硬いダンジョン
「イテテ……」
地面に頭をぶつけた。
顔をあげれば、そこは暗くじめっとした通路だった。
あたり一帯が、湿った沼地のようになっていて、油断したら足を取られそうだ。
ただ、通路迷宮のようにつづいているので、ダンジョンではあるのだろう。
群馬のダンジョンとはだいぶん趣が異なるが。
「おじいちゃん? おじいちゃん!」
呼んでも返事がない。
もっと深いところへ連れ去られたのか。
なんなんだ、このダンジョンは。
5年前にいきなり現れたとか言ってたけど……まるで意味不明だ。
そもそも、ダンジョンってどうやって発生するんだよ。
あれ? よくよく考えたら俺ってダンジョンの事なにも知らないな。
「ちーちーちー」
「シマエナガさん。ついてきてくれたんですね」
「ち~」
「出口はどこにあるかわかりますか?」
「ちーちーちー」
シマエナガさんが鳴きながら頭の上を旋回しはじめた。
出口を見つけられないようだ。
今、ここへ降りてきたたばかりだと言うのに、不思議なものだ。
ありえない現象を理解することはできる。
最近まで知らなかったことだが、この世界には『ムゲンハイール』と言う異空間を生み出す装置が実在する。
であるならば、このダンジョンは異空間にあると考えれば納得はできるというものだ。
入るのは簡単だが、出るのは難しい、とか?
デイヴィ・ジョーンズの墓場みたいな場所だ。
「どのみち、俺だけで帰る訳にはいかない、か。おじいちゃんのこともあるし、進むしかない。装備を持ってきておいて本当に良かった」
「ちーちー」
「流石はシマエナガさん。慧眼でしたね」
「ち~♪」
シマエナガさん、ふわっふわの白いお胸を反らして自慢げです。
────────────────────
赤木英雄
レベル111
HP 8,392/8,392
MP 1,571/1,571
スキル
『フィンガースナップ Lv4』
『恐怖症候群 Lv3』
『一撃』
『鋼の精神』
装備品
『蒼い血 Lv3』 G4
『選ばれし者の証』G3
『迷宮の攻略家』G4
『アドルフェンの聖骸布』G3
────────────────────
あれ。シマエナガさんが俺の装備としてカウントされてないですね。
「ちーちーちー」
「あれ、シマエナガさん、首になにかはまってますよ。え? わざと? ああ、なるほど『厄災の禽獣』を首輪にしてらっしゃるんですね。俺が指輪をはめてないから、俺の装備扱いじゃないと」
「ち~」
「む、もしや、ダンジョンキャンプの警報装置的なものを警戒して、いつでも身軽に動けるようですか?」
「ちーちー♪」
「うぅ……賢いっ! うちの子は賢すぎます! そして可愛い!」
「ち~ち~ち~」
もうこの子可愛すぎます。
「現状、応援は望めないよな。おじいちゃんを置いて脱出するわけにはいかない。となると、やっぱり……進むしかないか。シマエナガさん、こちらへ」
シマエナガさんを胸ポケットに入れて『迷宮の攻略家』──サングラスをかける。
レンズ裏の黒面に3Dマップが構築され表示された。
おかしいな。
モンスター頻出エリアと宝箱の位置が表示されない。
もしかしてモンスターも宝箱も存在しない?
そんなダンジョンありえるのだろうか……。
とはいえ、もしモンスターがいたとしても、今は悠長に稼いでいる場合ではない。
「おじいちゃん、今行くから」
俺はマップを頼りに、一階層を走りはじめた。
目指すのは奥まったところにある怪しげなドーム空間だ。
まるで資源ボスと戦った時みたいなデカい空間がある。
いかにも怪しい。
「ちーちー!」
「モンスターか。いるじゃないか」
足首ほどの高さの柴犬を発見した。豆柴っていうのかな。
サイズからして1階層のモンスターだ。
おかしな点をあげるとすれば一つ。
なんだかとってもメタリックなことだ。
光沢があって、とっても艶々している。
だが、構うことはない。
モンスターは灰に変えるのみ。
「カリバー」
HP1を消費して、ATK100の爆発をぶつけた。
1階層のモンスターならこれで簡単に
しかし──
「なに、死なないだと……!」
柴犬──否、メタル柴犬はびくともしない。
スーパーアーマーに近いものを感じるくらいビクともしてない。
爆発を頬で受けて「なんですか?」と小首をかしげるほどだ。
硬いだ。ありえないほど硬い。
なんなんだ、このダンジョンは。
1階層のモンスターじゃないのか。
それとも、大きさでモンスターの強さを測っていた俺の物差しが間違っていたのか。ん、ありえる。思えば、俺ってまだ全然ダンジョンのこと知らないし。
「わかった。初心にかえってどれだけ体力があるか測ってやる」
俺は両手指パッチンを開帳し、秒間7回の『フィンガースナップ Lv4』を撃ちまくる。
以前は秒間6回が限界だったが、トレーニングが俺を進化させた。
威力は固定──HP1 ATK100
「カーリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリーバデルチッ!」
息もつかせぬ45連射。
合計ATK4,600を叩きこんだ。
「ちーちー!」
「なっ」
立ってた。
普通に立っていた。
なんなら首の裏を後ろ足でかきかきし始める始末。
あ、ありのまま今起こったことを話すぜ。
俺は足首ほどの高さしかない子犬へ、大人げなく46発の爆撃をしかけて木っ端みじんにしたと思ったら、いつの間にか俺のHPだけ減っていた。無論、相手は無傷だ。
これは高HPとか、スーパーアーマーとかちゃちなもんじゃ断じてねえ。
「なんだ、何が起こってる……無傷、ノーダメ……無効化? 俺の攻撃を無効化? それはつまり……あのメタルに秘密があるのか?」
メタル、金属……。
ん。もしかして、こいつ防御力がめちゃくちゃ高いとか?
思えば俺の攻撃はATKつまり、攻撃力で換算されてる。
ATK100の攻撃を放ったからと言って、ダメージ100とは限らない、のか?
もし防御力──DEF100あったら相殺されてダメージ0になるんじゃないか?
俺は十分な攻撃力を持たせるためにHP200 ATK20,000で柴犬を爆破した。
瞬間、メタル柴犬は砕け散り、膨大な量の光の粒子となった。
ピコンッ!
「あ。レベルあがった」
つい昨日1レベルあがったばかりなのに。
100レベを越えてからは流石にレベルアップしづらくなっているのに、こうも容易く、たった1体でレベルがあがるとは。
もしや、メタル柴犬、おぬし経験値量がすごいな?
なるほど。
ダンジョンによってモンスターの性質が変わるとな。
そして、このダンジョンはメタル柴犬というボーナスモンスターが出現するダンジョンなんだ。
「やっべぇ、おじいちゃん助けるよりレベリングしたくなってきた……」
「ちーちーちー!」
「っ、そ、そうだよな、流石にそれは人道的に許されないよな。わかってますよ、シマエナガさん」
俺は祖父を助けるため、ダンジョンを駆け回った。祖父を助けるため、ね。
「あれ、おかしいな、メタル柴犬いないぞ……」
「ちーちーちー!」
「ち、違う違う! 本当におじいちゃん探してますって! あっ!!」
「ちー?」
「メタル柴犬発見ッ! 必滅のエクスカリバーッ!」
「……ちぃ」
メタル柴犬を爆破。
膨大な経験値が一気にこっちへやってくる。
イッヒヒヒ、さあ、はやくおいで経験値ちゃん。
俺を最高に気持ちよくしてくれよ、うひゃひゃひゃ。
ああ、だめだ、まだレベルアップしてないのに気持ちよくなってきた!
「ちーちーちー!」
「し、シマエナガさん?!」
突然、シマエナガさんが俺の胸ポケットから飛び出して経験値へ飛び込んでいった。
ピコピコピコピコ、ピコピコ!
「レベルアップの音? あれ、でも俺は気持ち良くないな……なんだ、今の音……? とりあえず、ステータス」
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赤木英雄
レベル112
HP 8,392/8,650
MP 1,571/1,652
スキル
『フィンガースナップ Lv4』
『恐怖症候群 Lv3』
『一撃』
『鋼の精神』
装備品
『蒼い血 Lv3』 G4
『選ばれし者の証』G3
『迷宮の攻略家』G4
『アドルフェンの聖骸布』G3
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おかしいな。
あんなに派手にレベルアップした音が聞こえてたのに、ステータスは特に変わってない。
なにが起こっ……………ん?
「ちーちー♪」
「シマエナガさん……ちょっとふっくらしました?」
シマエナガさんが大きくなったような気がします……。
ふわふわが増してます。
これは”でぶシマエナガさん”という新しいジャンルなのでは……かあいい……。
ふっくらしたまま俺の胸ポケットに戻ってくる。
キッツキツです。パンパンになっていらっしゃいます。
「もしかして……ちょっとステータス見せてくださいねっと」
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シマエナガさん
レベル10
HP 10/1,420
MP 10/1,852
スキル
『冒涜の明星』
『冒涜の同盟』
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成長している?!
しかも、スキルまで増えていらしゃる?!
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『冒涜の同盟』
世界への忠告。
冒涜的怪物は同盟者を見つけた。
同盟者の全ステータスを400%強化。
720時間に1度使用可能。
MP10,000でクールタイムを解決。
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やばいじゃん……もうやばいよ……。
なにがやばいってスケールがさ……400%とか720時間とか、MP10,000とかさ、いろいろとおかしいところが垣間見えるんだよね……。
中身だけどんどん『厄災の禽獣』になってくな……。
「ちーちーちー♪」
「うーん、俺、最後まで面倒見れるかなぁ……」
ちょっと自信なくなりそうです。
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