加速する経験値供給、加速する経験値消費
──地獄道の視点
指男がミーム型SCCL異常物質へ変貌を遂げたことを知った地獄道は、千葉ダンジョンキャンプへとやってきた。
「シナリオの加筆を見るに、指男は厄災と戦ってくれるカウンターである可能性が高い……」
地獄道は指男と思われる人物を肉眼で探す。
じろじろとあたりを見渡す。
おまけにマスクとサングラスをしてニット帽をかぶっている。
完全に不審者であった。
(財団のデータベースにて画像を探しても消されてるし、代わりに不気味な手のロゴマークだけが映ってるし……ちょっと気が付くのが遅かったかな……)
もう少し早ければ、あくまで研究部の地獄道に探索者の個人データを閲覧する権限がなくとも、その権威をつかって強制捜査に踏み切ることはできた。
だが、データが失われてはもはや追跡する手立てはない。
修羅道を発見した。
彼女が探索者たちの発掘品を査定しているところを遠めに監視する。
(3,000m遠方の狙撃手の気配すら察知するような女だ……視線には気を付けないと……)
すこしして、真っ赤な着ぐるみを着たおかしな探索者が映画館から出て来た。
そのあとで、サングラスをかけ、コートを風になびかせる青年が出て来る。
修羅道がやたらニコニコして、マックスコーヒーをこの青年探索者へ渡すところを目撃する。
地獄道は探索者に特別詳しいわけじゃないが、修羅道がしきりに「赤木さん」と呼んでいることを考えれば、彼が指男であることは自明であった。
「……見つけた」
地獄道はマックスコーヒーをすすりながら、ぼそっとつぶやく。
指男について、知るべきことは二つあった。
ひとつは指男のアカウントを運営しているのが、本当に赤木英雄なのか。
地獄道は指男の「今日の狩場」を最初から見ている。
ゆえに指男というワードが世の中に出回るよりも前に、このアカウントが指男を名乗り始めたことも確証を持って知っていた。
「ゆえに、このアカウントは指男本人と繋がっている可能性は高い……」
そして、もうひとつ地獄道には知るべきことがあった。
それは、指男は厄災と戦うカウンターなのか。それに値するだけの実力者なのか。
否、それに値するだけの”潜在能力”を持っているのか。
(指男のミームの威力は想像を越えていた……ダンジョン財団がこの数カ月で取得したはずの彼の情報は、それを閲覧した物にも感染し、そして閲覧者自身が情報を改ざんして、隠匿してしまう……だから、財団に指男の情報は残ってない……概念的な攻撃だから、USBメモリにダウンロードして、持ち歩いていても、必ずどこかで失われる……)
そのため地獄道は、指男がいかほどの能力を持っているか知らない。
残された塵のような情報を集めれば、彼がものすごい速さでAランクに駆け上がった(確証はない)ことはわかっている。SNSの投稿から見る限りでも、エメラルドのブローチを早々に写真としてアップロードしていたことから、昇級街道を
「指男……どれくらい強いだろう……」
(今強くなくても、将来的に成長する可能性がある。彼の潜在能力はどれくらいだろう。多くの探索者の成長限界とされる30レベルということはないだろう。凡百なEクラスのダンジョン因子だと、ここから先、レベリングと探索のモチベーションを維持できない。では、良質な探索者を育むとされるDクラス因子──60レベルだろうか。いいや、違う。指男はエメラルドのブローチを獲得したはずだ。だからきっと優秀なダンジョン因子Cクラス90レベルは固い。でも、厄災を相手にするとなると……Bクラス、いや、やはりAクラス150レベルの因子は必須。150レベルまで伸びきった段階でのステータスの伸びも大事だ。この時点で主要ステータスHP10,000は欲しい……12,000あればかなり優秀。14,000あれば天才の領域だ。まあ、Aクラス因子持っていれば、それだけで選ばれし天才だけど……)
どんな戦い方をするのか。
どれほどの火力を使えるのか。
どんな異常物質を持っているのか。
どんなスキルを保有しているのか。
すべて財団が情報を持っていたはずなのに、失われてしまった。
それゆえに、地獄道は指男の実力がどれくらいなのかわくわくしていた。
(流石にA級上位、ましてや一桁ほど強くはないだろうけど……というか物理的にそこまで到達するには数年~数十年のキャリアが必要だし……)
修羅道と楽しげに会話する指男の横顔を見つめる。
サングラスをしていて表情はわかりにくい。
(なにやら愉快な話を修羅道がしているけど……『私たちのマイホーム!』? どういう意味だろう……まさか……いや、そんな……まさかね……)
やがて、指男はにっこにこの修羅道にぶんぶん手を振って見送られホテルへ帰っていく。
地獄道は腰をあげ、飲みかけのマックスコーヒーをぐびっと喉に流し込み、指男のあとを追いかけた。
────
──赤木英雄の視点
ぎぃさんの天才的な頭脳により『メタルトラップルーム』を獲得することに成功いたしましたので、さっそく使ってみたいと思います。
短剣の形状をしたこの
『メタルトラップルーム』で浅く壁を傷つけます。
扉が出現しましたね。
悪意をもって罠として使う場合は。”落とし穴”になったり、”階段”になったり、そのつど入り口の形状は変化するらしいとね。
今回は俺の意志で入室するので”扉”として姿を現したわけだ。
トラップルーム内は相変わらずどこまでも続く湖面である。
振り返れば、命のない秘密の内海にぽつんと扉が立っています。
幻想的な光景です。
「静寂は死と似ている……フッ」
無限の浅海をまえにして、中二病の発作を起こし、詩的な気分に浸っていると、ふと、足元の水がぶくぶくしはじめた。
意識するだけで、モンスターを湧かすことができるらしい。
俺がこの空間の所有者だからだろう。
湧いて出て来るのは、金属光沢をまとったダックスフンド。
『メタル柴犬クラブ』のところで見たメタルモンスターたちと同じ特性をそなえた個体である。
「本当にメタル化してる……それじゃあ、さっそく」
ああ、楽しみだなぁ、イッヒヒ。
──パチン
指を鳴らした瞬間。
消し炭になるメタルダックスフンドさん。
飛びだすシマエナガさん。
シマエナガさんを触手で捕縛しようとするぎぃさん。
シマエナガさんを鷲掴みして拘束する俺。
一瞬の攻防、ドラマが生まれる。
「ちーっ!」
「ぎぃ!」
「うォォォォおおおおお!!」
絶対に負けられない戦いがそこにある──。
一瞬の抜け駆け合戦を、体の大きさで制した俺は、経験値を貪り喰らい、この身で光の粒子の雨をあびる。
「あああああ!!!! ん゛ん゛ん゛ウゥゥンン゛ッ! ぎもぢー!(※普通に異常者)」
「ち、ちぃ……」
「ぎぃ……」
「これは上質な
光の粒子を鼻から吸いこむ。
手の震えが止まった。
この高揚感。最高だぜ、へっへへ(※中毒者の末路)
「ちー……」
「わかってます。今日はシマエナガさん強化日間なので、レベルがひとつあがるまでならご自由にピンハネしてもらってどうぞ」
さあ、はじめよう。
メタルモンスターのバーゲンセールを。
──2分後
────────────────────
シマエナガさん
レベル36
HP 12,486/25,523
MP 11,563/24,875
スキル
『冒涜の明星 Lv2』
『冒涜の同盟』
『冒涜の眼力』
『冒涜の再生』
装備
『厄災の禽獣』
────────────────────
シマエナガさんを1レベルだけアップさせるつもりが、気がついたら7レベルくらい持ってかれてました。あれれ、おかしいなぁ。
「ち~♪」
もうすっごい、もっちもち。
もうすっごい、ふっくら。
もうすっごい満足そうな顔です。
シマエナガさんはバランスボールくらいのサイズになってしまいましたよ。
新しいスキルも覚えたみたいですね。
───────────────────
『冒涜の再生』
世界への挑戦。
生命の冒涜者。
あらゆる命を再生させる。
720時間に一度使用可能。
MP10,000でクールタイムを解決。
───────────────────
うーん、セーフ、かな。
「攻撃系スキルじゃないので無罪です」
「ちーちーちー」
「でも、さっきの暴挙は前科に加えておきますからね。この先2ヵ月のシマエナガさんの
「ち、ちー!?」
「『信じられない! 鬼、悪魔、指男!』って顔してますけど、鬼畜なのは経験値の7割を飛び回ってぶんどっていくシマエナガさんですからね。どうみても経験値クズです。本当にありがとうございました」
経験値がからむと、本当にカスみたいな意地汚さを発揮しますね、この厄災。
まあ、メタルモンスター30体もいたから、俺もぎぃさんもレベルアップできたんですけどね。
30体。おそらくは『メタル柴犬クラブ』での秘密基地で倒したのと同じくらいの数だろう。
プラチナ会員の10.0倍があるので、当時ゴールド会員で5.0倍だったことを考えれば、その倍の経験値を稼げたことになる。
シマエナガさんも、俺も、ぎぃさんも満遍なくレベルアップできるわけだ。
────────────────────
赤木英雄
レベル150
HP 12,852/26,521
MP 3,421/4,534
スキル
『フィンガースナップ Lv5』
『恐怖症候群 Lv8』
『一撃 Lv6』
『鋼の精神』
『確率の時間 コイン Lv2』
『スーパーメタル特攻 Lv6』
『蒼い胎動 Lv2』
『黒沼の断絶者』
『超捕獲家 Lv3』
装備品
『蒼い血 Lv3』G4
『選ばれし者の証』G3
『迷宮の攻略家』G4
『アドルフェンの聖骸布』G3
『ムゲンハイール ver5.0』G4
『血塗れの同志』G4
『メタルトラップルーム』G4
────────────────────
俺はこんな感じです。
4レベルあがりました。
HPはぎりぎりシマエナガさんに追いつかれてないけど……そろそろ抜かれますね。
もっと強くなって、厄災たちの飼い主にふさわしくならねば!
お次はぎぃさん。
────────────────────
ぎぃさん
レベル19
HP 10/3,021
MP 10/6,520
スキル
『黒沼の呼び声 Lv2』
『黒沼の惨劇』
────────────────────
この子もやっぱり厄災なんだね……(ステータスの伸びを見ながら)
もしかしたらって淡い期待はあったんだけどね。ただの可愛い、黒くて、大きいナメクジさんかなって期待がね。
物騒なスキルも増えてるなぁ。
持ち物検査するのが恐いよ。
───────────────────
『黒沼の惨劇』
黒沼の怪物を召喚する。
HP 50,000
ATK1~5,000
DEF 20,000
2時間に1度使用可能。
ストック999
MP200でクールタイムを解決。
───────────────────
ん~これまた高回転高火力支援な気が……。
「ちょっと召喚してもらっていいですか?」
「ぎぃ」
地面が黒く泡立ち、熱々の蒸気とともに、真っ黒い怪物が現れました。
エフェクトから邪悪さがにじみ出ています。恐い。
この眷属はぎぃさんの言う事しか聞かないのだろうか。
俺はぎぃさんの上司だけど、黒沼の怪物ではない……みたいな。
だとしたら扱いに気を付けないとだよな。
考えても仕方ないので試して見るか。
「君、ブレイクダンスしてみてくれる」
クソみたいな無茶ぶりをしてみる。
黒沼の怪物は素直にうなづき、華麗にツーステップ、スピンダウン、ウィンドミル、ベビーウィンドミル、トゥームストーンとくるくる回転しながら、ド派手に浅瀬を踊り散らかす。すごすぎて言葉が出ない。
「あ、ありがとうね。君、センスあるね」
上司っぽく振舞いながら、ぎぃさんに頼んで、召喚を解除してもらう。
黒沼の怪物は、黒泡となって地面のしたへ消えていった。
「ぎぃ」
「ぎぃさん、アウト。身のこなしやばすぎます。あれでは人類のブレイクダンサーが職を失ってしまいます(※そこじゃない)」
「ぎ、ぎぃ!」
「うーん、でも、かあいいので無罪……今回だけですよ(激甘)」
「ぎぃ♪」
みんなこんなに成長して。
パパは嬉しいです(白い目)
そうそう、デイリーミッションもクリアしたことでしょう。
報酬を受け取るとしましょうか。
──────────────────
★デイリーミッション★
毎日コツコツ頑張ろうっ!
『シマエナガ様をいじめるな』
シマエナガ様をレベルアップする 1/1
★本日のデイリーミッション達成っ!★
報酬 『経験値生産設備 ver2.0』
継続日数:100日目
コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍
──────────────────
ん?
なんでしょうかこれは。
デイリーミッションのウィンドウがゴゴゴゴゴゴッと厳めしくうなり始めます。
次の瞬間、黒くて大きな妙な機械が飛びだしてきました。
『メタルトラップルーム』の浅い水面に激しく衝突し、盛大に水しぶきをあげます。
でっかいな。
それに報酬として古本やエナジードリンクじゃないのは初めてなんじゃなかろうか?
もしかして100日記念なのか?
継続100日いったからプレゼント?
「ちー!!!」
「あ、眼力」
シマエナガさんのすかさず『冒涜の眼力』を使って得体のしれない機械を睨みつけました。
すると、わかるわかる。
わかるわかるパワーッ!
「こ、これは、まさか……とんでもないことが起こる……っ!」
「ちー♪」
「ぎぃ♪」
縦2m、横幅2、奥行き10mほどの巨大なコンテナのような武骨な機械。
アイテム名は『経験値生産設備 ver2.0』。グレード5。
その名の通り、経験値をつくりだす聖遺物級の
───────────────────────────────────
こんにちは
ファンタスティックです
指男の力はどうやら世間の常識から逸脱しつつあるようです。
そして、その眷属たちも同様です。
リクエストがあったので、ふっくら化がとまらない眷属筆頭白い悪魔『シマエナガさん Lv36』を描きました。
下記のリンクから見れます。
https://kakuyomu.jp/users/ytki0920/news/16816927860070769644
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