第4話「大魔王フィリップ」大魔王視点

――フィリップ(大魔王)視点――



私の名はフィリップ、本来の名は別にあるのだが人間には発音できないなのでこの名前で通すことを許してほしい。


この名は初恋の人がつけてくれた「フィ」という名前を元に私が付けた名だ。


私は先代の大魔王の孫で、現大魔王でもある。


ある日大魔王であった祖父が老衰で亡くなった。


跡継ぎ候補は二人、長男であり王太子だった父と、次男であり王太子候補から外された叔父。


王太子だった父は叔父の策にハマり殺された。私は叔父に魔力を封じられ仔犬の姿に変えられ人間界に飛ばされた。


魔力を封じられたが元の姿に戻る方法はある。


魔力のたまる霊峰などの気場で過ごし、数十年月光日光を浴び、魔力を回復させることだ。


魔界に戻るまでに数十年もかける訳にはいかない、一刻も早く魔界に帰り、父の仇を討たなければならない。


古い文献で読んだことがある、強い魔力を持つ人間の側で暮らせば霊峰で過ごすよりも早く魔力を回復させることができると。


早急に魔界に戻るため、私は人間の世界で最も魔力の強い人間を探すことにした。


そうして探し出したのがエレナだ。エレナは人間の中でもひときわ強い魔力を持っていた。


私は無垢な仔犬の振りをしてエレナに近づき、エレナの家までついていき、エレナの家族に媚を売り、瞳をうるうるさせ人間たちの情に訴え、エレナの家のペットになることに成功した。


幼いエレナと過ごした時間は、私の人生で最も尊い時間となった。


明るく心優しいエレナ、エレナの魔力を浴びるのは実に心地よかった。ずっとエレナとともに暮らしたかった、エレナの側にいてエレナを守りたかった。


だが私にはやるべきことがある、父を殺し、私を犬の姿に変え人間の世界に飛ばした叔父への報復。


魔力の戻った私はエレナの元をさり魔界へと向かった。


叔父は大魔王として魔界に君臨していた。君臨するというよりは……大魔王の城を改良し、城に数々のトラップをしかけ、大魔王城の最深部にある部屋に鍵をかけら引き籠もっていた。


大魔王城の周囲には大魔王の配下であるモンスターが大勢配置されていて、うかつに大魔王城に近づけない。


それにしても父を暗殺し大魔王になった叔父が、部下からの暗殺を恐れて城の奥に引きこもりし、他者との接触を避けているとはな。


数カ月かかけて大魔王城を守るモンスターの隙きをつき大魔王城に侵入し、魔王城に仕掛けられたトラップをかいくぐり、地下室に引きこもりしていた叔父を殺すことに成功した。


それから叔父の配下の抹殺し、祖父の死後いくつもの派閥に別れ混沌としていた魔界を統一した。魔界を統一するまでに数年の月日を要した。


魔界を統一し新たな大魔王となった私は、叔父が大魔王だった事実を歴史から抹消した。叔父を王太子を殺し王位継承を略奪した謀反人として魔界の歴史書に記した。


魔界でやることを終えた私は、叔父により人間界に派遣された魔王による人間界の侵略というくだらない事をやめさせることにした。


人間などどうでもいいが、魔王による人間の世界の侵略が進み、エレナの暮らす村が破壊されエレナが傷ついたら困る。


魔王の城に着いたとき魔王の気配はすでになかった。何者かに魔王が倒されたのか? 魔王を倒すほどの力を持つ人間がいることに少し驚いた。


せっかくなので魔王を倒した奴らの顔でも拝んでおこうと、私は好奇心から魔王の部屋を目指した。魔王の部屋の扉を開けて私は固まった。


美しいの栗皮色の髪、胡桃色の瞳、聡明な顔立ち、華奢きゃしゃな体、周囲が浄化される程の暖かな魔力、間違いないエレナだ! 思い出の中より幾分か成長しているが、私がエレナを見間違えるはずかない!


エレナは柱に縄でぐるぐる巻きにされ、モンスターに取り囲まれていた。どうして私の可愛いエレナがそんな目にあっているのか? エレナを柱に縛り付けた奴を殺したくなった。


だがまずはエレナを取り囲んでいるモンスターを始末するのが先だ、魔法で一掃したいが、魔法を使うとエレナに当たってしまう危険がある。


面倒だか一匹ずつ切り殺すしかなさそうだ、爪に魔力を込めモンスターに近づく。だがモンスターはエレナの周囲に集まっているだけでエレナを襲う気配がない、奴らからはまるで殺気を感じない、どういうことだ?


エレナに近づくとエレナから不思議な匂いがした、周囲を観察するとエレナと同じ匂いを発する瓶が床に落ちていた。


瓶のラベルに目を向けると【飲めるラブ非常灯】と記されていた。どうやら人間が開発したものらしい。ラベルには小さな字で効果も記されていた。


【飲むとモンスターが周りに集まる、モンスターに好かれる】説明文を読んでエレナの周りにモンスターが集まり、集まったモンスターがエレナを襲わなかった理由が分かった。


よく見ればエレナの体が濡れていてドラゴンの唾液の匂いがした、おのれドラゴンの分際で私の可愛いエレナの体を舐めたな、後でドラゴンの舌を引っこ抜いてやる。


魔王の部屋からはエレナの他に二人の人間の匂いがした、男の匂いだとすぐに分かった、エレナの仲間だろうか?


エレナか柱に縛られていることから推測するに、他の二人はエレナをおとりにして逃げたのだろう。


その辺の事情は後でエレナに聞くとしよう、まずはエレナを拘束している縄を切断しエレナを助けなくては。


魔王の部屋にいた二人の人間の匂いは覚えた。世界中を探しても見つけ出し、この手で八つ裂きにしてくれる。

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