第23話 偽婚約者任務

「私の婚約者のフリをして貰えますか?」


最初は言葉の流れ的に冗談かなと思ったが、そういった彼女の目は冗談ではなく真剣で、摩耶たちも静かになった。俺は詳しい話を聞こうと思った。


「ここじゃ話しずらいだろうし、ウチに来る?」


「出来れば…そうしていただけるとありがたいです…」


「分かった…ごめんりな、今日部活休むわ。この埋め合わせは必ずする。」


「う、うん…」


俺は山城さんを連れて俺の家まで向かった


ーー

「お邪魔します…」


「あら?いらっしゃい…って山城さんだけ?」


「うん、お菓子とかは持ってこなくていいから…」


普段なら「え?なにするの?避妊具ちゃんとしなさいよ!」とか言ってる母だが今日はそういう空気じゃないということをいち早く察した。


「そう。」


とりあえず俺の部屋まで呼んで彼女を座らせた。


「で、話を聞こっか。」


「はい…私の家は代々伝わる大きな家で子供が産まれるとその子は次期当主となり、家を継がねばなりません…それは別に構わないのですが父がすぐに結婚し、子孫を残すように私に将来の旦那様を決めるように言ってきたのです…」


なるほど…アニメで何度も見たことはある。それが今この現実世界でもあるもんなんだな…。正直こういうことは首をつっこむべきでは無いこういうことは家の問題だから変に介入するのは逆効果だ…


「ごめん…正直俺には出来ない…。色々助けてもらったのは嬉しかった…。けど…」


「無理難題を言っているのは重々承知しております…ですが、あなたにしか頼めないのです…生まれてこのかた、異性の友達など一人もおらず…話したことも無いのです…あなたとなら少しは話せるのでお願いした限りなのです…」


…彼女はまだ高校生だ。勉強や行事ごとだけでなく生徒会の仕事もある。そんな中、全く知らない異性と付き合えなんて言われたらパンクしてしまう…


「一時的なもので良いのです…ダメ…でしょうか?」


「…分かった。会うのはいつ?」


「今週の日曜日です…」


「3日後!?うん、了解!」


さっきも言った通り家のことに首をつっこむのは良くないかもしれない、けど、彼女が嫌と言っているのに無理に婚約をさせるのはまた違う気がする…家のルールに縛られるのは…嫌だからな。


ーー

そして終業式も終えてついに挨拶の日を迎えた。山城さんの家に来るのは初めてだなぁ…しかし凄く大きい家だなぁ…丹比さんの家に行った時はお城みたいなところだったけど山城さんの家はまさに代々伝わる御屋敷というのがすごく伝わる和風の家で大きい…


「裏に来てください」


「わぁぁ!山城さん…。」


「はい、山城です」


いや、このくだりやめてくれないか…心臓に悪いわ!山城さんは黒のパーカーにジーパンとラフな感じだった。そんなことはさておき、俺は裏の扉から屋敷へ入ったうわぁ…庭綺麗だなぁ…あっ、ししおどしって言うんだっけ?ほんとにあるんだ!初めて見たよ!そんなことを思っていると和服を来た女性がやってきた。この人は…


「大丈夫です、話は通してありますので…」


「そうなんですね…」


「話は伺っております。お待ちしておりました耀司様…本日はお忙しい中、お嬢様のために力添えをしていただき、感謝致します…。」


「は、はい!よろしくお願いいたします!」


若いお姉さんにあまりにも丁寧な挨拶をされたので俺もたどたどしくはあるが丁寧に挨拶を返した。


「そんな堅苦しくしなくてよろしいですよ。御父上様もそんなに怖い方ではございませんので…。」


「は、はい。」


「では着替えてもらいますのでこちらへどうぞ…」


グレーの和装を着させられた…。なんか将棋の棋士みたいだ。


「すみません父上様のお古しかございませんので…うちの一家は女性の方が多くて…」


「いえ、すごくかっこいいです!こんな服なかなか着ることないのでいい経験になります!」


「そう言っていただけて何よりです…では行きましょうか…」


そう言って隣の部屋へいくと山城さんがいた。服装はアクアグリーンの華柄が散りばめられた綺麗な和服だ。眼鏡をかけているのもあわさってかなり魅力的になっていた。


「変…でしょうか?」


「う、ううん!よく似合ってるよ。」


「そうですか…そういえば鷹木さん、名前の件ですが、お父様の前では優莉とお呼びくださいね?」


「わかった…優莉…」


「…では私も耀司さんと呼びますね?」


「う、うん!」


名前呼ばれただけでドキドキしてるのにこの人はドキドキしないのか!?


「ようちゃん…の方が良いですか?」


「やめてください…」


「冗談です…さっ、行きましょうか。」


優莉さん俺をからかうのが上手くなってきたよなぁ…


ーー

「お父様、連れてまいりました」


「入りなさい」


お父さん声低っ!めちゃくちゃこわい人だったらどうしよ…


「失礼いたします。」

「しっ、失礼いたします…」


「おぉ、君が鷹木 耀司くんだね?」


中へ入ると少し小太りで白髪のおじさんだった。殿みたいな人だな…


「初めまして山城 優莉さんと真剣にお付き合いさせていただいております、鷹木耀司と申します!」


俺は正座をして深々と一礼をした。


「あはははっ、そんな堅苦しくせんでええ。もっと楽にしいな…」


あれ?想像してたより優しそうな人だな。すると襖をばんっと豪快に開けて女性が二人入ってきた!1人は赤髪でボブカットの子だった。肩出しの白いセーターを着ていてしたらぴっちりのパンツを履いていた。もう1人は茶髪で後ろに三つ編みを作ってくくられた髪型が印象的な女性だ。童貞殺しのセーターをきたメガネの女の人だ。この人たちは私服?目を見るとどことなく山城さんに似てる…ってことは…お姉さん!?


「あれぇ!?こいつが優莉の未来の旦那かよっ!」

「少しイケメンですわね…同年代かしら?


「おい!薺(なずな)紀葉(かずは)!御客様に失礼だぞ!」


「いいじゃねぇかよぉ!で?で!こいつのどこが良かったんだ!?おっぱいか!?こいつおっぱいだけはでけぇからな!」


「やめなさい、挨拶のことで頭がいっぱいいっぱいなんだから…ごめんなさいね?」


「い、いえ…大丈夫です。」


「はぁ…座れ!!」


お父さんの一喝に2人は瞬時に大人しく座った。すごくガツガツした人たちだなぁ…と思ってるとお父さんが頭を抱えてため息をついた


「まったく…すまないねぇ…うちの娘たちが…で、お付き合いをしていると言っていたが…それは結婚を前提に!ということで良いのだね?」


「はい、もちろんです!」


「ふむ、しかし君はまだ学生だろう?将来どうなるかも分からない、だったら歳は上でもしっかりと地についたものの方が良いのではないか?君もそう思わないかね?」


うっ…このお父さんは痛いとこついてくるな…確かに学生のうちは稼げても限界がある…学生のうちに成功してる者はほんのひと握りだろう…近い将来のことを考えればそんな考えになるのも無理はないか…


「しかしお父様…私たちは真剣に…」


「真剣に考えておるのは分かっておる。しかし、お前はこの家を継ぐものだ。旦那となる男は当然地位の高い男であらねばならん。それが君にのぞめるかね?」


「…ッツ!?」


正直この人の言っていることは正しい…正しいから優莉さんは今まで逆らえなかったのか…次期当主としてそれに見合った男でなければ許されない…だけど…俺は!


「お父様!」


「なんだね?君にお父様と言われる筋合いは無いのだが?」


ぐっ…なんていう圧だ…今まであってきた人の中で1番強い…でも気圧されたらダメだ!おれは仮でも優莉の婚約者なんだから!


「確かに今の俺には将来を約束できるような確証はありません、ですが優莉さんのために命を懸けて幸せにするという覚悟は誰にも負けません!どうか、自分のことを信じてはもらえないでしょうか!」


しばらくの間沈黙が続いた。するとお父さんはくくっ…と肩をふるわせた


「ふん…ふっはははははははっ!あっはっはっはっはっは!」


「あ…あの…」


「いやぁすまんすまん、この俺にここまで言うやつはお前が初めてだよ!」


「すみません!生意気な口を聞いてしまって!」


「よいよい、くはははっ…娘が男を連れてくると聞いた時は同年代だろうと思うとったから、どんなやつであろうとつき返してやろうと思っておった…しかしここまでの男だったとはな…」


やっぱり反対だったんだな…それもそうか…あんだけ圧をかけられたら誰でもしっぽまいて逃げますって!


「お父様… 」


「優莉、いい男を選んだな。さすがわしの娘だ。」


「ありがとうございます…お父様…」


優莉は深々と頭を下げた、俺も慌てて頭を下げる


「かっかっか…優莉…すまんかった…ワシはお前の幸せを思っておった。しかしそれはわしの想像する幸せをお前に押し付けていただけじゃったのだな?」


「そんなことは…」


「よいよい…。耀司よ…娘のこと…頼んだぞ?」


「はい!えっと……なんとお呼びすれば…」


さっきお父様と呼ばれる筋合いはない!と言われてしまったのでなんて言えばいいのだろう…


「お義父さんでよい…次に会うときはお前が大きくなって儂と盃を交わす時じゃ。」


「は、はい…」


出来れば二度と会いたくないよ…だってめちゃくちゃ怖いんだもん…


「よかったな!ついにアタシにも義弟ができた!!」

「ふふっ、子供が楽しみね。」


薺さんは俺の肩をガッと掴んで紀葉さんが微笑んでいた。


「あ、あはは…。」


「おい、休憩室に布団を用意せい!」


「「はい!ただいま!」」


さっきとは違う和服の人が2人くらい出てきて返事をした。…え?布団?今から寝るのか?まだ真昼間だけど?


「何を首傾げとる、うちの家ではお見合いが決まればその日に寝るのじゃぞ?」


え?と俺は優莉さんを見ると顔を真っ赤にして目をそらしていた…え?今まで、お見合いを拒否したり俺を選んだりしたのって…そういうことかぁぁぁぁ!!


「あのっ…彼女の学園生活に差支えがあったら…」


「大丈夫じゃ、学園生活なんぞ所詮、将来の飾りに過ぎん。子供が出来たら辞めさせて子育てに専念させてやるわ。」


「ちょおい!お義父さん〜!!」


なんてこと言ってやがる!さすがにそれはダメだろうと思ったが話が止まらない…


「まぁ、着替えて待っておれ。あぁ、この服装のままという手もあるで?汚そうがまた新しいのを買えば良い。」


「そういう問題ではなく!」


俺は反論しようとするが横にいた薺さんがしびれをきらしておれをガッと掴んで自分の胸に導いた!さすがに山城家の家庭!皆さん良い果実をお持ちで…じゃない!


「なんだよチキンか?あたしが手ほどきしてやるよ!いいだろ親父!!」


いや良くないよ!?お義父さんも笑ってないで言い返して!?


「ダメよ…最初は優莉に譲ってあげないとね?」


そうそう…って!最初はって言った!?最初はって言ったよね!?深い意味は無いはずだよね!?


「お父様!お姉さん!」


「まぁ、時間はたっぷりある…いつでも構わんぞ?」


お義父さんがそういうと覚悟を決めたのか、優莉さんは立ち上がった。


「はい…行きましょうか耀司さん…」


「優莉…」


「大丈夫じゃ、防音設備はしっかりしておる!いくら声を出しても大丈夫じゃぞ?」


「早く行きましょう!」


「は、はいっ!」


お父さんの言葉をかき消すように優莉さんは言った。声におどかされながら俺は彼女のあとをついていった。


ーー

「……。」


「……。」


まずい…なんか言わないとめちゃくちゃ気まずいんだけど…


「えっと、何とかごまかせてよかったね?」


「すみません…私のせいでこんなことになってしまって…」


「ううん!それよりもどうしよっか?適当に時間潰しとく?」


「それは無理です…」


と言われて壁のところを指さした。そこを見ると監視カメラが置かれていた。げ!?てことは俺たちずっと見られてるってことか!?


「私たちがちゃんとするまで…ここからは出られません…」


なんかそれツイクターの漫画であった…アレをするまで出られない部屋的な?…冗談言ってる暇ないな!


「どうしよう!?」


「どうもこうもありませんよ…」


そう言うとシュルシュルっと帯を解いて着物をはだけさせた、下着があらわになり…となるかと思ったが上はサラシ、下はふんどしと…古風な下着だった…。って説明してる場合か!


「ちょっ!山城さ…」


「私は優莉ですっ!」


「あっ…」


ヤバっ声が聞かれてたら…そういえばさっきから言ってるの聞かれていたんだとしたら…。


「安心してください…声は聞こえておりません…。しかし妙な行動をすればバレてしまいます。フリをしても無駄なのです…」


「だからって俺なんかとするの嫌じゃないの!?」


そういうと顔を下に向けてモジモジとしている…もう耳まで真っ赤になっていた。


「本当に嫌なら…あなたにこんな姿見せません…」


「……」


もうごまかせない…彼女は少なからず俺を少し想ってる…だからこうして覚悟を決めて俺の前に立っているそれも相まってか俺には彼女がとても魅力的に見えていた


「私の身体…綺麗ですか?」


「き、綺麗だ…」


「…異性にみせたのは…あなたが初めてです…私が小さい頃のお風呂は母かお手伝いさんがいれてくれていたので…」


「そ、そうなんだね…」


なんとか普通に受け答えだけどかなりダメージが大きい!異性では俺にしか見せたことの無い体ってことでしょ!?やばい…体が反応してきた…


「や、やはりこのような下着では…こ、興奮…できませんか?」


「できる、できないの問題じゃなくて…」


「ではどちらですか?」


「…気にしてたらごめん…正直めちゃくちゃ似合ってるし、エロいです…興奮もします…」


サラシはまぁ、着けている女性は少なからずいる。でもふんどしは…さすがに予想外すぎて…


「そうですか…私は…あなたが良ければ…良いと…思っているのです…」


「でも…」


「それともやはり私は…魅力がありませんか?」


そういって少しづつではあるが着実に俺との距離をつめてくる。俺は布団に引っかかり思わずすてんっとこけてしまった…その上に覆い被さるように彼女は俺に顔を近づけてきた…


「そんなことは…むしろ俺なんかじゃもったいないくらい…か、可愛いと思います。」


「…ではなおさら何が不満なのですか?」


「不満はひとつもないよ!?でも、やっぱりこういうことは好きな人とした方がいいよ!」


「…私には全てわかっています…こんなことをしてもいつかは嘘だとバレるということも…バレたらまた前と同じようなことになることも…でも…だからこそ初めては…知らない人ではなく…あなたが良いのです…」


「優莉さん…」


ここまで真っ直ぐに言われたのは久しぶりだ…でもあの頃とは訳が違う!何とかこの状況を打破する手を考えないと!と思っていると急に優莉さんはメガネを外しとろぉんとした目で俺を見てきた


「んっ…なんだか…ポカポカします…」


「えっ!?」


顔を赤くしてるし…まさか…なにか飲まされた!?


「アッハッハッハッハッ!そろそろ効いてきたかな?媚薬が…さぁどうする?」


お父さんはお酒を飲みながら監視カメラ映像を覗いていた。


「お願いします…耀司さん…私の初めて…貰ってください」


どうしよう…

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