資源ボス:無垢の番人


 朝起きて、さっそくデイリーミッションを確認する。


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  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『約束された勝利の指先 その2』


 エクスカリバーと叫びながら指パッチン

        0/2,000


 継続日数:17日目 

 コツコツランク:シルバー 倍率2.5倍

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 おう、来たか。カリバー。


 ダンジョン財団関係者やら、探索者やらが宿泊するホテルで、奇行と恥を重ねるわけにはいかないので、少し歩いて山の奥へ向かい、感謝の指パッチン2,000回を終わらせて午前中のうちにホテルへ戻ってくる。


 時計を見れば、まだ午前10時。

 前より早く終わるようになった。

 俺の指パッチンの早さも増しているということだろうか。


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  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『約束された勝利の指先 その2』


 エクスカリバーと叫びながら指パッチン

        2,000/2,000


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 先人の知恵C ×2 (10,000経験値)

    5,000経験値


 継続日数:18日目 

 コツコツランク:シルバー 倍率2.5倍

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 先人の知恵Cを使って、身支度を整えて、黒いブローチとエメラルドのブローチを着ける。


 『ムゲンハイール ver2.0』を片手にたずさえ、ホテルを出て、フロントで探索者たちとすれ違ったら会釈して「Cランクおめでとう!」「俺はお前が大物になるって信じてたぜ!」と声をかけてきたら「たはは」笑顔を返して通りすぎる。


 ダンジョンへ入り、昨日の投稿を確認する。


 拡散:90 いいね!:256


 めっちゃ成長してる。

 俺のなかだともうバズってる扱いなんだけど、夢は大きく持ちたいので、まだまだ満足などしてやらない。

 『秘密の地図』を開いて狩場をアップ。指男コーナー今日の狩場の更新を完了して、7階層まで降りてきた。


 今朝、修羅道さんに話を聞いたところ、Bランクにあがるためには、最低でも3ヶ月の探索者としてのキャリアが必要になるとか。

 そして、D→Cよりも審査は厳しくなっており、よっぽどの例外なくしては昇級は望めないらしい。

 なので、俺は生き急ぐのをやめた。


 どうせ7階層~9階層のモンスターを狩り尽くしてしまう気がしたので、うえの階層から順々に行くことにした。


 7階層以降は、Cランク以上の探索者じゃないと足を踏み入れることすらできないため、モンスターの残存量には余裕がある。


 ──しばらく後


 ランニング狩場ルーティンをまわし、今日もまた1日頑張った、そう思って帰ろうとした時のことだった。


「ん? なんだこれ」


 ダンジョンのとある通路の奥まったところに黒い門を発見した。

 不思議なオブジェクトだ。

 今までに見たことがない。


 黒い門は鋼鉄製なためか重く、硬く、厚そうだった。

 埃っぽく、さび付いている。手入れはされていない。

 長年の間、だれにも開かれずに忘れられているかのようだ。


 表面には、薄い霧がかかっている。

 そこに白い文字で『資源ボス:無垢の番人』と書かれていた。


 指でなぞると、白い文字が黒くなっていく。

 白紙に墨汁をゆっくり注いでいくかのように、だんだんと暗黒に侵されていく無垢な字を見ていると、この先に邪悪な何かが待っているような気がしてならない。


 俺は黒鉄の門を力一杯に押した。

 意外とすんなり開く。

 なかは遺跡となっていた。

 壁際に等間隔で並べられたたいまつの明かりが、ドーム状の空間を照らし出す。

 まるでコロッセオだ。

 砂の上には、頭蓋骨が散乱している。

 人間の骨に見えないモノも少なくない。


 闘技場だ。

 ここは闘争の場なんだ。

 それくらいのことは俺にもわかった。


 ドームの真ん中には大火が起こっていた。

 焚き火だ。壁際のたいまつよりずっと大きい。

 火のまわりに丸太が4つ寝かせてあって、簡易なベンチになっている。

 うちひとつに、人影が座っている。


 人影は大きかった。

 縦に3mの高さがある。

 とんでもないデカさだ。

 横にも3mくらいはある。

 とんでもないデブだ。

 

 焚き火に歩み寄り「ここはなんですか?」と聞いてみた。

 デブはのそりと振り返る。


 俺は息を呑んだ。

 デブの顔はこの世のものとは思えないほど、艶々していて、のっぺりと引き伸ばされていたのだ。溶けていたとも言えるかもしれない。

 たとえば人間の頭部を茹でて、冷やして、ワックスでコーティングしたら、こんな感じになるだろうか。

 何とも言えない質感は、顔面だけでない。

 黒い厚布を素肌の上から原人のように巻いている全身がそんな質感だ。

 

 デブは何も答えない。

 座っていた丸太に立てかけてあった大きなナタと、ランタンをそれぞれの手に掴むと、おもむろに立ちあがり走ってきた。


 大ナタを振りかぶる。

 

 確実に俺を殺しに来てるとわかった。

 

 俺は「こいつ絶対ボスキャラじゃん」っと思いながら、推定『無垢の番人』へ向けて、俺のすべてをぶつけることにした。

 ボスに手加減することはない


 『蒼い血 Lv2』を打ち、体力を全回復させる。


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 赤木英雄

 レベル74

 HP 3,080/3,080

 MP 250/679


 スキル

 『フィンガースナップ Lv3』

 『恐怖症候群』


 装備品

 『蒼い血 Lv2』

 『選ばれし者の証』

 『秘密の地図』

 『ムゲンハイール ver2.0』


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「俺はこの時を密かに待っていたのかもしれない」


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 赤木英雄

 レベル74

 HP 80/3,080

 MP 250/679


 スキル

 『フィンガースナップ Lv3』

 『恐怖症候群』


 装備品

 『蒼い血 Lv2』

 『選ばれし者の証』

 『秘密の地図』

 『ムゲンハイール ver2.0』


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 HP3,000 ATK60,000

 現在、放てる最大。


「生きてたらお前の勝ちでいい──」


 指を擦りあわせる。

 触れる指と指の隙間から、青白い火花が、ジリジリと溢れだす。

 指が重たい。

 指パッチンのモーションを取るだけで、凄まじいパワーを要求される。

 だが、舐めるな。

 俺を誰だと思ってる──指男だぞ。


「エクスカリバー」


 静かにつぶやき、指を鳴らした。

 乾いた音が響く。


 直後、ドームを爆炎が襲った。

 遺跡の一部を蒸発させ、気化し膨張した熱風が顔を殴ってくる。

 俺は腰を落として、衝撃に耐え、ボス部屋の入り口付近まで押し戻されながら、薄く目を開く。


 『無垢の番人』は灼熱よって、消し炭となって、跡形もなく消えていった。


 青白い経験値の粒がぱぁーっと俺に寄ってきて身体に染み込んでいく。


 ピコンピコンピコンピコンピコンピコン!


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 赤木英雄

 レベル80

 HP 80/3,903

 MP 250/780


 スキル

 『フィンガースナップ Lv3』

 『恐怖症候群』


 装備品

 『蒼い血 Lv2』

 『選ばれし者の証』

 『秘密の地図』

 『ムゲンハイール ver2.0』


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 久しぶりにこんなレベルアップした。

 やはり、ボスだったのか。

 凄い経験値量だ。


(新しいスキルが解放されました)


 おお?


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 『一撃』

 強敵をほふることは容易なことではない。

 ただ一度の攻撃によるものなら尚更だ。

 最終的に算出されたダメージを2.0倍にする。168時間に1度使用可能。

 解放条件 資源ボスを50,000以上のダメージを出して一撃でキルする

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 これは……強い。

 強すぎるけど……使い道あるかなぁ……168時間に一回きりって、もったいない症候群の俺だとちょっと躊躇しちゃいそうだ。

 まあ、ボス専用、かな。

 ていうか、解放条件やばいな。

 これ俺以外持ってる人いるのかな?

 あとで修羅道さんに聞いてみよっと。


 『蒼い血 Lv2』を何度も打ちながら『無垢の番人』の灰塵の盛山をさぐる。

 

 あった。

 アイテム表示が見えた。


 異常物質アノマリーを拾いあげる。

 ボスが着ていた厚布だ。

 『アドルフェンの聖骸布』というらしい。

 

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 『アドルフェンの聖骸布』

 偉大なる聖人の遺体をつつんだ布。

 あらゆる物理ダメージを20%カットする。

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 20%カットはデカイですねぇ(ゲーム脳)

 あるゆる物理ダメージっていう表記からして、物理ダメージにも種類があって(刺突、斬撃、打撃、軽撃、重撃とか?)それらすべてに効果があるという意味だろうか。


 だとしたら、強いのではないだろうか。

 流石はボスドロップだ。


「おお、これデカイな」


 ついでにバカでかいクリスタルも拾った。

 なんとかジュラルミンケースに入らないかと試したが、蓋が閉まらないので無理だった。

 今まで指でつまめるサイズや、手のひらサイズ、大きくてもリンゴくらいだったのに、今回のボスドロップのクリスタルはスイカほどもある。

 

 それに、色も綺麗だ。質が高いことの証だ。

 

「修羅道さん、よろこぶかな」


 俺はわっくわくしながら、『アドルフェンの聖骸布』でクリスタル包んで傷つけないように大事に抱えて、地上へと帰還した。

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