第11話 文化祭へ向け準備開始!

生徒会から1枚の紙が届いたという話を聞いて放課後、部室に集合した。部室に入ると部長のりなが神妙な面持ちで立っていた。とりあえず席に着くとその紙の内容をりなが読み上げる


「生徒会長から紙が届いた。内容は次の文化祭の部活発表大会で1位を獲ること!それが条件だそうです。」


「1位なんて…また無茶なことをさせるなぁ…」


眞鍋ははぁ…とため息をついた。


「でも、良かったぁ…アイドルの大会で優勝とかだったら絶望的だったよー。」


佐奈は安心したようにふぅ…とため息をついたがほかのメンバーはそうじゃないようすだ、かく言う俺も同じ気持ちである。


「確かにそれよりはマシだけど…というかアイドルのいいところをいうだけの部活だよ!?でも部活の発表大会って…」



部活の発表大会。それは軽音同好会や、書道部、美術部などの部活が出場し生徒の前で出し物を披露する。それを生徒、審査員である先生に投票してもらう。しかしアイドル部はその大会で優勝したことがない…むしろ最後から数えた方が早いほど低い順位なのだ。


「私たち、アピールするところとかがなくて…アイドルの良さを知ってもらうために資料みたいなのをまとめて紹介する感じだったから…」


去年見た時は俺は歓喜していたがまぁ、アイドルに興味のない人からしたらあくびが出るような話だっただろうなぁ。


「だから今回!こうやって本気でアイドルを目指す人が現れた!なら!やることはただ一つ!」


「「「生ライブ!」」」


全員が声をあわせそう言った。確かにこの文化祭で新人アイドルが歌を歌う。それだけで順位はかなり上がるだろう。まして、丹比さんのような完璧なスタイルの人が歌うんだからさらにすごい人気が出るだろう。


「おぉ!出来るのか!?」


俺も正直喜んだ!生ライブを学園で見ることができるならこんなの応援する以外ない!


「うん!許可ももらってきたし!大丈夫だよ!」


部長のりなはVっとピースして笑顔でそう言った。


「…。」


みんなが盛りがってる中、唯一、佐奈だけは首を縦に振らず少し俯いていた。


「…?佐奈さん?」


「あっ…うん!聞いてるよ!」


「大丈夫?もしかして嫌?」


「そんなことないよ!?」


「そうですよ丹比さん!無理にヤレなんてことは言わないから。ね、みんな!」


それはここにいる全員が同じ意見だ。部活はずっと続けていきたい!だけど彼女に無理をさせるのは違う。歌うかどうかは彼女の判断だ。


「ううん!私…頑張るから!アイドル部のために!」


よしっと決心を付けてそう言ってはいたがその後の少し不安そうな顔を俺は見逃さなかった。


ーー

「……。」


特に話すことなく無言で俯く姿を見てられないと思い、思わず話しかけてしまった。


「やっぱりやる気出ない?」


「えっ!?ううん、そんなことないよ!?」


「でもなんかさっきからくらいから。」


「うん…耀司くんにはバレてるよね…」


ふぅ…と息を吐き本音を漏らしてくれた。


「なにかあったの?」


「えっと…本当はね…4人格目の子の事なんだけど…。アイドルが大好きな子で…」


「そうなの!?」


ということは昨日琉偉さんがアイドル部に入ろうとしたのってその四人格目の子のためってことか。


「でもその子…あんまり人前に出たくないみたいで…もちろん、ライブは好きだし!人前なんて問題ないみたいなんだよ!?でも私たち自身のことを気にしてるんだと思う…」


「そうか…」


たしかに当日は相当な人数もくるし動画を撮る人もいるだろう。そんな人たちの前で歌い、変に目立ったら…ましてやこの学園の生徒は彼女のことをほとんど知ってる。それに動画を勝手にあげられたら…嫌な予測が頭をよぎった。


「もちろん!みんなのために何とかしたいって思いはあるんだよ!?でも…やっぱり…」


「そっか。そこまで考えてたんだね。」


俺は馬鹿だ。決めるのは彼女自身だとかみんなのためにとか言っときながら結局部活存続のことしか考えてなかった。


「よし!じゃあ他の案を…」


「ダメっ!!」


「えっ!?」


そういったのは佐奈さんだった…いや違う。声のトーンが若干明るく、力強かった。まさか…今の声って…四人格目の女の子!?


「私は大丈夫だからっ!お願い耀司!」


ガッと掴んだ手は力強くて少し震えていた、きっとみんなに迷惑をかけまいと強がっているのだろう。本当はとめてあげたいけどその目は丹比さんのままだが言葉の重みが違う。


「…わかった。じゃあもう一度みんなで話しあって考えよっか。」


「…はっ…う、うんそうだね。」


また戻った…四人格目の子はイレギュラーな存在なのだろうか…それとも…。


ーー

「やっぱり…丹比さんの力が必要だ。」


あれから俺はベットの上で色々考えてみたがやっぱり実際に生のライブを見てこそアイドルの良さがわかるのだ。そのためには丹比さんが犠牲にならなければならない。


『丹比さんは文化祭のこと…本当にどう思ってる?誰にも言わないから…本音が聞きたいんだ。』


そうHINEで丹比さんに送信した。するとすぐ既読がついた。少し待っていると返信が返ってきた。


『少し怖いけど…私…歌いたい!絶対歌うから!』


そしてやるぞ〜というスタンプが送られてきた。


「じゃあ俺のやることは…よし!!」


そう決心した俺は階段をおりて母さんの元へ。

母さんは不思議そうな顔をして俺を見つめる。


「あら、耀司!どうかした?」


「母さん…お願いがある!」


母さんは一瞬ポカンとしていたが耀司の目を見て表情が真剣になった。


「なにかしら?」


今の俺に財力も権力もない。俺にあるのはアイドルヲタクとしての知識だけ…だからこそ今の俺に出来ることは…俺は母さんに土下座した。


「たのむっ!アイドルの服を作って欲しい!」


「服?」


そう、俺の母さんは何を隠そう!某人気モデル雑誌や、プロの衣装を作成からコーディネートまでをやる超プロフェッショナルだ!


「今年の文化祭でどうしても必要なんだ!」


「あんたねぇ…簡単に言うけど衣装ってそんな簡単に出来ないの。もちろん私自身の仕事もあるし、家事もやらないといけないし…そんな中短い期間で作成から衣装までやれって言うのかしら?」


確かにそうだ。うちはお父さんがいない母子家庭だ。今は仕事と家事両方している母さんに対して、そんなこと…頼めないってことくらいよくわかってる…でも!


「…だったら俺が家事をする!掃除だって、洗濯だって…り、料理だってやる!それならいいか!」


「はぁ…あんたって子は…」


母は頭を抱えて俯いた。やっぱり無理だよな…ましてやプロの衣装を作ってる人が生徒のために作るなんて…それに、もし仮に優勝できなかったら…


「協力するに決まってんでしょ!」


「だよな…え?」


今なんと?だってさっきまで無理だって言ってたじゃん…


「あんたがそこまで男だったとは思わなかったァ…まぁ、こう見えて親バカだしぃ〜」


俺の頭を撫でながらそう言う母は少し笑っていた。まさか、初めから協力をするつもりだったのか!?


「てか自分で言いますかそれ…。」


「それに、どうせ丹比ちゃんが関係してるんじゃなァい?」


「あんたエスパーかなんかか!?」


全くこの人にはなんでもお見通しらしい…そりゃ親だから当たり前か…


「丹比ちゃんのためならめちゃくちゃ可愛い衣装作ってあげる!…その代わり、約束!」


「はいっ!」


その一言に思わず俺は正座をしてしまった。

すると母は目を閉じ人差し指をあげる。


「まず1つは丹比ちゃんを家に呼んで!衣装のサイズ測るから!それともう1つは…」


「もう1つは…」


「やるなら1番!!これ最重要事項!それ以外

は許さない!私が衣装を作るんだから!私の顔に泥を塗るんじゃないわよ!」


「もちろん!俺も全力でサポートするよ!」


「まぁ、アイドルヲタクのあんたに何ができんだって話だけどね。」


あんたさっき親バカって言ってましたよね…?一気にズバって俺の心を切り裂いたよ?泣くよ?


「まぁちょっとは期待してるわよ。もちろん私の手伝いもしなさい。」


「もちろんだ!!」


「じゃあ早速始めましょうかね。」


そういうと母は軽く伸びをしながら自分の部屋に行く。


「えっ…でも仕事とがあるんじゃ…」


「はぁ!?誰が仕事サボって丹比ちゃんにかわいい衣装を着せたいから衣装のデザインを考えてた…よ!」


そういいながら母のいつものデザイン用紙が出てきて丹比さんのスタイルに合わせて少し派手で可愛めの衣装のイラストがそこにあった。


「いや、本音があからさま!それにもうあるんかい!」


「だってあの子可愛すぎじゃない!スタイルもいいし!なんなの!?天使!?私、あの子がアイドル目指すって言うなら専属で衣装を作るわ!」


「いや、どんだけ好きなんだよ!」


デザインを見たがどれもレベルが高い…さすがプロ。これなら…いける!


「誰が仕事の合間を縫って衣装を作った…よ!」


「衣装まで作ったんかい!」


この人本当に仕事してるのか疑わしくなってきたわ!いつどの時間にそんなもの作る時間があったんだよ!


「サイズも多分これで合ってると思う!知らないけど。」


あんたバケモンか!!まって、もしかして目視だけでスリーサイズとかわかんの!?母さん凄すぎない!?


「まぁ、あくまで予測だしまた測り直して作るけど!」


「ほんとすげぇよ!ありがとう!」


「耀司、よく聞きなさい。」


母さんは俺の肩を掴みしゃがんだ。


「仕事をしながら家事なんてもう慣れっこなのよ!でもストレスは溜まるから…その発散に丹比ちゃんを想像しながら衣装作ってたのよ。」


「いいこと言うのかと思ったら後半でなんで下げんだよ!んで、それがストレス発散方法やったんかい!」


「ま、こっちは大丈夫だから。あんたは楽しみなさい。学生の本分は勉強とたくさん学校生活を楽しむこと!私の事なんか気にしない!わかった?」


「ホントありがと。母さん。」


「まぁ、私が仕事辞めたら養ってね!」


「へいへい。」


冗談なのか、ウィンクかましてるけど…まさかここまで話がトントン進んでいくとは…本番までに色々準備するものが多い!急がないと!

本番まであと3週間!かなり突き詰めないと!


ーー

「…ようちゃんったら…ほんと心配性なんだから。」


確かに怖い…もちろんSNSにあげられたらとか、動画を撮られてたらとなるとやっぱり少し嫌だ…。それよりももっと怖いのはセラピョンだと周りにバレないかどうか…セラピョンに似せないようにしたとしても身体の癖とかもう染み付いてるから…


「佐奈〜ごはんよぉ?」


「はぁい!今行きます!」


深く考えても仕方ないかな…。ご飯を食べてしっかり寝よう!


ーー

心の中


『ありがとね、私のわがままばっかり聞いてくれて…』


少し申し訳なさそうに世羅はそう言った。彼女には大きな夢がある。だからこそ私達はそれを応援してあげたい、それは私たちにも確実にプラスになることだから。


『ううん、私達は好きで付き合ってるんだから、あやまらないで。』


『お人好しね。まぁ、本番は私に任せて。絶対に優勝してやるから!』


『それは楽しみだね…で?どうするの?セラピョンは封印するんでしょ?』


佐奈は両手を頭に乗せてぴょんと跳ねた、世羅はそれに少しイラッとした顔を見せたがすぐ真顔に戻った。


『あったりまえよ!!セラピョンの格好をしてなくてもファンの人からしたら本物ってバレちゃうもん!』


『曲とかどうするの?』


『大丈夫!私のオリジナル曲でいくわ。』


『それは楽しみだね〜。』


あんたは私と同じ体なんだから分かってるでしょ!と言っているが佐奈は何も聞こえなーいというふりをした。


『まぁ、みてなさい!本番までには完璧にしとくから!』


そういって堂々とした面持ちで真ん中へ立った。

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