搾りと返済


 はーい、ウラジーミル氏、搾り上げ。

 お疲れ様でした。

 隅っこの方でぷるぷる震えてこっちを徹夜2日目のサラリーマンが栄養剤キメてギンギンになったような眼で凝視しておりますが生きてます。


 ま、搾り上げって言ってもレベル自体は全部取ってないです。というか100レベル切ったあたりから、これ以上搾っても仕方ない程度の経験値しか出て来なくなったので、そんな恨みも無いということでここいらで許してあげましょう。


「あそこが出口だ。二度と俺に敵対しようなんて考えるな」


 ほら、帰れ帰れ。


「俺を、生かして、解放するのか、指男」

「何度も言う必要はないだろ。帰っていいんだよ、あんたは」


 ウラジーミル氏、出口へ向かいます。何度も振りかえってきますね。「本当に帰っていいんか?」って疑ってるのかな。


「ひとつ借りをつくってしまったな、指男」

「恩を感じてくれるなら経験値で返してください。ああ、それかクリスタルでもいいですけど」


 まあ、冗談だけど。


「経験値、クリスタル……わかった。お前の慈悲、ありがたく受け取っておこう」


 ようやっと帰ってくれました。

 

 さて、それじゃあ最後のお客さんを搾りますかね。

 

「シロッコ、あんたの経験値もいただく」

「覚悟はできてる。だが、ひとつ聞いていいかい、指男さんよ」

「?」

「それほどの強さがあってどうしてまだ強くなりたいんだ」


 レベルアップ中毒だから……というのは置いておいて、普通に俺がまだまだ未熟なことわからされちゃったからなんだけど……君にね。

 一言でまとめると、


「そこにレベルアップがあるから」

「……そうか。野暮なことを訊いたな」

「まったくだ」


 俺、シマエナガさん、ぎぃさんのルーティンで1レベルずつもらうことにしました。


 1分後


「え、もう『フェニーチェの尾羽』は使えない、ですって?」


 どうやらシロッコ氏、蘇生回数に制限があったみたいです。まだ数回しか搾ってないのに。

 

「蘇生系異常物質は万能じゃないんだ」


 全裸のシロッコさんにすごい睨まれながら言われます。うーん、困ったなぁ。経験値をここで逃すのは惜しい気がする。

 

「いま、なんレベなんだ、シロッコ」

「250くらいだ」


 全然搾れるッ! 

 全然いけるじゃないですか!


「ちーちーちー!(訳:根性たりないちー!)」

「ぎぃ(訳:Sランク探索者もこの程度ですか、はぁ……)」

「俺にそんな目を向けられてもなぁ……別に俺は悪くないだろうがよ」

「ぎぃさん、シロッコを洗脳できないんですか? それで眷属にして、俺の眷属扱いにしてやればもっと搾れるでしょ」

「ぎぃ(訳:シロッコのステータス高すぎて、レベル差ありすぎて無理です、我が主)」


 審議の結果、どうやらこれ以上、シロッコ搾りできないと判断を下しました。

 がっかりだ。それもこれも蘇生系異常物質に根性がないせいだろう。

 シタ・チチガスキーの隕鉄の指輪はあいつしか使えないようになってたり、フェニーチェの尾羽は耐久度があったりと、いろいろ制限があるらしい。


「もっと頑張れよ、フェニーチェ」

「無理言うな。二度と使用できないほどに使い込んだんだぞ。……それで、あと一回俺を殺せばまだ経験値を得られるが……どうするんだ」


 シロッコ氏、覚悟ガンギマリですわ。

 うーん、どうしよっかなぁ……こいつシマエナガさん殺したんだけど、生き返って結果オーライって感じになったし、なんならパワー仲間だからちょっと、仲間意識あるんだよね。え? ホントホント、ちょっと友情感じてるもん、気持ちはフレンドよ?(※フレンドは搾らない)


 でも、まあ、まじめな話、経験値搾れなくなったら特に用はないんよね。

 シロッコを憎んでるわけでもないし、ウラジーミルと同様にシタ・チチガスキーをボコすためにこいつがボディガードとして立ちはだかって来たってだけだったしね。

 もうシタ・チチガスキーをしばいて搾った以上、こいつは敵じゃないし、恨みも無いんだよ。


「帰っていいぞ」

「本気で言ってるのか」

「もうあんたに用はないから。あぁでも、次、もし俺と俺の仲間に手を出すようなことがあればその時はもう容赦しない。また搾りに搾られることになると思っていろよ」


 シロッコはスッとたちあがる。

 俺は「出口はあっち」と千葉市街の下水道に繋がっている扉を手で示す。


「指男、ひとつ借りができたな」

「経験値で返してくれ。それかクリスタルでも可」


 ウラジーミル氏を送る時とおんなじ冗談言っちゃった。てへぺろ。


「なるほど。お前と言う人間がすこしだけわかった気がするぜ……また近いうちに会おう」


 シロッコ氏、お家に帰っていきましたねぇ。

 大きな魚をみすみす逃がした漁師の気分です。

 でもまあ、彼はひとりの人間だからね。

 俺だって人間殺すのはストレス感じますよ。ほんとよ?


「ん、デイリーくんが何やら騒がしい……。デイリーミッション」


 ウィンドウを開きます。


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

  『返済』


 経験値を納品する 0/66兆3,000億


 継続日数:107日目 

 コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍

 ──────────────────


 ええええええ。

 そんな無慈悲な……ッ。

 こんなの人間のやる所業じゃねえよ……!

 悔しい、悔しい、悔しい!!


 いや、確かに(期限付き)って書いてあったけど。

 一度あげたら、やっぱ返してなんてそんなのダメでしょ。

 経験値の返済とか聞いたことねえよ。


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

  『返済』


 経験値を納品する 0/66兆3,001億


 継続日数:107日目 

 コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍

 ──────────────────

 

 うわっ。

 渋ってたら返済額増えた。

 嘘だろ。鬼畜かよ。

 てか、利子やばすぎだろ、1,001億もついてんじゃん。

 トイチなんてレベルじゃねえぞ。


「これは早々に返さないとやばい」

「どうしたんじゃ指男、そんなに焦って。わしさっきからそこら辺の謎の設備が気になって仕方ないんじゃが……」

「ちょっと今忙しいです、あとで構ってあげますからドクター」

「あ、そう……? それじゃあ…わしは隅っこの方でちいさくなってようかのう」


 デイリーミッションのやりたい放題に付き合うのは悔しいが、将来的なことを考えればここでプラチナ会員を逃すのは惜しい。経験値工場だってようやく稼働し始めたんだからな。


「もってけ泥棒」


 デイリーミッションのウィンドウに手をかざします。

 体中から光があふれだして、俺のなかから経験値エネルギー(?)が溢れでて、洪水のような勢いで抽出されていきます。これ膝に来るわ。膝ががくがくするわ。


「うあ……っ、な、なんて虚脱感……!」


 全身から力が抜けてしまった。


 自分のステータスを見るのが恐い。

 さっきは300レベルを軽く超えてたけど……。


────────────────────

 赤木英雄

 レベル201

 HP 101,741/101,741

 MP 21,123/21,123


 スキル

 『フィンガースナップ Lv6』

 『恐怖症候群 Lv8』

 『一撃 Lv6』

 『鋼の精神』

 『確率の時間 コイン Lv2』

 『スーパーメタル特攻 Lv8』

 『蒼い胎動 Lv3』

 『黒沼の断絶者』

 『超捕獲家 Lv4』

 『最後まで共に』


 装備品

 『蒼い血 Lv3』G4

 『選ばれし者の証』G3

 『迷宮の攻略家』G4

 『アドルフェンの聖骸布』G3

 『ムゲンハイール ver5.0』G4

 『血塗れの同志』G4

 『メタルトラップルーム Lv2』G4

 『貯蓄ライター』G3

 『千式メタルキット』G5

 『夢の跡』G5


────────────────────


 はう。200レベルはキープしたと。悪くないんじゃないかな。

 ウラジーミル経験値とシロッコ経験値を魔法陣×プラチナ会員で摂取したおかげですねかね。ご協力いただいたお二人には感謝しかありません。本当にありがとうございました。

 




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