妙な奴
どうも、赤木英雄です。
トップランカーにして、銀髪美少女にして、満身創痍なハッピーさんのあとをついていきます。もふもふシマエナガさんはちょっと不機嫌そうですけど、まぁ放っておきましょう。どうせ探索者を狩って経験値にする流れにならなかったことが不満なのでしょう。え、シマエナガさん怖ッ、本当にどうしようもない経験値クズですね。
「ちーちーちー(訳:あらぬ悪評をつけられている気がするちー)」
む、前を歩くハッピーさんが苦しそうです。
おや、ハッピーさん、膝をつきました。
大丈夫でしょうか。
うん、大丈夫じゃないね。だって腕ないもん。なんかやけに俺冷静だけど、そのせいで事態の異常さを放ったらかしにしてました。
「シマエナガさん、ハッピーさんを背中に乗せてあげてくれませんか」
「ちー」
「もう、そう言わずにお願いしますよ」
「ちー」
シマエナガさんがぷいっとそっぽを向いてしまいましたね。
大変です。豆大福の反抗期です。
「私のことは気にしなくていい。先を急ごう。こんな八方を開けた空間になどいつまでもいるべきじゃないから」
安全な場所をいっこくもはやく見つけたいご様子。
「シマエナガさん」
「ちー(訳:絶対嫌ちー)」
もうこの毛玉は頼れそうにありません。
俺がやるしかないですね。
「ハッピーさん、手を」
「いらないと言ってるのがわからないの。あんたのような得体の知れない奴の手は借りない、指男」
まあね、こんなこと言ってますけど、苦しいのはわかっちゃうんですよね。この目の前の歳下の少女が俺より頼りになるのはわかるんだけど、おそらく今は俺が助けてあげないといけない時です。ここは格好良くお姫様抱っこでもしちゃおうかな。
「こほん、ハッピーさん」
「なに、触らないで」
ギロッと睨まれました。
怖いです。
「手貸しますよ。……ほら肩に掴まってください」
お姫様抱っこは、あれだね、うん、あれよ、あれ、デリケートだからさ、うん、年頃の女の子にそういうこと迂闊にするのってあとから問題になりそうだしね、うん、紳士に行くぜ(※童貞の限界)
「……」
「あの、どうしました、ハッピーさん」
「なんでもない。それじゃあ、杖の代わりにさせてもらうよ」
あっ。捕まれました。
「意外と手がちいさいですね」
「どうでもいいでしょ、そんなの」
はい、おっしゃる通りです。
それから、しばらく歩いたら壁みたいなものが見えてきました。近づいて見上げると、果てしなく上へ上とへ伸びていて、どれほどの高さがあるのかわからないほどです。相変わらず暗い霧が充満してるので、視界が死ぬほど悪いせいなのもありますが。
ハッピーさんを壁際に横たえます。
顔色が悪すぎますね。注射を打ってますけど、それで腕が生えてくる様子はないです。もしかして安い回復薬なのかな? お金ないのかな? 治してあげた方がいいかな?
────
──ハッピーの視点
『回復薬 6,000』を3本使用したあたりで、トリガーハッピーは自らの探索者生命の終わりを悟った。
これまで怪我など数えきれぬほど負って来たが、腕を失ったのは初めてだった。
通常、部位欠損は最高位の治癒系スキルがないと治療することはできない。そのスキルを持っているのは世界でも有数で、残念ながら千葉クラス4ダンジョンにいるという情報はなかった。
最高位の治癒系スキルを持っていたとしても、時間が経過して仕舞えば、処置は間に合わない。つまり、千葉クラス4ダンジョンでの治療ができない時点で、トリガーハッピーが再び両の腕を揃えることは絶望的なのだ。
(ダメもとで回復薬を打ったけど……やっぱり効果は見込めない……せいぜいが止血と鎮痛か)
「あぁ……もう、最悪だ、あのバケモノめ……」
なんとかして一矢報いてやりたいと思っていたが、トリガーハッピー自身がそれはできないことだと強く理解してしまっていた。
だからこそ、彼女はすぐ隣で脳天気にペットをふわふわして遊んでいる日本人にあたって僅かながらの溜飲を下げるほかない。
「うるさいんだけど、指男。あなたはここが危険地帯だってわかっているの?」
そもそもどうしてこの男はこんなにも平然としているのだろうか。トリガーハッピーは違和感を抱いていた。慌てろと言うわけではないが、落ち着き過ぎてはいないだろうか、と。
「黙る気がないなら遠くへ行って。死にたいならあなたひとりで死んで。奴らに見つかったらあるのは死だけなんだから」
「奴ら……(いったいどれほど危険なモンスターがいるんだろ……)」
シマエナガさんとの言い合いをやめて静かになった指男。トリガーハッピーはフンっと鼻を鳴らして、身体を丸めて壁にもたれかかった。
現在、指男とトリガーハッピーがいるのはゴツゴツした岩石質の壁の近く、その物陰だ。
トリガーハッピーは自身の保有するスキル『睡眠』で、体力を急速回復させる旨を指男に伝えて、その間、彼には周囲を見張っているように命令をくだした。
指男は先輩の言葉にわりと素直な態度を見せた。
「ちー」
「あなたは何故ここに」
「ちー」
「ハッピーさんの枕に使っていいですよ。シマエナガさんは説得しましたから」
どうやら指男は気を利かせて眷属のもふもふを貸してくれるらしかった。
余計なお世話だっと叱責したかったが、いざ、豆大福の妖精に身を沈めるとなかなかどうして悪くない。というか最高だった。
存外、やる奴だな。
トリガーハッピーはそんなことを思っているうちに深い眠りへと落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます