運命の分かれ道 Ⅱ
「待ってください、畜生道……」
「待たないよね、普通に」
「でも、待ってください……」
「……このまま聞くよ」
畜生道は指男に狙いをつけたまま、地獄道へ流し目をおくる。
「畜生道、あなたはまだ知らないでしょうが、彼はあたしたちの仲間かもしれないんです」
「餓鬼道お姉さまはそんな報告はしていないようだけどね」
「餓鬼道が言葉足らずなせいでしょう……それに彼女は『世界終焉シナリオ』の予言を知らないです……」
「それって加筆があったってこと?」
「そのとおりですよ、畜生道……」
畜生道は銃口をさげる。
「彼は加筆にて、厄災と戦うことが暗示されていました……」
「指男が厄災の間違いじゃないのかな」
「違いますよ、彼が戦うんです……」
「でも、だとしたら黒いダンジョン因子はどうやって説明するの」
地獄道はポケットからサンプルを取りだす。
畜生道はサンプルを受け取り、陽に透かして見ようとする。
しかし、サンプルは太陽の光をいっさい拒み、ひたすらに黒を示している。
そのなかに蒼い筋が混ざっているのだから、邪悪さは一層際立っている。
「とてもじゃないけど、コレが良い物だとは思えないよね」
「その意見にはあたしも賛成ですよ……」
「厄災の因子は旧世界の統治者たちの系譜の証。いつか彼らが地上を取り戻しに来るとき、厄災たちは人類絶滅のトリガーになる……って地獄道、君が言ったんだよ。冒涜的破壊者たちの候補生は迷いなく殺すしかないって」
畜生道は非難の眼差しを、地獄道へとむける。
胸元に輝く6つのアメジスト。酒に酔わず、真実の愛を守る。
気高さと信念を宿した宝石。
同色の深い紫色の瞳が、じーっと返答を待っている。
その眼差しは地獄道の決断の是非を問うていた。
「あたしはあたしが思うほど冷たくなかった、というのはどうでしょうか……」
「……」
「はっきり言うと、黒いダンジョン因子がなんなのかわかっていません……すべてはあたしの推測でしかない……人類史以前に地上を支配していた”古い者たち”が、本当にダンジョンと関係あるのかなんて、断言しろというほうが無理があります……科学者の推測とは数字と文字で編みあげた無機質で悲観的な理屈をこねくりまわす論理的言葉遊びにすぎないんです……」
「今日の君はずいぶん
「彼を助けたいと思いました……おかしな人物ですが、悪い人ではない……あたしはそう思います……彼は英雄になれるかもしれません……いえ、もっと直接言うなら、彼を信じてみたい、そう思いました……修羅道も、そう思ったから彼を気に入っているのではないでしょうか……」
「
畜生道は「あは!」っと満面の笑みをうかべる修羅道を思い浮かべ、げんなりした顔をする。彼女と顔を合わせれば、ふりまわされてばかりで、あんまりいい思い出がないのである。憎めない人柄なのもズルい。
とはいえ、外海六道ガールズのなかでも、とりわけて特別な修羅道の”眼力”は、信頼を置くに値する。
また、普段は論理を信じる地獄道が、珍しくも「信じる」などという生ぬるい言葉を使い、厄災候補生を生かしたのも無視できることではなかった。
畜生道は『アポトーシス』からサイレンサーを外し、マガジンを抜くと、弾をチャンバーからとりだし、グローブボックスのなかに放りこんだ。
背もたれに深く腰掛けて「ふー」っと息を長く吐く。
「いいよ。あたしは君を信じてるし、修羅道も……まあ、仲間という意味じゃ信じてる。だから、君たちが信じるあの男を信じるよ」
「ありがとうございます……」
「でも、その時が来たら、あたしはやるよ。当然だよね、そのために産まれて来たんだから。きっと餓鬼道お姉さまもそうするはずだよ」
「餓鬼道にこのことは教えるんですか……」
地獄道の問いに、畜生道は目を丸くして、けらけらと笑う。
「餓鬼道お姉さまはすべてをわかってる。指男が黒いダンジョン因子を持っていることも『世界終焉シナリオ』で彼がカウンターになったかもしれない事実も、きっとわかってる」
「さすがは餓鬼道、伝説のスーパーエリートエージェントですね……では、これであたしと、畜生道、修羅道、餓鬼道の同意を得たということで。状況に変化が訪れない限りは、彼を生かすとしましょう……彼があたしの言いつけを守ってくれるといいですが……」
「守らなきゃ撃ち殺すだけだよ。守らなきゃ、ね」
口ではそんなことを言う畜生道であったが、無意識のうちにホッと胸を撫でおろしていた。
────
──赤木英雄の視点
カフェのお会計、地獄道さんが済ましてくれていました。
いや~なんてイイ人なんでしょう。
コーヒーの終わりをただで飲めてしましましたよ。
奢ってくれるならショートケーキも頼んじゃえばよかったなぁ(貧乏人の思考)
「ちーちーちー」
「ぎぃ」
「おやおやお二方とも、ご機嫌ですね。もしかして俺がもう経験値を獲得しないとか思ってます?」
「ちーちーちー(訳:だって注意されてたちー)」
「ぎぃ(訳:これ以上、レベルアップしたら闇墜ちルートなのでは、我が主)」
「舐めてもらっちゃ困りますよ。地獄道さんのは俺がこれ以上頑張るのは徒労に終わるかもしれないということを悟って上でのアドバイスでしょう? 俺はやりますよ。決してレベルアップを諦めませんから!(※闇墜ち確定)」
「ぎぃ(訳:救いようがない……)」
ホテルに戻ってきました。
Aランク探索者に用意されたエグゼクティブな部屋でシャワーをあびます。
「入り口を作っておきますか」
ベッドのすぐ横に”扉”を設置する。
経験値工場に戻ってきました。
「お、菜園できてますね」
黒沼の怪物たちが大いに頑張ってくれたようです。
経験値工場の中央にしっかりとちいさな苗木が植えてあります。
でも、まだまだ何かを実らせるにはちいさすぎる感じがします。
まだ膝丈程度。これから大きくなるのを期待して、もうしばらく待ちましょう。
「ん? なんか水面に模様が……」
黒沼の怪物たちが作業中になにかを見つけたらしく、しきりに水面を指さしてメッセージを伝えようとしてくる。
『経験値のなる木』の植えてあるすぐ横、なにやら魔法陣のようなものが描かれています。
膝を折って調べてみると。どうにも
これは物質と言うより、模様だけど……こういうのも
────────────────────
『経験値増幅魔法陣』
異次元の匠モートンの作品
範囲内でモンスターを倒すと経験値を2.0倍する
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ほむほむ。
素晴らしい。またしても経験値工場の生産力が大幅に上昇してしまったよ。
ありがとうモートン。こんな素敵なプレゼントをトラップルームに仕掛けていたんだね。
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現在の生産
────────────────────
『メタルトラップルーム Lv2』
2,000万/24h
『経験値生産設備 ver2.0』
480万/24h ★ブースト★
『経験値のなる木』
???/24h
『経験値増幅魔法陣』
2,000万/24h
────────────────────
合計:4,480万経験値
────────────────────
プラチナ会員ボーナス
4,480万 ×10.0 =4億4,800万
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総生産:4億4,800万
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「よくやってくれましたね、ブレイクダンサーズ」
お次は例のあれです。
1時間くらい経過したので『経験値強化設備』を見てみましょう。
黒いコンテナを開けて、中を覗いてみます。
たくさん並ぶオーブンのうち、一番上の段の、左側から二番目が赤く光って稼働しているようです。一番左側のオーブンにセットした『黄金の経験値』の強化が終わったから、二番目にセットされたほうに取り掛かっているということでしょうか。
「お、これは……いい焼き上がりですね」
「ちーちーちー!」
「はい、つまみ喰い禁止です」
オーブンからとりだすと『黄金の経験値』が輝きを増してました。
───────────────────
『黄金の経験値 Lv2』
強くなりたくば喰らえ
200,000経験値を獲得
───────────────────
ふーん。いいじゃん。
「『ムゲンハイール ver5.0』がコストを使って異常物質を進化させる能力なら、『経験値強化設備』は時間はかかるけどノーコストで進化させてくれるのかな」
めっちゃ強くないですか。
「ちー……」
シマエナガさんが目をうるうるさせて見つめてきます。
だめです。そんなかあいい顔してもダメなものはダメ。
経済制裁中なので厳しく行きます。
「『黄金の経験値 Lv2』をオーブンからだして、トレイに乗せて、中に入れて……24時間で24回これやるのか。意外と面倒くさいな」
コンテナを出る。
ふと、木の苗のまわりで立ち尽くす黒沼の怪物たちが目に入った。
「ブレイクダンサーズ、君たちに経験値工場の稼働を任せよう」
『経験値生産設備 ver2.0』が『黄金の経験値』をつくったら、とりだし、それを『経験値強化設備』にセットするだけの簡単なお仕事です。
たまに『経験値のなる木』の面倒も見てくれればいい。
────────────────────
現在の生産
────────────────────
『メタルトラップルーム Lv2』
2,000万/24h
『経験値生産設備 ver2.0』
480万/24h ★ブースト★
『経験値のなる木』
???/24h
『経験値増幅魔法陣』
2,000万/24h
『経験値強化設備』
240万/24h
────────────────────
合計:4,720万経験値
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プラチナ会員ボーナス
4,720万 ×10.0 =4億7,200万
────────────────────
総生産:4億7,200万
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ひとまずの生産力はこんなところだろうか。
メタルモンスターは魔法陣で倒して、黄金の経験値チョコは焼いてから食べると。
うん、完璧完璧。序盤中盤終盤、隙が無いです。
「最終的な生産物である『黄金の経験値 Lv2』は一定数たまってから分配しましょうね。1個できて、それをどっちが食べるかで喧嘩したくないですから」
「ちーちーちー」
「ぎぃ」
「では、今日も元気にダンジョン生活と行きましょう」
俺たちは経験値工場をあとにし、ダンジョン18階層への扉をまたいだ。
またいだ瞬間、異様な雰囲気に気がつく。
「なんだこれ」
18階層の通路がバキバキに亀裂が走り、天井が崩落していたのだ。
とてつもない混沌がこの階層を襲ったらしい。
ひとつ曲がり角を折れる──ワオ、俺は決定的な場面に遭遇してしまったかもしれません。
なぜなら、すぐ目の前で艶々した鋼のごとき怪物が、今まさに血塗れの探索者を引き裂かんと、巨大な爪を振り下ろそうとしていたのです──。
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