経験値は新鮮なうちにいただくのが粋


 ぎぃさんとシマエナガさんにシタ・チチガスキーの処理は任せます。

 さて残るは2人、ウラジーミルとシロッコのお二方です。


「指男……噂にたがわぬ鬼畜っぷりだな」

「シロッコ、あんたのほうは殺し甲斐がありそうだ」

「……戦う前、経験値のことを訊いてきたが……博士のあれは眷属たちに経験値を吸わせているようだな」

「そのとおり(吸わせてるって言うか、勝手に吸ってるって言うか)」

「そうか……(リソースは最大限活用するとな。冷徹な合理主義者というわけか。大犯罪組織のボスというのは本当らしい)」


 シロッコ氏したり顔です。目が澄んでます。じっと見つめてきますね。Love so sweetが流れ出すのも時間の問題です。

 

「だが、お前には信念があるはずだ。透明で、硬くて、決して砕けることのない鋼のような意思が」

「鋼……。ああ当然だ。それを成すために多くを犠牲にした。あんたには想像もできないことだろうけどな(『鋼の精神』を手に入れるのにどれだけの白い眼差しに耐えたことか……貴様にわかるまい)」

「だと思った……お前は俺といっしょだ……そして俺よりも強かった」

「っ!」


 えっ! シロッコ氏さ、もしかして『鋼の精神』を手に入れるためにパワー週間を?


「もしかしてパワーか」

「? パワー……?(なにかの隠語か。パワー……パワー……。っ、そういえば、”例のあの男”はその強大な力から、神学において悪魔たちを滅ぼす能天使Powersと呼ばれているとらしいな。そのことを言っているに違いない)──そのとおり、パワーだ」


 ええええ! やっぱりパワーだあ!?(謎の興奮)

 俺以外にも犠牲者いたんやな。なんかいきなり親近感湧いて来たんだが?

 これ俺の苦悩の理解者になってくれるのでは? フレンド? マイフレンドなの?


「お前は滅多に自分の手は汚さず、他人を動かしてことを成す男。あの男と同じように」


 そうかな? あんま他人動かしてはないけど……うん、でも、そのほうが頭よさそうだから、そういうことにしちゃおっかな。


「なのに友のため今回は自分の手を汚そうとしている。その意味、俺は確かに理解したぞ(お前は悪を見過ごせない。自分に胸を張って生きようとしてるんだろう。そのために自ら汚濁を飲む覚悟をし、闇の世界に身を浸すことで闇を狩る。能天使すらその対象なはずだ)」

「ふっ……(なに言ってるかわかんないけど、友のために手を汚すっていい感じの言葉よね)」

「お前ならわかるだろう。巨悪を討つ必要性が」


 巨悪を討つ……。


「もちろんタケノコのことさ」


 え? たけのこ? 巨悪ってたけのこのこと?


「俺はタケノコに屈してしまったんだ(IQ400の指男ならば俺の言葉を正しく汲み取れるだろう……むしろ余計に説明してしまえば、皆まで言わないとわからないほどの馬鹿と侮っていると思われかねないしな。この男を怒らせるのはこりごりだ)」

「……ふっ、そうか」


 きのこ派だったけど、たけのこ派の圧力に屈したと。わかるわかる。

 だってたけのこの里のほうが美味しいしね(戦争開始)


「砕けぬ意思を持つお前なら、タケノコを倒せるはずだ……」


 いや、どうだろ、俺ってタケノコ派だし……。

 でも、シロッコ氏さ同じパワー週間乗り越えた同志なんだよねぇ。

 それに比べたらたけのこ派の繋がりなんて大したことないか。


「わかった。たけのこを倒そう」

「……っ(そんなあっさりと……阿良々木のチカラの規模が想像できないはずないのに。やっぱりの英雄は違うということか)」


 シロッコ氏、感動したのか涙を流してますよ。

 嬉しいなぁ、そんなに喜ばれるのかぁ。


「長い戦いになるだろうな」


 たけのこ派を全員改心させてきのこ派にするのかぁ……もはや一生を掛けた大仕事ですぜ。

 

「であるならば、指男、シタ・チチガスキー博士を殺していいのか……?」


 え、だめなの? 


「お前ほどの男のことだ、なにか考えがあるのだろうが……」


 ないけど? 

 え? だめ? まずい? 倒しちゃまずい?

 

「やつはタケノコへの唯一の鍵だぞ。やつにたどり着くためには現状、もっとも有力な存在だ」


 あれ、もしかして、タケノコって俺の思ってるたけのこと違う?


「ぎぃ(訳:タケノコ、またの名を『顔のない男』阿良々木です、我が主。冒涜的な犯罪の数々で知られる怪人のような男です)」


 あ、ぎぃさん全部教えてくれた……。

 も、もちろん、知ってたけどね。修羅道さんがそんな感じの話してたの覚えてるもん!


 しかし、とんでもない悪党か。

 シタ・チチガスキーより悪い奴がいるとなると、ちょっと指でこらしめてやらないといけないな。悪の帝王。もしかしたら経験値もたっぷりあるかも(※結局これ)


「いいだろう、時間があったらタケノコ『顔のない男』阿良々木は俺が消し去ろう」

「っ、言い切りやがるかぁ、ふははは」


 シロッコ氏、すっげ笑ってる。

 

「ぎぃ」


 ぎぃさんが何やら考え込んでますねえ。


「ぎぃ(訳:我が主の未来を考えれば、やつとの接敵は免れない。今から手を打つべき)」

「指男、そういえばそのナメクジはなんなんだ?」

「これはぎぃさんだ。賢い」

「賢い、か」

「ああ。俺より頭がいい」

「っ(ということはIQ400以上のナメクジということか……? 常軌を逸した生物を飼いならしているようだな、指男)」

「ぎぃ(訳:グレゴリウス・シタ・チチガスキーは泳がせよう。情報を拾えれば来るべき時のために対策ができるはず。すべては我が主のために)」


 ぎぃさん、難しい顔してます。

 「ぎぃ」って鳴いてるのでなにか結論をだしたみたいですね。

 でも、結局シタ・チチガスキーを黒触手でぶっ叩いてます。ストレス発散かな?


 ──この後、シタ・チチガスキー博士はレベル1まで経験値を絞られたあと解放され、ダンジョン財団に保護されることになる。


 ぎぃさんはシタ・チチガスキーを洗脳で眠らせて千葉市民会館跡地に捨ててきてしまいました。60回くらい殺したけど、逃がしてよかったのかは疑問が残りますね。でもまあ、ぎぃさんの判断を信じましょう。


「それじゃあ、シロッコ、シマエナガさんを殺った分、払ってもらおうか。お前の魂で」


 こいつには罪の分だけ制裁が必要ですからね。つまり、これはただ経験値が欲しいだけの行動じゃないということを周知していただきたい。うん、ほんとほんと。


 どうやらシロッコ氏は蘇れるようなので、遠慮なく徴収しましょう。


「ちーちーちー!(訳:先にこっちの大きな男を前菜にいただくちー!)」


 こら前菜とか言うんじゃありません。

 でも、まあ、それもそうね。

 でも、ウラジーミル氏は……うーん、どうしましょう。罰は必要だろうけど、シタ・チチガスキーをぶっ倒すために、ついでにしばいた感じだからなぁ……。

 でも、明らかに俺のことを殺しに来ていた感じなので、タダで逃がすのも面白くない。


 でもでも、こいつ蘇生系異常物質を持ってないだろうし、ぶっ殺したら普通に終わるでしょ?


 ……。ん? あ、いいこと考えちゃった。


「シロッコ、あんたの蘇生系異常物質をよこせ」

「……。別に俺のではないが。ユーロから貸し出されてるものだ」

「ユーロ……(え、なにユーロって?)」

「ヨーロッパのダンジョン財団本部に籍を置いている探索者なのじゃろうな」


 ドクターのナイスなフォローにより、ユーロがヨーロッパのことだと判明しました。やったね。ユーロはヨーロッパ。


「それに俺の『フェニーチェの尾羽』は外科手術じゃないと取り出せない。この場で摘出するのは不可能だ」


 ええ、どうするのよ、ウラジーミル氏は。

 もう普通にぶっ殺して一回分の経験値だけ絞るか?(面倒くさくなってきた)


「ぎぃ」

「あ、ぎぃさん?」


 ぎぃさんがウラジーミル氏へ近寄っていきます。

 黒触手で普通にぶったたいて臨終させましたね。これは厄災。

 ってなにしてんねん。本当に殺しちゃったよ!!?


「ぎぃ」


 ぎぃさん俺のステータスを開いて『最後まで共に』を触手で示してきます。

 これで復活させろと?

 でも、これって眷属しか蘇生できないのではないでしょうか。

 そこら辺の仕様の説明が欲しいです。


「まあ、とりあえずやってみるか」


 ウラジーミル氏の肉片を手でかきあつめます(鋼の精神)

 うわ、なんか温かくてべちぇべちゃだぁ(鋼の精神)


「指男、正気とは思えないな」


 シロッコ氏、ちょっとうるさいですよ。こっちは経験値がかかってんだよ。人間の肉片くらいリサイクルするだろ、普通。(※普通はしない)


「ちーちーちー!(訳:素人はだまってるちー!)」


 経験値界の四皇シマエナガさんがシロッコのロン毛をぐいぐい引っ張って怒りをぶつけはじめました。現場で生ぬるい事を言う素人に、経験値プロがぶち切れているようです。


 さて、ウラジーミル氏だったものが集め終わったので『最後まで共に』で蘇生をしてみますかね。


 手を近づけたら、あ、でたでた、黒い稲妻。

 おお、肉片が寄り集まってウラジーミル氏復活しましたね。

 過程がグロテスクで見るに堪えないですけど、その点のぞけば、消費MP100だけで蘇生です。コスパ最強です。俺のスキルつよつよじゃね。


「ぎぃ(訳:眷属の眷属は、つまり眷属)」


 なに言ってるのか全然わかりません。


「指男よ、ぎぃさんの洗脳下にあるウラジーミルはぎぃさんの眷属で、そのぎぃさんを眷属に従えているおぬしからすれば、ウラジーミルも眷属としてカウントできるということではにか?」

「ふん」

「わざわざ説明しなくても、あの指男ならそれくらい理解しているだろぉ、なあ? 指男」

「ふんっ」


 シロッコ氏なぜか俺を過大評価してくれます。

 でも、ごめん、全然わかってなかったわ。

 ドクターはありがとね。


「こ、ここは……俺はいったいなにをしていたんだ……」


 お、ウラジーミル氏起き上がりました。


「ぎぃ」


 黒触手が叩き潰します。

 とんでもないスプラッタです。

 経験値は新鮮なうちにいただきましょう。


「ちーちーちー!(訳:謹慎解除されたから無敵ちー!)」

「ぎぃ(訳:先輩、おいたがすぎるのでは?)」

「ちょっと待ってね、シマエナガさん、ぎぃさん、それだと戦争起こるから──」


 シマエナガさんは電光石火の滑り込みで経験値をピンハネしにかかります。

 それをぎぃさんの触手が捕縛して阻止、俺がすかさず駆けこみ経験値を手に入れようとするも、巨大化したシマエナガさんが驚異的な追い上げを見せて結局全部もっていきました。


 あーもう、だめですわ。

 あの鳥、全然反省してないですわ。


「ち~♪」


 ふっくらしやがって。どういうつもりですか。もふるぞ?(脅迫)

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