厄災、見つかる



 どうも。

 ブルジョワにしてBランク探索者にしてプラチナ会員になっていた赤木英雄です。

 ただいま、特殊部隊員っぽいひとたちに銃口を向けられています。

 話によると、この居間に危険な異常物質アノマリーがいるらしいです。

 

 心配そうな顔をする修羅道さんにまず訊くことがあります。


「SCCL適用異常物質ってなんですか……?」

「SCCL適用異常物質というのはカクカクシカジカンということで、とっても危険な可能性が高い異常物質アノマリーですよ、赤木さん!」

「なるほど、危険な可能性が高い……」

「特に自立能力をもっている異常物質アノマリーは根本的に人類とは相まみえない存在であることが多くて……ありていに言えば、生物型異常物質アノマリーは危ない子が多いんです! もちろん生物型じゃなくても使い方を間違えたら危険なものはたくさんあります!」


 修羅道さんが隊長っぽい人から計器を奪い取ります。

 隊長さん「あ、俺の計器……」と物悲しそうにしてます。


「赤木さん、どこに隠してるんですか」

「な、なにも隠してないです!」

「目が泳いでます、心当たりがある証拠です!」


 修羅道さんは計器を近づけて来る。

 映画とかで見る放射線計測機みたいだ。

 針が左右に揺れて「ジリジリリ……」と壊れたラジオみたいな音を鳴らしてます。

 俺に近づくと反応が強くなりました。


 なるほど、性能は確かなようだ。

 ならば、仕方ない。ここら辺でいっちょ……策を打つか。


「わかりました。修羅道さんの勝ちでいいです」

「っ、赤木さん」

「だから、いったん、そのうるさい計器を止めてもらえますか?」 


 修羅道さんはカチッと電源をオフにする。

 俺は懐からリボルバー拳銃を取り出した。


 オトリをつかってやり過ごす作戦、開始。

 

 いきなり銃を取り出した俺へ、特殊部隊員たちは「うおおお?!」と驚いて、カチャカチャと照準を合わせて直してくる。


 これアメリカだったら撃たれてるやつだ。

 今度から気を付けよっと……。


「赤木さん、それは?」

「『メタル柴犬クラブ』から頂戴した異常物質アノマリーです」


 アイテム名『奇怪金属装甲の異銃』

 

 特殊部隊の隊長さんは、部下に「やつらを」と言って、メタル柴犬クラブの者たちを連れて来させた。


 鋼山鉄郎が連れて来られて、『奇怪金属装甲の異銃』の前に立たされる。


「ひえ……!」


 鋼山は俺の顔を見るなり、尻をおさえて震え出す。


「やっぱり財団とぐるだったのか……っ」

「?」

「訳の分からんことを言ってないで質問だけに答えんかい、ゴラァッ!」


 隊長の鉄拳が鋼山を打ち抜く。

 容赦ないです特務部。


「赤木さん赤木さん」

「ん、なんですか」

「今は部屋を出ていたほうがいいですよ〜」


 修羅道さんに言われ、数人の武装隊員とともに家の外へと出た。

 事実確認が行われるため、その場に俺と鋼山がいては意味がないとか。

 なるほど。口裏を合わせられないように、か。

 隊長さんは俺のことを疑っているようだ。



 ────



 ──修羅道の視点


 ひと通りの取り調べが終わった。

 隊長のもとへ、すかさず修羅道は参上する。


 尋問の時間が推測よりずっと長かったことを考えると、どうやら、この隊長は踏み込んだ情報まで探っていたようだ。

 修羅道はてっきり簡単な確認作業だけが行われたものと思っていたのだ。


「ボロはでなかったな」

「だから言ったじゃないですか」

「代わりにガチガチ、黒、白くて、ふわふわ……こんなキーワードを繰り返していた。いったいどんな意味が……わからないな」

「メタル柴犬クラブの活動についても訊いていたのですよね」

「わかるかい、修羅道のお嬢ちゃん」

「ずいぶん長かったですから」

「……。やつら、メタル化技術の研究をしていたようだ」

「メタル化ですか? それって……」

「ああ、だな」

「……」

「話によると複数の支社を持っているらしい。このメタル柴犬クラブはそのうちの一つだ」

「その情報が知れただけでも収穫はありましたね。すべて赤木さんのおかげです」

「あの男は信用できない。この銃の効果は撃った対象をメタル化し、100万の防御力を付与するものだ。こんな危険な物を私物化しようとしていたなんて……すぐに財団に届けるのが健全な探索者の行動だ」

「赤木さんはまだ探査者になって日が浅く、財団の規律にも疎いんです。それに、なんかカッコいいものを見つけたら自分の物にしたくなるのが健全な男の子ですよ」

「やけにあの男の肩を持つな」

「え……いや、それは……」

「ふん。まあいい。というか、そもそも、あいつは誰なんだ」

「ふっふっふ、聞いて驚いてください。彼こそがあの指男です!」

「やつが指男……噂には聞いているが、なるほど、たしかに不審に見えると思った。実際裏じゃ何をしているかわかったものじゃないらしいな。素性も謎。いくつもの逸話を持ってる」

「凄いですよね、赤木さん!」

「……あれをすごいと、ただポジティブにとらえることができるのはおそらく君や、昔なじみの探索者だけだろう……見ろ」


 隊長は手袋を取る。

 鳥肌がぶわーっと立っていて、小刻みに震えていた。


「私など指男の言葉を聞いただけで、このありさまだ」


 再び、手袋を付け直す。


「指男に関する情報は仕入れていたつもりだが……なるほど、これが本物を前にした凡人か。はあ……すこし疲れたな。精神を消耗させられたよ」

「だ、大丈夫ですか?」

「ああ。平気だ。……指男、どのみち探索者でいてくれるうちは財団の目も届きやすい。それに、やつには伝説のエージェントGがついているというからな。今回はおおめに見てやろう。私もはやくこの場を離れたい」

「っ、ありがとうございます、特務部長!」


 特務部は財団のなかでも武力面における最大の実働部隊だ。

 その部長をして、あまた広がる指男の噂と恐怖症から逃れることはできなかった。

 

「ああ、帰る前にひとつ、君に言っておくべきことがある」

「なんですか?」

「メタル化の話は厄介な連中がからんでいた」

「厄介な連中ですか?」

「ああ。より詳しい取り調べは財団にもどってからするが、どうにもやつら『メタル柴犬クラブ』にメタル化の技術を伝えたのは阿良々木あららぎという男だったらしい」

「っ、まさか、あの『顔のない男』ですか?」

「わからない。だが、話を詳しく聞く必要はあるだろう」

 

 『顔のない男』阿良々木。

 かつてのSランク探索者。

 今日のSランク国際指名手配者。


 時に、世界の裏側で無知な人々へ、人類では知りえない叡智をさずける。

 時に、ありえない現象を引き起こす邪悪な道具をばらまく。

 唯一活動する”厄災指定”を受けた人間だ。


 不気味な話を残して特務部長は去っていった。


 修羅道は出て行く隊員たちを見送り「さて」と袖をまくった。



 ────



 ──赤木英雄の視点


 ふう~あぶっね~!

 特殊部隊っぽいひとたちはとりあえず装甲車に戻ってくれたよ。

 これ実質勝ちだよね? 

 よっしゃ、勝ったあ。

 ダンジョン財団の特殊部隊に勝った~(くそがき)


「赤木さん」

「あ、修羅道さん! さっきは恐かったですよ、本当に! あれってなんですか? ダンジョン財団の秘密の戦力的なやつですか?」


 修羅道さんはニコニコしながら近づいてきました。

 可愛い。すごくかわいい。いい匂いもします。

 あっ、俺の胸板に手を当てて、あっ、まさか、これは大人な展開、あっ、そのまま下へ──


「ここですねっ!!」


 バッとシャツをめくられてしまう。

 

「ちーちーちー!」

「ぎぃ!」


 ぎぃさんはボトっと床に落ち、シマエナガさんはコロンっと転がります。


「いたぁあー! やっぱり隠してたんですね!」

「ぁぁあああ!?」


 修羅道さんは計器を取り出し、カチっと電源を入れる。

 すぐに「ジリリ!」と古いラジオの割れた音のようなものが響いた。


 ぎぃさんとシマエナガさんは、計器を交互に向けられ「ちー!?」「ぎぃ?!」「ちー!」「ぎぃ!」と驚いています。ちーぎい。


「さっき計器の反応がおかしいと思ったんですよ! なんですか、この黒いナメクジさんは! 明らかに異常物質アノマリーです! それにこっちのシマエナガさんは、サイズがおかしいです! こんなにふっくらして可愛いなんて! むう! 怪しいですね! 可愛すぎます!」

「いや、これは、あの、その、違くて、いや、本当に違くて……!」

「計器も反応してます! 異常性アブノーマリティが高いです! SCCL適用クラスですよこれは!」


 しまった、最後の最後で油断したぁー!

 

「あ、いや、あの、これは、あの、その、ち、ちがーう!! 違うんです!! 違う違うパワーッ!」

「脳筋でごまかしきれると思ったら大間違いですよ、赤木さん!」


 俺はぎぃさんを拾いあげ、抱きしめた。

 ぎぃさんは凶悪な口で俺の顎髭をつついてくる。

 髭の剃り残しをむしゃむしゃ食べているのだ。


「あはは、くすぐったいな、ぎぃさん。って、ちがーう、違うんですよ、これは、その、ただのナメクジで」

「こんなおおきなナメクジさんはいません! こっちに寄越してください!」

「嫌です、この子は俺がボスからドロップしたんです、私有財産権は俺にあります」

「ちょこざいですよ! 赤木さんのくせにちょっと頭の良い単語をつかって! 赤木さんのくせに! 赤木さんのくせに!」

「や、やめ、毒が、効きます、すみません、俺ごときが、ちょっと難しい言葉つかって……」

「赤木さんのくせに!」

「や、やめてぇ……(泣)」


 俺は必死にぎぃさんを抱きしめる。

 渡さない、渡さない、渡さない。

 相手が修羅道さんでもこれだけはだめだ。

 ぎぃさんは見た目がグロテスクだけど本当はいい子なんだ。

 アイテム詳細が■■■で文字化けしてて読めないのがたまに不気味だけど、本当にいい子なんだよ。

 洗脳して人間の命なんてもてあそぶように殺すこともできるのに、俺がお話したら。ちゃんと言う事聞いて殺さないでいてくれたし。

 シマエナガさんと仲良くしてって言ったら、ちゃんと仲良くしてくれるし!

 

「どんなに俺のことはバカにしてもかまいません、でも、この子は渡さないです」

「赤木さん……お願いです!」

「財団はこの子を解剖して実験するつもりでしょう、そうはさせない、ぎぃは俺が守ります」

「赤木さん……」


 俺はぎぃさんを懐に隠し、うずくまった。

 大人になった男が、なにかを守るためにとる行動としては、いささか情けないだろう。

 笑うがいい。罵るがいい。蔑むがいい。

 だが、覚悟しろ。

 俺は守るべきものは必ず守りとおしてみせる  

 この俺、赤木英雄にだって譲れない物はあるのだ。

 

「赤木さん、よく聞いてください」

「修羅道さんは俺の味方だと思ってました……」

「そんな卑怯なこと言わないでくださいよ。私は赤木さんの味方です。でも、それ以前に人類の味方です。その子、ぎぃさんですか? ぎぃさんは、もしかしたらとても危険かもしれないんです。そもそも、ダンジョン財団は赤木さんが思っているような場所じゃありませんよ。たくさんのSCCL適用異常物質アノマリーを特別に収容してしているだけです」

「……ぎぃさんたちは、どうなるんですか」


 俺はシマエナガさんを見やる。

 シマエナガさんはとても賢い。

 もう運命を理解しているのだろう。

 ふっくらした魅惑のボディをぽふんっと机に乗せ、じっと連行される時を待っている。遠い目をして悟りを開いてしまっている。


 ぎぃさんもまた賢かった。

 覆いかぶさる俺の腕から抜け出て「ぎぃ」と最後にか細く鳴くと、ぬくもりだけを脱ぎ捨てて、修羅道さんのもとへ自分で寄って行った。最後にふりかえった。それの眼差し(※目はない)が「ここまでありがとう」と言っているような気がした。


 ぎぃさんは自分を犠牲にしたのだ。


 その優しさに、俺の瞳の奥から、悔しさが熱となって溢れてきた。

 俺ではぎぃさんを守れない。

 それどころか、財団から守ってくれている。


 ぎぃさんはただ諦めたのではない。

 俺が悪い人間にならないように、過酷な運命を受け入れたのだ。

 その覚悟はどれほどのものか。

 わずか出会って1日たらずの俺なんかのために、すべての自由を奪われること許容する。いったいこの世のどれだけの人間にそんな自己犠牲ができる。

 なんて優しい異常物質アノマリーなのだろう。


 修羅道さんはぎぃさんを抱っこする。


「っ……なるほど……『厄災の軟体動物』さんと言うんですね、名前は物騒ですが、見ただけで精神攻撃をしてくるタイプではないようです、本当にいい子かもしれません。でも、もうすこし、調べさせてください。わあ、文字化けが……ちょっと失礼しますね、スキル発動──鑑定」


 ────────────────────

 『厄災の軟体動物』

 かつて世界を滅ぼした悪蟲。

 厄災の軟体動物は奔放にたゆたう。

 黒沼の怪物を支配する力を持つ。

 過ぎた力はやがて使用者を引き裂くことになるだろう。

 ────────────────────

 ────────────────────

 ぎぃさん

 レベル0

 HP 5/5

 MP 10/10


 スキル

 『黒沼の呼び声』


 ────────────────────

 ───────────────────

 『黒沼の呼び声』

 黒沼の怪物の一部を召喚し攻撃する。

 2時間に1度使用可能。ATK1~50,000

 ストック999

 MP200でクールタイムを解決。

 ───────────────────


 一気にぎぃさんの秘密が暴かれる。

 『鑑定』のスキルがあると読めるのか。


「赤木さん、やはり、ぎぃさんを見つけてしまった以上、財団は見なかったことにするわけにはいきません」

「……」

「いじけないでください!」

「いじけてないですよ。ふん」

「いじけてるじゃないですか! いいですか、赤木さん、ぎぃさんは特別なチカラをもっているんです。野放しにしていては、大きな被害がでるかもしれないんです」

「俺が安全に飼いますよ」

「その顔は分かっていませんね。わかりました、もういいです、こうなったら納得するまでお話に付き合ってもらいます!」


 修羅道さんはぎぃさんを抱っこしたまま、椅子に腰を下ろした。


「ある人の話をしましょう。阿良々木という探索者がかつてダンジョン財団にいました。彼は『顔のない男』として、探索者たちから畏怖畏敬の念を集めるSランク探索者でした!」

「Sランク、ですか?」

「はい! 当時は特別に抜きんでた能力をもっていた彼だけに与えられた称号です。 今日こんにち唯一の称号ではなくなっていますが……とにかく、そういう凄い人がいたんです、いいですか」

「凄い人……」

「彼は犯罪者になりました!」

「……どうして?」

「財団が管理すべき異常物質アノマリーを隠したことがことのはじまりでした。 彼はその力を使って、世間に大変な迷惑をかけたんです!」

「も、もしかして、大量虐殺、とか……」

「もっとひどいです! タケノコ!」

「え?」

「わかりましたか? タケノコ!」

「え? なんですか?」

「この通り、最悪のあの事件のことに言及しようとすると、すべて『タケノコ』になってしまうんです!」

「……あの、シリアスな話かと思ったんですけど、もしかして、ふざけてます?」

「ふざけてませんよ!」


 修羅道さんは頬をぷくーっと膨らませる。


「『顔のない男』が残した傷跡はこのとおりタケノコ!! っとして世の残っています! 危険な異常物質アノマリーを財団という管理者なく野放しにする危険がわかりましたか! タケノコ! ですよ! タケノコ!」

「……わかりました」


 本当はわかってない。

 だって、タケノコなんだもん。

 でも、俺なりに努めようと理解と協力を頑張ることは出来る。


「わかりました……連れて行ってください……」


 シマエナガさんとぎぃさんと目が合う。

 ふたりとも俺のために決して抵抗せず、大人しく捕まろうとしている。

 

 俺にできることは……俺にできることは……ふたりとの時間を諦める事だけだ……。

 彼らの覚悟に比べたら、それはお話にならないくらい簡単ことだ。

 ならば、やろう。

 その覚悟を無駄にしてはいけない。


「ありがとう、俺のもとに姿を現してくれて……」

「ちーちーちー」

「ぎぃ」

「はあ……修羅道さん、もうお別れは済ませました。ぎぃさんもシマエナガさんも、連れて行ってください」

「赤木さん……」


 修羅道さんは右手にぎぃさんを、左手でシマエナガさんをもふっと鷲掴みにする。

 そして、俺に腕のなかへ「やーっ!」っとダンクシュートをしてきた。


「え?」

「あはは、私は管理するとはいいましたが、なにも連れて行くとは、言っていませんよ!」


 修羅道さんは、覚悟を決めたようにひとつうなずくと、シマエナガさんとぎぃさんから手を離した。


「私は厄災シリーズはみんなとても恐ろしい異常物質アノマリーだとばかり思っていました。ですが、こちらのぎぃさん、そして、こちらのふっくら可愛いシマエナガさんも、とても危険には思えません!」

「そうですよね、わかってくれ──」

「ですが、危険なんです!」

「そ、そうですよね……」

「いいですか、厄災シリーズとは、財団の保有する預言のうち、世界を終わらせるシナリオを持つ超特級の危険な子たちのことなんですよ。このナメクジさんも、鳥さんも、それにふさわしい力があるはずです。そのことは、赤木さん自身が理解していますね?」


 たしかに。

 シマエナガさん、世界を終わらせる片鱗を見せてるもんなぁ……。


「ですが、可能性はどこまでいっても可能性にすぎません! それに見たところ、この子たちは赤木さんにとても懐いているみたいです。もしかしたら、赤木さんから無理に引き離すほうが、人類全体にとって大きな災いになるかも……そういう判断をしました!」

「っ、修羅道さん……でも、そんな判断を下して、上の人に怒られませんか?」

「事件は会議室で起きてるわけではありません、現場で起きてるんですよ、赤木さん!」


 カッコいい。


「それに私に怒る人も、もうあまりいませんので」

「?」

「執行猶予は5,000兆年です! その間になんの問題も起こさなければ、その子たちは晴れて赤木さんの家族としましょう!」

「5,000兆年ですね。余裕です」

「あはは、赤木さんらしいですね」

「あんまり他言しない方がいいですよね」

「はい、ぜひそうしてください、これは私たちだけの秘密です! 情報はなるべく、少人数で共有するべきです、さっきも言った通り、世界には『顔のない男』のような危険な異常物質犯罪者がいます。彼らに赤木さんが厄災シリーズを二柱も保有していることが知れれば、赤木さんへ接触してくるかもしれません!」


 それは怖いなぁ。

 嫌だなぁ。


「だから、絶対に、ぜーったいに他の人には言っちゃだめですよ! これは赤木さんと私、2人だけのトップシークレットです! もちろん、財団側の人間にも知られてはいけません! どこに敵が潜んでいるかは……わかりませんからね!」


 そう言って、修羅道さんは明るい笑みを浮かべた。


 

 ────



 ──修羅道の視点



 修羅道は赤木英雄の祖父祖母の家をでて、車に乗りこむ。

 運転手は静かに車を発進させる。

 少し走って交差点で車は停車した。

 修羅道は窓の外を眺めながら、自分の決断を振り返っていた。


(これでよかったんです。厄災シリーズ……大きな力であればあるほど、財団が管理するべきですが、最近は財団内も完全にクリーンと言える感じではなくなっていますしね。多くの状況を鑑みれば、赤木さんに投資をすることは、まったく分の悪い賭けという話ではないはずです)


 ふと、預言者の言葉を思い出した。

 財団に在籍する偉大なる預言者の言葉を。


『厄災たちは世界を滅ぼしたかったわけではない。すべては悲劇の蓄積の果てだったのだ』


「接し方次第……なのかもしれませんね」

「何か仰りましたか、お嬢様」

「いえ、なにも言ってませんよ。ささ、ちゃんと前を見て運転してください!」

「かしこまりました」


(赤木さんが愛情を注いで育ててあげれば、あるいは厄災になんてならないのかもしれませんね。ふふ、二匹とも、あんなに可愛いですし)



 ────



 ──赤木英雄の視点



 赤木英雄と祖父は、沼地の戦いで汚れたシマエナガさんと、元から泥だらけだったぎぃさんをお風呂に入れていた。


「あー、こらこら、シマエナガさん、ぎぃさんをイジメちゃだめだって」


 シマエナガさんはやたらぎぃさんにちょっかいをかける。

 ちっちゃなくちばしでペシペシ突くのだ。


「ちーちーちー!」

「ぎぃ!」

「英雄、ぎぃさんは水を体で吸収するようだ。これは面白いな」

「おじいちゃん、ぎぃさんをお風呂に入れないで。水飲み過ぎたらフヤけちゃうから。

「おお、すごい。いくらでも吸うぞ」

「だから、フヤけちゃうって言ってるでしょ」


 厄災たちは愛情たっぷりに人間たちに育てられていた。


(修羅道さんと約束した厄災を飼ううえで守るべきルール。状態の変化に細心の注意をはらい、レベルアップ、スキルの進化・変化・増加、そのほかあらゆる成長に気をくばり、厄災の成長しすぎを抑制すること。そして、報告書を定期的に提出すること……)

 

「必ず俺が守ってやるからな」

「ちーちーちー♪」

「ぎぃ♪」


「おお、フヤけて来たな」

「おじいちゃん……」


 ひとまずは祖父から守ってあげなければ。

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