しまっちゃうおじさんと消し炭おじさん



 19階層に降りてきました。

 

「ちーちーちー!」

「ん? もしかして、この『貯蓄ライター』を使えって言ってます? ふっふっふ、甘いですよ、シマエナガさん。経験値に目がくらんで冷静さを失ってます」

「ち、ちー?」

「貯蓄ライターを使うのは今じゃないんですよ。そんなこともわかりませんか。もっと遥かに効率の良いタイミングがある、それが俺には見えるのです」

「ち、ちーっ?!(訳:経験値のこととなると途端にIQがあがるちー!)」


 まだ『貯蓄ライター』は使いません。


 19階層の3Dマップを『迷宮の攻略家』で取得して、狩場を確認します。

 さて元気にランニング狩場ルーティンを回していきましょうかね。


 というわけで、捕獲攻撃とやらを試してみます。

 そう、捕獲攻撃です。

 お忘れかもしれませんが、わたくし赤木英雄は『超捕獲家 Lv3』というスキルを使って、捕獲攻撃ができるんです。さっきメタルモンスターをどうやって経験値工場に捕獲するかを模索していて気が付いたんですよ。というか思い出したんです。


 ───────────────────

 『超捕獲家 Lv3』

 異次元の胎動を御した

 万象が既知になれば恐れは消え失せる

 MP1消費して捕獲攻撃をしかける

 ───────────────────


 これですね。


「わんわん!」


 お。さっそく19階層ダックスフンドがいるじゃないですか。

 デモンストレーションと行きましょう。

 『超捕獲家 Lv3』を使って捕獲攻撃を仕掛けます。

 でたでた。白いエフェクトが俺の手に付与されました。


 この状態で指を鳴らす、っと。

 すると、ダックスフンドが爆破される──と同時に、が無数に空間の歪みから現れて、ダックスフンドをがしっとホールドし、そのまま空間の歪みのなかへ引きずり込んでしまいました。


「きゃいん?!」


 めちゃくちゃ怖い。

 見た目はホラー以外の何者でもない。


 これが捕獲攻撃です。

 ちなみに強いモンスターには効果が無いのか、さっきのメタルモンスターはこれじゃ捕獲できませんでした。残念。


 ところで、モンスターはどこへ消えたのでしょうか。

 さっきメタルモンスターに試したはいいけど、捕獲失敗してるから、モンスターがどこ行ったとか知らないんですよね。


 まさか、時空の歪みに連れ去られて、そのままぐちゃぐちゃってことはないと思うけど。攻撃だし。


「ぎぃ」

「ん?」


 ぎぃさんの触手が俺に啓示をあたえてくれる。

 視界横に見覚えのないウィンドウが現れていた。


─────────────────────

『超捕獲家 Lv3』

 ボックス 1/100

・ダンジョンダックスフンド(19階層) ×1体

─────────────────────


 なるほど。

 捕獲って言うからには、箱にでも捕まえるんかと思ったけど、どこかに物理的な入れ物を見つけなくても、スキル『超捕獲家 Lv3』自体が100個分の収容スペースをもってるのね。しかも異空間の収納スペースを。


 よしよし、これで当初の計画(厄災さんたちには鼻で笑われた)が動き出すってもんよ。


 俺のメインウェポン”フィンガースナップ強化計画”だ。

 いや、メインウェポンっていうかオンリーウェポンだけどね。


 しかし、ふと冷静になると、困りますね。

 100体集めたところでどうするんだって話だし。


 『フィンガースナップ Lv4』→『フィンガースナップ Lv5』までの解放条件は『ワンスナップ・ワンキルで100万キル達成(または、短い期間に同条件で25,000キル達成)』だった。

 いくら『スキル栄養剤』があるとはいえ、流石に100万キル以上分の経験値を愚直に集めていたら数ヶ月では利かなくなってくる気がする。

 マックスレベルはLv10とのことなので、ぜひともそこまでは行きたい。


 ゆえに()付きの解放条件で挑まなくてはならない。


 ──というのが俺の考案した”フィンガースナップ強化計画”だった。


 方針としては、とにかくとっ捕まえて、一気に倒す。

 モンスターは全部捕獲だ。

 経験値工場には『経験値増幅魔法陣』もあるし、その点でもシナジーがあるだろう。

 うっへっへ、経験値が加速してしまいますなぁ!(※経験値は加速しない)

 

 そして、『スキル栄養剤』を貯蓄して一気に飲むと。

 そうすりゃ流石に最短条件で『フィンガースナップ Lv6』に辿り着けるはずだってばよ。


「は〜い、それじゃあどんどんしまっちゃおうねぇ」


 ──パチン


「わんわん?!」

「ん~、そんな恐怖に満ちた眼差しで必死に逃げる子はしまっちゃうよ~」

「きゃいんッ!?」


 ──パチン


 しまっちゃうよ~しまっちゃうよ~。

 悪いモンスターはどんどんしまっちゃうよ~。


 ──パチン


 ボックスに100匹溜まったら『メタルトラップルーム Lv2』へ格納です。


────────────────────

『メタルトラップルーム Lv2』

 ボックス 2,438/10,000


・ダンジョンダックスフンド(1階層)×69

・ダンジョンダックスフンド(2階層)×93

・ダンジョンダックスフンド(3階層)×90

・ダンジョンダックスフンド(4階層)×40

・ダンジョンダックスフンド(5階層)×74

・ダンジョンダックスフンド(6階層)×108

      ・

      ・

      ・

・ダンジョンダックスフンド(19階層)×100

      ・

      ・

      ・

────────────────────


 これでまた『超捕獲家 Lv3』のほうで100匹収納できる空間が空いた。


「ぎぃ」

「あ、ぎぃさんが勝手に」


 またしても勝手に導いてくれるチーム指男の頭脳。

 

「ん、同期できるんですか」

「ぎぃ」


 『超捕獲家 Lv3』のボックスウィンドウを開いたまま、『メタルトラップルーム Lv2』の格納ウィンドウを同時に開いていたら、どうやら二つを接続できるらしいとわかりました。黒触手さんがひょいひょいっと設定してくれました。どうやったかは全然わかりません。親が子供にスマホの設定してもらうのってこんな感じの気分なんでしょうかね。電子機器強い子は頼りになるわぁ。


「ぎぃさん、よしよし」

「ぎぃ♪」


 同期できたので、これからは捕獲攻撃で捕まえたら、そのまま経験値工場へ直送というわけですね。


 いいねいいね。

 そういうハイテクなサービス嬉しいね。


 あぁ、楽しみだなぁ、イヒヒ、たくさん捕まえるんだぁ、アハハ……待っててね、すぐに全員しまってあげるから……ネ……。


 ──数十時間後


 うっへっへっへ捕獲祭りじゃい。

 

────────────────────

『メタルトラップルーム Lv2』

 ボックス 10,000/10,000


・ダンジョンダックスフンド(1階層)×536

・ダンジョンダックスフンド(2階層)×451

・ダンジョンダックスフンド(3階層)×581

・ダンジョンダックスフンド(4階層)×426

・ダンジョンダックスフンド(5階層)×294

・ダンジョンダックスフンド(6階層)×412

・ダンジョンダックスフンド(7階層)×523

・ダンジョンダックスフンド(8階層)×785

・ダンジョンダックスフンド(9階層)×629

      ・

      ・

      ・

・ダンジョンダックスフンド(19階層)×300

・ダンジョンダックスフンド(20階層)×252

・ダンジョンダックスフンド(21階層)×35

      ・

      ・

      ・

────────────────────


 捕獲たのちー。

 稼ぎたいのは、キル数なので、どうせ倒すなら弱いモンスターの方がいい。

 ということで、経験値工場の”扉”ワープを利用して、1階層から降り直して狩場が消滅するまで捕獲しまくっていると、あっという間にボックスぱんぱんになりました。


 ちなみに階層も降りて、今は21階層にいます。

 モンスターをちょこっと消し炭に変えた感じ、苦戦することも無いです。


 あ、ついでに『超捕獲家 Lv3』も進化して、いまでは『超捕獲家 Lv4』です。


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 『超捕獲家 Lv4』

 異次元の胎動を御した

 万象が既知になれば恐れは消え失せる

 捕獲攻撃をしかける

 解放条件 ダンジョンモンスターを4,000体以上捕獲する。

 ───────────────────


 MP消費がなくなりました。

 

 ─────────────────────

 『超捕獲家 Lv4』

  ボックス 8/200

 ・ダンジョンダックスフンド(21階層) ×8体

 ─────────────────────


 収納ボックスもちょっと大きくなりました。

 普段はこのボックスは空です。今は経験値工場の収容キャパを越えたので、移動できずに、ちょこっとだけ残ってますけど。


「さて、では、殺戮の天使のお時間と参りましょうか」

「ちーちーちー!」

「ぎぃ」


 ”扉”を設置して、経験値工場へ入場。

 魔法陣の下にリスポーン地点を設定して、俺は袖をまくります。


 何も知らずに出てくる無垢なダックスフンドたち。


「わん!」

「いっひっひひ、ごめんね。さっきはしまっちゃうって言ったよね……」

「わん?」

「やっぱり、おじさん、消し炭にしたくなっちゃったよ……(ニチャア)」

「わんッ?!」

「どんどん消し炭にしちゃおうねぇ~」


 ──パチン


 消し炭パーティは盛大な賑わいを見せました。


 ──数時間後


 ようやく消し炭作業が終わりました。


(スキルレベルがアップしました)


 っ、もしや、来たかな?


 ──────────────────

 『フィンガースナップ Lv6』

 指を鳴らして敵を消滅させる。

 生命エネルギーを攻撃に転用する。

 転換レート ATK5,000:HP1

 解放条件 ワンスナップ・ワンキルで500万キル達成(または、短い期間に同条件で50,000キル達成)(またはごく短い期間に同条件で10,000キル達成)

 ──────────────────


 フォーーーーーーーーーーーー!!(歓喜の声)


 本当にありがとうございました。

 ありがとうございました、はい、ありがとうございました。

 皆さん、今日までお世話になりました。

 わたくし赤木英雄、優勝です。

 もう接敵したら自動で勝ちでいいんじゃないでしょうか。

 モンスターと戦うまでもないでしょう、ええ。


「いやいや、5,000? HP1でATK5,000出ちゃう? うわ、やっべ、つよ。ちゅんよ」


 スキルウィンドウを見て、ニヤニヤ、ニタニタ、ニチャニチャ、ベチャベチャと笑うこと10分──ようやく興奮が収まってきました。


「いや、ATK5,000ってすご。俺、結構つよいんじゃない?」


 あんまり興奮醒めてませんでした。嘘ついてごめんなさい。


「ちーちーちー」

「ぎぃ」

「あ、すみません、この10分間ニヤニヤする以外何もしてなかったです」


 ようやく現実に戻ってきました。

 えーっと、そうですね、経験値を確認しますか。


 ────────────────────

 『貯蓄ライター』

 経験値は貯蓄する時代です

 752億995万4,741/9,999億9,999万9,999

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 750億。もう凄い事になってきましたね。

 ざっと250億くらい増えた感じかな?

 10,000匹も『経験値増幅魔法陣』のうえで倒せば、まあこれくらいにはなるか。


 でも、この数字も見てよぎるのは、やっぱりあのメタルモンスターを魔法陣の中で倒したかったということです。だって魔法陣の外で倒しても500億ですよ? アイツとんでもないボーナスモンスターだったんだな……あれ、おかしいな、経験値が貰えてうれしいはずが、逆に悲しくなってきましたよ……。


 ええい、もうメタルモンスターのことは忘れよう。


 たくさんモンスター倒したので、もはや数えきれないくらいのクリスタルも経験値工場の真ん中に山となってますしね。

 うーん、よくわからないけど、3,000万円分くらいはあるんじゃないかな?


「おや、これだけあれば『ムゲンハイール ver5.0』使いたい放題なのでは?」

 

 もしかして消し炭パーティの後は、進化パーティですか?

 しまっちゃおうおじさん→消し炭おじさん→進化おじさんなのでは?

 

「せっかくだから、進化パーティをドクターに見せてあげようかな」


 ということで、経験値工場の自慢もかねて友達を招待しようと思います。

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