悪のメタルモンスター研究家・鋼山鉄郎



 メタルモンスター研究家……ですか。


「名を鋼山鉄郎はがねやま てつろうという」


 メタルモンスターを研究するためだけに産まれて来たような名前しやがって。


「どうして人間がこんな場所にいるんだ」

「わからないだろうな、貴様のようなアマチュアには。む? 待てよ……」


 鋼山はふと顎に手を当てる。


「貴様、普通にダンジョンに入ってきているな? なぜだ。探索者でなければ生命活動を維持する事すら困難だと言うのに」

「え? そうなの?(※初知り)」

「すっとぼけるな。わかったぞ。貴様、さてはダンジョン財団の手先だな! くっくっく、そうか、ついにダンジョン財団は我ら『メタル柴犬クラブ』を見つけたか!」

「あの……なんか話が長くなりそうなので、とりあえずメタル柴犬だけ倒していいですか。経験値が欲しいので。時間もないし」

「ははは、馬鹿め、メタルの防御力を知らんなぁ~? そこいらの探索者の攻撃力では傷すらつけられないことを知らないなぁ~?」


 ──パチンッ


 メタル柴犬が砕け散った。


「………………ぇ?」


 経験値をたくさん吸収して、さあ気持ちよくなろう──と思ったら、シマエナガさんがまたしても飛び出してきて、経験値を横取りしていきます。


「ち~♪」


 あー、これは完全にやってますね、この厄災の禽獣さん。

 めっ! そういうの、めっ! ですよ。


「……ば、かな……ありえ……ありえない、私のメタル柴犬の防御力を、破るなんて……」


 ん、あれ、このメタル柴犬ってこの人のモンスターだったのか?


「メタル柴犬の防御力がいくつかは知らないが、俺の指パッチンの方が強いみたいだ」

「何者だ……貴様……何者だ!」


 白衣の懐から銃を抜いて向けてきます。

 あれぇ……なんで銃なんか……さては、この人、悪い人だな?


「銃は効きませんよ。たぶん」

「うるさい黙れ! 何者だと、聞いているんだ!」


 何者って聞かれてもな……。

 あ、待てよ。ちょうどいい名乗りがあった。

 サングラスの位置を直し、指先にふっくらしたシマエナガさんを乗せる。


「俺か。俺は……指男ゆびおとこだ」

「ッ!!」


 鋼山の表情が青ざめていく。

 膝が笑い、指先は痙攣し、歯がガチガチと不快な音を鳴らす。


「お、おまえ、が……、あの指男……ッ!」

「お前は敵を間違えた(とか言いちゃったり? へっへ、ちょっとカッコイイかも。ついでにやたらサングラスの位置直すのも俺的カッコいいポイントですよん)」

「ち、違うんだ……ッ! まさか、まさか、あれが、指男の、親族だったなんて、知らなかったんだ……!」

「あんたが誘拐したような口ぶりだ。いや、したんだろうな」


 指を鳴らす。

 鋼山の顔横の壁を、爆破した。


 鋼山はさびついた歯車のように動きで、カクカクと首を動かして、すぐ横の破壊を見て、腰を抜かした。銃が手から滑り落ちる。


 なんかすっごいビビってるし、今ならなんでも言う事聞いてくれそう。

 よしよし、ならば、俺からの要求は決まっている。


「あんたメタル柴犬を操れるみたいだな」

「な、なんだ、なにが、望みなんだ、指男……」

「俺の望みは──」


(デイリーミッションが更新されました)


「おっと、失礼。デイリーの時間だ」

「……へ?」


 ──────────────────

 ★デイリーミッション★

 毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『日刊筋トレ:腕立て伏せ その2』


 腕立て伏せ 0/1,000


 継続日数:55日目 

 コツコツランク:ゴールド 倍率5.0倍

 ──────────────────


 オーケー、理解した。


「ふんっ、ふんっ、ふんっ」

「……(なんでいきなり腕立て伏せを……っ、頭がおかしいのか!)」

「1,000回終わるまでそこを動くなよ」

「は、はい……(私はなにを見せられているんだ)」


 ──────────────────

 ★デイリーミッション★

 毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『日刊筋トレ:腕立て伏せ その2』


 腕立て伏せ 1,000/1,000


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 先人の知恵B(50,000経験値)

   スキル栄養剤B(50,000スキル経験値)

   スキル栄養剤C(10,000スキル経験値)


 継続日数:56日目 

 コツコツランク:ゴールド 倍率5.0倍

 ──────────────────

 

 よし終わったな。


 

 ────



 ──鋼山鉄郎の視点


 鋼山は意味不明すぎる状況に恐怖していた。


(指男、謎の人物だと言われているが、まさかここまで理解しがたいなんて! こいつの行動がまるで読めない……!)


 指男は腕立て伏せを終えると、熱い吐息をブワーっと吐きだした。

 汗をぬぐい、コートを脱ぐ。

 熱く火照った肌を晒し、腕には血管を浮き上がらせる。

 年始のこの季節は、空気が大変に冷えている。

 そんななか、猛烈に1,000回も腕立てをした。

 そのせいで、指男が着ていたシャツは汗で濡れ透けてしまい、たくましい筋肉が浮き上がってしまっていた。


 激しい鍛錬、数々の精神修行、そしてダンジョン生活。

 これらのストイックな日々は、指男を古代ギリシアの彫刻のようなに美しい肉体へ導いていた。


 この指男ゆびおとこ、スケベ過ぎる。


「さて、話をしようか」

「……っ、い、一体なんの話を……」


 シャツをボタンをひとつずつ空けていく指男。

 鋼山はその意味を理解する。

 こいつは間違いない。だ。

 男を喰う男。マッチョなのが証拠だ(※偏見です)


「ひいいい!! 頼む、許してくれ、指男……!」

「(あ)つめろよ、硬いの(※メタル柴犬)」

「『詰めろよ硬いの』……!?(こいつギンギンに硬いのを詰めこんで、俺のことをぶちお〇す気かッ?!)」

「うちの子が成長したがってるんだよ。ほら見ろ、白くてふっくらしちゃって(※シマエナガさんがレベルアップしたがってる)」

「うちの子?!(こいつ自分のイチモツのことを白くてふっくらと……! 黒くてガチガチの間違いだろう! いったいどんな精神構造をしてるんだ、とんでもない変態じゃないか!)」

「じゃないと、どうなるかわかるよな?(人差し指を掲げるジェスチャー)」


(今、私はようやく理解した……! 指男という異名は、おそらく男子たちを黒くてガチガチの指だけで、果てさせてもてあそ異常性癖アノマリーゆえについた名前……! こいつはダンジョン財団のSCCL適用異常物質だって噂を聞いてたが、そのとおりだったんだ!)


「やられてたまるか……メタルモンスターを研究して幾星霜、その特性を解明し、神秘を理解したメタルモンスター研究家の底力見せてやる……相手が指男だろうと私は知力と体力でもって立ち向かう!」


 鋼山は注射器をとりだした。


「神秘のチカラを舐めるなよ、指男!!」


 針を躊躇なく刺した。

 じゅるじゅると、銀色の液体が鋼山の体内へ入っていく。

 注射した首のあたりから急速にメタル化が始まった。


「まさか、その薬を使ったらメタル化するとかじゃ……」

「大正解だ! はははは! 試作品だが、この異常物質アノマリー『メタル剤』を使えば、防御力10が獲得可能なのだ!」

「っ、10万、だって?」

「怖気づいたか、指男!」


 メタルになり、ハイテンションで拳を打ち合わせる鋼山。

 ガヂンッ! ガヂンッ! っと重厚な音が響き、火花が散る。


「ここを通りたければ、私を倒していけえ! もっともダメージを与える事すら──」

「エクスカリバー」


 爆発が鋼山の顔面を襲う。

 通路の壁が砕け、沼のような足場が一瞬で干上がってしまった。

 しかし──


「こ……こそばゆいっ! まったく効かんなっ!(訳:死ぬかと思った)」


 鋼山は立っていた。


「ふはは、凄まじい攻撃だったぞ、指男。それがお前の全力なのだろう。並みの資源ボスなら一撃で屠るほどの威力。生身で受けたら跡形もなく吹き飛んでいたところだ」

「……」

「誇るがいい。それほどの高みに到達した探索者も多くはないだろう。だから、殺すときは敬意をもって楽にころしてやる! いくぞ、メタルダーッシュ!」


 駆けだす鋼山。

 メタル化は鈍重になるように思われがちがだ、実際は真逆で、めちゃめちゃ素早さが上昇する。


 サッと指男に近づき「メタルパンチ!」と強力な一撃をお見舞いする。


「ははは、ATK600は下らない必殺の拳だ!」


 打ち込まれるメタルの拳。

 指男は──ぺしっと、普通に受け止めた。


 鋼山のレベルは『75』。

 メタル柴犬クラブでも屈指の武闘派だ。

 ただ、この時点で指男のレベルは『112』あった。


 シンプルなレベル差だ。

 筋力、反応速度、ともに指男の素のステータスが、鋼山のステータスを大きく上回っているのだ。


「……ぁぇ?」

「ATK10万のフィンガースナップだったのだが。完全に無効化したか。それじゃあ次はもう少し火力強めにいくぞ」

「ぇ、ぇ? ちょ、ま、あの、あれ? もしかして、もっと火力出せる感じですか……指男、さん……?」

「140万くらいまでなら経験済みだ」

「……(青白い顔)」

「とりあえず15万くらいでで叩いてみるか」

「……スッ(メタル化解除)」

「それ戻れるのかよ」


 鋼山は乾いた笑いをうかべ、敗北を悟る。


 だめだ。

 これ勝てねえ。──と。


「あの、その……調子乗ってすみませんでした……先、行っていいですよ……」


 ぺこぺこ謝る鋼山。


「謝れば済むと思ってるのか。俺はそういう無責任な連中が嫌いなんだ(兄貴みたいな、な)。……とってもらおうか」

「せ、責任?! っ、ゆ、許してください、なんでもしますから! あっ……」

「ん?」


(私ははじめて知った。人は本当に恐ろしい者を前にした時、なんでもしますから、っとつい言ってしまう生き物なんだ、と……)


「今、なんでもするって……」


 そっと近づいてくる指男。

 後ずさる鋼山は地獄を予感する。


 目の前の恐ろしい異常性癖使いが、このあと魔の指で鋼山をいじくり倒し、のたうちまわらせ、精神を侵され、発狂することは自明だ。

 彼は決断した。

 人の尊厳を失うくらいならば、今ここで意識を手放そうっと。。


(ダンジョン財団、恐ろしい連中だ。こんな異常性癖アノマリーを隠していたとはな)


 奥歯に仕込んでいた仮死薬をかみ砕く。

 直後、泡を吹いて鋼山は気を失った。




 ────



 ──赤木英雄の視点



 あえ? なんか気絶したくさくね?


 まじかよ。メタル柴犬を集めてもらおうと思ったのにさ。

 責任とれよなぁ。


 んーとりあえず、倒したってことでいいのかな。

 なんか金目の物ねえかな(死体漁りは基本)

 おやおや。

 これは彼がいま使っていた異常物質アノマリー『メタル剤』ではありませんか。

 こんなもの没収です。


 『メタル剤』の注射器を1本回収する。


「ん?」


 どこからともなく足音が近づいてくる。

 見やれば大量のメタル柴犬がやってくるではないか。

 その数、30体はいる。

 飼い主のダウンに集まって来たということだろうか。

 どのみち、歩く経験値が自分たちから寄ってきてくれたので、結果オーライだろう。

 自分の足で探すと時間がかかるから、取りこぼさずに倒すとなると、下手したら外の世界で1年くらい経過しちゃいそうだし。


「これは美味しそうだ」

「ちーちー♪」

「シマエナガさん、一応、飼い主は俺なので経験値の配分は8:2でいいですよね?」

「ちーッ!!」

「……7:3ですか?」

「ちーっ!」

「……6:4?」

「ちー! ちー!」

「……5:5?」

「ち~♪」

「なんだか腑に落ちませんけど、とりあえず、エクスカリバー!!」


 ありがたくみんな消し炭に変えさせてもらった。


 ピコン! ピコン! ピコンピコピコン!

 ピコピコピコピコピコピコ!!


 ────────────────────

 赤木英雄

 レベル128

 HP 10,852/14,013

 MP 1,323/2,493


 スキル

 『フィンガースナップ Lv4』

 『恐怖症候群 Lv3』

 『一撃』

 『鋼の精神』

 『確率の時間 コイン Lv2』


 装備品

 『蒼い血 Lv3』G4

 『選ばれし者の証』G3

 『迷宮の攻略家』G4

 『アドルフェンの聖骸布』G3


────────────────────

────────────────────

 シマエナガさん

 レベル18

 HP 10/4,920

 MP 10/4,023


 スキル

 『冒涜の明星』

 『冒涜の同盟』


────────────────────


「ち~♪」

「へっへへ、レベルアップ……レベルアップ……イヒヒ」


 山盛りの経験値……ご機嫌な夕食だ。


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