第5話 お姉ちゃんと幼馴染

「あなたのことが…知りたいっ!」


俺はいつの間にか手を伸ばして彼女を引き止めていた。


「耀司…くん?」


緊張感が漂う中俺は我に返り急いで手を離した


「ご、ごめん…知りたいって言うのはもっと丹比さんのことを知りたいってことで!変な意味じゃな…くもないけど!あっ!違うな!なんというかその…」


オドオドしてる俺を見て少しキョトンとした顔をしていたがすぐにクスッと微笑みかけてくれた


「うんうん。何となくわかった。私たちのことが知りたいんだよね。」


「…はい。」


「じゃあ…教えてあげる。」


そして佐奈さんは色んなことを教えてくれた。物心着いてすぐ多重人格なってしまったこと。自分と含めて5人存在すること、深夜0時になると同時に人格が入れ替わること

小さい時から今までのことを沢山聞いた。嫌な顔をせず笑い話のようにしているが彼女たちは辛かっただろう話もあった。


「ありがとう。色々教えてくれて。」


「ううん、私の方がお礼を言いたいくらい。今まで誰にもいったことなかったから…少しスッキリした。」


「それはよかった。」


すると学園の授業が始まるチャイムがなって俺たちは声を合わせて「あっ」と言った。


「授業、遅刻しちゃったね。」


「戻っても仕方ないしサボるか?」


俺は近くのベンチに寝そべった。しかし佐奈はぷくぅと頬を膨らました。なんとかわゆいのぉ?


「だめだよ!ちゃんと謝ってちゃんと受けなきゃ!」


「そうだな佐奈姉ちゃん。」


「ッツ!?」


顔を真っ赤にして俺を見る。してやったりだ。俺を子供扱いした朝の仕返しだ!


「いつからそんな悪い子になったのぉ!」


「あはははっ!さっ、もどろ…」


そういって戻ろうとドアを開けようとすると先に開いた


「やっぱりここにいたァ!!もう!耀司!」


「お前…」


「知り合い?」


「まぁな。」


そう、俺はこの子を知っている…それも俺が授業をサボろうとする度に毎回俺を見つけては連れていく。ポニーテールに括られた茶色の髪を揺らして俺を睨む少女…紫色の目は全てを見透かすように美しく、そのスタイルはグラビアアイドルにひけをとらない体をしている。胸の大きさならおそらく山城先生と同等…いや、それ以上だろう。クラスの人気者でみんなからは姫って言われてるんだっけ?


「紹介するよ、こいつは俺の…幼馴染…になるのかな?」


俺が何も信じなくなっていた時、一緒にいてくれた…いじめられていた少女が彼女だ。


「五木 りなっていいます!初めまして!」


「あっ!丹比 佐奈っていいます。」


俺の時とはうってかわって丁寧に挨拶をした。俺の時はお姉ちゃんって呼んでねとか言ってたくせに。


「それより!また授業サボろうとしてたでしょ!?」


「なわけ…ねぇだろ?」


「何よ今の間!違うクラスなのにいっつも私が連れてきてって言われるんだから勘弁してよね!」


昔こいつは周りからいじめられていて俺が守ったり世話をしていたが、今ではまるで逆だ。


「てか、お前も断りゃいいだろうが!」


「…う、うるさいわね!迎えに来てあげた私に口答えする気!?」


無茶苦茶だ!俺がサボろうが授業を受けようが俺の勝手だしお前には迷惑かけてねぇだろ!?


「誰も頼んでねぇよ!」


「なんですって!!」


「まぁまぁ、2人とも仲良くしよ。どちらにせよ戻るつもりだったし…いこっ耀司くん」


「まってよあんた。耀司のなに?」


なんとか喧嘩になりそうなのを、おさえてくれたのにまたこいつは…相手にしなくていいですよ…佐奈さ…


「えっ?…お姉ちゃんかな?」


「ちげーよ!?」


誤解を招くようなことを言うな!ましてやこいつはすぐ周りに言いふらすんだから…この噂がまた広まったらたまったもんじゃない!


「…なんか知らないけどこいつに世話を焼いていいのは私だけなんだから!!あんたは引っ込んどいて!」


「むっ!お姉ちゃんの役目を取る気だな!なら私も引下がる訳には行かないかな!」


ブンブンと腕と胸を揺らして怒る。正直いってめちゃくちゃ可愛い…いや、そうじゃなくて!!


「いや何張り合ってんだよ!?」


世話を焼くって子供じゃねぇんだから!てかさっさと戻ろうぜ?授業中なんだから、今更だけど…俺が言うのもなんだけど!


「いいわ!放課後、勝負しなさい!どっちがこいつの世話焼きに向いてるか勝負よ!!」


「望むところ!!」


「何勝手に決めてんの!?俺の意見は!?」


「「耀司(くん)は黙ってて!!」」


「すいません!」


女の子怖いよぉ…どうか穏便に終わらせてぇぇー


ーー

言い争いを終え、大人しく俺たちが戻ったのを確認し、教室に戻ったりなは先生のニヤニヤした顔を見逃さなかった。


「…なんですか?」


「いつもご苦労だな。しかし、迎えにいくのを自分から志願するとはさすが幼馴染だな」


「ふんっ!そんなんじゃないですから!早く授業続けてください。」


周りの人達もいつもの事かという顔をしているから気に入らない。


「はいはい。では、続けます。」


ーー

そして、放課後、屋上で俺と佐奈さんとりなが集まった。理由はただ1つ…


「さぁ、勝負よ!!」


「で、内容は?」


「…内容?」


佐奈の質問にはぁ?という感じで答えるりな。なんだ?勝負っていうんだからなんかあるだろ?ゲームとか古今東西とか俺の事を問題にするとか。え?まさか…


「何も考えてないの?」


「な、なによ!悪い!?」


「いや、悪いというか…」


忘れてた…こいつ…普通に馬鹿だった。考えるより先に口が喋っちゃうから訳分からなくなったんだろう。


「あぁもう!この際勝負はどうでもいいわ!あんた、転校してきた時から気に入らなかったの!」


勝負がいちばん重要だったんじゃないの!?急に悪口になっちゃったよ!


「私、五木さんに気に障るようなことした覚えはないんだけど…?」


ほら見ろ!佐奈さんが困惑してるだろ!どうしてくれるんだこの状況…


「あんた、転校初日からベタベタと耀司と机をひっけて!」


「いや、あれは教科書がまだ届いてなかったから見せざるを得なかったんだよ。」


佐奈さんはいらんことを言いかねないので俺が代わりに答える。嘘は言ってない、本当のことなんだから。


「…で、デートしてたじゃない!!」


「あれは街の紹介しただけだ。引っ越したばかりで大変だから、色々知ってもらうために。」


「…じゃ、じゃあその人の家に上がったのは!?」


「それは佐奈さんのお母さんが紹介してほしいって言われたから僕を呼んだだけで変な意味は無いよ」


「…は?」


「いや、は?じゃなくて!俺と佐奈さんとはなんにもないの!」


自分で言ってて悲しくなるからこれ以上言わせないで!いや、脈があるかもとかそんなこと思ってないけど!思ってないけど!!


「…そ、そうなのね!あはははっ!わたしったらうっかりさん!そうね!確かにあんたみたいな冴えないやつが興味持たれるはずもないわね!」


「うるせぇ!」


誤解が解けたかとおもったらこんどはなんでここまでボロカス言われなきゃならないんだ!


「まぁ、いいわ!許してあげる!」


「お前何様だ!」


「むぅ…さっきから私置いてけぼりなんですけど?」


と、忘れてた!いや、佐奈さんに迷惑をかけたくなかったから俺が誤解をとこうとしてたんだけど…


「それに何もないなんてことないじゃないですか…朝起こしに行きましたし…」


「モーニングコール!?」


「えっ!?あ、いや…」


まずい…地雷踏んだ!それに何言ってくれてる!?また誤解をうんじまうだろ!佐奈を止めようとしたがそれよりも先に俺の肩をおしのけりなは佐奈の肩を思いっきり掴んだ!そのせいで俺は派手にずっこけた。いてぇ!


「ご飯だって作りましたし…」


「手作り朝ごはん!?」


「だから…その…」


俺が誤解をとこうとするがもうガン無視…もうダメだ…おしまいだ…


「お母様にも挨拶して…」


「挨拶!!」


「変な言い方をするな!全部健全なやつだよ!変ないみはない!」


「ずるいです。私だって耀司くんのこと知ってるのに…さっきからりなさんとばかりイチャイチャして。」


「イチャイチャしてないよ!?」


とんだ言いがかりだ!あれがイチャイチャだったら俺はとんだドMだろ!


「かぁぁぁっ!やっぱり放っておけないわ!これからは私があんたの面倒見てあげるわ!」


俺を指さして宣言するりな。いや、普通に困りますよ?


「だから誰もそんな事頼んで…」


「いーい!?あんたに拒否権はないんだからね!」


「いや、だから…」


「机の1番下の引き出しの奥隙間!」


「これからもよろしくお願いします!」


「どうしたの耀司くん!?」


なんでこいつ俺のお宝の場所知ってんだ!?誰にも教えた覚えはないぞ!?まさか母さんか!!母さんなんだな!


「ふんっ!今日はここまでにしてあげるわ。」


「お疲れ様でした!!」


俺は逆らうことも出来ず運動部の部員のように深々と頭を下げた


ーー

「ごめんな…色々と…」


その日の帰り、色々と巻き込みすぎてどこから謝ったらいいのか分からない。いやこれ、俺が悪いのか?


「ううん、私こそ色々とわがままみたいなこと言って…五木さんに勘違いさせちゃった…かな?」


「まぁ、あいつ昔からあんな感じだから明日になったら忘れてるよ。」


「そ、そっか。」


「うん。」


ちょっと気まずい空気になっちまった。くそ…あいつ明日覚えてやがれよ!


「また今度は耀司君の話、聞かせてくれる?」


「あ、うん、いいよ。」


俺なんかの話でよけりゃいつでも聞かせてやるよ。あんま面白くねぇかもしんねぇけど。


「約束ね。」


「うん、約束な。」


「じゃあまた今度ね!」


手を控えめに振って階段をおりていく。あぁ、本当に可愛いなぁ。


「あぁ!」


俺も手を振って彼女が見えなくなるまで見送った。


ーー

「…ただいま。」


あまりに叫びすぎて喉が渇いた麦茶麦茶…


「おかえりなさい。ねぇ、結婚式はいつあげるの?」


「ブーっ!ゲホッゲボっ!」


お茶を吹き出しちまったじゃねぇか!なんてこと言いやがる!!


「なんでそうなった!!」


「だって…佐奈ちゃんと朝話してたのよ。」


ーー

『すみません朝の早くから…ご迷惑でしたよね…』


彼女は申し訳なさそうにお母さんに謝ったらしい。


『そんなことないわよ!むしろ朝ごはんを手伝ってもらって!私朝あんまり得意じゃないから…』


『そうなんですね、私また来ます!』


『いつでもいらっしゃい…それよりも自分の息子のこと悪くいうのもなんだけどあんな男のどこがいいの?』


『えっと…』


『そんなに男前ってわけじゃないし、頭もそんなに良くないし、冴えない男よ?』


息子のことをボロカスに言ったが彼女は首を横に振り返事した。


『その…大好きなんです…そういうところが。へんに飾らず目立ちすぎない…でも、いざって言う時に助けてくれる。そういうところが…大好きなんです。』


『へぇ…じゃあ私があの子のこといっぱい教えてあげるわ!一緒に頑張りましょ!』


『はい!お母様!』


『ふふっ、お義母さんって呼んでくれてもいいわよ?』


『はいっ!お義母さん』


ーー

「だからって結婚式は早すぎだよ!まずは付き合ってだなぁ…」


「あら?じゃあ付き合う気はあるのね?」


「かまかけやがったなこんちくしょう!」


まんまとやられたよ!この事が佐奈さんに知られてみろ…


『え…冗談のつもりで言ったのに…気持ち悪い…』


「絶対嫌われてもう二度と話して貰えなくなる!!」


「被害妄想激しすぎでしょ…そこまで悪い子には見えないわよ。少なくとも私から見たあの子は純粋にあなたに好意を持ってたわよ?」


「そうかもしれないが…」


女というのは何を考えてるか分からない!どうせ本当のことを知ったらあいつらみたいに俺から離れていくんだ!


「あなた、まだ…人を信じられないの?」


「母さんだって知ってるだろ…俺の事…」


「そうね、でも…彼女はあなたを知りたいって言ってきた。それをあなたは無下にする気?」


「そんなこと…でも…。」


「まぁ、無理にとは言わないわ。あんたが自分で決めなさい。」


こういう時正論言ってくるところムカつくが親なんだなって思う…まぁ、1度考えないといけないのかもな…俺の事…丹比さんのこと…


ーー

心の中

『はぁあぁぁ…今日もかっこよかったなぁァァ…』


『ちょっと!佐奈さん!あれじゃあ私が…ようちゃんの事がす、好きってことがバレバレじゃないですかぁ!』


普段は交代する人しか話さないが、珍しく琉偉が焦った様子で言い出した


『だって…耀司くんの顔みたら…我慢できないんだもん。』


『ふんっ、まぁ…あんたは表に出しすぎだし、琉偉は出さなさすぎなのよ。』


ツインテールを手でふわっとさせて自信気な女の子はそう言った。


『なにおう!じゃあ世羅さんは上手くやれるって言うんですか?』


『そうだそうだ〜!』


『まぁ、見てなさい!完璧にこなしてみせるわ!待ってなさい!耀司!!』

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