂逅は残酷との遭遇であった。
いつだって俺に新しい世界を教えてくる。
想像を越える試練を与えてくる。
つまるところ、何が言いたいのか。
今、とてもつらい気持ちです。願わくば誰か俺を殺せ。
─────────────────
★デイリーミッション★
毎日コツコツ頑張ろうっ!
『鋼のメンタル 指男チャンネル』
指男チャンネルをはじめる 1/100
継続日数:109日目
コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍
──────────────────
神がいるならこの苦行を終わらせてほしい。
なんなの。ねえ。なに。なにを持って1/100なの?
デイリーくんさぁ、それは卑怯じゃありませんかねぇ?
もはやデイリー消化ってレベルじゃねえぞ。
まずい。デイリーミッション
ちなみに現在のワースト1位はパワー週間。突然!系と鋼のメンタル系はやばい。はっきりわかんだね。
まあ、これまでデイリーミッションをこなして来たデイリーソムリエの私に言わせてもらえば、まず間違いなく100人にこの指男チャンネルを仕掛けるのが達成条件。次点で100回チャンネルをはじめる。現状、1/100となっているのはひとつの救いだ。いや、全然救われてはないんだけどね?
救いっていうのは、誤った表現だ。不幸中の幸いくらいにしておこう。
現状デイリーミッションのカウントが1/100ということは、悪いことと良いことが判明したということだ。
良い事は、指男チャンネルというのはまずイメージしてしまうダンジョンチューブ上で実際にチャンネルを開設する必要はないということ。
悪い事は、言うまでもなく苦行は続くということ。
正気に返ればまったく優しくないことだが、俺にはこれが慈悲だと理解できる。
なぜならデイリーくんは達成できない試練は与えてこないから。
代わりに達成するためには己のすべてを捧げる覚悟が必要ですけどね。
っと、デイリーくんの悪逆非道な課題に頭を悩ませていると、ハッピーさんがいつの間にか倒れてました。シマエナガさんがもふっと介抱してあげてます。「ちーちー(訳:大丈夫ちーよ。恐くない、怖くないちー)」と溢れる優しさで癒してあげております。シマエナガさん、ハッピーさんのこと気に入ってたもんね。
「こ、これはいったい……私は死んだはずでは……」
生き返って放心状態だった銀色ダンジョンの謎の男さんが口を開いたね。
呼び名が長いのでこれからは全裸マンと呼ぶことにしましょう。
「全裸マン、あなたは死にました。そして俺が生き返らせました(正確にはシマエナガさんだけど)」
「っ、なん、だと……生き返らせた……?」
「そうだ」
「そんな馬鹿な、ことが……あるわけがないだろう」
うむ。
やっぱり、蘇生系スキルには驚かれてしまいますな。
ローマ条約とかいうので規制されているくらい厳重らしいし当然と言えば当然なのかも。
「貴様……ただの探索者、ではない、のか……」
いえ、ただの探索者ですが。
む、ただの、でもないかな?
「ふぅん、しいて言うならブルジョワ……プラチナ……そして工場長、と言ったところかな(イケボ)」
「……(何を言っているのかまったくわからない)」
「こほん。……俺はあんたに訊きたいことがある。質問に答えてもらうぞ」
「あんたは自分の立場がわかっていないらしい」
男の指を強く握っちゃいます。
きっとこの人の腕くらいなら十分に破壊可能でしょう。悪い子は握っちゃおうねぇ。どんどん握っちゃおうねぇ。
「あ、ははは、ははははっ!」
「……。なにがそんなにおかしい? 握っちゃうおじさんするぞ?」
「私が、立場をわかっていない、だと? 笑わせてくれるな、ダンジョン財団の犬が。なにも知らず、ただ盲目的に迷宮へと潜らされ、カナリアとなっていることすらわからんとは。お前たちは終わっているのだ。この塔が顕現した瞬間にな」
いいですね。
ぎぃさんによって洗脳を仕掛けていた時よりもずいぶんちゃんと喋ってくれる。
ふーむ、そうなると、ぎぃさんの洗脳による尋問というのも意外と万能じゃなくて、正気状態で普通に訊きだした方が良い場合もあるのかなぁ。
「あんたがどこまで覚えているかわからないけど、あんたはそこに生えている銀の根に貫かれて死んだんだ」
血塗れの根を指さす。
棘のように鋭く天へと伸びている。滴る鮮血は、いましがた冒涜の死がそこにいたことを言葉より雄弁に語っている。
「なにを言っているのか……死んだのなら生きているわけがないではないか。ああ、しかして美しい。あれこそ、メターニアの権能の誇らしさよ。1000年の旅路は終わりを迎えようとしている」
「メターニア、か。メターニアってなに? アルコンダンジョンのダンジョンボスとか?」
俺なりに威圧感をたっぷりだしながら問いただします。
「ははは、無知な上に無謀と来たか。蒙昧な貴様ごとき、その名を口にすることすらおこがましい。贄となり、神の機兵たちを起動する糧となるほかない」
「神の機兵……」
かっこいい……(永遠の中二病)
「その神の機兵、って?」
「機兵の銀の腕は闇を払い、新しい世紀を拓く。その閃光の眼差しは地平を焼き、矛先で大地に歴を刻む。地上から人類を一掃しうる深く怪物たちよ! 私のような信徒を退けた程度で図に乗るものじゃあない。神話の怪物は人間に抗えるものではないのだ」
自慢げに語る全裸マン。
ふむ。聞くからにやばそうだ。
神話の怪物、ね。すっごく強そう。そしてすっごく経験値持ってそうね。
「ん? 待てよ、神の機兵……?」
矛先とか、銀の腕とか……なんだか馴染みがあるような。あれれ? もしかして?
「なあ、あんた」
「どうした、無知蒙昧なる探索者よ、己の運命を受け入れる覚悟ができたか?」
「いや、その神の機兵ってアレのことなのでは」
「?」
俺は全裸マンの腕を引いて立たせ、すぐそこでまだ熱を帯びたクレーターを見せてやることにした。
「何をする、離せ、探索者風情が……っ」
騒がしいので密着して拘束します。絵面的にはあんまり人に見られたくない感じだけど、まあ仕方なし。
クレーターの淵までやってきて、中心地を指さし、息絶えた機兵を示す。
「なんだこの穴は……何が言いた……(遺骸発見)」
「その神の機兵とかいうの。もしかしなくてもメタルモンスターのことだろ」
「……ふん(あれ……もしかして、使徒さまやられちゃった感じ? え? 嘘、まじ?)」
澄まして鼻を鳴らしております全裸マン。
「探索者、お前、名をなんと言ったか」
「指男」
「……っ。指男、だと? ではお前があの」
お、もしかして俺の名声がこんな悪党にまで届いてる感じかな?
「駅前で奇行を繰り返し『パワー!』と多くの人間に度重なる迷惑をかけたド変態か」
いや、間違ってないけど……ッ!
くッ、全裸を晒す男に勝ち誇った顔をされるなんて。
この屈辱、三乗にして返してやる。
「まさか使徒を打倒する探索者をダンジョン財団が抱えているとは思わなんだ。なるほど、流石に規模がデカいだけあるな。人間と箱舟の神秘のチカラは、その上振れでもって太古の神々に迫ろうとしているわけだ」
はい、なに言ってるのか1mmもわかりあーせん。
「Sランク探索者だろうと容易く葬り去れると思っていたが、存外やるものだな、ダンジョン財団の犬」
こいつ……。まだまだ余裕って感じだな。
でも、たぶん、その神の機兵さんたちじゃSランクは厳しいんじゃないかな……。
ほらね、だって、シロッコが神の機兵に負けているのはあんまり想像できないし。
「全裸マン、俺は神の機兵を滅ぼす。どこにいるのか教えてもらおうか。この広く暗いダンジョンを闇雲に探索するのは骨が折れそうだからな」
「調子に乗っているな、指男……っ、貴様は勘違いしている。貴様が屠ったのはメタル二十四機兵のなかでも最弱!」
「そうなのか……?」
「……。たぶん」
よくそんな強がれたな。
「ふん、だが、まあいいだろう。あえて貴様の望みどおり使徒たちのもとへ連れて行ってやろう」
お、話がわかるじゃん。
「どうせ貴様はその先で絶望に見え、そして暗澹たる死に沈むのだからな(それに指男ほどの脅威……使徒さまと戦い、消耗している今が倒す好機であろう。死にたいと言っているにならば逃す理由はないな)」
なにか企んでいる気がするけど、まあ、でも経験値のところに連れて行ってくれるならいいでしょう。
「銀色に戴く、それだけが我が悲願を叶える……」
「はやく連れていてくれよ、全裸マン」
「ふん、その舐めた口もすぐに訊けなくなるだろう。貴様は知らないのだ。アルコンダンジョンの深きを。どうしてダンジョン財団が封印などという敗北を認めてでも攻略を放棄しているかのな。──人間ごときにどうこうなる世界ではないのだ」
「いいから、はやく連れて行けよ」
「……チッ、ついてこい。後悔させてやる。すべては手遅れだとわからせてやる」
「シマエナガさん、行きますよ。ハッピーさんおんぶして連れて来てください。落としちゃダメですよ」
「ちーちーちー」
それじゃあ行きますかね。
アルコンダンジョンの深きとやらへ。
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