とてつもない試練
「……おじいちゃん、そんな姿になって……! 俺が遅かったばかりに!」
「まあ、大したことじゃない」
「いや、大したことだから!」
「以前より体の調子がいい。ちょっと艶々してて硬くなったが、おかげでパワーがみなぎるんだ」
そう言って、祖父は拳で壁に穴を空けた。
パワーみなぎりすぎでは?
いや、本当に何があったんだよ。
「それじゃあ帰るか、英雄。そろそろ夕飯のカニ鍋をばあさんが作ってくれている頃合だ。正月といえばカニ鍋だ。カニ鍋」
この人タフすぎん?
まずは病院行こ?
「と、とりあえず、おじいちゃん、夕飯の前に、一応一本電話を入れてからにしようよ」
「カニ鍋」
カニ鍋食べたすぎてカニ鍋Botになっちゃったよ。
「俺のスマホ探してくれたら嬉しいなぁ」
「すまほか。どれどれ、さっき男のひとりが持っていたような気がするが……」
邪教徒たちの私物をあさる。
しかし、スマホは見つからない。
どこにあるんだろう。
「あれ、そういえば……」
思い出した。
そういえば、俺たちって邪悪な腕に掴まれてこのダンジョンに連れてこられたんだったよな……。あの腕は一体……。
おそるおそる振り返る。
すると、邪教徒の男がニヤニヤ笑みをうかべて、勝ち誇った顔で、奥へと逃げていくではないか。
いつの間にロープを抜け出したんだ!
というか、縛り方が甘かったか!
あの悪い顔……。
なにかよくないことをする気だ。
「おじいちゃん、ここにいて。シマエナガさん! 行きますよ!」
「ちーちー!」
「気をつけて行ってこいよ。すまほ、すまほ、カニ鍋」
男を追いかけてダンジョンの奥へ。
サングラスに3Dマップを表示する。
確かこの奥は……──例の広い空間、おおきなドームになっている場所だ。
男を追いかけていくと、通路の先で、悪い笑顔を浮かべたやつが、黒い門の向こうへ入っていくのが見えた。
黒くさび付いた、重厚な扉だ。
見覚えがある。
資源ボスの部屋がたしかこんな感じだった。
扉はほんのりと白い霧で包まれている。
霧には白い文字で『ダンジョンボス:黒沼に埋積する悪意』と書かれている。
文字をなぞる。
すると、純潔の白文字が、墨汁を牛乳に溢したかのように、徐々にどす黒い暗黒に侵食されていった。
文字が完全に黒くなると、門を封印していた霧が晴れて、なかへ入れるようになる。
俺はごくりと喉をならす。
肩のシマエナガさんは「ちー」と緊張感(?)のある声で鳴いた。
俺たちは互いにうなづき合う。
黒鉄の門を押し開いた。
中は3Dマップの通り巨大な空間となっていた。
ドーム状の空間だ。
コロッセオのようになっている。
だが、どこか様子がおかしい。
古代の遺跡のような雰囲気があるが、それは暗い沼のなかに沈んでいるのだ。
まるで経年劣化によって、繁栄の文明が崩壊し、今まさに、沼に底に沈み、秘密を抱いて消えようとしているかのようだ。
沼地の真ん中──ドーム空間の真ん中には、天から光が注いでいた。
雲の切れ間からそそぐ陽光。
神秘的だが、照らされている者が醜悪すぎて、とても喜ぶ気持ちにはなれなかった。
ボス部屋の中央に鎮座しているのは、触手をたずさえた巨大な怪物だったのだ。
8本触手があるのでタコのようであるが、それ以外にも黒い腕のようなものがたくさんウネウネしている。
タコ足だが吸盤がついているわけではない。
より恐ろしい、溶け、ふやけた人間が束なっている。
沼の底に埋積した遺体と暗い情念が、触手の怪物となって具現化したかのようだ。
ダンジョン入り口で祖父を引き込んだのは、こいつの黒い腕だったのだろう。
『黒沼に埋積する悪意』か。
なるほど、字面そのままのおぞましい怪物らしい。
「は、はは、お前悪いんだ。我らメタル柴犬クラブは、崇高な聖戦に挑もうとしていたのに……、指男、お前が邪魔をしたんだ……!」
邪教徒が怪物のすぐ近くにいた。
怪物は邪教徒には攻撃していない。
共生関係にあるのだろうか。
「だが、残念だったな。我々のメタルモンスター研究はすでに完成している……見ろ、この素晴らしい
リボルバー拳銃を取りだした。
「指男、お前が強いのはわかる、だが、このダンジョンボスだけは倒すことなど不可能だ。そして、外に連絡さえされなければ、我らの聖戦はつづく!」
「あっ、俺のスマートフォン」
「ははは、お前のスマホを私が押さえている限りこちらは優勢というわけだ!」
「ぐぬぬ、卑怯な手を」
「では、指男よ、私たちの邪神様の戦闘データをとるサンドバックとなってくれたまへよ。我々はダンジョン財団の誇る数多の強者どもを蹂躙せねばならない。ダンジョン財団の秘密兵器であるお前ならば、戦闘データを取る相手にふさわしい!」
邪教徒はリボルバーを触手の怪物へむける。
炸裂音がした。
火薬の爆ぜる音。
触手の怪物から蒼い血が流れる。
代わりに、撃たれた傷口を中心に、どんどんメタリックになっていく。
「まさか、その
「大正解だ、指男! 今までの試作品では
え? 嘘。まじ?
「そして『黒沼に埋積する悪意』はダンジョンボスだ! 素のステータスは高く、触手で叩くだけでATK1,000~1,200と言ったところか。HPは驚異の25,000,000(2,500万)ッ!!」
「2,500万……? ぇ?」
血の気が引いていく音が聞こえた。
スーッとという涼しい音だ。
待って待って。
防御力10万の鋼山は俺の指パッチンを完全無効化していたよな。
防御力と攻撃力は単純な引き算に近い関係ってことだ。
ATK - DEF = DMG
つまり、防御力100万って……
ATK - 100万 = DMG
常にこういうことかい?
なにその銃つよ。禁止だろ、禁止だよ、それ。余裕でレギュレーション違反。
ATK100万以上じゃないとダメージすら通らねえってやばすぎだろ……。
ていうか、それ以前にHP2,500万も訳わからねえけど。
数十人で安全に戦う前提ってことかい。これがレイドボス。もはや、他のモンスターのは比べ物にならないな。そのままの意味で次元が違う。
1階層のダンジョンボスってことは、以前挑んだ群馬のダンジョンの20階層にいたダンジョンボスよりかはずっと弱いんだろうけど……それでも、ひとりで挑むにはアホらしほど強い。
「貴様はここで終わるのだ! はは、っはっは、いっひゃひゃひゃひゃ! あーはあははははっは!」
邪教徒は高笑いしながら、触手の怪物の裏に隠れる。
怪物が沼に足を取られた俺を殴って来る。
直径3m、長さ80mほどの長大な触手が、直上から勢いよくふってきて、俺は叩き潰された。
死んだ。
そう思ったが、生きていた。
めっちゃ痛いけど。
首骨折れるかと思った衝撃だったけど。
沼の水を全身にかぶってどろっどろ汚れたけど。
なんとか生きてはいる。
レベルアップしていたおかげだ。
「ステータス……」
────────────────────
赤木英雄
レベル130
HP 8,302/15,529
MP 1,253/2,623
スキル
『フィンガースナップ Lv4』
『恐怖症候群 Lv3』
『一撃』
『鋼の精神』
『確率の時間 コイン Lv2』
『スーパーメタル特攻』
『蒼い胎動』
装備品
『蒼い血 Lv3』 G4
『選ばれし者の証』G3
『迷宮の攻略家』G4
『アドルフェンの聖骸布』G3
────────────────────
さっきはたしかHP9,152だったはず。
『蒼い胎動』で地味に回復している分を考えず計算すれば、ダメージが850ってところか。
強いな。
『アドルフェンの聖骸布』着てこのダメージだもんな……。
着てなかったら一撃HP1,000は持っていかれてるよ。
はじめてだ。
こんなマトモにダメージを喰らったのは。
もう一度、触手がふりおろされる。
モグラたたきみたいに、真上から潰された。
これクッソ痛いな。
てか、攻撃の間隔が地味に速い。
ぼーっとしてたらそれだけで削り切られかねない。
HP 8,302/15,529
↓
HP7,442/15,529
当たり所次第で若干ダメージは変わるか。
クソがよぉ、このフィールドずるいだろ。
泥に足を取られて、避けられねえじゃん。
「ダメージレースに付き合ったら、弾薬(HP)持ってかれる……できるだけ早急に──いや、一撃でぶっころすしかないか」
ちまちましたダメージはメタルのせいで意味がない。100万以下のダメージは全無効だ。
だったら、すべてを上回る高火力を叩き込むしか勝機はない。
「シマエナガさん!」
「ち~!」
シマエナガさんに新スキルをさっそく使ってもらう。
───────────────────
『冒涜の同盟』
世界への忠告。
冒涜的怪物は同盟者を見つけた。
同盟者の全ステータスを400%強化。
720時間に1度使用可能。
MP10,000でクールタイムを解決。
───────────────────
シマエナガさんが俺の頭に降りてきて、もふっもふのちいさな羽でぺしぺし叩いてくれます。
すると、体の底から猛烈な力が湧き出て来ました。
同時にどす黒いオーラも溢れて来ます(出てこないでぇ……)
可愛らしいモーションとは裏腹にエフェクトが邪悪すぎるよぉ。
「ちーちーちー!」
「そうですよね、俺たちなら出来ますよね」
敵はレイドボス。
遥かに巨大で、遥かに強大。
だが、何とかなる。俺たちならこのとてつもない試練も乗り越えられるはずだ。
─────────────────────
こんにちは
ファンタスティックです
リクエストがありましたので、シマエナガさんを描いてみました。
指男との出会いの場面です。
下記のリンクからご覧になれます。
https://kakuyomu.jp/users/ytki0920/news/16816927859607364228
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