Sランクという領域
表舞台から姿を消したシロッコは祖母の言葉を忘れなかった。
自分に胸を張って生きれるよう彼は各地を転々とした。
それは授かった力の分だけ、世界に還元しようと思ったからであった。
また己の過去への粛罪のためでもあった。
その時使っていた偽名はフォルトゥーナ。
幸運を意味する言葉だ。
フォルトゥーナは元マフィアという職柄、闇の世界に精通していた。
独自に構築した組織同士の繋がりを記した犯罪組織のリストも持っていた
”ブラックリスト”である。
悪党が使えば、闇の世界の深くに踏みこみ、より強大な力が手に入る。
世界中の組織にとって喉から手が出るほど欲しい価値のあるリストだ。
フォルトゥーナはブラックリストを使った。己の信じる粛罪のために。
探索者を引退したあとの数年間を北アフリカを放浪して過ごした。
当時の北アフリカはダンジョンの攻略に追われ、何件ものモンスター脱走事件を引き起こしてしまっていた。
本来あってはならないことだ。滅多に起こることでもない。
ブラックリストを使って犯罪組織を潰してまわっていたフォルトゥーナは、どうにもダンジョンのことが気になり『シチリアの熱風』を動かして、北アフリカの裏でなにが起こっているのかを調べてみることにした。
調査の結果として、脱走事件の前には、必ずと言っていいほど不可思議な事件が起きているとわかった。不可思議なモンスターが突発的にダンジョンキャンプに出現し、探索者も財団の職員たちも八つ裂きにしていくのだという。
しかも、モンスターは暴れまわったあと霧のように姿を消してしまうらしい。
重大な情報を掴んだフォルトゥーナは行動を起こそうとした。
しかし、彼は慎重だ。慎重でなければマフィアのボスなど務まらない。
だから調査の過程で、”10人”の『シチリアの熱風』が行方不明になっていたことを無視するわけにはいかなかったのだ。
フォルトゥーナの臭覚が強烈に告げていた。
”なにかヤバイ物に近づいている”──と。
「ボス……この土地にいたくありません」
「成すべきこと成す。俺たちは世界に選ばれた神秘暴きの狩人だろ。大丈夫さ、あいつらの働きは無駄にしない。──俺がいる。全部うまくいく」
フォルトゥーナは勘の告げる警鐘に耳を塞ぎ、暗い淀みのなかに潜む怪物をひっぱりだそうとした。
────
──シロッコの視点
(スキル発動──『銃弾の雨 Lv6』『虚弱体質 Lv4』『精密射撃 Lv4』『市街戦 Lv2』『必中』)
『銃弾の雨 Lv6』飛翔体倍増
『虚弱体質 Lv4』防御力継続ダウンデバフ
『精密射撃 Lv4』命中率アップ
『市街戦 Lv2』ATKアップ、受けるDMGダウン
『必中』命中率アップ
「死んでいいぞ指男──
銃弾の雨が指男を襲う。
半身になって当たる的をちいさくし、全弾を『アドルフェンの聖骸布』で受けながら、衝撃を殺してやりすごす。
だが、地味に痛くなってきていた。
(これは……ダメージが地味に通り始めてる? なにかスキルを使いやがったな)
「いいのか指男、防御力高いだけじゃしのげない攻撃もあるってこと知らなかったかぁ」
(恐いねぇ……シロッコさん。ちょっとカチンと来たよ)
指男は腕で顔をガードしながら、視線をかろうじて確保して鋭い眼光でシロッコを睨みつける。
(あんたに恨みはないけど、あんたをぶっ飛ばせばシタ・チチを守るやつもいなくなるんだろ。しかも、経験値手に入るとか……あわよくば魔法陣……全力でいかせていただきます)
サッと弾幕がなくなった。
どうやらオーバーヒートらしい。
「嘘だろ? ワンマガで死なない? うーん……どんな防御力だ……?」
シロッコ自身かなり驚いているようだった。
指男は小脇にちいさくステータスを表示する。
────────────────────
赤木英雄
レベル156
HP 2,151/32,523
MP 4,025/5,743
スキル
『フィンガースナップ Lv6』
『恐怖症候群 Lv8』
『一撃 Lv6』
『鋼の精神』
『確率の時間 コイン Lv2』
『スーパーメタル特攻 Lv8』
『蒼い胎動 Lv2』
『黒沼の断絶者』
『超捕獲家 Lv4』
装備品
『蒼い血 Lv3』G4
『選ばれし者の証』G3
『迷宮の攻略家』G4
『アドルフェンの聖骸布』G3
『ムゲンハイール ver5.0』G4
『血塗れの同志』G4
『メタルトラップルーム Lv2』G4
『貯蓄ライター』G3
『夢の跡』G4
────────────────────
(馬鹿けずられとるッ?! え、やば、こいつ、強すぎ……っ)
指男は内心の動揺を晒さないように素早く『蒼い血 Lv3』で治療する。
(新しいスキルが解放されました)
(ああ、今それどころじゃないから!)
指男は顔面の守りをさげて指を鳴らした。
ATK250万のエネルギーが圧縮されて熱球をつくりだした。
(フィンガースナップの命中率は100%。必ず当たる)
シロッコは身をのけぞらせ熱球を
指男は目を見張る。
のちに大爆発を起こして、周囲3mほどに壊滅的な爆破属性&火属性ダメージをまき散らした。
シロッコは爆破から逃れ、床のうえをローリングしてスマートに回避していた。
(スキル発動──『回避行動 Lv4』『生存者 Lv3』)
シロッコの回避セットである。
『回避行動 Lv4』回避力アップ&敵の命中力20%ダウン
『生存者 Lv3』回避力アップ&HP回復
通常、命中力は”技量”ステータスと”精神”ステータスの補正を受ける。
”技量”は狙いをつけて攻撃を当てるテクニック、”精神”は攻撃の瞬間どれだけ冷静でいられるか、それぞれに関係している。
回避力も同様に”技量”と”精神”の補正を受ける。
シロッコは”精神”ステータスでは指男を大きく下回るが”技量”で上回っている。
そこにスキルを使えば、いかに元々の命中率100%であろうと避けられないことはないのである。
「外した……っ」
「どうした、指男。攻撃を外すのは初めてか」
指男はムッとしてさらに3回、ATK250万:HP500を放った。
シロッコは巧みなステップであたかも事前にそこを爆破されるのがわかっているかのようにするっと爆心地からすり抜けてしまう。
指男はこれまでフィンガースナップの命中率100%を過信して、狙う努力をしてこなかった。命中率が80%まで下がったことで、その差が決定的にあらわれてしまっていた。
「はは、すごく優しい男じゃないか、建物を気遣ってるのか?」
爆発範囲を広げれば命中する可能性はあげられる。
本気でやればそれこそ建物ごと吹っ飛ばすことは可能ではある。
指男はそれをしなかった。
(テロリストになりたいわけじゃないからな)
「当たれ、当たれ、一発まず当たれって」
ボソボソつぶやきながら秒間10回、両手で指を鳴らす。
一方のシロッコは「久しぶりにオリジナルを使うかぁ」と、マガジンをチェンジ、トンプソン短機関銃に新しいマガジンをセットするとすぐに撃ち返して来た。バレルからマズルフラッシュが火炎放射のように噴きだし、無限にも思える弾丸の雨をふらしはじめた。
先ほどよりずっと弾丸の密度が高い。
マズルフラッシュも相まってもはやシロッコの姿が見えず、狙いをつけるどうこうの話じゃなくなっている。
「うグぅ……!」
「どうしたあ! まだまだ続くぜ!」
”毎秒9,000発”の弾丸を撃ちこまれると、さしもの指男も弾丸の圧力によってズルズルと後退させられていた。さらにどういう原理か、シロッコの弾丸は一発一発がちょっとずつだがダメージを確実に蓄積させられるようだ。
(まるで、津波に押し流されてるみたいだ……! 流されたことないけど!)
指男はたまらず横っ飛びに通路を折れてシロッコの射線を切る。
これで銃弾はとどかな──
──ギィィィィィ
チェーンソーのような銃声が止まらない。
「っ!」
途方もない質量弾のまえで市民会館の通路の壁など、紙っぺらのように簡単に貫通していた。
さらに驚くことに、弾の半分ほどがホーミングして指男を追ってくる。
『精密射撃 Lv4』と『必中』、それとシロッコ本人が卓越した技量で”射線を曲げている”せいであった。
「そんなのありかよ」
隠れることもできず全身を滅多撃ちにされる指男。
だが、防御力のおかげで耐え凌ぐことはできる。背中で弾丸を受けて、こっそりと『蒼い血 Lv3』を打つこともできる。
(よし注射完了、HPはMAX、これでまだ耐えれる。次に銃声が止んだら爆発範囲を広めてステップなんかじゃ避けれない規模の攻撃でふっとばす)
銃弾の雨が止んだ。
シロッコは熱くなったトンプソン短機関銃をぶんぶん振ってクールダウンさせる。
指男はこれ幸いとばかりに、転がり出て、シロッコへ狙いをつける。
指男の早撃ちは百分の一秒の世界で行われる。
瞬間、脳天を強烈な痛みが襲った。
脳漿が弾け飛び、床に血の華が咲いた。
攻撃されたのは────指男のほうだった。
指男の身体が力なく崩れ落ちた。
(スキル発動──『早撃ち Lv3』『必中』)
スキルを使ったシロッコに早撃ちで勝る者など地球上に存在しない。
ひとりの人間でしかない指男とて例外ではなかった。
シロッコは”右手”にオーバーヒートしたトンプソン短機関銃を気だるげにぶら下げ、左手にもう一丁銃を持って、それで指男を撃ったのだ。それも指男の『フィンガースナップ Lv6』よりも速く撃った。
シロッコが”左手”に構えていた銃はダンジョン装備『ダンジョン・コンテンダー2001』である。後装式シングルアクション拳銃で、多様な弾丸を放てるのが特徴である。
彼が放った弾……それは世界でも産出量が少ない
「ここで1発使うことになるとは思わなかったよ。お前、硬すぎ」
シロッコはペンダントの中に隠していた2発の『
使わずとも倒す自信があったはずだが、どうにも「今ここで使わないと勝てない」──そんな長年の戦闘経験からの警鐘がなったのだ。
「固定ダメージ1,000万だ。これは地球の加護も突破する」
コンテンダーのアイアンサイト越しに、ピクリとも動かない指男を凝視する。
(これで撃たれて生きている人間はいない……)
シロッコは得意げに鼻を鳴らした。
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