第13話 アイドル名とキスの件とエログラフ!?

「お、おはようございます耀司さん」


朝、ドアを開けると伽耶さんが玄関先で待っていてくれていた。


「お、おう!おはよう。」


珍しく大きな挨拶をした伽耶、この間の頬にキスされた件もあって彼女の唇を見ただけでドキッとしてしまう。


「ど、どうかしましたか?」


前髪を少しいじりがら照れたようにそう言った。俺、丹比さんを異性として意識しはじめてるのかな…まさかな!


「ううん!さぁ、早く行こっ!」


「はい。」


まぁ、伽耶さんとの距離が縮まったみたいで少し嬉しいな。そして、登校の道中で俺は、ん?と立ち止まって伽耶の顔をじっと見つめた。なんかいつもと雰囲気がちがう…


「あ、あの…なにか顔についていますか?」


「あっ!髪留めか!!」


伽耶の前髪がピン留めでとめられており、前まで隠れていた目がはっきり見えて印象が変わったんだ。


「あ、はい。前が見えにくくて…」


「ならどうして今まで前髪で隠してたの?」


「私恥ずかしがり屋で…はっ!」


言葉の途中で何かを思い出して少し顔を俯かせた。なんだろう?そう思っていると急に顔を耳元にちかづけてきた!この間のキスがフラッシュバックされてグッと目を閉じたがキスではない。


「どうしてだと思いますか?」


そう耳打ちしてふふっ、と笑った。ゾクッと背筋が凍った。まるでヘビに睨まれたようだ。こんなことする子だったっけ?


「今日の放課後までの…宿題?…ですから。」


そういって再び前を向いて歩き出した。

なにこれ…ピン留めひとつでこんなにも変わんの?いや、買い物の時からすごい子だなって思ったけど意外と積極的なのかもな。


ーー

「丹比さんその髪留めめっちゃ可愛い!」

「今度ポニーテールにしてみてよ!」

「私、スタイリストの勉強中なの!良かったら好きな髪型いって!すぐやってあげるから!」


「あ、ありがとう…ございます…」


まだ少し緊張しているようだが問題なさそうだな。そんなことを考えているとぐふふ…と変な笑い声が聞こえてきたのでそいつの前まで行った。


「何やってんだよ?」


財前がなにかブツブツ言ってたから気になって声をかけてみた。なんかの資料か?


「おぉ、耀司…これは丹比さんファンの間で話し合っているエロ度の表だ!」


いや、なんてもん作ってやがる!いいぞ!もっとやれ!なんてことを思いながら渡された紙を見ると、そこには円形のグラフと丹比さんのそれぞれの人格の写真が貼られていた。これ許可とったの?とってなかったら盗撮になるんだけど?


「どれどれ、琉偉さんは…」


丹比 琉偉 エロ度55%

天然ではあるが意外とガードがかたく、チラ見せなどがほとんどない。しかし、男女問わずボディタッチが多いところを見る限り押し切れば3〇までは許してくれそう。


「なんじゃこりゃあ!」


これ作ったの誰だ!琉偉がそんなことするわけねぇだろたぶん!本音を言えばその光景をちょっと見てみたいけど!で次は摩耶か。


丹比 摩耶 エロ度30%

かなり強面キャラで、誰に対しても喧嘩腰なイメージだが撫でられたり褒められたりするのが弱い。つまり、褒めればなんでもしてくれそうなタイプ!ちょっとキツめな趣味にも付き合ってくれそう


「ま、まぁ、確かに妥当だな…ちょっとキツめてなんやねん…」


まぁ、俺なら猫耳としっぽをつけてなでなでしてやりたい。うん、きっと殺されるだろうな。次は佐奈さんだな。


丹比 佐奈 エロ度74%

姉であり聖母のような存在の彼女、誰にでも分け隔てなく話しかける。教室で着替える際男子が全員出る前に着替えを始める感じを見ると、頼んだら何でもしてくれる優しい彼女!どんな頼みでも聞いてくれそう!


「やかましいわ!俺もほぼ同意見だけどな!」


確かにあの人って何でもしてくれるしな…まさにお姉さんとか聖母的存在だよなぁ。次は世羅さんか。


丹比 世羅 エロ度84%

どんなに下心丸出しでも自分が好きなファンとして受け入れてくれる神対応!普通の生徒とは思えない!第二ボタンまで開けているがなかなか谷間が拝めない…。これで導き出されたのはかなりエッチということ!好きになった人にはどんな事でもしてくれそう!結構悪趣味なことでも押し切ればやってくれるはず!


「酷い言われようだな…」


こんなの世羅に見せてみろ…半殺しにあって永遠に軽蔑されるわ。っと、やっぱり伽耶の情報はまだか…


「しかし、酷い表だなこりゃ。」


「何が酷いんですか…?」


一瞬マジで背筋が凍ったかと思った…後ろをゆっくり見ると伽耶がニコッと笑ってたっていた。明らかに怒っていた…そして右手を出してずっと俺の前に手を広げた。


「今…その紙を渡してくれたら…生徒指導室に持っていくのを…取り消してあげます。」


「はい、どうぞ。」


俺は静かな圧に逆らえず、その紙を渡した。


「……」


伽耶はその紙をペラペラっとめくり後ろにいる財前を睨んだ。


「もしバックアップを…」


「ありません!ありませんから許してください…」


速攻で土下座した…そらそうなるわな。俺だったら飛び降りるレベルだぞ…


「はい、ではこれは私が預かっておきますね。」


そういって伽耶はその場を後にした。財前は死ぬかと思った…と顔がかなり青ざめていた…

その日の放課後、先に行こうとする伽耶さんを呼び止めた。もうみんな部活に行って、教室は俺と伽耶さんの2人きりだった。ちょっと怖いなと思いつつ…


「きょうはごめんっ!あれはあいつが…ってこりゃ言い訳だよな!本当は少しだけ興味があって読んでた!本当にっ…悪かった!」


そう言って頭を下げているとふふっ、と笑ってこっちへ歩いてきた。


「耀司さん、わたし、そんなに怒ってないですよ?」


「ほんと?」


良かったぁと思って彼女の顔を見ると先程の笑顔の圧とはまた違う何かを感じた。なんだ…まるで吸血鬼が首筋を狙っているかのようなその鋭い眼差しは…。


「えぇ、これ…面白いですね。私のがないのが少し残念です…」


「確かに…はっ!!」


やっちまった…つい本音が出ちまった!まずいまずいまずい!殺される…


「ふふっ…そんなに気になりますか?」


一歩また一歩と少しずつ俺に近づいてくる。俺は後ずさりして少しづつ後ろに行くがどんどん追い詰められていく…


「いやっ…別に…」


「じゃあ…教えてあげます…」


「えっ、その…伽耶…さん?」


ついに紙一重にまでせまり俺は覚悟して目を閉じた!目を閉じてても彼女の鋭い眼光がわかる。もう勘弁してくれえぇ…


「私の…エロ度…はぁ…」


「伽耶さん…まって…」


そう言っても伽耶さんは止まってくれなかったやばい…やばい!と思ったら耳元をふっと息を吹きかけられ…


「100%…ですよ?」


唇をぺろっと舐めるなまめかしい音と、俺だけに聞こえるように静かな声でそう言った。それだけで俺の体がビクッビクッと跳ねてへなへなっと倒れ込んでしまった


「ふふっ、冗談です。」


「ほんと…伽耶さんのキャラ変わりすぎでしょ…」


「これが素の私なので…これからは覚悟してくださいね?」


伽耶さんは俺を指さしてバキュンとさて見せた。はぁ…今まで見てきた人格の中でいちばん厄介かも…

何とか立ち上がりなるべく距離をとりながら彼女の後ろを歩いていった。


ーー

部室に来た俺たちは師匠に昨日相談したら百均でライブ用のライト売ってんだろ?それを客の何人かに持たせればいいんじゃないか?と言われたのでそのライトがどんなもんなのかをテストしていた。部長と世羅さんは発声練習。渡部さんは紹介文を考えていた。すると眞鍋さんが、そういえばと話をきりだした。


「アイドルなら名前があるよな?なんて言うの?」


「「「あ。」」」


全員が声を声を揃えた。それは丹比さんも同じで…


「丹比さんってアイドル名考えてる?」


「あ、えっと…セ…じゃない!どうしよう…」


確かにアイドル名は重要だ。これからその名で呼ばれることが多くなるんだからなるべく自分だとわかって人に認知してもらいやすい名前がいいだろう。


「うーん?タジピョン?」


「いや、それセラピョンのパクリでしょ…うーん…名前なんだっけ?」


「私は…伽耶ですけど…歌うのは世羅です。」


「やっぱセラピョン。」


「いや、もうまんまやないかい!」


眞鍋さんと佐久間さんが名前を考えるも却下…まぁ、そのへんを決めるのってなかなか難しいものだ。すると草壁がはいはーいと手を挙げたのでりなが「どうぞ。」と発言権を与える。


「じゃあ!斎場と世羅ちゃんを合わせて!サイジョウ セラ!」


「それっぽい名前だけどアイドルに見えないだろ!?」


だんだん揉め合いになってきたなぁ…ここは俺が面白いことでも考えるか。そうだなぁ…うん、これなんか良さそうだ!


「タジニャン…」


「…え?」


「タジニャンでいいんじゃね?猫耳つけて。」


どんなツッコミがかえってくるかなぁ!それはねぇだろ!か?それともお前が猫耳推しだからだろ?とか!?しかし返ってきた言葉は全く違った。


「タジニャンか…悪くないな。」


「なんかちょっとセラピョンに似てるけどまぁ、文化祭だけ限定ってことで!」


「よしっ!タジニャンでいくぞ!」


「「「おー!」」」


え?嘘だろ…いいのかよ!?まぁ、ちょっと予想外だけどこれはこれでいいのかな


ーー

そして部活がおわり、忘れ物を取りに教室に戻ることを告げると伽耶さんもついてきた。まさかこんなすぐ二人きりになるとは思わず…少し緊張する。


「ていうかタジニャンでよかったの?」


言い出しっぺの俺が言うのもなんだけどもう少し可愛い名前があったかも…すると伽耶さんは首を横に振った。


「いえ、耀司さんがつけてくれたので…」


顔を赤くして照れる表情をする伽耶さん。今までなら自然と見れたんだけど今ではあざとく見えしまう。まぁ、それも可愛いんだけどな!どんどんやってくれたまえ。


「そういえば、朝の答え…分かりましたか?」


「え?」


あ、そういえば言ってたな!放課後までの宿題とかなんとか!


「恥ずかしがり屋でって言ってなかったか?」


「もうひとつあるんです!」


どうしよう…なんか分かるんだけど答えたらやばい展開になりそうで怖い。でも外したら外したで答えを言う時また朝と同じようなことをされかねん!逃げ場がねぇ!


「えっと、自意識過剰だったらごめん…俺を直視出来ないから…とか?」


「…ふふっ、鷹木さん自意識過剰過ぎますよ〜?」


「だから言ったじゃん!うわぁ…恥かし〜」


もう穴があったら入りたいよー!


「合ってますよ…それで。」


「え?」


「あまりにもズバッと言い当てられたから意地悪しちゃいました。ごめんなさいっ♡」


てへぺろっと照れくさそうに出してみせた。最近それ流行ってるのかな?俺も使おうかな?

無理だな。


「何はともあれ順調にことが進んでるよな。ありがたいけどなんか怖いよなぁ。」


「ふふっ、今のうちにハプニング…起こしますか?」


俺はゾクッ…今度は油断しないぞ!と距離をとった。


「ふふっ、冗談ですって。…まぁ、たしかに順調ですけど、悪い事がおきそうなんて…言わない方がいいですよ?縁起悪いです。」


「そうだな…ごめん。」


確かに…俺ほんと物事をマイナス思考に考えすぎる癖を治した方が良さそうだな。


「あっ、わたし、こっちなので失礼しますっ!」


「あ、あぁ。」


彼女はさよならって挨拶して去っていった。嬉しいような、少し寂しいような…しかし、久しぶりに今日は1人で帰る…最近丹比さんが家による事が多かったから久しぶりだなぁ。


「ただいま…」


「ねぇ耀司!この猫耳としっぽめちゃくちゃ可愛くない!?衣装に合わせて作ったんだけど!あっ!もしかしてあの子嫌がるかしら…でもつけて欲しいし…」


「……。」


「どうしたの?」


さすが母さん俺と考えることは同じらしい。おれは頭をぽりぽりとかいた。


「いや、蛙の子は蛙…ってね?」


「え?なに急に?」


「いいえ、何も。それより母さん明日休みだし一緒に出かけない?」


「あら、デートのお誘い?こんなおばさんで良ければ。」


いやいや、なわけねぇだろ!確かに丹比母と同じくらい綺麗な顔をしてるから恋人繋ぎしてたら少し年の差カップルとして見られるかもしれないが…


「いやいや、冗談も程々にしろ。」


「でも残念、明日ちょっと急用が入ってね。まぁ、早く帰るけど…せっかくだし丹比ちゃん誘ったら?」


「それもいいな。みんなを連れて…」


そうしたら…と言おうとするとはぁ…と母さんはため息をついた。仕事で疲れてるのか?


「な、なんだよ…」


「ううん、ただ、丹比ちゃんも大変ねーって思っただけ。」


「ん?そうだな?」


どういうことだろう?文化祭のことか?まぁ、彼女には無理させてるし文化祭が終わったらなんかお礼しないとな!


「まぁ、頑張んなさい。でも私は2人っきりの方がいいと思うわよ〜。」


そういってご飯の準備を始めた。ふむ、デートか。ちょっと聞いてみようかな。


ーー

心の中

『タジニャンだってよー!かわいいじゃん…プハハハハッ!』


『ちょっと!耀司が決めたんだからいいじゃない!笑うのは私が許さないわ!』


摩耶と世羅が揉めていた。このふたりが揉め合うのは初めて見たかもしれない。


『お?やるかぁ?』


『もう、2人ともやめなさいって。』


『すみません…皆さんの意見を聞いておけば…』


『まぁ、いいわよ…それにおかげで耀司から…また付けてもらえたし。』


それは小さい頃の記憶。「わたし、アイドルになる!」そういった私に耀司は「おれ、一番のファンになるよ!」「ホント!?」そんなやり取りをしたことがある。それでその後…


『ふふっ、何を思い出してるの?』


『う、うっさいわね!あんたには関係ないでしょ!』


『すみません…』


『まぁまぁ、それより!明日休みだしどっかに行きたいよねー!』


『じゃあ、耀司くん誘いなよ。どうせなら二人で。』


琉偉の提案に佐奈はそう答えた。ほかの人格も少し反応して、こちらを見た。


『ええっ!?それデートみたいじゃん!』


『みたいじゃなくてそうなんだよ。せっかくの休みだから自由に過ごさなきゃ。』


『う〜ん…わかった!じゃあ明日デートしてくるね!』


『ま、まぁ、どうせ私だしね。誰とデートしようが一緒だし!』


『まっててね!ようちゃん』


そういって琉偉は真ん中へたった。

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