鋼の精神
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★デイリーミッション★
毎日コツコツ頑張ろうっ!
『鋼のメンタル パワー』
道ゆく者を「パワー!」で呼び止める 100/100
★本日のデイリーミッション達成っ!★
報酬 先人の知恵B ×3(50,000経験値)
先人の知恵C ×2(10,000経験値)
スキル栄養剤B(50,000スキル経験値)
スキル栄養剤C(10,000スキル経験値)
継続日数:24日目
コツコツランク:ゴールド 倍率5.0倍
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駅近くで最後まで狂人をやりきった俺は、疲労困憊でダンジョンキャンプ行きのバスに乗った。
しばらく、バスのなかでぼーっとして、思い出したようにアイテムを使った。
ピコン!
レベルアップの快感でも依然として収支はマイナスだ。精神ダメージがデカすぎる。
最悪のクエストだった。
他人に迷惑をかけちゃいけないって両親に育てられてきたのに、ここまで迷惑な存在にならなくてはいけないなんて。
「探索者ってすごいな、こんなデイリーをマストでこなしてるんだもんな……」
いつの日か、河川敷でカリバーを消化していた時、警察官に職質されたことがあった。生暖かい眼差しをしていた。あの意味が今なら理解できる。探索者というのはどこか頭のおかしい存在と思われてしまっているのだろう。
この日、俺はすっかりメンタルをやられてしまい、ホテルで静養することにした。
キャンプに行ったら、きっと俺の奇行のことを聞き及んだ者に白い目を向けられるのだろうと思ったからだ。恐ろしかった。嫌だった。
「あう! あう! 死ねる、余裕で死ねる!」
悶絶しながら布団にくるまった。
翌朝。
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★デイリーミッション★
毎日コツコツ頑張ろうっ!
『鋼のメンタル パワー』
道ゆく者を「パワー!」で呼び止める 0/100
継続日数:24日目
コツコツランク:ゴールド 倍率5.0倍
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もう俺を殺せ。
殺してくれ。
──数時間後
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★デイリーミッション★
毎日コツコツ頑張ろうっ!
『鋼のメンタル パワー』
道ゆく者を「パワー!」で呼び止める 100/100
★本日のデイリーミッション達成っ!★
報酬 先人の知恵B ×3(50,000経験値)
先人の知恵C ×2(10,000経験値)
スキル栄養剤B(50,000スキル経験値)
スキル栄養剤C(10,000スキル経験値)
継続日数:25日目
コツコツランク:ゴールド 倍率5.0倍
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二日連続ってなによ。
俺が何をしたって言うんですか。
お願いです、答えてください、デイリーくん、いえ、デイリーさん、いえ、デイリーさま。
翌朝。
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★デイリーミッション★
毎日コツコツ頑張ろうっ!
『鋼のメンタル パワー』
道ゆく者を「パワー!」で呼び止める 0/100
継続日数:25日目
コツコツランク:ゴールド 倍率5.0倍
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この世界は壊れている。
何か致命的なバグが発生しているとしか考えられない。
──数時間後
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★デイリーミッション★
毎日コツコツ頑張ろうっ!
『鋼のメンタル パワー』
道ゆく者を「パワー!」で呼び止める 100/100
★本日のデイリーミッション達成っ!★
報酬 先人の知恵B ×3(50,000経験値)
先人の知恵C ×2(10,000経験値)
スキル栄養剤B(50,000スキル経験値)
スキル栄養剤C(10,000スキル経験値)
継続日数:26日目
コツコツランク:ゴールド 倍率5.0倍
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「パワー! パワー! パワー! ハッ!」
ちょっと楽しくなって来ていた。
連続3日にわたるメンタルへのウェイトトレーニングを課したことで、もう何も怖いものはなくなった。
今なら全裸で表参道を走り抜けることだって可能だ。
翌朝。
俺はデイリーを確認せずに、感謝のパワー! を100回こなした。
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★デイリーミッション★
毎日コツコツ頑張ろうっ!
『鋼のメンタル パワー』
道ゆく者を「パワー!」で呼び止める 100/100
★本日のデイリーミッション達成っ!★
報酬 先人の知恵B ×3(50,000経験値)
先人の知恵C ×2(10,000経験値)
スキル栄養剤B(50,000スキル経験値)
スキル栄養剤C(10,000スキル経験値)
継続日数:27日目
コツコツランク:ゴールド 倍率5.0倍
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知ってた知ってた。
だって世界は壊れてるんだもん、ハハ。
パワーデイリーじゃない訳がない。
パワーこそ力。力こそパワーなんだよ。
パワー、パワー、パワー! イッヒヒヒ!
(新しいスキルが解放されました)
え?
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『鋼の精神』
最も恐ろしい敵は心折れぬ敵だ。
パッシブスキル。混乱・怖気・発狂・喪失・洗脳への耐性が大幅に上昇する。
解放条件 強靭な精神を鍛えあげる
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なるほど。
俺のパワーが、パワーしたということか。
俺は公園のベンチに腰掛け青空を見上げる。パワー。
秋は過ぎ去り、もう寒くなって来た。パワー。
あと1ヶ月もすれば今年も終わりだ。パワー。
公園では群馬の子供たちが、地面に模様を描いて、けんけんぱっ、と謎の遊びをしている。群馬の部族の伝統的な遊びなのだろう。
季節のせいか、あるいは閑散とした公園で子供が楽しげにしているせいか、やたらペシミスティックな気持ちになってきた。
「パワーは俺を強くしてくれた。ありがとう、パワー。そして、さようなら、パワー」
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赤木英雄
レベル107
HP 7,640/7,640
MP1,391/1,391
スキル
『フィンガースナップ Lv4』
『恐怖症候群 Lv3』
『一撃』
『鋼の精神』
装備品
『蒼い血 Lv2』G3
『選ばれし者の証』G3
『迷宮の攻略家』G4
『アドルフェンの聖骸布』G3
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試練を乗り越え、新しいスキルを手に入れ、自信を新たにした俺は、4日ぶりにダンジョンキャンプへ足を向けることができた。
4日前の俺はもういない。
まわりの視線に怯える俺は過去のものだ。
堂々たる足取りで、キャンプの真ん中を歩く。
わいわいがやがや、賑やかにしていた人混みがブワワッと割れていく。
戦争から帰ってきた英雄王凱旋のパレードのごとき光景だ。
出来上がった道を、ゆっくりと踏み締めるように俺は歩いていった。
恥など捨てた。
そんなものくだらない。
ヤケクソだ。
他人にどう思われようと関係ない。
なんとでも言え。
────
人々は数日ぶりの指男の登場に戦慄した。
ある者は悲鳴をあげ、ある者は非難をし、ある者は逃げだした。
耳をすませば聞こえてくる。
「指男だ……」
「キチガイだ……」
「ママ、あの人、駅前で騒いでた人だよー?」
「こら! 見ちゃダメ。悪い病気がうつっちゃうから!」
「駅前で連日パワーって叫んでたの俺も見たぜ」
「指男、頭がおかしくなっちまったんじゃないのか? 近づかない方がいいな」
「いや、指男さまを見て。あの堂々たるお姿。そして、透明な眼差し。奇行をしていただけの変態・変人・狂人・キチガイの類いじゃ、あんな透き通った目はできない……!」
「っ、指男は、俺たちが計り知れない目的のために動いていたんじゃないのか……?」
「こんだけ避けられて、気持ち悪がられて、薄気味悪がられてもなお、あれだけ堂々と人混みを抜けている。いったいどんなメンタルしてんだ、指男のやつ」
指男は堂々たる足取りで、露店のならぶ外郭エリアを抜けて、内郭部分へ足を踏みいれた。
その際、門を守る警察官へ挨拶をする。
警察官はどこか引きつった笑みをかえしてペコペコする。
恐いのだ。得体の知れない指男が。理解できない指男が。
「赤木さん! お久しぶりです! 駅前では大人気だったようですね! 一体なんでそんな奇行を?」
「鋼の精神を鍛え上げるために」
指男は遠い目をして、自嘲げに微笑む。
修羅道は彼のその透き通った表情に、計り知れない物を感じた。もう取り返しがつかないから、内心でヤケクソになっているだけとは知るよしもない。
「もしかして、スキル『鋼の精神』を手に入れたんですか!」
「え? なんでわかるんですか?」
「やっぱりそうだったんですね! あれは並大抵の修行では手に入らないレアスキルなんですよ! 雑魚スキル『フィンガースナップ』と比べものになりません! 料理で例えるなら腐ったイワシと、とろ〜り三種チーズ牛丼特盛温玉乗せくらいレア度が違います!」
「俺の指パッチンって腐ったイワシだったんですね……」
「そんな『鋼の精神』を自力で手に入れてしまうなんて! 赤木さんは流石ですね! 修行僧系探索者のなかでも、ここまで求道の道を行く人はいませんよ!」
修羅道は「えらいえらい! すごいすごい!」と指男を優しく撫でてあげるのだった。それだけで指男はこの地獄の4日間を乗り越えてよかったと涙した。
「『鋼の精神』は人間の真髄ともいえる偉大なスキルです! 存在そのものが特別なんですよ」
「へえ、なにか特別なことができるんですか?」
「はい! 言い伝えによりますと、世界を終わらせる獣を従えることができるとか……!」
(おお、それはすごい)
「認められなければ殺されてしまうとか……」
(殺される……? なんて物騒な話なんだ……ん、待てよ。もしかして、賢者ポジションもおさえている修羅道さんがこんなことを言うという事は、近いうちに試練が来るという事か? それに備えろという事ですか、修羅道さん)
遠くの方からチャイムの音が聞こえてくる。
「そういえば、もうお昼でしたね! 赤木さんは昼食召し上がりましたか?」
「いいえ、まだですが」
指男はキリッと答える。
たとえ昼食を済ませていようと、いまの彼ならばいくらでも飯を口へ掻き込むことだろう。
修羅道は嬉々として、満面の笑みで「では、いっしょにご飯を食べましょう! 私、お腹が空いてしまいましたっ!」と狂人を食事に誘うのだった。
ただ、指男とて、人の子。
今の自分などと一緒にいては、この可憐な少女にいらぬ風評被害がいくではないかという負い目が働いた。
「修羅道さん、どうして、俺なんかを……」
「なにを言ってるんですか! 赤木さんは私のお友達じゃないですか! ささ、食堂に行きましょう!」
300gのステーキを頼む修羅道。
今日は『イミテーション・スープ』ではないので指男もステーキを頼むことにした。
「赤木さんはステーキにわさびをつけるんですね! それじゃあ、これとこれを交換こですっ! う~ん! わさびステーキ美味しいですね! もう一回交換こですっ! えい! う~ん! 美味しい! もう一回──」
「(お昼ごはんを交換こ、とか俺、青春してるなぁ……でもね、修羅道さん、交換してるの『白いご飯一口』と『わさびステーキ一切れ』なんですよね。それ交換レートあってますかね。俺のステーキほとんど持ってかれてませんかね。
結局、ほとんどのわさびステーキを持っていかれた指男。
だが、修羅道が最後まで幸せそうだったので指男としてはそれで十二分に満足であった。はらぺこ修羅道もまた大変に満足そうな表情であった。
「そういえば! 赤木さんがキャンプに来なかった間に、ダンジョンボス攻略隊が編成されていましたよ!」
「え? 攻略隊って最後の戦いの……」
「1日前のことなので、今頃はレイド戦を仕掛けている頃でしょうね!」
「俺も参加したかったです」
「今から行くんじゃ間に合わないと思いますし、何より危険です! レイド戦ではあらゆるランクの探索者を百人単位で突入させますが、それはあくまでダンジョンボスまでのルートが決まっていて、数的アドバンテージが確保されているから許可されているんですよ! ダンジョンボスの部屋は20階層。今から赤木さんが行くには道中がすでに危険ですし、たぶん着く頃にはレイド戦は終わってます!」
「そうですか……それじゃあ、今回はパスするしかないですね」
指男は名残惜しさを感じながら言った。
一方で、レイド戦に参加しなかったからこそ、修羅道との楽しい食事があったのだとポジティブに考えることにした。
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