意外と忘れられてない


  

 修羅道さんとの楽しいディナーを終えて、キャンプを練り歩きます。

 というのも、まだ、ダンジョンに入れないのでやることがないのです。


 ここでダンジョン財団のダンジョンへの対応をおさらいします。



・ステージ1

 ダンジョン財団の捜査

 財団の保有する探索者たちを使って、そのダンジョンの性質を明らかにするために行われる。そして、ダンジョンの規模・モンスター・階層などを基準にクラス分けを行い、民間の探索者たちを招き入れる。


・ステージ2

 ダンジョン攻略

 実際に攻略を開始し、クリスタルや異常物質を採掘する段階。


・ステージ3

 ボス討伐

 ボス部屋発見後、あらかた資源を回収したのち、ボス部屋攻略隊が組まれ、大きな戦力を投下してボスを撃破する。


 

 なので、ダンジョン財団からクラス発表すらされていない現在は、まだまだステージ1ということですね。

 準備段階ということになります。

 今頃、財団は一生懸命に調査をしていることでしょう。


 キャンプを練り歩いていると購買を発見。 

 といっても普通のコンビニだけれど。

 期間限定でダンジョンキャンプ購買です。


「おお、指男、生きておったのか!」

「ドクター、お久しぶりです」


 白衣を着た徘徊老人に捕まった。


「おぬし行方不明になったとかで、ささやかな噂になっておったが」

「実はカクカクシカジカン」

「そんな不思議なことがあるとはな。家の裏庭にダンジョンとは」

「事実は小説よりも奇なりといいますからね。それより、ドクターの方はどうですか。学会で成績は残せましたか」

「ああ。ちいさなものだが、功績を認められ、予算がでたぞ」

「おめでとうございます」

「して、これが『ムゲンハイール ver4.0』なんじゃが」


 へえ、カッコいい。

 俺、ジュラルミンケースとか、アタッシュケースとか、トランクとか好きなんだ。

 機密文書とか、ネブカドネザルの鍵とか入ってそうだからさ。


「っ、指男、その白い鳥はもしや……」


 見れば胸ポケットがもぞもぞ動いており、シマエナガさんの尾っぽが天へむかってはみ出している。尻尾かあいいです。


「なんですか。なんか文句ありますか。なんだっていいでしょう(強気の姿勢)」

「いいや、聞くまい。とにかく、再び使用データを収集を手伝ってくれんか」

「いいですよ。いつものことですし」

「『ムゲンハイール ver4.0』には原理はわからんが、進化と変化、両方の機能をそなえておる。それに爆発もしないじゃろう。うん、たぶん。きっと」


 そんなふわふわした感じでよく作れましたね。

 あんたさては感覚派だな。


「原理がわからない以上、とにかくたくさんの試用データが必要なんじゃ」


 俺は軽く手をあげて「了解」と応じた。

 

「そろそろ帰ります。まだダンジョンも開いてないみたいですし」

「そうじゃな。今夜は開かんじゃろう」

「では、俺はこれで」

「ああ」


 ドクターと別れる。


「指男」

「?」

「そいつらも戦うのか。その……ペットたちも」

「え? あー……」


 胸ポケットからシマエナガさんが、頭だけだしてじーっとドクターを見つめている。

 ぎぃさんも同様に頭だけだしてぽけーっと見ている。


「その時がくれば戦います、仲間ですから」

「そうか」


 ドクターは唇をとがらせ「ふーん」みたいな顔し、背を向けて去っていく。

 なにそれ、どういう感情ですか。ちょっと腹立つ顔やな。


 翌朝。

 ホテルに帰還し、ピザとコーラで夜を駆け、そのままなんとなく徹夜した俺は、朝焼けに空が青ざめていくとともに、さっそくデイリーミッションに挑む。


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『突然! My Revolution』


 My Revolution、を突然歌う 0/5


 継続日数:97日目 

 コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍

 ──────────────────


 殺し来てますね、デイリー君。

 序盤中盤終盤、隙が無いです。

 でもね、おいら負けないよ。


 俺はホテルを出て、千葉の市街地へ繰り出した。


 ──2時間後


 出勤する大人たちでごったがえす忙しい駅前で、俺は歌声を響かせていた。


「わかりはじめたmy revolution~♪ 明日を乱すことさぁ~♪」


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『突然! My Revolution』


 My Revolution、を突然歌う 5/5


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 先人の知恵B (50,000経験値)

   スキル栄養剤B×3(50,000スキル経験値)


 継続日数:98日目 

 コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍

 ──────────────────


 デイリーミッションの報酬は3:4:3じゃなくて全部俺がもらいます。

 シマエナガさんとぎぃさんが抗議の眼差しを向けてきていますが、だめです、そんな目で見てもあげません。

 

 本日の羞恥プレイを終えて、その足でダンジョンキャンプへ向かいます。

 

「おはようございます、赤木さん!」

「おはようございます、修羅道さん」

「ダンジョンもう開いてますよ!」

「あれ、もしかして出遅れましたかね」

「はい!」


 すっげえ笑顔で肯定されました。


「ミスターらが10時間ほどまえに突入したのが最速です」

「あ、ミスター来てたんですね」

「はい、あの方は熱心な方ですからね。最新の情報はもう更新されてますよ」


 財団SNSを見やれば、財団公式が今回の千葉ダンジョン参加探索者の投稿を拡散している。すこしタイムラインを遡ってみて見る。有名人は拡散してもらえるシステムらしい。


 Sクラスからは『ダンディ』と『ミスター』

 Aランクからは『フライドポテト』に『元チーバくん』


 これらの探索者の投稿が拡散されている。

 みんな今回の攻略に参加しているのだろう。

 というかミスターってSクラスだったんだな……天上人やん……。


 フライドポテト浅倉も参加してるのか。

 となると、ほかの歩くファミリーレストランも来てるんだろうな。


 てか、みんな攻略情報ばんばん出してんな。

 階層が浅い分、初動投稿がマシンガンみたいに送られてる。

 

 見たところ、3階層までの階段はすでに見つかってるようだ。

 流石は最高峰の探索者たちだ。

 はやすぎて時代に取り残されている感がすごいですよこりゃ。


「今回のダンジョンはクラス4です。が予想されます。推定階層30階。1階層ごとのマップの広さは”無垢”ではないので、群馬ダンジョンには及びませんが、”救世”なのでトラップルームが多くあるかもしれません。注意してくださいね」


 はあ、救世系はトラップ多めね。

 二郎系がもやし多めなのとだいたい同じ感じかな。


「ところであの子たちは連れてきていますか?」

「いますよ、ほら修羅道さんに挨拶してください、シマエナガさん、ぎぃさん」

「なんかちっちゃくなってませんか?」

「おっきくなったり、ちっちゃくなったり、変幻自在ですよ、この子たち」

「すごいですね!」


 修羅道さんはそう言いながら「よいしょ」っと”孫の手”を取り出した。

 いやに古びており、貫禄と年季を放つ孫の手だ。

 おもむろにシマエナガさんの頭頂部をかきかきしはじめる。


「ち~!」


 シマエナガさんとっても気持ちよさそうだ。

 今度はぎぃさんのすべすべボディをかきかき。


「ぎぃ♪」


 こちらも極楽といった風に鳴きなさる。


「次は俺ですね?」

「あはは、赤木さんにやってどうするんですか! まったく意味わからないですね!」

「ぁぅ」


 不意に来る言葉の攻撃。

 毒ぅ。やめて、その術は俺に効く。


「これは異常物質アノマリー『解剖学アイデンティティ』ですよ」

「解剖学、アイデンティティ?」

「1962年愛知県で財団が入手した物で、これで47回叩かれると、あらゆる生物は自我喪失します。ありていに言うと精神を失い、抜け殻になります」

「そんな危ない物でうちの子たちを!?」

「ふっふふ、使い方次第では、厄災シリーズの幼体をすぐさま無力化できるほど強力な異常物質アノマリーですが……実はかきかきすると良い事があるんですよ」

「ほう、それは?」

「こうして異常物質アノマリーを掻いてあげると外界が観測できる異常性アブノーマリティ係数が低下するんです! すなわち、計器にひっかからなくなります!」

「おお!」

「この子たちには必要な処置でしょう、赤木さん」


 修羅道さん、うちの子たちのことを思って……!

 ありがとうございます!


「それじゃあ、修羅道さん、気の済むまでかきかきしちゃってください」

「あ、ちなみに47回かきかきすると、木っ端微塵に爆発するので使い過ぎには注意が必要ですよ!」

「二度とうちの子たちに使わないでください」


 危ない危ない。

 スプラッタになるところだったよ。


「それでは、気を付けて行ってらっしゃい、赤木さん!」

「行ってきます」


 センサー対策したところで映画館へ。

 普段ならチケットを確認されるスペースに、武装した自衛隊員の方たちがいた。


「そこ通ってもいいですか」


「もちろんです」

「どうぞ、Aランク探索者さま」


 ぎこちない動作で通され、奥へ。

 ダンジョンが発生したのは映画館はなかなか立派なものだ。

 普段ならわくわくして、ポップコーンを抱きしめ、踏みしめるように歩く脇のスロープを登ると、大きなスクリーンが見えてきた。

 その真ん中に、ダンジョンへのゲートは開いていた。

 黒く、入るものを深みへといざなう口だ。


 さて、今回もやって行きますかね。


 さっそく1階層に足を踏みいれる。

 モンスターにいきなり遭遇した。

 足首サイズのダックスフンドだ。


「くぅ~ん」

「んん~可愛い可愛い。すっごく可愛いねえ」


 はい、消し炭にしちゃおうねぇ~!(狂気)


 ──パチン


 爆炎が跡形もなくモンスターを粉砕。

 

「HP1で十分か。……いや、当然だな」


 HP1でATK500出せるんだ。

 かつての記憶を頼れば、8階層のモンスターまでならワンスナップ・ワンキル圏内ということになる。

 

 こう思うと俺もそれなりに強くなったんだなと実感する。

 

 サングラス──『迷宮の攻略家』のテンプルをシュッとなぞって3Dマップを空間に投影。

 撮影し、久しぶりに「今日の狩場」を更新。

 ターゲットは兼業探索者のちょこっと攻略組だ。

 入り口付近の比較的短時間で狩れる場所をアップする。


 ふと前回の投稿の日付が目に入った。

 そういえば、俺って2カ月くらい失踪してたんだった。

 もうみんな忘れちゃってるかな……。


 ────────────────────────────────

 拡散:20 いいね!:186


 レッドツリーkotoha:

  指男さま復活


 エージェントG:

  待ってた

 ────────────────────────────────


 あ、意外と反応ありますね。

 それにコメントもついたよ。

 エージェントGさん待っててくれたのか。

 嬉しいなぁ。

 レッドツリーkotoha?

 この人もコメントくれて嬉しいなぁ。


 俺はるんるん気分で階層をどんどん降りていく。

 今日もダンジョン頑張ろう。

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