ミーム型SCCL適用異常物質


 


 今日にいたるまでに、指男の情報は幾重にも拡散された。

 指男の噂スレを中心に、情報が錯綜するようになっていた。


 数千人が指男の候補者として顔写真付きでネット上にアップロードされ、もはや一般人レベルでは、指男の顔などだれにも判別できなくなってしまっていた。


 多くの者が面白半分に偽情報を垂れ流し、便乗し、無意識に、時に意識的に、混乱をまねき、ある者はネット上の情報を拾って、指男を目撃したとつぶやき、ある者は承認欲求に駆られ「自分が指男だ!」と名乗り、ある者はオンラインサロン「指男式ビジネスマインド講座」を開いた。


 これがオリジナル・赤木英雄が失踪している間に『指男』がひとり歩きした結果である。指男は完全なる都市伝説に昇華した。

 財団のなかにこれらの情報を真に受ける者がいたことや、探索者が新人の驀進的な活躍を妬みイジワルをしてやろうと行動したことも混乱に加担した。

 結果として、異常物質アノマリーに普段から接している財団内では「赤木英雄がいない間も指男が活動していたことを考えれば、指男=赤木英雄の図式はなりたたなくなる」など、真面目な顔して語る者も出てきた。


 だが、多くの者は気がついてはいない。


 都市伝説『指男』は、すでにSCCL適用異常物質にまで成長してしまい、財団が気が付かぬうちにもはや手が付けられなくなっていることなど。

 指男を知っているはずなのに、会ったことがあるはずなのに、弱き者では、その顔も名前も思い出せず、正体にたどり着けなくなっている異常な現象が、着々と広がっていることなど、誰に気づけるというのだろうか。


 皆が「」と思い込むほど、指男にはたどり着けなくなっていくのだ。



 ──赤木英雄の視点


 

「ぎぃさん、いきなり攻撃しちゃだめですよ」

「ぎぃ」

「でも、なんだったんですかね。あの着ぐるみの人。ただならぬ気配はしてましたけど」


 触手ってたしか10万ATKまで出るんだよな。

 かなり勢いあったし……怪我をさせてしまっただろうか。


 階段に近寄る。


「血ィ場ァ……」

「っ」


 階段をのぼってくる赤い犬。

 ぎぃさんが殴った箇所の布がほつれ、中から落花生が零れ落ちる。


 破れた布地が紅い光とともに再生していく。

 時間が巻き戻るようにして、ダメージが無かったことにされたのだ。


 スコップを振り上あげる赤い犬。

 その動きは速い。回避は間に合わない。

 というか足が重たい気がする。敵の能力だろうか。

 仕方ない。誰だかわからないが、無力化するしかない。


「スコップをゆっくり降ろせば、まだ間に合いますよ」

「血ィ!」


 それがお前の選択か。


 『フィンガー・スナップ Lv5』で顔面を吹き飛ばした。

 HP4 ATK2,000。頭を冷やすには十分なダメージだろう。

 

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