ベテラン交渉人の失敗 8

橘は女性店員や機動隊の把握に意識が分散して、避けきれなかった。


ナイフが橘の左側頸部(首の左側)に当たる。


刃が橘の頸動脈に深く入り込む。


その瞬間、どくっどくっと血液が噴き出した。


心臓の鼓動に合わせて流血が脈打つ。


間も無く、全身の力が抜けて、倒れた。


犯人はナイフを落とした。


震え上がり、立ち竦んでいる。


「お前がいけないんだ!」


犯人は言う。


機動隊は無抵抗になった犯人を確保した。


無線で救急車の手配をしている。


橘の視界がぼんやりする。


周囲の騒がしい音、床から伝わる複数人の足音も次第に聞こえなくなった。


そして、僅かな光も段々と失い、完全に見えなくなった。

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