ダンジョンボス:黒沼に埋積する悪意
全ステータス400%の強化。
俺に関係するステータスはHPのみ。
HPが400%強化されるということは、つまりは元と合わせて5倍ということ。
HP 7,742/77,645
今あるMP1,253すべてを『蒼い血 Lv3』に装填して体力を回復させる。
HP 7,442/77,645
+50,120回復 (40×1,253=50,120)
↓
HP 57,562/77,625
シマエナガさんの蘇生スキル『冒涜の明星』は前回の群馬ダンジョンからクールタイムが終わっていないだろうから、死んでも生き返れるなんて甘えは許されない。
触手の攻撃に耐えられるだけの余裕を加味すれば、弾薬として使えるHPは52,000だけ。
すべてを『フィンガースナップ Lv4』に転換すると、
転換レートATK100:HP1
ATK5,200,000:52,000
(520万)
スキル『一撃』を使っても、倍の1,040万ダメージが限界、か。
足りない、まだまだ足りない。
敵のHPは2,500万。
遠い。あまりにも遠い。
レイドボスをひとりで倒すというのは、やはり不可能だったのか?
「ちーちーちー!」
シマエナガさん……諦めるなって言ってる気がする。
そうだ。そうだよな。
俺にはまだスキルがあったはずだ。
苦難の果てに獲得したスキルが。
────────────────────
赤木英雄
レベル130
HP 57,562/77,625
MP 0/2,623
スキル
『フィンガースナップ Lv4』
『恐怖症候群 Lv3』
『一撃』
『鋼の精神』
『確率の時間 コイン Lv2』
『スーパーメタル特攻』
『蒼い胎動』
装備品
『蒼い血 Lv3』 G4
『選ばれし者の証』G3
『迷宮の攻略家』G4
『アドルフェンの聖骸布』G3
────────────────────
『確率の時間 コイン Lv2』──これは大いに役立つはずだ。
───────────────────
『確率の時間 コイン Lv2』
50%の確率に身を委ねるのは愚かなことだ。
しかし、その心配はもう必要なくなった。
コイントスを行う。
表面がでたら全ステータス5分間 40%強化、次の攻撃において最終的に算出されたダメージを2.5倍にする。
裏面がでたら全ステータス168時間 100%弱化、HPとMPを1にする。
168時間に1度使用可能。
───────────────────
沼にハマり、触手にモグラ叩きされているという極限の状態でのコイントス。
だが、俺はすでに1/2の確率ごとき乗り越えたのだ。
この俺に──指男に不可能はない。
4秒に1回触手に頭を叩かれながら、その隙をついてコインの表を出すことに成功する。
スキル『確率の時間 コイン』が発動した。
1,040万× 2.5 = 2,600万
上回った。
よし、いけるッ!
「おい、そこの邪教徒」
「はは、どうした、指男、降参か!」
「いいや。今から2,600万ATKの火力で、あんたのご自慢のそのタコ野郎を吹き飛ばしてやる」
「…………ぇ? いやいやいやいや、無理……だよな、うん、無理だ。無理に決まってる。2,600万の火力? 出来るわけがない……不可能だ、絶対に、絶対に無理だ。どれだけ強力スキルを用意しても……」
俺は狙いを定めて指に力をこめる。
指をこすれない。動かない。ビクともしない。固すぎる。
前回、シマエナガさんを間違えて攻撃した時もそうだった。
だが、俺はやり遂げたはずだ。
これまでだって乗り越えてきたはずだ。
デイリーミッションの仕掛けてくる数多の無理難題。
そのすべてを踏破してここにいる。
ならば、可能だ。
俺にはできる。できる!できる!できる!できるできるできるパワーァアア!
「うぉおおおお!」
脳内で「エクスカリバー!」とか「パワー!」とか、コインの回る音とか、さまざまな思い出(※トラウマ)が駆けめぐる。
あたりの空気が変わった。
泥沼が俺の周りだけ蒸発しはじめ、ドーム空間に稲妻が轟き、青白かったり、紫だったり、寒色の火花がパチパチっと音を立てる。
コロッセオが揺れはじめ、俺の指が少しずつ動く。
親指の腹と、中指の腹、その隙間から眩い輝きが、チリチリッと溢れだした。
「う、うそだろ、嘘だよな、流石に指男と言えど、2,600万なんて……ホラ吹きに決まって……(訳:本当だったらどうしよう)」
「エクスッ!」
「待てぇぇ! ちょっと待ってぇえ! め、めた、メタル装甲があるのを忘れたのかッ?! 勝てないんだ! お前は勝てない、どんな凄い技を出そうと、探索者ひとりで倒せるわけがないッッ! レイドボスだぞ?! 数十人、時には100人を超える探索者が束になってようやく倒せる、そういう次元のモンスターなんだぞ!?」
直前になってハッとする。
そうだ。こいつの言う通りだ。
「あんたの言う通りだ」
「あ、思い直してくれた、か(あ、あぶねえ、まじでうちの邪神様の分身体を破壊されるかと思った……ホッ)」
「メタル装甲があるんだったな」
「え?」
こいつのHPは2,500万。
次に出す俺の『フィンガースナップ Lv4』のATKは2,600万。
メタルの防御力で100万塞がれたら、もしかしたら倒せないかもしれない。
危ないところだった。
これを使っておこう。
───────────────────
『スーパーメタル特攻』
強靭な盾は厄介な武器である。
されど絶対に貫けない訳ではない。
15秒間、相手の防御力を50%ダウンさせる。
168時間に1度使用可能。
───────────────────
「よし。これで防御力は50万ダウンして、50万になったね」
「あ、あれぇ?! なんか邪神様のメタルがポロポロ剥がれている?!」
「では改めまして──エクスッ!」
「や、やめろォォ!」
「エクスッ、カリバーァァアッ!!」
パチンッ──その音は、破滅の指揮者だ。
ドームの真ん中に火球が発生した。
すべてを破壊し尽くす必滅の炎。
地球上のあらゆる物質がこの熱には耐えられずプラズマと化す。
原初の破壊が黒沼の暴威を打ち砕く。
(スキルレベルがアップしました)
(スキルレベルがアップしました)
(スキルレベルがアップしました)
(スキルレベルがアップしました)
(スキルレベルがアップしました)
(スキルレベルがアップしました)
(スキルレベルがアップしました)
(スキルレベルがアップしました)
(スキルレベルがアップしました)
(スキルレベルがアップしました)
(新しいスキルが解放されました)
耳鳴りがする。
視界が真っ白だ。
熱風に身体を破壊されている気がする。
すべての感覚が、白と熱に侵されて無に還った。
────
視界が晴れるとあたりの泥は干上がっていた。
カピカピに乾き焼けた大地に俺は寝ていた。
音も少しずつ戻ってくる。
爆心地はクレーターとなっていた。
コロッセオの直径と等しいサイズのクレーターだ。
俺はそのクレーターの端っこにいた。
クレーターの端から、中心を見下ろす。同時に……ソレの生存も少しずつ確かなものへと変わっていく。
「ダメ……だったか」
「ち、ちー……」
クレーターの底、溶岩の海のなか、焼け爛れながらも、蠢くダンジョンボスがいた。
邪教徒は半身を黒焦げにしながら、自らの崇めるメタルモンスターの生存に、歓喜の声をあげた。
「よっしゃあ! ひゃっははは!」
「……」
「ちー……」
「本当に死ぬかと思ったぞ、指男。だが、残念だったな。2,500万のHPを削れば倒せると言ったが、この私に蘇生を可能にする
蘇生だと……そうだった、その可能性も、あるのか。
最悪だ。
すべてを出し尽くしたのに。
倒せなかった。
「英雄、こんなところにいたのか」
「え? あ。おじいちゃん。勝手にボス部屋入ってきちゃ危ないよ」
祖父が霧を抜けて入って来た。
いつの間にかメタリックな感じはなくなっている。
もしかして、おじいちゃんも鋼山と同じようにもとに戻れるようになったのだろうか。
「メタリックじゃないって? 腹に力入れたら戻れたぞ」
らしいです。
もういいや、それで。
「すまんな。待っていろと言われたが、待ってられなくて。うお。なんだ、あの妖怪は」
「おじいちゃんをここへ引き込んだ奴だよ。たぶん」
「なるほど」
「おじいちゃん、俺ダメなやつだよ。ここ一番でキメ切れなかったや」
「そうか。まあ、誰でも失敗はあるものだ。またやり直せばいい」
「でも、もう無理なんだ。今ので全部使い切ったんだよ」
「そうか。だがな、失敗は悪いことではない。英雄、お前はえらい。チャレンジしたのだろう。ならえらい」
「おじいちゃん……」
「若い者は何事も気にせず、やりたいことに挑戦すればいい。失敗を恐れずにな。失敗した時になんとかするのは──年寄りの仕事だ」
「ぇ?」
どこからともなくロケットランチャーを取り出す祖父。
構えて、狙いをつける。
「孫が世話になったな、冥途の土産にもってけ──メタルロケットランチャー!」
たぶんメタルは関係ない。
発射。
ダンジョンボスに命中、大爆発を起こした。
「はっはは、バカめ、RPG-7だと? そんな通常兵装でダンジョンモンスターを傷つけられるわけがない! それにこいつにはメタル装甲が──」
ダンジョンボスが砕け散る。
「ッ?! ば、ばかな?! ありえない、なんで通常兵装なんかで?! うわぁああ!」
邪教徒はボスに押し潰される。
即死はせず、猛熱に焼かれて苦しむ断末魔がボス部屋に響き渡った。
「あ、ありがとう、おじいちゃん」
「気にするな」
「それよく使い方わかったね……」
「映画で見たことあったんだ、この武器。ゾンビゲームでもボスにとどめを刺す時はいつもこれだからな」
「ここにボスがいるってわかってたの?」
「ん? いや、知らなかったな。ロケットランチャーは、家に持って帰って、仏壇に飾ろうと思って拝借したんだ。カッコいいから、婆さんも喜ぶと思った」
どこまでファンキーなんだよ。
おじいちゃん、最高にイカれてやがる。
「で、コレどこから持ってきたの?」
「さっきの部屋に置いてあったぞ。こやつら戦争でもする気だったのかもな。英雄も欲しいなら持ってきてやるぞ」
「いや、いらない」
流石は赤木家の祖父。
もはや何も言うまい。
ボスを倒したことで光の粒子が集まってくる。
ピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコン!
最高に気持ちがいい。
────────────────────
赤木英雄
レベル145
HP 243/20,128
MP 0/3,520
スキル
『フィンガースナップ Lv4』
『恐怖症候群 Lv3』
『一撃 Lv6』
『鋼の精神』
『確率の時間 コイン Lv2』
『スーパーメタル特攻 Lv6』
『蒼い胎動』
『黒沼の断絶者』
装備品
『蒼い血 Lv3』 G4
『選ばれし者の証』G3
『迷宮の攻略家』G4
『アドルフェンの聖骸布』G3
────────────────────
素晴らしいです。
レベル145まで来ましたよ。
むむ。
なんだか、スキル欄が分厚くなったような気がしますね。
……あれ、待ってくださいよ。
あれあれれ、おかしいですね。
あれ、あれ、こうしてこうして、こうだから。
あれ、あれ、おかしいですよ、ひゃー。
すごい。
『一撃』が『一撃 Lv6』にメガシンカしてるじゃないですか。
そういえば、さっきアナウンスあったね。
光に飲まれてたせいで聞こえづらかったけど。
どれどれ。詳細を確認っと。
───────────────────
『一撃 Lv6』
強敵をほふることは容易なことではない。
ただ一度の攻撃によるものなら尚更だ。
最終的に算出されたダメージを4.5倍にする。168時間に1度使用可能。
解放条件 ボスを20,000,000(2,000万)以上のダメージを出して一撃でキルする
───────────────────
ひゃー。
なるほど。
Lv2とかLv3とか、途中にたくさんあったんだろうけど、全部すっとばして大人の階段一気に駆け上がっちゃったわけね。
にしても4.5倍ってヤバいな。最強じゃないこれ?
でも、修羅道さんいわくマックスLv10まであるだろうから、まだまだなんだろうなぁ。もっと頑張らないとだ!
ちなみに『スーパーメタル特攻』も『スーパーメタル特攻 Lv6』にすっとばして進化してるのですよ。
ダブル進化ですね。
ダブルオリンピック元気ですよこりゃ(?)
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『スーパーメタル特攻 Lv6』
強靭な盾は厄介な武器である。
されど絶対に貫けない訳ではない。
15秒間、相手の防御力を100%ダウンさせる。
168時間に1度使用可能。
解放条件 防御力100万を超える敵をキルする。または防御力が1万以上の敵を100体以上まとめてキルする。
───────────────────
こっちも凄まじいな。
100%っていう割合ダウンだから、通常の敵にはあんまり効果ないだろうけど、次にメタル系の敵が出てきた時には、もう勝ちですね。
これさえあればメタル無視できますもん。
そして、新しいスキルも増えていますね。
ああ、スキルたちの確認が忙しくて困っちゃうわ(歓喜)
───────────────────
『黒沼の断絶者』
黒沼からの侵略に抵抗した証。
あなたは世界を保つひとつの楔となった。
即座にHPとMPを最大まで回復させる。
720時間に1度使用可能。ストック2。
解放条件 黒沼のダンジョンボス討伐において英雄的に大きな貢献をする
───────────────────
おお。これはまた強い。
というか、普通にぶっ壊れてますなぁ。
正直、『蒼い血 Lv3』じゃ回復力が不足していた感があるから、まじで助かるよ。
でも、相変わらずの720時間かぁ……なんだろ、俺って重たいスキルにしか適性がないとかなのかな。
でも、ストック2って書かれてるね。
つまり、2回までは貯めておけるってことだろう。
うんうん、どれもこれも強い。
もう確認は終わったかな……って、あああ!
あることに気が付つきました。
『恐怖症候群』もLv3になってるじゃん!(※今気づいた)
どれどれ。
───────────────────
『恐怖症候群 Lv3』
恐怖の伝染を楽しむ者の証。
他者の恐怖を経験値として獲得できる。
Lv3では獲得経験値に3.0倍の補正がかかる。
───────────────────
あれ、解放条件がでないな(※新しく解放されたわけじゃないから出ません)
ふーん、でもまあ、最低なスキルに変わりはないな。
なんだよ、他人の恐怖を経験値とするって。
俺は他人を恐怖に陥れてまでレベリングする外道にはならなのさ!
いはやは、めっちゃスキル増えてしまいました。
「ちーちーちー!」
「あれ? シマエナガさん? またちょっとふっくら……されました?」
────────────────────
シマエナガさん
レベル29
HP 10/12,486
MP 10/11,563
スキル
『冒涜の明星』
『冒涜の同盟』
『冒涜の眼力』
装備
『厄災の禽獣』
────────────────────
やっべぇ……俺に向かってきた『黒沼の埋積した悪意』の経験値、一部シマエナガさんに中抜きされてんじゃないすか……。
このシマエナガさん、実は″中抜きシマエナガさん″だったのかよ(※そんな日本語はない)
いや、シマエナガさんの協力があったから倒せたのは間違いないんだけどさ……ていうか、ステータスが本当にやばいって。
なんでよ。
なんで、レベル29で、はやくもHPとMPが5桁の大台に乗ってるの。
やばい。
この子成長させたらやばい。
「ちーちーちー♪」
「ん~ちょうか、レベルアップできてうれちいでちゅか~♡」
「ち~♪」
ん〜まぁいっか。
うん。可愛いからね。
こんな可愛い子が世界を滅ぼすとかありえないっしょ。
でも、スキルだけはチェックしますよー(持ち物検査)
───────────────────
『冒涜の眼力』
世界への不正。
宇宙の中心の知識へ触れる。
あらゆる事象を解析し理解できる。
720時間に一度使用可能。
MP10,000でクールタイムを解決。
───────────────────
うーん、ヨシ!
おっけい。
『冒涜の眼力』なんていうものだから、視界内にいる生き物をすべて絶命させるとかだったらどうしようかと思ったよ。
見た感じ攻撃系スキルじゃないし、うんうん、まだまだ平気よ。
うん。大丈夫大丈夫。
俺だけで面倒見れるもん。
「ちーちーちー♡」
ただね、もう胸ポケット入れないからね。
今度からお腹に入ってもらうことにします。
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