なかなかやる後輩
黒い霧のなかで、蠢く影がある。
銀色の装甲を纏った巨大な甲殻生物だ。
鎧武者のような甲冑から伸びる6本の太い腕は、いまやズタズタにされ、黒い
「(なんということだ、メタル二十四機兵がひとり、この六腕のネッダが暗黒の使徒と相討つなんて……)」
ネッダは足元で動かなくなった黒い布をまとった暗殺者を見下ろす。
鋭い爪をたずさえた爬虫類のような生物だ。しなやかな体と、それでいて硬い鱗に覆われている。首がおかしな方向に曲がっている。すでに事切れている。ネッダが満身創痍ながらも仕留めたのだ。
最後に立っていたのはネッダであるが、それは喜ばしい勝利を約束するものではない。
暗黒の使徒たちの暗い炎はすでにメタルを破り、ネッダの身体を内側から破壊しているのだから。今この瞬間も。
「(こざかしい侵入者め。あの人間に気を取られてしまったせいでこのざまとは)」
「カチカチ」
ネッダはふと振り返り、背後へ複眼を向ける。
そこに銀色の甲殻を纏ったメタル機兵がいた。
ネッダはホッとする。これで助かった、と思ったからだ。
そのメタル機兵は腰に二枚の銀色の大盾をさげていた。
まるでスカートのようだ。体つきは細身である。
「(手痛くやられたようですね、ネッダ)」
「(はやくこの汚らわしい暗黒を焼いてくれ、ホーリ)」
顎を鳴らし、彼らにしかわからない言葉で意思を介する。
ホーリと呼ばれた細身のメタル機兵は、ネッダの胸に空いた穴に腕を突っ込むと、迸る銀色の光を腕から放出した。銀の光はネッダの巨体に打ち込まれ、彼の身体に蚯蚓腫れのように広がった暗い傷跡を内側から焼き尽くした。
銀の煌めきは選ばれしメタル機兵にしか使えない彼らの神の残滓だ。
その力は敵対する神の暗い炎を焼くだけでなく、銀色の使徒たちに再び戦う活力を与える。
「(助かった、ホーリ)」
「(腕が鈍ったのでは)」
「(仕方がないだろう。1,000年は眠っていたのだから。あまり言いふらしてくれるなよ)」
「(わかっていますよ。これからの活躍に期待します。それよりもネッダ、こちらを見てくれますか)」
ホーリは手をパンと叩き合わせ、大きく広げた。黒い霧に白い球体が投影された。
二十四機兵それぞれが遥か太古の時代に長き眠りについた情報が記されている。
現在は6機兵がすでに覚醒している。
うち2名の機兵は生命活動を停止している。
ネッダは深刻な事態を悟った。
「(獄門のヴラブに、健脚のグリズラェ? 武闘派ではないか……暗黒の使徒どもめ、相当数が紛れこんでいたのか)」
「(暗黒の侵入を許していたのは間違いないでしょうが、もしかしたら、人間たちのせいかもしれません。我らの神殿が浮上してから時をおかずにかなりの数がこの地に足を踏み入れていますから)」
「(汚らわしい暗黒のみならず、惰弱な者どもも跋扈しているわけか……)」
ネッダは拳を叩きあわせ、銀色の爪をガヂン、ガヂンっと擦り合わせる。
「(皆、このネッダが消し炭にしてくれよう)」
直後、ネッダの姿が掻き消えた。
太古の狩人が惰弱なる侵入者どもを滅ぼしいさっそく行動を開始した。
────
──赤木英雄の視点
どうも赤木英雄です。
銀髪色白美少女がすやすや眠る横で心臓に異物をダイレクトエントリー。
一発キメたところでビクンビクンしてると、ぎぃさんが黒沼の怪物たちを召喚してさまざまな方角へ放ち始めましたとさ。ぎぃさん、なにを考えているのでしょうか。
「ぎぃ(訳:索敵は基本なのです)」
「おや、人影が……探索者かな」
しばらく
上半身に薄い布を纏った男の人です。
体格はソフトマッチョ。肌はとっても白いです。
右手には鉤爪つけてます。カッコいい。
おや、左手になにか持ってますねぇ。
それうちの黒沼の怪物の頭やないかーい。ってふざけてる場合じゃねえ。
「ぎぃ(訳:やっぱりなんかいました、我が主)」
ぎぃさん、自分の眷属殺されてるのに結構ドライね。
「こんなところにもネズミが入りこんでいたか」
白肌の男は口を開きました。
「ダンジョン財団の犬どもよ、お前たちに選択肢をやろう。生きてダンジョンを肥やす贄となるか、ここでただ肉となり屍をさらすか」
それどっちも死んでいるのでは。
うーん、なんかやばそうな人……探索者じゃない……ね。
とりあえず、ハッピーさん起きて。変質者が現れました! いのち危険です!
「寝ている女子に手を伸ばすなんていい度胸だね、指男」
寝起きがよいハッピーさんです。どうやら敵意を感じ取って目覚めてた様子。流石はAランク第8位さん。寝ていても隙が無いということでしょうか。
ハッピーさん、むくりと起きあがるなり、スカートのなかから拳銃取り出すと、躊躇なく男へ発砲しました。ここが日本であることを忘れてしまう躊躇のなさです。
男は鉤爪で銃弾をいなしました。並外れた反応速度。銃弾が弾かれた瞬間に火花が散って表情がチラッと照らされましたけど、だいぶん余裕そうです。シュパっと向かって来ます。こいつデキる、とかそういう領域じゃない速さですね。
「……っ、指男! なにをボサっとしてるの!」
ハッピーさんブチぎれ。でもね、大丈夫。
この赤木英雄にはわかるのですよ。この変質者はシロッコとかいうやつよりずっとずっと、どうにでもできる気程度の敵対者だってね。
というわけで鉤爪をふって来たところを避けて、ぶん殴って気絶させます。
爆破してもいいけどね……ほらね? 人道的にどうかなってね? もし消し炭にするにしてもちゃんと魔法陣でね? 経験値は1mmも無駄にしちゃいけないって道徳の授業で教わったからね。
「とりあえず、ぎぃさん、こいつの体内にも侵入してコントロールしといてください。目覚めて暴れられたら面倒ですから」
「ぎぃ」
ぎぃさんがスマートに分裂すると、ちいさなぎぃさんが気絶した男の耳から体内へ入っていきました。いってらっしゃい。
「……」
おや、ハッピーさんが俺のこと凝視して来ますね。
ああ、そうか、さっきブチ切れてたもんね。たぶん、俺が相手の動きに反応してないと思われたから怒ってくれたんだろうけど、ふふん、この通り俺もAランクとしての実力を見せつけちゃったからね、きっと勘違いして叱責したことを謝りたいのでしょう。ここはスマートな男の対応をしましょう。
「……(今……指男の動きがよく見えなかった。もしかして、指男がこいつを気絶させたってこと……?)」
「ハッピーさんが無事でよかったです」
ふっふっふ、あえてブチ切れに言及しない。これが紳士。「さっきブチ切れてましたけど、まあ、別に俺は気にしませんよ」とか言おうものなら三流ってことですよ。
「……ふん。思ったより、動けるようだね。安心したよ(ま、まあ、私も怪我してなければ寝込み襲われても余裕だったしね……まだイーブン)」
あ、褒められちゃった。嬉しいなあ。
「ところで、指男、いまナメクジをその不躾な奴の耳に入れてるように見えたんだけど……」
「敵を無力化するには効率的なんですよ。体内に寄生虫を侵入させて言う事聞かせるんです」
「……まあ、そうだね。寄生虫くらい基本……っちゃ基本、かな。Aランクならそれくらい、ね……うん」
そっかあ、やっぱり寄生虫くらい使いこなしてこそなんだなあ。
「ん?」
おや、ハッピーさんが不思議そうに腕を持ち上げて手のひらを開いたり閉じたりしはじめましたね。
「ありえない、なんで……私、腕を斬られたはずじゃ……」
「ちーちーちー」
「指男……もしかして、あんた、高度な治癒系スキルを持ってるの……?」
「うちのシマエナガさんが、ですけどね」
「ちーちーちー!」
「………………ふーん、そう。結構、やるじゃん、指男。見直したよ」
ハッピーさん信じられないような目で見つめて来ながら言いました。
うーん、俺ってそんなに期待されてなかったのかなぁ。第一印象が低すぎるから腕を再生させたくらいでこんな喜ばれてるってことだもんなぁ……。
「こいつやば……」
「? なにか言いました?」
「…………ううん、別に」
銀髪美少女にもっと褒めてもらえるよう精進しなくてはいけませんね。
やはり経験値がもっと必要ですね(結論)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます