豆大福 and ナメクジ on 黒沼の怪物 with 黒沼の武装1,000



 ウラジーミルがパニックに陥る一方で、チーム指男は会議をはじめていた。


「なるほど、こうやって爆発のエネルギーを絞ればまわりへの被害はちいさくなるのか。さっきメタルモンスター倒す時もこうすればよかったのかな?」


 指男は指を擦りあわせ、注視しながらぼそぼそ独り言をもらす。


「『冒涜の眼力』で残りHP見ましょうか」

「ちーちーちー」

「ふむふむ。なるほどなるほど。そういう感じね」


──────────────────

ウラジーミル・バザロフ

HP 4,229/19,412

──────────────────


「HP4,229ねぇ……それじゃあ今度はもうちょっと抑えめで撃って削りきっちゃいますかね」

「ぎぃ」

「あ、こら、ぎぃさん、手に乗ってきたら指が鳴らせないじゃないですか!」

「隙を見せたな指男、因果の魔法剣スヂパー・クォデネンツ!!」


 一瞬のスキを突いて、双剣での連撃を指男へたたきこむ。

 指男は左手に『ムゲンハイール ver5.0』を持ち、右手に厄災の軟体動物を持っているので、ガードすることもできずめった斬りにされる。息もつかせぬ16連撃。

 指男はスターバーストストリームを練習したことはあったが、まさか自分が斬られる側になるとは思ってもいなかった。


 過剰ドーピングに加え、防御系スキルで1発2発防がれようと関係ない多重攻撃(手数の多い攻撃は防御系スキルへの対抗策とされる)、すべてに『面打ち Lv5』と『必中 Lv4』『斬り返し Lv4』『強打 Lv5』をこめた。

 一発一発がATK80万を優に超える『冷原の巨人』の身体機能とスキル、技量と筋力、持てる力のあらゆるを込めた攻撃だった。


 連撃が終わり、肩で息をするウラジーミル。 

 指男はズレたサングラスの位置を直し、こめかみから流れ出た血を指でなぞる。


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 赤木英雄

 レベル156

 HP 15,741/32,523

 MP 4,103/5,743


 スキル

 『フィンガースナップ Lv6』

 『恐怖症候群 Lv8』

 『一撃 Lv6』

 『鋼の精神』

 『確率の時間 コイン Lv2』

 『スーパーメタル特攻 Lv8』

 『蒼い胎動 Lv2』

 『黒沼の断絶者』

 『超捕獲家 Lv4』


 装備品

 『蒼い血 Lv3』G4

 『選ばれし者の証』G3

 『迷宮の攻略家』G4

 『アドルフェンの聖骸布』G3

 『ムゲンハイール ver5.0』G4

 『血塗れの同志』G4

 『メタルトラップルーム Lv2』G4

 『貯蓄ライター』G3

 『千式メタルキット』G5

 『夢の跡』G5


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 指男は自身のステータスを眺めてみるが、普段からHP管理が雑なので、いくらのダメージを受けたのかわからなかった。


(まあ、でも、こめかみちょっと切っちゃったくらいだし平気っしょ)


 指男はサングラスを指の腹でもちあげる。

 何も言葉を発さない。

 本当は自分のステータスを眺めて、ダメージがいくつだったのかの算数に手こずっているだけだが、その沈黙は外から見る者にとっては、まったく違って映る。


 ウラジーミルにしてみれば、全力を叩きこんだのだ。

 なのに、指男はただサングラスの位置を気にするだけ。


 格の違いを思い知らされた気分だった。


「ぎぃ」

「あ、ぎぃさんが勝手に」


 あとずさり自信を完全に喪失していたウラジーミルは、とぼとぼと後退する。

 そんな彼と指男のあいだの床から、黒沼の怪物が湧いてでてきた。

 厄災の軟体動物が『黒沼の惨劇』をつかって呼び出したようだ。


「え? ぎぃさんの社員を戦わせてみたい?」

「ぎぃ。ぎぃ」

「はあ、まあ生かしておいてくれるなら、俺は構わないですけど」

「おい、指男、明らかに邪悪な眷属を召喚しておらんか? 大丈夫か?」


 厄災の軟体動物は黒沼の怪物へ、『黒沼の武装』で召喚した青龍刀を装備させ、指男の手から自分の社員の肩に移った。

 厄災の軟体動物 on 黒沼の怪物、である。


「ぎぃ」

「え、ああ、もしかして、この人はぎぃさんが戦うと?」

「ぎぃ」

「指男、もしや、このナメクジはここは任せて、逃げたシタ・チチガスキー博士を追えと言っているのではないか?」

「ちーちーちー(訳:後輩、まさか、ひとりで! 後輩のことは忘れないちー!)」


 黒い触手が厄災の禽獣をビシッと掴んで、指男の胸ポケットから引きずりだす。

 

「あ、ぎぃさんがシマエナガさんを捕まえて……」

「ちーちーちー?!(訳:ちーちー!?)」

「ぎぃ(訳:先輩はこっちです)」」

「なるほど。ぎぃさんとシマエナガさんのお二方であのキリト、じゃなくって黒服を相手してくれると。わかりました。ここはよろしくお願いしますね。無力化、ですよ。殺しちゃったら経験値取れるかわからないですからね」


 指男はすかした敬礼をして、迂回した通路を通ってシタ・チチガスキー博士を追いかけることにした。


「え? わしは?」

「ドクターはシマエナガさんたちのところにいていいですよ」

「いや、指男についていきたいんじゃが?」

「ちょっと足手まといですかね。ドクターがいっしょじゃ俺全力で走ることすらできないですし」

「めっちゃ正直に言うじゃん、おぬし、もっと言葉選んでくれよぉ……」


 泣きそうになるドクターの肩に、トンッと手が置かれる。

 ふりかえれば黒沼の怪物がドクターを励ます様にして、サムズアップしていた。

 

「この間違いなく邪悪な眷属に身を任せるのすげえ不安なんじゃが……てか、え、これ2体も召喚できるんじゃな、指男のナメクジすごいのぅ」


 シマエナガさんとぎぃさんを乗せた黒沼の怪物と、ドクターのボディガードになった黒沼の怪物。


 それらを見て、ウラジーミルは不機嫌に眉根をひそめた。


「指男、ふざけているのか? こんな害鳥と気色悪い蟲で、じじいと量産可能な眷属ごときでこのウラジーミル・バザロフと釣り合いがとれるとでも? 舐めやがって」

「ちーちーちー!」

「ぎぃ!」

「やかましいぞ、小動物ども。斬り刻んでやる」

「ふたりとも、気を付けるんじゃ、指男だからなんとかなったものの、そいつはとんでもなく強い探索者じゃぞ!」


 ウラジーミルは双剣をぶんまわし、一太刀で黒沼の怪物を屠ろうと神速の一太刀で首へ叩きこんだ。


 ガギィン!


 轟音が響き、紅い火花が散った。

 黒い青龍刀が魔法剣を弾いたのである。


「ぎぃ」

「ちーちーちー!」


「こいつら……」


 ウラジーミルは双剣の手数で執拗に首を狙って剣をふりぬく。

 黒沼の怪物は青龍刀をつかって巧みにさばき、なんなら普通に斬りかえして、ウラジーミルの肝を冷やさせた。


 それもそのはず。

 黒沼の怪物のポテンシャルは人類のソレを凌駕しているのだ。


「くっ! こんな量産型眷属に!」

「ぎぃ」


 激しい剣戟の間隙をぬって、黒触手が足元をからめて拘束してきた。

 まさかの攻撃につんのめり大きく体勢を崩すウラジーミル。

 

「ぎぃ」


 黒触手の二撃目がウラジーミルの背中をぶっ叩いた。

 吐血し、苦悶の声を漏らす。鞭に叩かれ、背中に割れたような激痛が走った。


「ぎぃ(訳:この人間なかなか強いですね。洗脳をレジストされちゃいました。一度、しばき倒す必要がありますね)」

「ちーちーちー!(訳:頑張るちー! ここで戦果をあげればもしかしたら2カ月の謹慎処分が解除されるかもしれないちー!)」

「ぎぃ(訳:先輩はなにもしてないのですが)」

「ち、ちー!(訳:細かいことは気にしてはいけないちー!)」


 その後、ウラジーミルは豆大福 and ナメクジ on 黒沼の怪物 with 黒沼の武装1,000と激しい戦いを繰り広げることになった。



 ────



 ──シタ・チチガスキー博士の視点



「ウラジーミルが指男に敗北するだと? あの剣を見てどうしてそんなことが言えるのだ、シロッコよ」

「指男がウラジーミルより1つほど上の段階にいると感じたからですよぉ」


 シロッコはトンプソン短機関銃を片手に、シタ・チチガスキー博士を連れて廊下を駆ける。


 ふとシロッコは立ち止まった。

 シタ・チチガスキー博士はシロッコの背中に勢い余ってぶつかり「なんだ! なんで止まる!」と不機嫌に声をもらした。


 すぐに理由はわかった。

 廊下の先、曲がり角からやつが現れたのだ。


 スッと出て来て、立ちふさがり、小首をかしげげ、ニヤリと白い歯を見せる。


「見・つ・け・た……(イケボ)」

「ひぃ!」


 シタ・チチガスキー博士は腰をぬかして尻餅をついた。


 指男に追いつかれてしまった。

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