大いなる災いの前兆
虚の底は深く、ふわりとした滞空時間を経てようやくハッピーの足に地面が戻って来た。
案の定暗い。とてもじゃないが視界が確保できない。
ハッピーは発煙筒を焚いてポイっと適当に放り投げた。
ぶわーっと炭酸が噴き出す様に光を吐きだした発煙筒。
赤みがかった光は、穴の底がごつごつとした鉱石のようなもので満たされていることを教えてくれた。同時に黒い霧のようなものに包まれていて、光が乱反射しているのもわかった。
踵を強めに打ち付ければゴンっと重たい音が反響する。
音はいつまで経っても帰ってこない。
どうにもかなり広々とした空間らしい。
「いつだって前へ進むしかないってこと」
薬室に弾丸が込められているかを確認し、ハッピーはスタスタと歩きはじめた。
その直後、カチカチっと音が鳴った。
気配を漏らした迂闊な伏兵へ、ハッピーはすぐさま銃口を向け、そして引き金をひいた。右後方5時の方向だ。
強烈なマズルフラッシュに霧が燃えるように輝いた。
そのなかに不確定な影を捕らえた。距離は6mほどしかない。
銃弾がなにかに当たり、ガン、ゴン、ガンッ!! と弾け飛び、跳弾している。
射撃音を響かせながら、ハッピーは後ろ歩きで下がる。
どうにもすぐそこにいるモンスターに対してピゾンの銃弾が効いている気がしなかった。
「あはっ、じゃあ、こっちで行ってみよっか!」
マガジンを外して放り捨て、ダンジョンバッグから取りだした新しいマガジンをセットする。『パーティ用強装弾』。初めて使うMP消費型、地獄道プレゼンツ高威力な魔法弾である。
銃身をしっかりと抑え、腰を落とし、反動を全身で受けるように構えるといざトリガーを引いた。ほとんど火炎放射のような炎がバレるからあふれ出し、ガァーッ! と毎秒30万ATKにも匹敵する魔法弾の応酬がモンスターへ無慈悲に叩きこまれた。
「どう? 楽しんでくれたよね?」
ハッピーは実に満足げにして、肩にかかった銀髪を払い、ピゾンを放り捨てた。
たった30発撃っただけだが、ちいさな銃身で無茶な威力の弾丸を使ったせいで、バレルが歪んでしまったのだ。このピゾンはもうまともな命中率を期待できない。
「カチカチ」
顎を鳴らす音が聞こえてきた。
そいつはのっそりのっそりと前へ歩みでてきて、ブワッと腕を振った。
あたりの霧が晴れて、発煙筒の赤に姿が映し出される。
二本足の分厚い下半身で地面にどっしりと構え、6本の腕をワキワキと動かしている。甲殻類のような顔をし、身体は甲冑武者のように装甲に包まれている。
なによりも艶々していた。見る者が見れば、これがまごうことなきメタルだとすぐにわかるだろう。
メタルはカチカチと顎を鳴らして、ハッピーの攻撃の無力さを嘲笑っているらしい。
「ふーん、楽しくなってきた」
ハッピーは不機嫌に顔をしかめ、新しいピゾンを取り出すと、マガジンをセットし、コッキングした。
────
──赤木英雄の視点
穴降りましたー、やー!
「ちー!(訳:経験値の匂いがするちー!)」
ふむふむ、確かに、こりゃ上質なブツの気配だぜ(イケボ)
って、おや、落下地点になにやらメタルっぽいモンスター発見ッ!
「カチカチ(訳:ククク、また弱き世界の民が乗り込んできたか。いいだろう。このメタル二十四機兵が一柱、獄門のヴラブが相手をして──)」
「エクスカリバーァァアアッ!!!」
どうせ捕獲攻撃効かないので面倒なことはなしです。
それより、はやく、はやく、俺に経験値くれよ、ぉ……!
ATK3,000万:HP6,000の爆発でご挨拶です。
あ、歩く経験値が経験値になったね。
ふふふ、ここにもしかして経験値が、じゃなくてメタルがいっぱいいるのかなァ?
「アア、楽しみだなア……」
「ちー……っ!」
「……ぎぃ」
さあ、出ておいでみんな。遊ぼうよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます