魔女エナガ


 シマエナガさんが合成されてしまいました。

 

「指男、はやく助けんと手遅れになるかもしれんぞ!」


 言われずともわかってますって。

 急いで『大ムゲンハイール ver6.0』のフタに手をかけて引っ張り開きます。

 その際、フタが歪んでひしゃげたけど、まあ許容範囲。


 なかから煙がもくもく出てきました。

 

「シマエナガさん! シマエナガさん! どこにいるんですか!」

「ちーちーちー♪」


 鳴き声が煙の向こうから聞こえてきます。

 パタパタ、パタパタ、豆大福サイズのシマエナガさんが飛んで来て、俺の指先にとまりました。


「無事なようでなによりです……なんか見た目変わりました?」

「ちー?」


 なんか帽子被ってます。

 とんがり帽子というのかな。魔女みたいです。


「合成されたからもしかしたら指に羽がはえると思ったんじゃがな。どうやらシマエナガさんのほうが我が強かったようじゃ」


 そういう問題?


「ちー」

「うーん。まあ、見た感じ帽子いがいはなにも変化ないですけど……」


 シマエナガさんの首のあたりをまさぐって、もふ毛のしたに埋まった首輪もとい指輪『厄災の禽獣』を探りあてます。

 なにか変化がないか詳細を見てみましょう。


 ────────────────────

 『厄災の禽獣』

 かつて世界を滅ぼした凶鳥。

 あなたは厄災の主人となった。

 厄災の禽獣は強靭な精神を認めた。

 世界を滅ぼすも、続けるもすべて自由だ。

 消費MP1,000 厄災の禽獣を召喚する。

────────────────────


 特に変化はないですね。


「シマエナガさんとなんか凄そうな特級呪物を足して魔女エナガさんになっただけですか? 恐ろしい異常物質がなくなったと考えれば、まあ、よかったのかもしれないですけど……なんかもったいないことしたかなぁ」

「そうじゃなぁ。まあ、人類の理解できない理がひとつ失われたと考えれば、損失かもしれんな。どのみち人に有効活用できるような代物ではないような気はするがの」

「ちー!」


 ん、なにやら、シマエナガさんが自分でステータスを開きました。

 大きな声で鳴いたから、帽子がずれ落ちそうになってます。かあいい。


────────────────────

 シマエナガさん

 レベル49

 HP 12,486/111,523

 MP 11,563/114,875


 スキル

 『冒涜の明星 Lv2』

 『冒涜の同盟』

 『冒涜の眼力』

 『冒涜の再生』

 『魔女の枯指』


 装備

 『厄災の禽獣』

 『枯指の三角帽子』


────────────────────


 ウラジーミルとシロッコのダブル経験値でずいぶんふっくらされてます。

 今、元のサイズに戻ったら俺よりも背が高くなってるかも……ちょっとふっくらしすぎじゃないですかね、と心配は募っていきます。


 ん、HPとMPのすごさに仰天してたけど、スキル増えてない? 『魔女の枯指』ですか。これだわ。現状、三角帽子しか魔女要素ないと思ったけど、間違いなくこのスキルにあの特級呪物吸われてますわ。


「荷物チェック入ります」


 スキル欄の『魔女の枯指』を指でなぞります。


 ───────────────────

 『魔女の枯指』

 対象を呪い、スキルを永遠に封印する

 MP消費 10,000

 ───────────────────


 うわぁ……シマエナガさん、これは厄災すぎでは……。

 魔女の枯指がそのまま豆大福に移植されてるじゃないですか。


「シマエナガさん、アウトです。修羅道さんへの報告書に書くことが増えちゃいましたね」

「ち、ちー!(訳:そうはさせないちー!)」


 ん、なんだか、騒がしいですね。

 シマエナガさんがパタパタとはばたいて「ちー!」と鳴きました。

 そのまま、つばめ返しして、おや、俺の胸ポケットから『貯蓄ライター Lv3』を奪っていきます。

 ほうほう、そういうことしていいと思ってるのかな、この豆大福。

 謹慎解除したからって、ね。そろそろ、わからせますかね。


「エクスカリバー」


 ──パチン


 軽やかな音が鳴りました。

 って、あれ、爆発が起こらないんだけど。


「も、もしや、指男、おぬしのスキル封印されたんじゃ……」

「っ?!」

「ちーっちっち!」


 うわ! シマエナガさん、いままでに見たことないような悪い顔してる!


「ちーちーちー♪(訳:ちーはいつでもスキルを封印できる最強能力を手に入れたちー♪ スキルを返してほしければ、このライターの経験値は全部寄越すちー♪)」


 なんというワルエナガさんだ。しかし、指パッチンを封印されたら確かに俺には何もできねえ。シマエナガさんめ、これを狙って!


「ぎぃ」

「あ、ぎぃさんの黒触手がシマエナガさんの三角帽子を……」


 ぺちんっと弾いて地面に落としました。

 

「ち、ちー!!」

「ぎぃ(訳:我が主よ、いまです)」

「今? はい、カリバー」


 爆発がシマエナガさんを包みこんで、焼き鳥にして水面に撃ち落としました。


「ち、ちー……っ(訳:不覚ちー……!)」


 どうやらこの帽子を被ってないと魔女エナガさんになれないらしいですね。

 流石ぎぃさん、一瞬で弱点を見抜くなんて、驚異の知力99です。


 というわけで、魔女エナガさん騒動はこれにて一件落着。

 なお、魔女帽子はシマエナガさんから没収しました。

 

「ちー……」

「判決。謹慎、1カ月です」

「ちー……っ!!??」


 当然でしょう。

 

「指男よ、厄災の手綱はしっかり握っていなければいけないぞ」

「わかってますよ、シマエナガさんも悪気があったわけじゃないと思います。ただ、経験に関してはドクズの外道、クソカスな性格に成り下がるという点だけ除けばいい子なんです」

「それプラス部分でマイナスを補えてなくね?」

「ところで、これ『大ムゲンハイール ver6.0』の扉ぶっこわしちゃったんですけど……」

「ああ、これはまあ、直しておくわい。すこし時間がかかるが」

「そうですか。それじゃあ、俺たちはダンジョンに潜りますかね」

「それがいいじゃろうな」


 ふむ、それじゃあ合成祭りはいったんお預けにして、ダンジョンに戻りますかね。


「行きますよ、ぎぃさんに、謹慎1ヵ月さん」

「ちー!!」

「おっとと、恐い恐い」


 くちばしで突いてくるシマエナガさんをむぎゅっと掴んで胸ポケットに押しこみ、1階層の扉からダンジョンへ移動します。ここで「今日の狩場」を更新して、21階層へ移動しますっと。


 さて、ダンジョン攻略はじめて行きますかね。

 

 ──しばらく後


「はい、しまっちゃおうね~」


 パチンパチンしてしまっちゃってると、ふと、ダンジョンが揺れ始めました。


「え、こわっ、これ大丈夫か?」

「ちー?」

「ぎぃ」


 次第に揺れは大きくなり──あ、収まった。


「なんだったんだろ……」

「ちーちーちー」

「ぎぃ」


 みなさんも何が起こっているのかわからない様子。

 まあ、いいでしょう。このまま探索を続けますか。

 

 22階層への階段を見つけたので降りていきます。

 はじめて降りる階層ですね。楽しみですねぇ。

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