赤木さんにはお仕置きが必要です!



 というわけでドクターに『ムゲンハイール ver5.0』をなんとかしてもらうためにダンジョンキャンプへ戻ろうと思います。

 ダンジョンキャンプ直通の扉はないので、一旦、泊ってるホテルへっと行きます。

 

「ホテルの扉はこれだったかな」


 水深数センチの湖の世界から、扉ひとつまたげばエグゼクティブなホテルルームです。


「まじで便利な異常物質じゃのう。もしかしてじゃけど、トラップルームなのかの?」

「そうですけど」

「そうですけどじゃないんじゃが?」

「ドクター汚れてるんでシャワー浴びて行ってくださいよ」

「ふむ、いいのか? 気が利くやつじゃな」

「あ、でも、俺が先に入ります。ここ俺の泊まってる部屋なので」

「なんじゃこいつは。微妙に腹立つのう」


 というわけで、気持ちよくシャワーを浴びてホカホカです。あーいい湯だった。

 ついでにシマエナガさんとぎぃさんも激しい戦いで汚れちゃったので洗いました。


「ち~♪」

「ぎぃ」


 ふたりとも満足そうです。

 綺麗になってよかったですね。


「あがりましたよ、ドクター」

「うむ」


 シャワーから戻ります。

 ベッドのうえに座り、膝のうえでバスケットボールサイズのシマエナガさんをごしごしとタオルで拭いてもっふりさせます。


「指男」

「? なんです、そんな悟ったような顔して」


 ドクターが窓辺で琥珀色の液体を飲みながら、改まった声を出しましたね。ところで、なにを飲んでいるしょう。怪物エナジーかな。


「なんですその液体」

「スコッチじゃ」

「いや、いきなりそんな渋いキャラづけされても」


 どうやらルームサービスに運んで来てもらったようです。

 

「おぬしが風呂に入っている間にふと考えたんじゃが」

「なんです」

「わし殺されるくね?」


 なんか言い出しましたねぇ。


「だっておぬし、シタ・チチガスキー博士を生かして返したじゃろ。まずいじゃろ。あいつわしのこと消そうとしたのに……」

「ふむふむ、確かに」

「じゃろ? このあと暗殺なり、誘拐なり、される気がするんじゃが。やつはわしの研究を欲しがっていたような気がしたのう」

「大丈夫ですよ」

「っ、もしやおぬし……なるほど、流石は指男じゃのう。なにかすでに手を打っているというわけじゃな?」

「もちろん、何もしてません」

「はい、わし死亡。今日までありがとのう」

「諦めないでください。すでに賢者がなんとかしているはずです」


 俺はぎぃさんを手のひらに乗せてドクターの顔の前へやります。

 おや、シマエナガさんもバランスボールサイズにふっくらしてすりすりしてきました。


「ぎぃ(訳:シタ・チチガスキーは洗脳だけじゃなく体内に分裂体をも寄生させましたから、言論の自由はやつにありません。我々に不利益な発言はさせません)」

「ち、ちー(訳:後輩が恐ろしすぎてちーがただのマスコット担当になりつつあるちー)」

「ぎぃ(訳:先輩はもとからマスコットでは)」

「ちー!?」


「なんて言っているのかわからんのじゃが……」

「俺もなに言っているのかはわかりませんけど、ニュアンスだけなら汲み取れますよ」

「ほう、なんと言っとるんじゃ」

「んっん……ぎぃさんいわく『シタ・チチガスキー博士は私の手のひらのうえですぎぃ』って感じのこと言ってると思います」

「おお、流石は指男の眷属じゃ。厄災のチカラは凄まじいのう」

「でしょ?」


 うん? なんか今、引っかかること言われた気がするけど……まあ、ちょっと俺疲れてるし、気のせいかな。


「まあ、難しい事考えずに熱いシャワーでも浴びてスッキリしてくださいよ、ドクター」

「ああ、そうさせてもらうかのう。……今日は本当にありがとうな、指男よ」

「別に大したことしてないですよ」

「ふん、また借りができてしまったのう」


 ドクターはそんなことを溢しながら風呂場へいきました。


 ドクターが風呂場で鼻歌うたっている間、SNSを通じて千葉で起こった謎の爆発についての情報をちょっと収集します。

 千葉市民会館が吹っ飛んだ事件のことが早速メディアに取り上げられたますね。原因は不明。死傷者の数も不明とのことです。まあ、数十分まえの出来事なのでなにもわかっとらんのでしょうね。

 どうなることやら(他人事)


「ちー」

「ん、なんですか、シマエナガさん」

「ちーちーちー(訳:これじゃあ厄災まっしぐらちー)」

「なんだか不満そうですね。そんな顔してると……こうっ!」


 暴力的なふっくらボディをもふり尽くします。

 シマエナガさんは嫌そうな顔しながらもされるがままです。


「ちー……(訳:これが人類の敵になる事はないちー)」


 ドクターがシャワーを終えたので、いっしょにダンジョンキャンプに戻ってきました。


「ではのう、指男よ。わしはさっそくこの『ムゲンハイール ver5.0』を修理できるか試して見るわい」

「お願いします、ドクター」

「ちーちー」

「ぎぃ」


 さて、少し時間ができたね。

 すごく眠たいけど、お腹も空いてるんだよね。

 お昼ごはんでも食べようかな。

 せっかくなら修羅道さんをお食事に誘ちゃおっかな? んー、でも、頭が冴えてないし上手く楽しませられないかも……自信無くなってきた。


「あ! 赤木さん! 見てください、千葉が今すごいことになってますよ!」


 修羅道さんと目が合うなり話しかけてくれました。かあいい。

 スマートフォンの画面に映し出された焼野原を見せてくれます。

 まるで空襲を受けたかのうような無惨な姿となった街並み。

 これはなんだろなー。まさか日本の街じゃないよねー(現実逃避)


「いったいどこの誰がこんなことをしたのやら、赤木さん、市民会館へ行くって言ってたので巻き込まれなくてよかったです!」


 修羅道さん、俺の心配をしてくれていたんだ。


「俺はなんともないですよ。市民会館ってスキルで吹っ飛ばされたやつですね。すごいことになってますよね(鋼の精神でシラを切り通す男)」

「あ、ダウト! これ赤木さんがやったんですよね!」

「ぶっふぇふぇふぇ! ……なんでそう思ったんです?」

「だって、報道ではスキルなんて言ってませんよ。ガス管の爆発というのが有力な説とされてますもん」

「ぶっふぇえふぇふぇふぇえ! ……え、なんて?」

「今、すっごく変な咳払いをしてましたよ。やっぱり怪しいです」

「なんのことだか……」

「はあ、どうやら本当のことを言ってくれないんですね。私は悲しいです」

「うっ……」


 修羅道さん、そんな顔しないで……辛い、嘘なんてつきたくないのに。


「私には嘘は通用しませんよ。実は私には相手のステータスが丸わかりになる能力があるのです!」

「え?」

「つまり、赤木さんのステータスがやたら成長してるのに気づいてるんですよ〜。さっきダンジョンキャンプを出ていった時よりひとつ段階が違うように感じるほどに」


 全部バレてーら。

 だめ、この人になにも隠せん。

 

「女の勘を甘く見てはいけませんよ~」

「そういうこともあるでしょう……? たまに急成長したり」

「ないです!」


 言い切りました。

 ないですか。そうですか。


「私の見立てでは、そうですね、市民会館で悪さをする悪の親玉と遭遇、正義の心を持つ赤木さんはそれを見過ごせずに戦い、相棒を傷つけられたことで覚醒、悪の親玉を守るつよつよ四天王と戦って見事にレベルアップした、というところでしょうか!」

「いや、もうどこで見てたでしょう? 四天王だけ違いますけど」

「いいえ、見てません。四天王だけ違うんですか?!」

「そんな正確に状況がわかるはずないですよ。嘘をつく人は嫌いです、修羅道さん。あと四天王だけは全然間違ってますよ」

「私は嘘なんてつきませんよ、赤木さん」

「じゃあ、なんでわかるんです」

「勘です!」


 修羅道さん、すっごい得意げな顔してこめかみを指でちょんちょん突いてます。

 でもね、修羅道さん、「勘です!」じゃ説明になってないんです……そんなドヤ顔されても俺は納得できないからね、わかって欲しい。

 

「ふふん♪ 私の勘からは逃げられませんよ」

「その、このことはできれば内密にお願いします」

「犯行を認めましたね、赤木さん!」

「いや、犯行のつもりは全くないです。でも、本当に内緒でお願いします、修羅道さん」

「さてどうしましょうか。おそらく死傷者はゼロですが結構な被害を巻き散らしてしまいましたからね」

「なぜ死傷者はゼロとわかるんです……?」

「勘です!」


 だから説明になってない。

 修羅道さんの何者感の加速がとまらん。


「では、こうしましょう、赤木さん」

「はい、なんでしょう」

「市民会館でなにがあったのかこと細かに私に話してください。関係者がいたらこちらへ集めてください」


 修羅道さん、真面目な表情で淡々と言います。

 流石にしっかりしている感じです。これはタイーホと厳罰は免れない感じかな。


 腹をくくってドクターを引っ張ってきました。

 

「なんでわし呼び出されたんじゃ? しかも、あの修羅道ちゃんが真面目な顔しておるんじゃが……こわっ」

「ドクター、すみません。俺が市民会館吹っ飛ばしたのバレました」

「バレるのはやっ……」

「ドクターには責任の一部を負っていただきます」

「なんでッ?!」

「修羅道さん、俺は午前10時頃、ドクターを探して千葉市民会館へ行きそこでカクカクシカジカンということがあったんです。これが事件の全容です」


 俺は修羅道さんにことの経緯を嘘偽りなく話した。

 修羅道さんは真面目な顔で腕を組んで、ただ黙って耳を傾けてくれました。

 なお、取り調べが行われているのはランチタイムで賑わうサイゼリヤです。おい、セキュリティ。


「なるほど、まさか、そのようなことがあったなんて……では、私から言えることは一言だけです」


 修羅道さんは机に身を乗り出してきて、ぽんっと俺の頭に手を乗せました。

 もしかして頭を引っこ抜かれる鬱エンドでしょうか。俺終わりましたね。


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