経験値工場、始動


 通常の方法ではすでに我々チーム指男の経験値需要を満たせなくなりつつある。

 それは、経験値を無限に吸収する白い悪魔と黒い悪魔がいることが最たる理由ではあるが、同時に俺自身のレベルが結構いい感じのところまで来ちゃっているせいもある。


 現在必要とされているのは『経験値生産設備 ver2.0』や『メタルトラップルーム』のような異常物質アノマリーだ。

 1日の生産は驚異の1,240万。

 厳密には10万経験値を獲得できる『黄金の経験値』を24個作と、メタルダックスフンド1匹だ。

 プラチナ会員のチカラがあわされば、1億2,400万に跳ね上がる。

 これを横領しようものならとんでもないことですよ。


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現在の生産

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『メタルトラップルーム』

 1,000万/24h

『経験値生産設備 ver2.0』

 240万/24h

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合計:1,240万経験値

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プラチナ会員ボーナス

 1,240万 ×10.0 =1億2,400万

────────────────────

総生産:1億2,400万

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「というわけで、これからはズルは厳しく取り締まっていこうと思います」

「ちーちー!」

「ぎぃ」

「経験値が視覚化され、管理しやくすなったので、本当に厳しくいきますからね」

「ちーちーちー!」

「ぎぃ」


 本当にわかってるかなぁこの子たち……。


「とりあえず、無給はかわいそうなので、シマエナガさんはこれから2カ月ばかりは一日一枚の『黄金の経験値』ですごしてもらいます」

「ちー?!」

「そんな顔してもだめです。そして、配分も見直します。ここは平等に1:1:1で行きます。ぎぃさん、シマエナガさんに弾圧されそうになったらすぐに言ってください。罰則を与えますから。異議申し立てはいっさい受け付けません」

「ぎぃ」

「ち~!!」


 シマエナガさんが心なしか悔しがっている気がする。

 でも、やりすぎると、デイリーミッションが忖度し始めるから、ほどほどにね。


「では、本日20時間探索している間にされた生産と、最初から『経験値生産設備 ver2.0』に格納されていた『黄金の経験値』あわせて計51枚を分けますね。はい、シマエナガさん。一枚ですね」

「ちー……」


 シマエナガさんは渋々といった様子で『黄金の経験値』をくちばしで受け取ります。

 次の瞬間、ぼふんっとバランスボールサイズまで膨らむと、ひと口で食べてしましました。かあいい、ふわふわ。もふもふ。

 すぐに豆大福モードに戻ります。


「はい、それじゃあぎぃさん25枚ですね」

「ぎぃ」


 俺とぎぃさんで半分にわける。

 一日の生産がわかっていれば、暴挙にもでにくかろう。


「それじゃあ、あのメタルモンスターはっと」


 放置していたメタルダックスフンドへ向き直る。

 すると、ちょうど飛びかかってくるところだった。

 

「カリバー」


 HP40 ATK20,000

 

 これでメタルモンスターは十分に消し炭にできる。

 メタルの体が朽ちて、光の粒子となって向かってくる。

 ピクリと動くシマエナガさん。空飛ぶ豆大福をからめるは黒触手。


「ちーッ?!(訳:こ、後輩の裏切りちー?!)」

「ぎぃ(訳:先輩、そろそろおいたがすぎるのでは?)」


 俺は光を浴びて気持ちよくなり、ピコンっとレベルアップします。


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 赤木英雄

 レベル152

 HP 16,593/28,521

 MP 3,021/4,923


 スキル

 『フィンガースナップ Lv5』

 『恐怖症候群 Lv8』

 『一撃 Lv6』

 『鋼の精神』

 『確率の時間 コイン Lv2』

 『スーパーメタル特攻 Lv6』

 『蒼い胎動 Lv2』

 『黒沼の断絶者』

 『超捕獲家 Lv3』


 装備品

 『蒼い血 Lv3』G4

 『選ばれし者の証』G3

 『迷宮の攻略家』G4

 『アドルフェンの聖骸布』G3

 『ムゲンハイール ver5.0』G4

 『血塗れの同志』G4

 『メタルトラップルーム』G4


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「メタルモンスターを正確に3等分するのは難しいので、3日をワンセットとして、俺、シマエナガさん、ぎぃさんでルーティンを組むことにしました。あ、もちろん、今日から2カ月のあいだは俺と、ぎぃさんだけのルーティンです」

「ち、ち~っ!!」

「くっ、そ、そんな顔してもだめですから。今日と言う今日は不正を撲滅します」


 というわけで、本日の分配終了。

 

「午前10時か」


 ダンジョンに潜ってだいたい29時間くらいか。

 まだまだ平気だね。これくらい専業探索者なら基本だからね。

 時間的に1日徹夜しているので、デイリーも更新されている頃だろう。

 

「デイリーミッション」


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

   『ダンジョン生活』


 24時間ダンジョンにいる 5時間23分/24時間00分


 継続日数:100日目 

 コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍

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 はは、はははははは!

 笑いが出ちゃうよ、デイリーくん!

 たった24時間の連続勤務?

 こんなの楽勝じゃないか!(※指男は特別な訓練を受けています)


 まあ、ちょうどいいよ。

 どうせダンジョンを出る気はなかったし、より深層を目指すつもりだったから。

 

 では、今日も張り切っていきましょう。

 まずは1階層まで戻って日課の「今日の狩場」を更新します。

 

 拡散:625 いいね!:3256


 おお、すごい。バズってます!


「え、嬉しい……」


 すぐに深層に戻ろうと思ったのに、つい足が止まってしまう。

 レッドツリーさんとエージェントGさんもコメントしてくれている。

 ああ、嬉しいなぁ。これだけで今日はもう一日ハッピーかもしれない。


「いかんいかん、これで満足してたら、専業探索者は務まらない。探索者には24時間戦えますか? じゃ甘いんだ。48時間、否、72時間戦えないといけないんだ(※指男は特別な訓練を受けています)」


 近くの壁を斬りつけて『メタルトラップルーム』──いいや、アジトへと移動する。思ったけど、このアジトめっちゃ便利だな。どこでも入れるじゃん。


「生産性を上げる方法は今のところ、ふたつあります」

「ぎぃ?」

「ああ、ぎぃさんはわかりませよね。実は『冒涜の眼力』で『トラップルーム 湖』だったころのアジトを見た時と、『経験値生産設備 ver2.0』を見た時、ほかにもいろいろ情報を入手しててですね──」


 俺は『ムゲンハイール ver5.0』ひっくりかえして、中身のクリスタルを出す。

 中には10階層~13階層を20時間ばかりランニング狩場ルーティンで駆け抜けた成果物が入っている。

 クリスタルのなかにちらほら宝箱が混ざっている。

 ちなみに新しい異常物質アノマリーは見つからなかった。

 

「ざっと40万円~60万円くらいのクリスタルですかね。正確にはわかりませんけど」


 いくつか大きなものを手に取り『経験値生産設備 ver2.0』のなかに入る。

 この黒い異次元の機械のなかでは、空気中の未元エネルギーで動くエンジンと、異次元の彼方、あるいは並行世界の誰かの経験を物質化して抽出し、『黄金の経験値』につくりかえる装置が詰まっている。

 未元エネルギーとは、すなわちダンジョンにてモンスターを倒すことで発掘されるクリスタルのことだ。


「空気中から抽出するより、固形燃料を投下した方がエンジンはより素直に動く……で、あってますよね、シマエナガさん」

「ちーちーちー」


 『冒涜の眼力』はシマエナガさんと、俺が共有する叡智だ。

 俺にわかることは、当然シマエナガさんにもわかる。

 なんなら、俺より知能指数高いシマエナガさんのほうがより深く理解しているだろう。悲しい。


 『経験値生産設備ver2.0』はこのように未元エネルギーのもとであるクリスタルをこちらから直接動力を供給することで生産機能が向上する。

 20万クリスタルで生産速度は2倍だ。おおよそ1週間は持続する。

 それ以上は、入れても意味はない。

  

 『冒涜の眼力』のおかげで、いろいろスムーズに事を運ぶことができる。

 シマエナガさん、なんだかんだちゃんと仕事してくれてますね。えらいえらい。

 

「クリスタルは20万分これにセットしてと」


 よしよし。これで一日48個の『黄金の経験値』が生産されるぞ。

 素晴らしいとは思わんかね。

 デイリーをこつこつこなして100日記念まで辿り着いた結果ですよ。

 俺、頑張ったよ……たくさん恥もかいたし、苦しんだけど。いや、主に恥ずかしいが8割だったけど。


「残ったのは30万円分くらいかな……強化に使いたいけど『ムゲンハイール ver5.0』じゃ流石に『経験値生産設備 ver2.0』を強化するのは難しいか」


 デカすぎて厳しい。

 強化できるのは『ムゲンハイール ver5.0』に入る物だけだ。

 強化可能異常物質アノマリーのラインナップはこんな感じです。


 『蒼い血 Lv3』G4

 『選ばれし者の証』G3

 『迷宮の攻略家』G4

 『アドルフェンの聖骸布』G3

 『血塗れの同志』G4

 『メタルトラップルーム』G4


 ドクターの推測は『グレードを一段階引き上げる』だったけど、実は違う疑惑があるんだよね。

 というのも、元チーバくんの装備をシマエナガさんとぎぃさんが強化しちゃったとき、グレードが増えてなかったんですな。

 つまり、進化機能に関して言えば、『グレードを上げる』『コストはグレードで決まる』ではなく『Lvをあげる』『コストはグレードで決まる』ということなのではないだろうか。


 まあ、頭を使うのは苦手なので、考えるのはやめます。

 そういうのはその道の人に任せればよいのです。


 とりあえず、将来有望そうな『メタルトラップルーム』あたりを強化してみようかな。


────────────────────

 赤木英雄

 レベル152

 HP 16,593/28,521

 MP 3,021/4,923


 スキル

 『フィンガースナップ Lv5』

 『恐怖症候群 Lv8』

 『一撃 Lv6』

 『鋼の精神』

 『確率の時間 コイン Lv2』

 『スーパーメタル特攻 Lv6』

 『蒼い胎動 Lv2』

 『黒沼の断絶者』

 『超捕獲家 Lv3』


 装備品

 『蒼い血 Lv3』G4

 『選ばれし者の証』G3

 『迷宮の攻略家』G4

 『アドルフェンの聖骸布』G3

 『ムゲンハイール ver5.0』G4

 『血塗れの同志』G4

 『メタルトラップルーム Lv2』G4


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『メタルトラップルーム Lv2』

 異次元の匠モートンによる作品

 格納したモンスターが1日2体メタル化する

 格納数10,000体

 残数2,448/10,000体

 メタル済み 0/400体

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 はい、神。

 ゴッド・オブ・ゴッド。

 これだけで一日の生産経験値が1億アップしました。

 もう工場ですよ、これ。アジトというより経験値工場です。

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