宝探し

 

 レイド戦みんな行っちゃったのかよー。

 なんだよー、もうー、そんなのありかよー。

 

  修羅道さんとの楽しい昼食を終えたあと、俺はちょっと不貞腐れながら、ダンジョンへ入ろうとし──あることを思い出した。


 パワー地獄が始まる前、ドクターに『ムゲンハイール ver3.0』を返してたんだった。

 翌朝に取りに行く約束をしていた。

 ただ、パワーのせいでキャンプに近づくことすら出来なかった──メンタル的に──から、必然的にドクターとの約束も無視してしまっていたのだった。


 俺はキャンプの購買あたりをうろつく。

 ここら辺を徘徊してると、ドクターの方から見つけてくれるのだ。


「やあ、指男。休暇は楽しかったかな?」


 案の定、今回も向こうから見つけてどこからともなく湧いて出てきた。


「現れましたかドクター」

「わしはどこだろうと湧くのじゃよ」

「休暇は楽しくなかったですよ」

「ははは、そうか。まあ、いろいろ噂を聞いているが、まあそれは置いておいて、と。見よ! この進化した『ムゲンハイール ver3.5』を!」

「あれ? ver3.0は?」

「爆発した」

「でしょうね。知ってましたよ」

「だが、数日もらえたおかげで腰を据えてじっくりムゲンハイールの謎を調べることができたぞ」

「っ、まさか、わかったんですか。自分で作った謎のアイテムの正体が!」

「ああ。何もわからないということがわかった」


 もうやめちまえよ。


「じゃが、特性に関してはあらかたまとめられた。ほれ、これを見るといい」

 

 グレード6 神器級

 グレード5 聖遺物級

 グレード4 伝説級 ↑G5へは要検証

 ─────人工装備の技術的限界─────

 グレード3 最高級 ↑G4へは約30万

 グレード2 高級  ↑G3へは約20万

 グレード1 良質  ↑G2へは約10万


 異常物質は”一段階ずつ”しか進化しないとドクターは推測している。

 

「それと十分な熟練度が必要だと、たぶん、うん、思われるのじゃ」

「あれ? ちょっと自信なさげですね」

「え?」

「検証はしたんですか。財団ならクリスタルも異常物質アノマリーもたくさんあるでしょう」

「え? え? え?」


 ドクターの目が泳いでいる。


「重要資源の保管庫の鍵は、修羅道ちゃんに守られてるから無理じゃよ、わしがこっそり忍びこんで、ちょーっとだけクリスタルを拝借したら、スレッジハンマーを構えた修羅道ちゃんが笑顔でわしのところやってきて『クリスタルとドクター、どっちを先に砕くか悩みますねっ!』と言うんじゃもん」


 流石は修羅道さんだ。

 不正は見逃さない。


「まあ、でも、ちょっとだけ実験した感じでは、熟練度が必要なのは間違いないじゃろうな。なぜなら、まったく使ったことのない異常物質は進化させるようとしたんじゃが、うんともすんとも言わなかったからのう」


 話をまとめる。

 異常物質の進化には、


 ・進化は1段階ずつ

 ・要求クリスタルはグレードに応じてあがる

 ・十分な熟練度がないと進化しない


「ムゲンハイールは真・ひも理論から導き出された13次元モデルと、超粒子空間拡張理論をかけあわせ、次世代のダンジョンバッグとしてデザインした人工装備じゃ」


 また科学者ヅラしはじめたな。

 小難しい言葉をならべてさかしらぶりやがって。


「進化・変化は、バッグのなかを13次元空間とつなげる時に起こる超圧縮現象が、異常物質アノマリーとクリスタルの融合を誘発するために発生すると考えられるじゃろう」

「へー、なるほどね、完全に理解しましたよ(※してない)」

「異常物質の進化はおそらく人類はじめての現象じゃ。この功績を確実なものにして学会で発表したい! さあ、この『ムゲンハイール ver3.5』を持っていくのじゃ! ダンジョンが攻略まで時間がない! ダンジョンボスが倒され、攻略される前に、クリスタルをもち帰り、十分なデータを持ってきてくれ!」


 俺にも利のある話だ。

 それに、ドクターにはなんだかんだ世話になっている。

 この老人が発明家として認められるため、協力したあげることもやばさかではない。


 俺はダンジョンへ入り『迷宮の攻略家』をかける。黒いレンズに1階のマップが表示され、それを空間へ投影、スマホで狩場を撮ってSNSへアップする。


 さて、日課を終わらせて、次に向かうのは10階層な訳だが……なんだろう、『迷宮の攻略家』になにやらおかしな印が表示されている。

 宝箱の表示ではない。宝箱は結構なレアオブジェクトらしく、もい一階層には存在しないようだ。


 となると、余計に気になる。

 なんのマークだ。


 狩場ではない。

 もっとピンポイントで、ある1箇所を示している。

 考えてもわからないので、現場に行ってみることにした。


 通路を抜け、フロア内の階段──階層を移動する階段ではない──をくだり、うねうねした天然洞窟然とした道の奥、ようやく印の場所にたどり着く。


「この壁の向こうだな」


 3Dマップを拡大すると、印の座標は物理的に侵入不可能な位置にあるとわかった。


 壁をペタペタ触ってみる。

 硬い。ちょっと叩いてみる。

 ダメだ。ダークソウルみたいに、攻撃したらすり抜ける幻の壁かと思ったのだが。


「ならば、力づくだ」


 俺は壁から離れて『フィンガースナップ Lv4』を構える。


 壁がどれだけ硬いかは知らない。

 ただ、破壊不可能ではないはずだ。

 かつて『資源ボス:無垢の番人』を倒した時に遺跡を蒸発させた経験からすれば、おおよそATK60,000程度あれば、ダンジョンというオブジェクトそのものを破壊&蒸発させることが出来るだろう。


 『フィンガースナップ Lv4』の転換レートはHP1:ATK100。

 使うHPは600。


 ──HP600 ATK60,000


 青白い火花が親指と中指の隙間で生じる。

 以前は凄まじい摩擦のせいで、手が赤くなるほど力を入れないと指を鳴らすことができなかった。


 だが、もうこれくらいなら力一杯に鳴らす必要はない。


 俺はスナップを効かせ、軽く指を鳴らした。

 

「エクスカリバー」


 ──パチン


 ダンジョンの壁の真ん中に紅光が生じる。

 紅光はみるみる大きくなる。

 大量のエネルギーが1箇所に集中し、極熱が壁を溶解させ──そして、爆発を起こした。


 壁は跡形もなく消し飛び蒸発した。


 そこまではいい。

 ただ、威力が高すぎた。

 あたりの壁や天井にもヒビが広がってしまい、軽く崩落が始まろうとしている。


 火力調整ミスってますねぇ。確実に。


 まあ、試み成功したのでヨシ。

 壁の向こう側に空間を見つけた。


 赤熱したマグマの池を飛び越えて、隠しエリアへ。


 隠しエリアには台座があり、黒い石の破片が置いてあった。


 アイテム名『厄災の禽獣 1/12』とある。

 手に取る。

 しかし、詳細を開けない。

 アイテムとして不完全ということだろうか。


「1/12? 1月12日になにか関係がある? いや違うな……12分の一って意味か?」


 もしかして、12個集めて初めて効果を発揮する類いのアイテムだろうか。


 俺は2階層へ降りてみた。

 1階層の印と同じ物が『迷宮の攻略家』に映し出された。


 さっそく向かってみる。

 だが、やはり、物理的に侵入不可能な壁の向こう側に印がある。

 3Dマップだから、この奥に空間があるのはわかる。

 逆に言えば3Dマップでもない限りは、気がつきようがない。

 本当の意味での隠された財宝だ。


 HP300 ATK30,000


 反省して、威力を抑えて指を鳴らした。

 壁が砕け散り、道が開通した。

 ATK30,000あれば壁の破壊は事足りるようだ。


「あった」


 『厄災の禽獣 1/12』が台座に厳粛な空気とともに置かれていたので、さきほど手に入れた『厄災の禽獣 1/12』と組み合わせてみる。


 『厄災の禽獣 2/12』になった。

 確定です。これあと10個ありますよ。


 道のりの長さに気合を入れ直し、俺はその後も、1階層につきひとつある隠しエリアの壁を破壊して、隠し異常物質アノマリーを集めて、組み合わせていった。


 その道中で、モンスターに遭遇もするので、倒して、クリスタルと経験値を回収していく。もちろん、宝箱のマークがあれば、岩陰や、壁の隙間に隠された小箱を回収していった。幸いにも『ちいさな宝箱』は『ムゲンハイール ver3.5』しまえるので、いちいち手で持ち運ばなくて済んだ。


 12階層へようやく降りて来た。

 クリスタルもそこそこたまった。

 宝箱も5つも見つけてしまった。

 

「ん、あれは……」


 ダンジョンの奥からたくさんの探索者たちがやってくる。

 皆、ヘトヘトな様子だ。

 状況から言って、おそらくはレイド戦を戦い抜いたダンジョンボス攻略隊だろう。


 彼らが帰って来たということは、レイド戦が終わったと言うことか。

 

「このダンジョンも攻略完了、てことか」


 ダンジョンが封鎖されるよりも前に、俺は最後のひとパーツを回収した。


「『厄災の禽獣 11/12』と『厄災の禽獣 1/12』を合体!」


 さて、出来上がりますは『厄災の禽獣』です、

 ようやく完成しました。ここまで長かった。


 最終的にパズルを組み上げると、まん丸の鳥の石像になりました。

 可愛いです。SNSで見たことがある子にそっくりだ。

 名前はなんだったかな。

 うーん。ああ、そうだ、確か名前はシマエナガ。

 北海道に分布してるエナガという小鳥さんの亜種だったか。

 その子にそっくりだ。


 と、その瞬間。


 石像が光りだし、白と黒が輪っかの絡み合った独特な模様の指輪に変形した。

 アイテム名自体は『厄災の禽獣』で変わりはしない。

 完成した結果、アイテムとして最適な形になっただけだと思われる。


 おや? 

 指輪がひかりだしましたよ。

 そして、ぽわんっと光に包まれた鳥が出て来ました。

 やはり、シマエナガです。

 SNSでたびたび見る可愛い小鳥さんです。


 でも、なんで、シマエナガさんが出て来たのか気になりますね。

 詳細を見てみますかね。


────────────────────

 『厄災の禽獣』

 かつて世界を滅ぼした凶鳥。

 厄災の禽獣は召喚者を選ぶ。

 生きたければ、召喚しないことだ。

 消費MP1,000 厄災の禽獣を召喚する。

────────────────────


 ……。


 シマエナガさんが俺の指にちょこんと止まる。


 一応、ステータスを確認。


────────────────────

 赤木英雄

 レベル110

 HP 4,089/8,115

 MP 192/1,499


 スキル

 『フィンガースナップ Lv4』

 『恐怖症候群 Lv3』

 『一撃』

 『鋼の精神』


 装備品

 『蒼い血 Lv2』 G3

 『選ばれし者の証』G3

 『迷宮の攻略家』G4

 『アドルフェンの聖骸布』G3

 『ムゲンハイール ver3.5』G4

 『厄災の禽獣』G6


────────────────────


 あれれ……おかしいな、俺のMPが持ってかれてるよ、それもちょうど1,000くらいかなぁ…………え? これ俺が召喚したことになってないかい?


「ちーちーちー」

「……」

「ちーちーちー」

「あの、間違えて召喚したんで、戻ってもらうこととか、出来ませんかね……?」

 

 俺は震える声で羽休めする白き凶鳥へお願いした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る