厄災の禽獣シマエナガさん


 

 俺はここで死ぬ。

 だって、厄災の禽獣が指に乗ってるんだもん。

 そりゃ死ぬよ。誰だって死ぬ。この状況から抜け出せるのはジェイソン・ステイサムか、キアヌ・リーブスくらいだろう。


 グレード6て……神器級の異常物質アノマリーやん。

 つまり、ホンモノだよ。

 この可愛くて白くて、ちいさくて、ふわふわしてて、可愛くて白くて(大事なので2回言った)、口に入れたくなる子は世界を滅ぼしてますよ。前科持ちです。はい。


 つまり、こんな恐ろしい野鳥が生息する北海道は、世界の終わりがはじまる場所と言える。日本って恐ろしい地域が多いね。


「あの……この指輪返すんで勘弁してくれませんかね……MP1,000勝手に使って出てきたことも不問にしますので、ここら辺で見逃してくれたり……」


 俺は正座して、右手の指先に止まったシマエナガ氏のご機嫌をうかがう。


 今のところ襲ってくる気配はない。

 全力で走れば逃げられるのではないだろうか。

 そう思い、俺はシマエナガ氏をそっと地面に下ろし、走りだした。

 

 普通に飛んで追いかけてくる。

 あのちいさな可愛らしい瞳が言っている。


 『お前を殺す、今、ここで』──と。


「うわぁあああああああ!!! 誰かぁあああああああ───!!!!!! 助けてくださいィィ!!!!!!!! ボスですよォォォオオオ!!!!!」


 大声を出して12階層を駆け抜ける。

 しかし、探索者がどこにもいない。


 そういえば、レイド戦が終わったからみんな引き上げたんだ!


「くっ! ここでやるしかないのか!」


 グレード6神器級の異常物質アノマリーから召喚された世界を滅ぼすと言われる凶鳥。


 明らかにやばい。

 RPGゲームで序盤に出てくるやたら強いモンスターで、レベルが低いうちに間違えて戦闘してしまったら、99.8%くらいの確率でパーティ全滅させられるタイプのモンスターに出会ってしまった気分だ。


 この可愛くて一見弱そうな見た目。

 知ってる知ってる。

 こういうマスコットみたいなのがバカ強い流れは履修済みだ。


 パタパタと頑張って羽を動かし、懸命に飛んでくるシマエナガ氏を爆破する。

 だめだ、まだ追いかけてくる。

 本格的に迎撃しなければいけない。


 ジュラルミンケースを放り投げ、両手撃ちを開張し、秒間6回 HP300 ATK30,000の『フィンガースナップ Lv4』を連続で放った。


 シマエナガは高速で移動して、爆破を掻い潜って飛んでくる。


 馬鹿なッ?! 命中率100%のはずなのにッ?!

 命中率100%は絶対に当たるって意味だッ!

 命中率100なら、ポケモンでも絶対当たるんだッ!

 避けられるわけがないッ!


 っ!


 わかった、こいつ避けてるんじゃない!

 当たってはいるんだ!


 よく見たらシマエナガは爆撃を避けている訳ではなく、ちゃんと喰らっているらしく、爆風に流されているだけだった。


 だが、結果として、もっとやばい事実が発覚してしまう。


 つまり、さっきからATK30,000を連続で叩き込まれていて、まったくビクともしていないということだ。


 『蒼い血 Lv2』を残る19回分全部打つ。


────────────────────

 赤木英雄

 レベル110

 HP 7,369/8,115

 MP 2/1,499


 スキル

 『フィンガースナップ Lv4』

 『恐怖症候群 Lv3』

 『一撃』

 『鋼の精神』


 装備品

 『蒼い血 Lv2』 G3

 『選ばれし者の証』G3

 『迷宮の攻略家』G4

 『アドルフェンの聖骸布』G3

 『ムゲンハイール ver3.5』G4

 『厄災の禽獣』G6


────────────────────


 すべてのHPを使う。

 今できる全霊の攻撃。


 ────────────────────

 赤木英雄

 レベル110

 HP 1/8,115

 MP 2/1,499


 スキル

 『フィンガースナップ Lv4』

 『恐怖症候群 Lv3』

 『一撃』

 『鋼の精神』


 装備品

 『蒼い血 Lv2』 G3

 『選ばれし者の証』G3

 『迷宮の攻略家』G4

 『アドルフェンの聖骸布』G3

 『ムゲンハイール ver3.5』G4

 『厄災の禽獣』G6


────────────────────


 この一撃で倒さなければ、どのみち殺される。

 ならば、ここで全てを出しきる。

 これを使う時が来た。


 ───────────────────

 『一撃』

 強敵をほふることは容易なことではない。

 ただ一度の攻撃によるものなら尚更だ。

 最終的に算出されたダメージを2.0倍にする。168時間に1度使用可能。

 ──────────────────

 

 HP 7,368 ATK 736,800


 ×2.0


 = ATK 1,473,600(147万3千600)

 

 指に掛かる摩擦がとんでもない。

 歯を食いしばり、力を込める。

 だめだ、動かない。指を鳴らせない。

 なおも全力で擦ろうとする。親指の腹の皮が破けた。

 血と肉が擦れ、蒼白い火花とまじり、鮮やかな紅となる。


 ダメだ。

 指パッチンが出来ない。

 まるで金属の延べ棒を指でつまんで曲げろと言われているかのように硬い。


「だが、ここで、ここで、やらないと……ッ! 動け、動け、動けぇぇえッ!」


 シマエナガは目の前まで迫ってきている。

 今ここで、今ここでやらなくて、一体全体いつ次があると言うんだッ!


「エクスッ、カリバ、ァア──ッ!!」


 軽やかな音色が響き渡る。


 ──パチンッ


 直後、厄災の禽獣もろとも通路を赤熱が包み込みんだ。

 七色に輝いたかと思うと、空気とたわみ、光が歪み、未曾有の大爆発を起こした。


 ダンジョンが溶解して、向こう30mまで真っ赤な溶岩の湖と成り果てた。

 

────────────────────

 赤木英雄

 レベル110

 HP 0/8,115

 MP 2/1,499


 スキル

 『フィンガースナップ Lv4』

 『恐怖症候群 Lv3』

 『一撃』

 『鋼の精神』


 装備品

 『蒼い血 Lv2』 G3

 『選ばれし者の証』G3

 『迷宮の攻略家』G4

 『アドルフェンの聖骸布』G3

 『ムゲンハイール ver3.5』G4

 『厄災の禽獣』G6


────────────────────


 HPが尽きた、か……。

 ああ、やっぱり。

 血が出てたからHP削れてるとは思ったんだよ……くそ……ここ、まで、か……よ……──


「ちーちーちー」


 俺が終わる瞬間、凶鳥の声が聞こえた。

 流石は、世界を終わらせる獣。

 俺の全霊を受けようと、まるでダメージを受けていないようだ。




















 ────








「ちーちーちー」

「?」


 目が覚めると、俺はダンジョンで寝ていた。

 横たわる俺の胸のうえでは厄災の禽獣シマエナガが、羽を休めており、俺を見て首を傾げていた。


 HPは?

 ゼロになったはずじゃ……。


────────────────────

 赤木英雄

 レベル110

 HP 1,000/8,115

 MP 2/1,499


 スキル

 『フィンガースナップ Lv4』

 『恐怖症候群 Lv3』

 『一撃』

 『鋼の精神』


 装備品

 『蒼い血 Lv2』 G3

 『選ばれし者の証』G3

 『迷宮の攻略家』G4

 『アドルフェンの聖骸布』G3

 『ムゲンハイール ver3.5』G4

 『厄災の禽獣』G6


────────────────────


 復活してる……それも、HPが1,000に……。


 一体何が起こったのだろうか。


「ちーちーちー」

「厄災の禽獣……お前が助けてくれたのか?」

「ちーちー」


 襲ってくる気配はない。

 俺を敵だと認識していないのか?

 いや、それどころか安心しきってる?

 目を瞑って睡眠体勢に入ろうとすらしているし……一体なにが?


「ちーちーちー」


 そうか。

 俺を殺そうとしていた訳じゃなかったのか。


「ん、ウィンドウが出てる……」


 シマエナガに殺されかけてると思って必死だったので気が付かなかったが、俺の顔の横に注意勧告が出ていた。


(眷属モンスターへの攻撃は無効化されます!)


 眷属モンスター……眷属ってことは、ペットとか、配下とかって意味だよな?

 もしかして、厄災の禽獣は俺のこと主人として認めてくれたと言うことか?


 ていうか、俺が今まで攻撃しまくってたの全部、無効化されてたのか。

 どうりで全然効いてないと思ったよ。ビビるわ。


 もう一度、『厄災の禽獣』の指輪を指でなぞって詳細を開く。


────────────────────

 『厄災の禽獣』

 かつて世界を滅ぼした凶鳥。

 あなたは厄災の主人となった。

 厄災の禽獣は強靭な精神を認めた。

 世界を滅ぼすも、続けるもすべて自由だ。

 消費MP1,000 厄災の禽獣を召喚する。

 解放条件 『鋼の精神』を取得している。────────────────────


 あれ。

 なんか説明変わってますね。

 解放条件……パワー習慣で手に入れた『鋼の精神』のおかげで、シマエナガさんを仲間にできたということか。

 

「もしかして、シマエナガさん、最初から俺のこと認めてくれてたんですか」

「すや〜」


 眠っていらっしゃいます。

 とても可愛らしいので恐縮しながら撫でさせてもらいます。

 すると、シマエナガさんのステータスが現れました。


────────────────────

 シマエナガさん

 レベル0

 HP 10/10

 MP 10/10


 スキル

 『冒涜の明星』


────────────────────


 あ、名前、シマエナガさんになってる……俺が呼んでたせいか……ん、シマエナガさんなんだかイカツイスキル持ってますね『冒涜の明星』ですか。

 どれどれ。ちょっと見せてくださいな、っと。


 ───────────────────

 『冒涜の明星』

 世界への叛逆。

 暗い世界を荒らす導きの明星。

 死亡状態を解決し、HPを1,000与える。

 720時間に1度使用可能。

 MP10,000でクールタイムを解決。

 ───────────────────


 ついに生と死の理を書き換えるタイプの子が出てきましたね。

 バケモノです。白くて、ふわふわですけど、バケモノです。

 やっぱり、この子は恐ろしい子でした。

 でも、たぶんこのスキルのおかげで俺生き返ったんだよな。

 ありがとうございました、シマエナガさん。


「HPもMPも10だけか。意外と弱い……いや、レベル0なんだ。ここから育てていけば強くなるって話なのかな」


 眠りに落ちたシマエナガさんを『アドルフェンの聖骸布』の胸ポケットに入れ、ジュラルミンケースを拾って、足早に地上へと帰還することにした。


 期せずしてペットを手に入れてしまった。


「修羅道さん、可愛いの好きだろうな……」


 シマエナガさんを見せるのが楽しみで仕方がなかった。

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