クリスマスキャロルの頃にはエナジーゼリー



 千葉へ向けて準備を整える。

 とはいえ、何事もまずはルーティンをこなしてからだ。 


 お風呂で熱い湯につかり、毎朝の日課の指パッチン100回×3セット、コイントス100回×3セットをこなす。


 では、今日一日を占うデイリーミッションと行きましょうか。


「しゃー……よっしゃー……ヤー、っしゃー……しゃあ……デイリーミッション! ヤー!」


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  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『突然! クリスマスキャロルの頃には』


 クリスマスキャロルの頃には、を突然歌う

               0/5

 

 継続日数:96日目 

 コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍

 ──────────────────


 はい、来ましたね。

 色物系です。

 知ってたよ。

 だって、メタルダンジョンでずっと俺に都合のいい自己完結型デイリーしかこなかったもんね。

 そろそろ、ツケが回ってくる頃だと思いました。


「クリスマスキャロルの頃には……を突然歌う?」


 うーん、文面だけだと地獄しか想像できないけど……。

 とりあえず、一階に妹いるし試してみるか。

 なに落花生王国への遠征前の肩慣らしですよ。

 これくらいできなくて千葉県でやっていけるのかってね。


「妹よ」

「ん、なに。お金くれるの」

「~♪ ~♪(前奏)」

「……ん?(なんかはじまった……)」

「ダンッダダン、クリスマスキャロルが~、流れる頃には~、君と僕の答えも~きっと出ているだろう──」

「いや、もう三月だけど」

「クリスマスキャロルが~、流れる頃には~、誰を愛してるのか~今は見えなくても……──」

「で、なに?」

「この手を~少し伸ばせば~──」

「(続くんかい)」


 最後まで一応聞いてくれた。

 いや、久しぶりに歌うと気持ちがいいね。

 名曲や。


 さて、これでデイリーミッションも進んだことでしょう。



 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『突然! クリスマスキャロルの頃には』


 クリスマスキャロルの頃には、を突然歌う

               0/5

 

 継続日数:96日目 

 コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍

 ──────────────────


 ……。

 なんだ。

 どこだ。 

 どこで間違えた。

 どこにサイレントレギュレーションがあった。


「……」

「お兄ちゃん、で、なに。なんでいきなりクリスマスキャロルなの」


「ぎぃ」


 ん? ぎぃさんが足を登って来た。


「ちー」


 む、シマエナガさんまで、頭に止まってきて……そういうことか。

 わかったぞ。サイレントレギュレーションの正体が。


「ねえ、お兄ちゃん、意味わからなすぎて恐いんだけ──」

「~♪ ~♪」

「ぇ」

「ダンッダダン!! クリスマスキャロルが~流れる頃には~、君と僕の答えも~きっと出ているだろう──」

「うそでしょ、続くの……」


 その後、最後まで歌いきった。


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『突然! クリスマスキャロルの頃には』


 クリスマスキャロルの頃には、を突然歌う

               1/5

 

 継続日数:96日目 

 コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍

 ──────────────────


 やはりか。

 ”突然”の部分が今回のキーポイントだ。

 何の前振りもなく、突然、クリスマスキャロらないといけないとな。


「お兄ちゃん、ねえ、お兄ちゃん、本当になに? 気になって仕方──」

「~♪ ~♪」

「いや、もういいからッ!」


 今回のデイリーは本当に酷いと思います。

 

 三曲目の途中で「うわああ! お兄ちゃんが壊れたぁあ!」っと絶叫して妹は逃げ出して、二階へのぼっていきます。


「クリスマスキャロルが聞こえる頃まで~、出逢う前に戻ってぇ~、もっと自由でいよう~♪」

「うわあああ! 追いかけて来るなああ!」


 階段をのぼりながら、クリスマスキャロり、部屋に逃げこんでも、扉を閉められる前に隙間からすべりこみ、クリスマスキャロりつづける。


「やめてぇ……ふええん、キャロるのやめてぇぇ……ごめんなさい、ふええ……っ」

 

 妹は布団にくるまって怯えながら嵐がすぎるのを待つことしかできない。

 俺はそんな状態で、ぎぃさんを縦にして持ち、シマエナガさんをその上に乗せた謎の物体をマイク代わりに、クリスマスキャロルの頃には、を計6曲情け容赦なく歌い切った。


 ──────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『突然! クリスマスキャロルの頃には』


 クリスマスキャロルの頃には、を突然歌う

               5/5


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 先人の知恵B (50,000経験値)

   スキル栄養剤B×3(50,000スキル経験値)


 継続日数:97日目 

 コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍

 ──────────────────


 これを赤の他人にやるのは通報モノだな……。

 ふふ、だがな、デイリー君、俺はあのパワー強化週間を乗り切った男だぜ。

 これくらい乗り越えてやるさ。


 さて、古本を使ってと。

 古本くんは唯一ピンハネされない収入経験値だからきっちり味わいますよ。


『使用しますか? はい いいえ』


『はい』


 ん゛ん゛ん゛ぅぅん~ッッ、ギモヂぃいッッ!!!


「あ。そういえば、エナジードリンク貯まってたな……」


 ウィンドウからポンッと出て来たエナジードリンク355ml缶を3本受け取り、自室へもどり、段ボールを開ける。

 60本。今の報酬をあわせて63本。驚異的な買い置きである。

 千葉にいったらしばらく帰ってこないだろうし、出かける前に飲んでおいた方がいいよな。


「だめだ。飲めねぇ」


 6本目をがぶ飲みしたあたりできつくなってきた。

 残り57本。

 えぐいなぁ。


 そういえば、以前、賞味期限まじかの牛乳を大量に消費する動画をSNSで見たな。

 いろいろなメニューに加工していた気がする。


「ほう、エナジードリンクゼリーとな」


 検索したら作り方が出て来た。

 ゼリーは好きだ。

 学校の給食で出た三色ゼリーが出る日には、事前に原宿ドッグやチョコプリンをクラスのほかのやつに横流ししておいて、当日にゼリーを融通してもらい、たくさん食べれるよう暗躍したこともあるくらいだ。

 

 さてでは、たくさんゼラチンを買ってきて、混ぜ混ぜしていきますかね。

 

 ──4時間後


 お昼過ぎには『スキル栄養剤』はさまざまなレシピに姿を変えていた。


 エナジーゼリーにはじまり、エナジータピオカ、エナジー餅、エナジーアイス、エナジーキャンディー、エナジーバーガー、エナジーケーキ、エナジーライス、エナジーカレー。


「俺ひとりじゃ作れなかったよ。ありがとな」 

「お兄ちゃん、これでもう二度とキャロらないって約束できる……?」

「する。もうお前にキャロることはない」


 脅迫することで、妹の協力を得ていたのだ。

 よっていい感じに調理できた。

 では、いざ実食と行こうか。

 そういえば、シマエナガさんとぎぃさんが見えないけど、どこ行ったんだろうか。


「ち、ちぃー」

「ぎぃ、ぃ」


 いました。居間の机のうえ。

 の横で、まるまると太って寝ていらっしゃいます。

 これは完全にやりましたね。ええ。

 ピンハネどころの騒ぎじゃないです。

 全ハネです。全中抜きです。窃盗です。強盗です。修羅道さ~んっ!


「うわあ、かあいい~! まるまるふわふわだぁ~! やば~撮っとこ!」


 妹が楽しげにするなか、俺は最後の『スキル栄養剤』を黄昏たそがれながら飲んだ。


(スキルレベルがアップしました)


「ん。なにが上がったんだ……」


 ────────────────────

 赤木英雄

 レベル146

 HP 22,523/22,523

 MP 3,740/3,740


 スキル

 『フィンガースナップ Lv5』

 『恐怖症候群 Lv5』

 『一撃 Lv6』

 『鋼の精神』

 『確率の時間 コイン Lv2』

 『スーパーメタル特攻 Lv6』

 『蒼い胎動』

 『黒沼の断絶者』


 装備品

 『選ばれし者の証』G3


────────────────────


あ。来た。これ来た産業。

フィンガースナップが進化してるじゃないですか。


 ──────────────────

 『フィンガースナップ Lv5』

 指を鳴らして敵を屠る。

 生命エネルギーを攻撃に転用する。

 転換レート ATK500:HP1

 解放条件 ワンスナップ・ワンキルで100万キル達成(または、短い期間に同条件で25,000キル達成)

 ──────────────────


 もう勝ちよ。

 勝ち。勝ちました。

 最強です。はい。勝ち。

 強すぎる。あーはやくチワワ消し炭にしてえ(狂人)


 しかして、ここまで長かったな。

 思えば、以前までは『スキル栄養剤』はこのフィンガースナップに経験値をくれているのだとばかり思っていたけど、今はどんな仕様になっているんだろう。

 スキルが多すぎるから『フィンガースナップ』に経験値が入ってないとかだったら嫌だなぁ……。


 『一撃』とか『スーパーメタル特攻』、『確率の時間 コイン』は経験値と言うより、実績解除でレベルアップするタイプで、『恐怖症候群』はよくわかんないっと。

 『鋼の精神』は実績系……。

 『黒沼の断絶者』も実績系っと。

 あ。こう見ると、意外とスキル経験値入れそうなのないんだな。

 『蒼い胎動』にはスキル経験値入ってそうだね。


 む。

 エナジードリンクの側面になにか書いてありますね。


(注意:スキル経験値は成長系スキルにのみ加算されます。複数ある場合は選択してください)


 はじめて知りました。

 こんな注意書きあったのね。


(現在選択中スキル『フィンガースナップ Lv5』)

 

 初期設定は一番うえのやつになってるのね。

 ならあんまり気にする必要はないね。


「お兄ちゃん」

「ん、なんだい、愚妹よ」


 ほう、ツン抜きデレ上目遣いですか。

 世のお兄ちゃんには効果抜群だとか。


「シマエナガさんちょうだい。絶対お世話するから!」

「はい、だめです。その子はビジネスパートナーなんです。こら、もふもふしてないで返しなさい」


 いくら可愛い妹でもそれだけは聞けないお願いだ。

 修羅道さんに任されてるんだよ。

 それ世界滅ぼすかもしれないんだからね。

 わかっているのかい、君。


「はーい、厄災さんたちそこに並んで下さい。荷物検査の事件ですよ~」

「ちーちー」

「ぎぃ」


 スキル経験値を暴飲暴食したので、なにか成長してしまっているかもしれない。

 保護者としてちゃんとチェックしなければ。

 まずはシマエナガさん。

 もっちりふわふわしすぎて首輪(指輪)が締まらないか心配になるくらいふっくらされてます。


「ち~」


 ────────────────────

 シマエナガさん

 レベル29

 HP 12,486/12,486

 MP 11,563/11,563


 スキル

 『冒涜の明星 Lv2』

 『冒涜の同盟』

 『冒涜の眼力』


 装備

 『厄災の禽獣』


 ────────────────────


 ん。やってますね。


 ───────────────────

 『冒涜の明星 Lv2』

 世界への叛逆。

 暗い世界を荒らす導きの明星。

 死亡状態を解決し、HPを3,000与える。

 720時間に1度使用可能。ストック2

 MP10,000でクールタイムを解決。

 ───────────────────


 ストックがついて、復活時の体力が3,000に増えた感じかな。

 うん、よし、通ってヨシ。

 これは攻撃系スキルじゃないから無罪。


「ぎぃ」

「次は君だね」

「ぎぃ~」


 ────────────────────

 ぎぃさん

 レベル0

 HP 5/5

 MP 10/10


 スキル

 『黒沼の呼び声 Lv2』


 ────────────────────


 あ。君もちゃんとやってますね。


 ───────────────────

 『黒沼の呼び声 Lv2』

 黒沼の怪物の一部を召喚し攻撃する。

 2時間に1度使用可能。ATK1~100,000

 ストック999

 MP200でクールタイムを解決。

 ───────────────────


 いや、強ええ(真顔)

 高回転高火力支援じゃないですか。

 せめて低回転か低火力にして。

 ストック999って連射する気満々のくせして、MP200ですぐリロードっていう低コストなのダメよ。そこ厄災ポイントじゃん。

 この子もレベルアップしたらどうせシマエナガさんみたいにHP・MP急成長するんだろうし……実質触手撃ち放題になるじゃんよ……。


「ぎぃさん、アウト!」

「ぎぃ……」

「だめですよ、こんな強くなっちゃ……ただでさえ、あの黒い触手──」


 ぎぃさんの背後の空間がたわみ黒くて太い触手が出て来る。


「そうそれ。それ洗脳攻撃っていう隠しステータスあるんですから」

「ぎぃ」

「成長したい? 圧倒的に成長したいですって? そんな意識高い新卒社員みたいなこと言われても……うーん、わかりました、今度から気を付けてくださいよ(激甘)。修羅道さんには口添えしてあげますからね」

「ぎぃ♪」


 うーん、キモカワですねぇ。

 なんだろう、ぎぃさん見てると、これまでたくさんいじめられてきたんだろうなとか勝手にバックグランドを想像しちゃって、優しくしてあげたくなっちゃうんだよね。よーしよしよし。いい子いい子。


「うわ、触手もでるんだ、マジキモ……」

「こら! ぎぃさんになんてこと言うんだ!」

「わー逃げろー」

「シマエナガさんは置いて行きなさい、ミス妹よ」

「ち~♪」


 このメスガキきゃあ、いつか調教してやる。


 ──夕方


 俺はプライベートバッグという名のスクールバッグに旅の道具を入れる。

 基本的に無地の黒い半袖シャツに、白のワイシャツしか着ない敏腕実業家タイプのファッションセンスなので、ブラックフライデーで買い込んだ同じ無地の黒服と、無地のシャツを詰めれば準備は完了する。


 『アドルフェンの聖骸布』をまとい、ネクタイを締め、最後にサングラスをかけて、『選ばれし者の証』──通称:もうひとりの相棒ブチを胸に添える。


「では、行ってくる」

「お兄ちゃん、指男さまのサインもらってきてね」

「指男がいたらな」

「さまつけて」

「……指男さま」


 その晩、俺は落花生独立国家──通称:千葉人民やたら建物に東京つけたがる主義共和国へ入国することに成功した。


 


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