第7話 根暗な彼女
唐突だが、俺はストーカーをされている。先程からずっと俺の後をつけている女の子。俺が歩いていると彼女も歩く。しかし、俺が振り向くと隠れる…いや、はっきり言うと隠れられてないんだけど…電柱に隠れてるつもりなんだろうが、胸がはみ出してるし…。今日は日曜日。せっかくの休みの日だし昨日の生ライブの余韻に浸っておきたかったんだけど、親に買い出しを頼まれ、仕方なく外へ出たものの…まさかストーカーにあうとはな…。
「よし…一か八か…。」
少し柔軟体操して俺は全速力で走り出した!
「!?」
女の子は俺を追いかけている…遅いけど…息を切らして汗を拭っていた。
「はぁ…はぁ…あれ?あれっ?」
「俺になんか用?」
彼女は見失っていたようで後ろにいた俺に声をかけられ驚いていた。
「ひゃぁぁぁぁ!」
「ぶぇふっ!!」
まさかの溝打ちされるとは…それもなかなかいいところに入った…。そのまま俺はうずくまってしまった。
「あっ!やってしまった…すみませんすみません!」
「んっ…」
「すみません!私…」
「いや…大丈夫…。君は…もしかして…」
この子ボクシングでもやってるのかって言うほど強い一撃だった。彼女が下を向くと前髪が浮いて目が合った。どこかで見たことある顔だなって思ったけど…
「は、はい…丹比 伽耶(たじ かや)って言います。」
「ですよね。」
もう驚かないぞ、この金髪と…髪の毛は隠れていても目の色が丹比の目と一緒だからな。しかし、私服がなんと言っても普通…猫の絵が書いてあるパーカーにジーパン…スカートとか履けばめちゃめちゃ可愛くなるのに…
「君が4人格目の子かな?」
「あ…えと…違いますけど…あってます。」
「どっちだよ!」
「すみませんすみません!」
「いや、怒ってないから!」
俺はニコッと笑ってそういうと、安心したのか彼女は言葉を続けた。
「あの…ややこしいんですけど、耀司さんと話した順番は私が四番目ですが、私は五番目…なので。」
「あっ、そっか!」
昨日セラピョンのライブで丹比には会ってなかった!まぁまたすぐ会えるだろ。
「昨日のことは秘密にして…って言われたし…」
丹比さんの人格はよくボソボソと話す時がある。これも多重人格が原因なのか?
「なんか言ったか?」
「いえ…。」
「そういや、なんで俺の後をつけてたんだ?」
「すみません…耀司さんに…会いたくて…」
なんだその付き合いたての彼女みたいなセリフは!俺を口説こうとしてるのか!ばっちこい!って言いたいのをぐっとこらえて続きを聞いた。
「俺に?」
「すみません…私みたいなやつがすみませんすみません!」
「いや、だからそうじゃなくて!」
この子すぐ謝るなぁ!可愛いから許すけど!
「1度お家に伺ったらお義母さんがすごい形相で私を見てこられて…お話をしたらすぐ分かってくれて。ここに買い出しを頼んだと…」
「あぁ、そうなのか。」
そりゃそうなるわな。ただでさえ幼馴染が来ただけであんな感じだったんだ。もし誤解がとけないままだったら俺が殺されてる…そこは、佐奈さんが前もって色々話したって言ってたからある程度伝わっているのだろう。ありがとう佐奈さん!
「はい…それでお義母さんに『そういえば、これって五股になるんじゃない?』って言われたんだ…」
「色々ツッコミどころが多すぎる。」
まず付き合ってない!それに1人の体の中に5人いるだけだから…あれ?どうなんだろコレ?
「…面白いお義母さんだね。」
「だろ?俺もそう思う」
クスクスっと笑う顔はやはり可愛い。しかし、ここまで性格が違うと別人にみえる。まぁ、別人って言われたら別人なんだろうが…。4人格目の子が気になってきた。
「あっ、耀司さん…今日用事あったんじゃないですか…?」
「ううん、特に用はなかったよ…あっ!買い出し!」
あっぶな!危うく忘れるところだった!もし忘れてたら俺の命はない!
「じゃあ…私も…お手伝い…させてもらいます…。」
「いや、悪いよ…」
いきなり初対面の人とショッピングなんてお互い気まずいだろう…
「私が一緒にいたいんです…ダメ…でしょうか?」
「ダメなわけないでしょうが!」
前髪隠れてるのになぜそんな上目遣い上手なの?前髪越しでも可愛いのがわかる!これで拒否出来るやついたら出てこい!むしろこっちからお願いしたいくらいだ!
ーー
それから俺達は八百屋さんが多く立ち並ぶ佐武町通りへやってきた。ここは精肉や野菜、魚がめちゃくちゃ新鮮で結構安い。とりあえず野菜を買っ…
「おや、坊主。彼女とデートか?」
「佐田のおっさん、この人は俺の友達だ!伽耶さんって言うんだ。」
この人は佐田のおっさん、俺が子供の頃からここで働いている。母さんも俺もここによく買いに来るので顔を覚えられている。
「はっ…はじめまして。」
人見知りなのか、顔を赤くして少し俺の後ろに隠れて佐田のおっさんを見ていた。
「そうか!可愛い彼女じゃねぇか!前髪上げた方が可愛いぜ?」
「彼女じゃないって!!んでもって女子高生を口説くな!」
「いいじゃねぇか、彼女じゃねぇんだろ?」
「まったく、それより、レタスとトマトを買いに来た。」
「あいよ、いつもありがとね、これサービス!可愛い彼女さんだからね!」
「記憶力ダチョウか!違うって言ってんだろ!」
「相変わらず親父に似て口悪ぃなぁ。」
…親父…か。嫌なこと思い出させやがって…あんなやつ…どうでもいい。
「…親父は関係ないだろ。」
「?」
「おっといけね、つい癖だ。」
「慣れてるからいいよ。またくる。」
「おう!またそっちのお嬢さんと来な。」
「気が向いたらな。」
ーー
「耀司さん…」
「ん?」
「い、いえ…なんでも…」
伽耶さんはなにか言いたそうな顔をしてたけど無理に聞くのも悪いと思ってそれ以上は聞かなかった。
「そう?えっと…あとは卵と…あった!」
「あっ…待ってください!」
「うぉぁ!なになに!?」
急に腕を掴まないで!色んな意味でドキッとするから!
「お義母さん、いつもどの卵買ってるか知ってますか?」
「えっと…知らん。」
いや、いつもついて言ってるんだけどあまり意識してみたことがないからあまりよく分からない。
「…勝手に言って…申し訳ないんですけど…こっちの卵の方が…安くて新鮮ですよ…。」
「え?卵って高い方がいいんじゃないの?」
「そうなんですけど主婦っていかに安く新鮮な卵を買えるかが大事なので…」
「へぇ!俺全然そんなこと考えたこと無かった。」
伽耶さんってお母さんみたいだよな。女の人って自然とこういうことって身につけるのかな?
「じゃあ、つぎ…あっ!待ってください!今からタイムセール…!?ちょっと行ってきます!」
伽耶さんは目を輝かせて走っていった。行き先を見ると肉屋さんでタイムセールが始まっていた。近所の奥様方が密集しているところに突っ込んで行ったけど大丈夫だろうか…しかしその心配も打ち砕くかのように数分たって奥様方を見事かわして伽耶さんは出てきた。
「ふぅ…お待たせしました!」
周りの奥様方がゼイゼイなってる中一人平気そうな顔で出てきた。
「見てください!このお肉も魚も元の値段からほぼ半額だったんですよ!ラッキーでした!」
「へ、へぇ…」
いつの間に魚のタイムセールまで行ったんだよ!?結構大きいの手に入ってるし…ほかの奥様方真っ青な顔でやっと小さいの1つ手に持ってるくらいなのに…何があったんだよ…
「あっ!心配しなくても耀司さんのところの分もとってますから!!」
「いや、心配してるのそこじゃないんだけど…」
「あっ、詰め放題!これもっててくだ…はっ!」
急に恥ずかしそうにする伽耶さん。うん、さっきとキャラが豹変しすぎて自分でも気づいてなかったな?顔真っ赤にして…あぁもう可愛いなぁ!!
「すみません…私…タイムセールとかお得とか…そういうのに弱くて…」
「いや、何となく予想ついてたけど!」
今までめちゃくちゃインパクト強い人たちばっかりだったからすごく安心してたけど!違う意味で安心した!
「少し待ってて貰えますか?」
「うん。待ってるよ。」
まぁ、本人が楽しそうだし、少しの間待っといてあげよう。
その後も詰め放題やお惣菜のタイムセールもあったので彼女は楽しそうに全て参加していた。
「すみません…結局私の買い物みたいになってしまって…」
彼女は俺以上に荷物を持っていた。俺は片方空いてたので半分持ってあげることにした。
「ううん、楽しそうだったから…よかった。」
「はい…そういうの…大好きなので。」
まるで夏コミを乗り切ったヲタクみたいになってるけど。おもちゃを前にした子供みたいで。正直見てて楽しかった。
「じゃあ帰るか。」
「はいっ。」
彼女も俺も笑顔で家に戻っていった。
ーー
家に戻るとすぐ玄関に母さんが待っていた。
「おかえり耀司、あら、伽耶さん大荷物ねー。」
「あ…ウチも…頼まれてたので…あとっ…これ!」
あ、さっきタイムセールで獲得した大きいお肉!
「あらぁ!お肉!それにこれ結構高いやつじゃない!それもこんなに安い値段で!」
「はい…ちょうどタイムセールやってたので…」
「でもいいの?せっかく伽耶ちゃんが手に入れたものなのに?」
「私、タイムセールが好きなので。」
タイムセールが好きってなんだよ!近所の奥さんでもそんなこと言わねぇよ!前に話してたの聞いたらタイムセールは戦争よねぇって言ってたよ!
「お金だすわ、ちょっとまってて…」
「いえ、大丈夫です!お母さんが『今日タイムセールなのよ、あんた得意なんだからこのお菓子と一緒に分けたげなさい!』って言っていたので。」
「あら、お菓子まで!また一度ご挨拶させてもらうわ!貰ってばかりじゃ悪いわ!」
確かにいくらなんでもなんの礼もなしにこんなに貰うなんてさすがに悪すぎる。
「いえいえ!私と仲良くしてくれてるお礼だと仰っていたので。」
「そう?でも、お礼は別!連絡先教えとくから、また伽耶さんのお母さんに伝えておいて。いろいろお話したいし!」
「はいっ。」
「あと耀司!伽耶さんをちゃんと送っていきなさい!」
まぁ、言われなくてもそうしてたけどな。
「あ、いえ、大丈夫です。1人で帰りますから。」
「だーめよ!ほら耀司!送っていきなさい!」
「はいはい。」
ーー
そして帰り道申し訳なさそうに俺の方を見てくる
「どうかした?」
「すみません…ご迷惑をおかけして…」
少し寂しそうに言うもんだから思わず俺も返事した
「ううん!俺も楽しかったし。また今度1人で買い出し頼まれた時はお願いしようかな…なんて…あっ!伽耶さんじゃない場合もあるのか!えっと…」
「ふふっ、また…一緒に出かけましょう。」
よかった。最初は話すの苦手なのかなって思ってどうしようかと思ったけど1度話したらすごく話してくれる子だった。
「もちろん!あ、あとこれ…」
俺はプレゼントを渡した。今日付き合ってくれたお礼にと思って選んだんだけど…
「えっ…なんですか?…ピン留め?」
「そうそう!せっかく可愛いのにめがかくれてちゃあもったいないよ!」
ちょっとキザ過ぎたかな…さすがにちょっと恥ずかしいっすわ…
「ありがとう…ございます…あっ、ここで…大丈夫です。」
「え…でも…」
そう言いかけた時彼女はずいっと顔を寄せてちゅっと俺の頬にキスを…!?キス!?
「な…なっ…」
「これ以上は…我慢できなくなっちゃいそうなんで…」
ペコっと頭を下げて走っていった。…え?どゆこと?我慢って何!?可愛い!いや、え?
「どういうことぉぉぉぉ!」
夕日に向かって叫ぶ俺であった。
ーー
心の中
『お前どういうつもりだ?』
摩耶は伽耶にむかってメンチを切るように睨んだ。
『すみませんすみませんすみませんすみません!』
『まぁまぁ、摩耶ちゃん、伽耶ちゃんが怖がってるよー。』
怖がってる伽耶を守るように佐奈が前に立った。
『なんでキスなんてしたんだ!』
『えっと…かっこよかった…から?』
『そんなこと知ってんだよ!…アタシだって…』
摩耶はごにょごにょと独り言を言ってそれを見透かしたように佐奈はニコッと微笑んだ。
『うんうん、みんな耀司くんのこと大好きだもんねー。』
『ふんっ、まぁ、私は嫌いじゃないってだけだけどね!』
1人余裕そうに横髪をかきあげる世羅だったがすぐに琉偉にツッコまれる
『え〜?耀司くん見たあとデレデレだったけどぉ?』
『なっ!あ、あんただってようちゃんなんて言ってデレデレしてたじゃない!』
『なにおう!』
『まぁまぁ、みんな落ち着いて。ほんとみんな耀司くんが大好きなんだから〜自重してね?』
『『あんだか言うな!』』
『まぁ、こうやってみんなで話すなんて初めてじゃない?いつも無言で交代してたし…やっぱり耀司くんのおかげ…かな?』
『『『『………。』』』』
人格違えど記憶と心はおなじ。つまり一人がそう思えばみんなが同じ思い。それが丹比の多重人格なのだ。それは恋心も同じ。
『じゃ、じゃあ私行くね。』
『お前、抜けがけしたら許さねぇからな!』
『抜けがけって…同じ体でしょ!』
『人格は違ぇだろ!』
琉偉は摩耶と言い争いをしながら真ん中へたった。
『私だって…ようちゃんとしたいのに…』
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