ブルジョワ探索者


 7階層から1階層まで戻ってくるかたわら、何人かの探索者たちとすれ違った。


「ゆ、指男、それなにを持っているんだ……」

「これですか? クリスタルですよ」

「っ、バカな、スイカほどもあるぞ!?」


 みんな驚いてるな。


「もしかして、資源ボスを見つけたのか?」

「資源ボス? ああ、たしかにボスは倒しました。あれは、ボスでしたよ。間違いなく」


 『資源ボス:無垢の番人』って書かれてたもんな。


 クリスタルを抱っこしながら、地上を目指していると、わらわらと探索者たちが俺の後をついてくる。

 ミュージックビデオで、歌いながら街を歩いてると、いつのまにか軍団になってるアレみたいになっている。


 ダンジョン入り口に戻ってくる頃には、十数人の探索者たちがゾロゾロとくっついて来ていた。みんな俺の持ってるクリスタルが珍しいのか、顔を覗きこんで見たがった。


「赤木さん! おかえりなさ……うわぁあ! なんの騒ぎですかこれは!」

「資源ボスを倒しました」

「っ! 皆さんで倒したんですね! えらいですよ、赤木さん! レイドボスに挑む時は、みんなで戦うことはとても大事ですから!」

「え?」


 俺は後ろの探索者たちを見やる。

 みんなしらーっとしている。


 おいおい、まじかよ。


「俺は嘘つきが嫌いです」


 指を鳴らして、近場にあったゴミ箱を炎上させる。

 すると、探索者たちは蜘蛛の子を散らすようにダンジョンへと戻っていった。

 まったく、強かというか、白々しいというか。油断のない奴らだ。汚い大人やで。

 

「あ、あれ? もしかして、赤木さんがひとりで?」


 修羅道さんは目をまん丸にして「まあ!」と口元に細い指を当てています。かあいいです。驚いてると2倍増しでかあいいです。


「流石は指男さんですねっ! ダンジョン財団の期待の新星さんです!」

「ありがとうございます」

「でも、ひとりで資源ボスに挑んだのは感心できません! 資源ボスは極めて危険なモンスター、無理をせず、チームを組んで攻略に当たれば、もっと安全に倒せるんですよ!」

「でも、僕にはこれがあるんで」


 指を鳴らす。

 修羅道さんは「そういえば、Lv3は数字の設定がおかしいことになってましたね……」と遠い目をして納得してくれた。


 『ムゲンハイール ver2.0』とクリスタルを提出する。

 スキャナーは大きいので、スイカサイズのクリスタルだろうと余裕で入ってしまった。


 ─────────────────

 今日の査定

 ─────────────────

 小さなクリスタル 2,110円

 小さなクリスタル 2,101円

 小さなクリスタル 2,601円

 小さなクリスタル 1,986円

 小さなクリスタル 2,101円

 小さなクリスタル 2,175円

 小さなクリスタル 2,110円

 小さなクリスタル 2,101円

 小さなクリスタル 2,601円

 小さなクリスタル 2,334円

 小さなクリスタル 2,096円

 小さなクリスタル 2,609円

 小さなクリスタル 2,000円

 小さなクリスタル 2,101円

 小さなクリスタル 1,109円

 小さなクリスタル 1,941円

 小さなクリスタル 2,187円

 小さなクリスタル 2,101円

 小さなクリスタル 2,093円

 小さなクリスタル 2,215円

 クリスタル 4,869円

 クリスタル 4,963円

 クリスタル 5,200円

 クリスタル 5,193円

 クリスタル 5,471円

 クリスタル 6,120円

 クリスタル 5,107円

 クリスタル 5,963円

 クリスタル 5,100円

 クリスタル 5,177円

 クリスタル 5,639円

 クリスタル 5,712円

 クリスタル 7,296円

 クリスタル 5,001円

 クリスタル 5,963円

 クリスタル 5,209円

 クリスタル 5,396円

 大きなクリスタル 10,960円

 大きなクリスタル 10,440円

 大きなクリスタル 12,096円

 大きなクリスタル 10,725円

 大きなクリスタル 10,210円

 大きなクリスタル 13,079円

 大きなクリスタル 16,906円

 大きなクリスタル 14,076円

 大きなクリスタル 11,909円

 特別に大きな無垢のクリスタル 6,100,359円

 ────────────────

 合計 6,346,811円


 ダンジョン銀行口座残高 6,728,838円

 ─────────────────


 バケモンがまぎれこんどる。

 なんじゃ、最後の数字はぁ。


「おや! これはまさかまさかの無垢のクリスタルだったんですね! このサイズなら6,000,000円以上の買取価格がついても納得です!」


 クラクラして来た。

 俺はついに、やったのか、一攫千金を成し遂げたのか。


 600万。

 600万円だ。

 想像できないとまでは言わずとも、とんでもなく大きなお金だということがわかる。


「おめでとうございます! 資源ボスはチームでの攻略が基本となるので、赤木さんみたいに変なことしない限り、Cランク探索者がこれほどの報酬をお一人で獲得することはあり得ないです!」


 別に変なことはしてないですよ、ええ。


 査定が終わると、財団職員が2人がかりで慎重にクリスタルを運んでいった。

 って、俺の『アドルフェンの聖骸布』まで持ってかれそうになってんだけど!

 それただの包みじゃないから!

 ちゃんとしたボスドロップだから!

 カッコいい名前の異常物質だから!

 

「『アドルフェンの聖骸布』ですか! データベースにはないですね! これも未発見の迷宮の遺産に違いないです!」


 修羅道さんは嬉々として鑑定してくれた。

 

「着て使う装備っぽいんですけど……」

「あはは、このままだとチベットの修行僧コスプレですね」


 屈託のない意見をありがとう。

 俺の言いたいこと全部察してくれるのね。


「こちらで装備に加工しますか?」

「そんな事できるんですか?」

「もちろんです! ダンジョン財団には、使いにくい異常物質を加工して、ダンジョン装備として最適化するノウハウがありますから!」


 おお。

 では、お願いしようかな。


 『アドルフェンの聖骸布』を渡して、ダンジョン銀行アプリから支払いを済ませる。


 ──────────────────

 ダンジョン銀行口座残高 6,708,838円

 ──────────────────


「ダンジョンカードとダンジョンペイを使って支払いした方がお得ですよ! 連携で常時4%ポイント還元です!」


 ダンジョン財団、なんという戦闘能力だ。サービスまで充実している。

 しかも、ほかのカード会社を軒並み薙ぎ払っていくほどのポイント還元率じゃないか。

 これまでラクチン銀行、ラクチンカード、ラクチンペイと、ラクチンづくめのラクチン派だったけど、これではダンジョン派への乗り換え不可避。


 修羅道さんに優しく指導され、たまにちょぁと手がぶつかったりして、ドキドキしながら、10分ほどで登録を済ませた。

 気がつけば俺のスマホがダンジョン財団関連のアプリで埋め尽くされている。修羅道さん、なんという策士……きっと他の仕事しても有能なんだろうな。

 

 ──3時間後


 俺はビアガーデンの片隅で、例のドクターに捕まっていた。


「『ムゲンハイール ver2.0』はどうじゃ」

「最高です。今のところ故障もないですし。あ、それと、アイテムの進化機能、あれ凄いですね」

「進化機能がじゃと?!」


 なんであんたが驚いてんだ。


「詳しく聞かせておくれ」

「進化機能っていうのはカクカクシカジカン」

「なんじゃと、まさか、わしの発明にそんな機能があったなんて!」


 もう発明家やめちまえ。


「『ムゲンハイール ver2.0』を調べたい、少し返しておくれ」

「仕方ないですね。あれ?」


 『ムゲンハイール ver2.0』へ視線を向けると、黒い煙をあげていることに気づく。

 なんか嫌な予感。

 

「返します」

「っ、、や、やっぱり今は返さなくていい!」

「いえいえ、遠慮なく」

「やめるんじゃっ! 確実に爆発する前兆じゃろが!」


 お互いに押し付けあっていると、まもなく『ムゲンハイール ver2.0』は爆発した。

 

 黒焦げになったドクターは、咳込みながら、粉々になった作品をかき集める。

 

 『ムゲンハイール ver2.0』

 異常物質を進化させるダンジョン装備だったのに……でも、どういうわけか、『蒼い血』しか進化させられなかった。『秘密の地図』や『選ばれし者の証』も試したが(『蒼い血』を2回目も入れてみた)、特別な反応を示さなかった。


「可能性を感じる装備でした。また、頑張ってください、ドクター」


 俺はドクターに背を向けて歩きだす。

 

「これを持っていけ!」


 ぶん投げられるジュラルミンケース。


「……。あの、これは?」

「『ムゲンハイール ver3.0』だ。いつもどおり試用して、実地データをとってきてくれ」


 手際がいいのか、悪いのかわかんねえじいさんだ。


「これも進化機能搭載されてますか?」

「わからん!」

「……まぁ、そうでしょうね」


 どんな効果であれ、無料でダンジョンバッグを貰えるので、今回も使わせてもらいます。ありがとうございます、ドクター。


 そろそろ、加工が終わってる時間だと思い、修羅道さんのもとへ戻った。

 

「『アドルフェンの聖骸布』、立派なコートに仕立て直されましたよ!」


 修羅道さんが「はい、どうぞ!」と差し出してくれる。


 さっきまでただの荒々しい布地だったのに、今では立派な焦茶布のロングコートとなっていた。

 

「温かいですよ、ふかふかです!」

「物理20%カットってどれくらいの性能ですかね」

「ダンジョン財団が指定グレード3『最高級』に分類されると思います! Cランクの探索者が持つ装備としてはかなり贅沢な性能ですね!」


 グレード6 神器級

 グレード5 聖遺物級

 グレード4 伝説級

 ─────人工装備の技術的限界────

 グレード3 最高級

 グレード2 高級

 グレード1 良質 


 これは修羅道さんが教えてくれたダンジョン装備のグレードだ。

 財団が作った人工装備、異常物質、どちらにもこのグレードが使われている。

 

 人工装備とは、ひらたくいえば異常物質の模倣品だ。

 多くの探索者の主装備である魔法剣も人工のダンジョン装備である。

 

「ちなみにこの『ムゲンハイール ver3.0』のグレードは?」

「それは……悔しいですが、凄まじい技術力ですので、グレード4はあると思いますよ」


 ドクターすげえな。

 人工装備の技術的限界をやすやすと突破していくスタイル嫌いじゃない。


 ステータスは設定を変えると、装備のグレードも表示されるらしかったので、修羅道さんに教わって設定を変えてみた。

 ちなみに自分のステータスは他人へ許可しないと勝手に見れないようになってる。


 ──────────────────

 赤木英雄

 レベル80

 HP 3,903/3,903

 MP 100/780


 スキル

 『フィンガースナップ Lv3』

 『恐怖症候群』

 『一撃』


 装備品

 『蒼い血 Lv2』 G3

 『選ばれし者の証』G3

 『秘密の地図』G3

 『アドルフェンの聖骸布』G3

 『ムゲンハイール ver3.0』G4

──────────────────


「流石は赤木さん、Cランクの探索者の平均はG3の装備をひとつ持っていれば贅沢だと言われているのに……ブルジョワ探索者ですね!」


 そんな日本語はありません。

 言葉が乱れるのでやめなさい。


 俺の装備たちが、実は高品質でガッチガチに固められていたことがわかった。

 

 こういうの見えちゃうと全装備のグレードあげたくなっちゃうよね……。


 装備集めという新しい欲求に駆られながら、深夜の群馬県第一ホテルへと帰還した。

 ところで修羅道さんいつもキャンプにいるよね。ちゃんと寝てるのかな。すごく気になりました。まる。

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