メタルトラップルーム



 翌朝。

 溢れるほどバイタリティを復活させた俺は、朝の冷たい空気を感じながら、ベランダで黄昏ていた。『モテルモテール』と『エチチエチーチ』の小瓶を取り出して、朝焼けに透かしてじーっと見つめる。あれ、なんかこの構図イケメンに見えね?

 

「今日こそこれで勝ってみせる」


 朝のトレーニングを終え、シャワーを浴びて、シャツをパリッと着こむ。

 小賢しく香水とかつけちゃおうかな。へへ。

 Aランクの証・ルビーのブローチ、幸運を呼ぶ『選ばれし者の証』ブチ、元チーバくんにもらった『血塗れの同志』というなのオシャレブローチも忘れません。


 では、出かける前にデイリーの確認です。


「デイリーミッション」


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『シマエナガ様をいじめるな』 


 シマエナガ様をレベルアップする 0/1


 継続日数:99日目 

 コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍

 ──────────────────


 え?


「ちーちーちー!」


 シマエナガさんが大変嬉しそうに飛びまわりはじめました。


 なんすか、デイリー君。

 シマエナガ様いじめるなってなんすか。

 君、シマエナガさんを忖度そんたくするのかい。


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

   『忖度してない』 


 シマエナガ様をレベルアップする 0/1


 継続日数:99日目 

 コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍

 ──────────────────


 忖度してんだろうが。

 なにがシマエナガ″様″じゃ。

 めちゃくちゃシマエナガさんの顔色伺ってんじゃん。

 

「別にいじめてないですけどね。どちらかというと俺たちがいじめられてるというか、ねえ、ぎぃさん」

「ぎぃ」


 ほら、ぎぃさんだってこう言ってる。


「ちぃ!(ぎぃさんをついばむ)」

「ぎ、ぎぃ(萎む)」

「やめてください、先輩の圧力で後輩の言論弾圧するのはやめてくださいシマエナガさん」


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『シマエナガ様をいじめるな』 


 シマエナガ様をレベルアップする 0/1


 継続日数:99日目 

 コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍

 ──────────────────


 ええい、なんてやつだ。

 俺のデイリーミッションなのに、シマエナガさんに媚を売るなんて、デイリーミッションの風上にもおけねえ野郎だ。


「ちー♪」

「シマエナガさん、もしかして賄賂とか渡したんですか」

「ちー?」


 まあ、そんなわけ無いか。

 デイリーミッションに賄賂とかもはや訳わからねえもんな。


 とにかく、今日中にシマエナガさんをレベルアップしないと継続がリセットされてしまう。

 それだけはダメだ。

 プラチナ会員の座は守り抜くのだ。


 というわけで、誠に遺憾ながら本日はシマエナガさん強化日間としましょう。


「シマエナガさん、あとどれくらいでレベルアップしそうですか?」

「ぎぃ?」


 俺とぎぃさんは「ちぃ」と、誇らしげに胸を張るシマエナガさんを前に正座します。シマエナガさんはベッドの上、俺とぎぃさんは床です。

 本日はこの方が主役なので仕方ないですね。


「ちーちーちー」

「めっちゃ経験値必要? 通常モンスターでは全然足りないんですか?」

「ちーちーちー」


 プラチナ会員の力を使っても遠そうだな。

 何か手を考えないと。


「ぎぃ」

「あ、ぎぃさんが勝手に」


 チーム指男の頭脳ぎぃさん本日も何かを始めました。

 昨日手に入れた『トラップルーム 湖』を『ムゲンハイール ver5.0』に入れましたね。

 お次は……あれ? 俺のコートのポケットから触手を使って器用に取り出しましたね。

 これは確かメタル柴犬クラブ鋼山鉄郎から押収した異常物質『メタル剤』ではないか。

 すっかり存在を忘れていた。


「ぎぃ」


 『トラップルーム 湖』と『メタル剤』を箱に入れ……でも、なにも起こらない。

 クリスタルが無いからだろう。


「ぎぃ」

「クリスタル集めたら試してみましょっか」


 ──8時間後


 11階層にて狩場ルーティンをまわしていた俺は、無事に30万円分のクリスタルを集め終えた。これだけあれば合成ができるはずだ。


 ぎぃさんに再びお願いして、『トラップルーム 湖』と『メタル剤』を合成してもらう。

 クリスタルの消費はちょうど30万程度です。

 ジュラルミンケースの中に入っていたのはシックな短剣です。


 アイテム名『メタルトラップルーム』


 おや、名前が変わりました。

 ただ変化としては、予想の範囲内ですね。

 むしろ予想の範囲内すぎて逆に範囲外まである。


 詳細を開きます。


────────────────────

『メタルトラップルーム』

 異次元の匠モートンによる作品

 格納したモンスターが1日1体メタル化する

 格納数5,000体

 残数2,480/5,000体

 メタル済み 30/200体

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 え? もしかして、中にいたモンスターがメタル化した感じ?

 表記的に30体くらいメタルモンスター入ってる感じですかね?

 それに1日1体メタル化って、毎日メタル生産されて、毎日美味しく消し炭にできるってことですか?

 それ強え。ちょー強えじゃん。

 つんよ。つんよ越えてちゅんよ(?)


「ちーちーちー!」


 シマエナガさん、大歓喜です。


「ぎぃ」

「ぎぃさん……もしかして、合成したらなにができるのかわかるんですか……? こんな都合のいい物をつくりだしちゃうなんて」

「ぎぃ」


 これが厄災。知能レベルですら敵う気がしません。

 すべて手に取るようにわかっていると言うんですね。

 とてもナメクジとは思えない貫禄を放ってます。後光が見えます。

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