黒い異常者



 ──地獄道の視点


 ──2日前

 

 修羅道と楽しげに会話をし、ホテルへと帰還する指男・赤木英雄。

 それを追跡するのはマスクとサングラスで変装した地獄道だ。


「っ、あれは……」


 ホテルのエントランスで指男と餓鬼道が喋っているではないか。

 地獄道は物陰から様子をうかがう。


(あれは餓鬼道? ……なるほど、……財団内でもひそかに噂されていた『指男にはエージェントGがついている』は本当だったわけ……)


 指男となにやら一言、二言交わして、餓鬼道がこちらへ来る。

 向こうも地獄道に気がついた。


「ん。地獄」

「餓鬼道……指男についてなにかわかりましたか」

「(ふっふっふ、特)別に、(これを見せてあげるよ、地獄道)」


 ──別に


 餓鬼道は写真を一枚とりだし、自慢げに地獄道へ見せる。

 普通ならそっけなく会話を打ち切られていると解釈するところだが、地獄道は餓鬼道が言葉足らずなのを知っているため、行間を埋めて解釈する。


(『別に』……特別に見せてあげる、とかその辺ですかね……)


「これは……指男の後ろ姿がばっちり映っていますね……」

「(こくり)」

「相変わらずの手腕、流石餓鬼道……ミームに感染してないようで安心しました」

「(ミーム? 何のこと)だろ(う?)」


 ──だろ?


「あたしはこれで、もう行きます……」


 地獄道は指男を部屋まで尾行しようとする。

 餓鬼道は張りきってホテルを出ていく。写真の男を見つけようと、やる気に満ち満ちているようだ。まさか、今、指男とすれ違ったなどと本人は思ってもいない。どこに目をつけている。


「あー! 餓鬼道ちゃん見つけました!」


 聞き覚えのある声が響いた。

 餓鬼道も地獄道もぎょっと身構える。

 やつがきたのだ。


「うっ……(修羅道、なぜここに!)」

「やっぱりホテルにいたんですね、餓鬼道ちゃん! って、地獄道ちゃんもいるじゃないですか! お姉ちゃん2人も妹を見つけられてうれしいです!」

「あたしの方が年上なんだけど……」

「そんなこと些細な問題ですよ、地獄道ちゃん! さあ、2人ともいきましょう! USAで財団バスケットボールチームの選手が急遽出場できなくなってしまったんです! 助っ人を3人呼んで欲しいってさっきSNSで募集してました! 楽しそうなのでいきましょう!」


 外海六道ガールズは、たいがいめちゃくちゃな人材がそろっているが、それでも修羅道のカオスのまえには、誰も敵わないだろうとこの時ばかりは、餓鬼道も地獄道も意見を同じにした。


((この女はめちゃくちゃすぎる))


 かくして、20秒後、3人は急遽ダンジョン財団女子バスケットボールチーム『Dungeon Valkyries(ダンジョン・ヴァルキリーズ)』を助けるべくアメリカ合衆国へ”跳んだ”。


 この後、無事チームを勝利へ導いた3人は帰国し、餓鬼道は逃げるように捜査へもどり、地獄道はシンプルに逃げ、修羅道は着替えを指男にラッキースケベされることになる。



 ──時間は現在へ



 ────────────────────

 赤木英雄

 レベル156

 HP 31,522/32,523

 MP 4,125/5,743


 スキル

 『フィンガースナップ Lv5』

 『恐怖症候群 Lv8』

 『一撃 Lv6』

 『鋼の精神』

 『確率の時間 コイン Lv2』

 『スーパーメタル特攻 Lv6』

 『蒼い胎動 Lv2』

 『黒沼の断絶者』

 『超捕獲家 Lv3』


 装備品

 『蒼い血 Lv3』G4

 『選ばれし者の証』G3

 『迷宮の攻略家』G4

 『アドルフェンの聖骸布』G3

 『ムゲンハイール ver5.0』G4

 『血塗れの同志』G4

 『メタルトラップルーム Lv2』G4


 ────────────────────


「ここに『蒼い胎動 Lv2』があるでしょう? たぶんこれのせいです」

「……っ、このステータスは……」


 地獄道は眉根をひそめた。

 もはやどこから言及するべきか。

 『メタルトラップルーム』を個人で持っていることを注意するべきか。

 『恐怖症候群 Lv8』とかいう、よくわからないけど、確実にろくなものではないスキルが何なのか確かめるべきか。

 いや、Lv8という部分が衝撃的だが、Lv6のスキルもちらほらある。Aランクなりたての探索者が持っているのは明らかにおかしい。

 もはやツッコミ出したらキリがない。

 最も言及するべきことがあるとすれば──

 

(レベル156? Aランク因子を越えている……つまり、指男は天然のSランク因子所有者の可能性が高い……そして、このHP数値……レベルに対して数値があまりにも大きすぎる……)


 地獄道はこれまでSランクのステータスを見たことがある。

 その経験から踏まえて見ても、すでに指男のステータスは常軌を逸していた。

 それはすなわち彼の潜在能力の高さを示していた。

 

 地獄道は回収した血液サンプルに試薬を投入する。

 

「血に薬いれたら因子のランクがわかるんですか?」

「はい……Cランクは緑色、Bランクは青色、Aランクは赤色、そしてSランクは白色に、それぞれに近い色合いになります……」

「へえ、白色だったらいいなあ、ミスターと同じくらい凄い探索者になれる可能性があるってことですもんね」

「そういうことになります……結果がでるまで少しかかります……指男、その間に確認したいことがあります……いいですか」

「なんです?」

「ステータスの残りの7つをみせてください……それも確認しておきたいです……」

「残りの7つ? どうやって見るんですか?」

「大丈夫です、こちらで勝手にスキルを使いますから……スキル発動──鑑定」


────────────────────

 赤木英雄

 レベル156

 HP 31,539/32,523

 MP 4,125/5,743


 補正値

 防御 200

 筋力 38,753

 技量 30,523

 持久 30,852

 血質 30,752

 神秘 87,536

 精神 160,234


 スキル

 『フィンガースナップ Lv5』

 『恐怖症候群 Lv8』

 『一撃 Lv6』

 『鋼の精神』

 『確率の時間 コイン Lv2』

 『スーパーメタル特攻 Lv6』

 『蒼い胎動 Lv2』

 『黒沼の断絶者』

 『超捕獲家 Lv3』


 装備品

 『蒼い血 Lv3』G4

 『選ばれし者の証』G3

 『迷宮の攻略家』G4

 『アドルフェンの聖骸布』G3

 『ムゲンハイール ver5.0』G4

 『血塗れの同志』G4

 『メタルトラップルーム Lv2』G4


────────────────────


「おお、すごいですね、俺はじめて見ました」


(そんな馬鹿なことが……とてつもない探索者がでてきましたね……)


 地獄道はスマホのメモ帳アプリを開いて記述をとっていく。


(指男のステータス満遍なく上昇していますね……一点突破じゃないのは珍しいですね……まるでトレーナーがついていて、彼のために専用のメニューを毎日選んで与えているような……なにより尋常ならざる数値。とてもまともな探索者がたどりつける領域ではない……)


「地獄道さん?」

「指男、あなたはどうやら”異常者”ですね……」

「さては俺のことすっごいバカにしてます?」

「いいえ、まさか……それもただの異常者じゃありません」

「ほう」

「特別にトチ狂った異常者です……」

「やはり、ものすごくバカにしていますね?」

「はは……」


 地獄道は指男こそが『世界終焉シナリオ』が予言した厄災と戦う英雄であると確信した。

 

 異常者。

 それは神秘の泥底に身を浸しすぎて、人間の領域を踏み越えてしまった者のなかでも、特別にタガが外れた者を呼ぶとき使われる言葉だ。


 それを越えて表現することなど、滅多に無い。というか無い。

 

「指男、あなたのデビューは何カ月前でしたか」

「3ヶ月ちょっと前じゃないですかね。去年の秋でしたから」

「3カ月……?」


(あなたの体には神が宿っているんですね……)


「あ、地獄道さん、俺の血の色が変わり始めましたよ! ついに因子がわかるんですか!」


 試薬の反応が出るまで寝かせていたサンプルについに反応があらわれた。

 Cランク因子なら緑色。Bランク因子なら青色。Aランク因子なら赤色。


 そして、”異常者の集団”、例外たちの寄せ集めSランク因子になると白色を示す。

 

 しかし、試験管はいずれの色も現わさなかった。

 

 試薬を投下された血液サンプルは、ひたすらの暗黒に染まっていた。

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