第3話 ツンデレヤンキー登場!

「…おはよ。」


次の日教室でいつものように音楽を聴いていたがそれを忘れるくらい俺は驚いてしまった。俺だけじゃなくクラスの全員が同じ顔をしていた。何せ昨日まで真面目にボタンを止めてピシッとしていた女の子がボタンをあけ前髪もオールバックにして目付きも少しするどくなって、言わゆるヤンキーのようになっていたからだ。丹比さんであることに間違いない髪型や目つきが変わっても髪色や目の色は変わらなかったからだ。


「おはよ…」


「え…あ、あぁ、おはよ。」


俺の目の前に来てもう一度言われたので一瞬よくわからず止まった。脳内が大渋滞を起こしすぎて一瞬返しに困ったのだ。いやぁ、男子三日会わざれば、刮目して見よ…とかなんか言うが女子は一晩会わざればってか?変わりすぎだろ。


「オレの席ここで合ってるか?」


「あ、あぁ。」


カバンを置いて俺に質問してきた。こいつ、記憶が無いのか?まぁ、人格が変わっているのだから無理もないか。


「おい、よ、よう…ちゃん。」


「え?」


俺の名前…っていうか昨日あいつが俺につけたあだ名。彼女とは初対面のはずだが…

てか、怖い感じのやつほど照れた時は可愛いっていうのをアニメでよく見ていたがこれほどとは…これが俗に言うギャップ萌えというやつか?いや、それより…


「おまえ、記憶があるのか?」


「そりゃ人格はちがえど体は同じだからな。記憶や気持ちもほぼ同じだ、たぶん…」


「ふーん。」


てことは変わるのは人格のみで記憶はほぼそのままということか、珍しいタイプだな。いいような悪いような。まぁ、俺からすれば説明する手間が省けてありがたい。


「てか、教科書類入ってるのかその鞄?」


見ると教科書が入ってるとは思えないくらい少ないんですが…


「あぁ、前の人格の野郎、入れとくの忘れてたのか…どおりで軽いわけだ。」


鞄をくるくると器用に回すのを見て俺はツッコミたくなった!いや気づけよ!持った時点でわかるだろ!昨日あったばかりだから強くは言えないが心の中でだけつっこんでおく!


「まぁいいや、教科書くらい見せてもらぇりゃいいし。」


まさかまた俺の借りる気か?まぁいいけど。


ーー

そして授業が始まりわずか数分で問題が発生した。


「あのー、丹比さん…ちゃんと授業を受けてもらえますか…?」


先生が恐る恐る注意を呼びかける。よく見ると丹比さんは机に足を乗っけてかなり印象が悪い。昨日のあの三角定規みたいな真っ直ぐで綺麗な姿勢とはまるで正反対だ。


「あ?受けてんだろ?」


「ひっ!」


あまりの威圧にさすがの先生も後ずさった。まぁ、俺でもこうなる。さすがにこれはダメでしょ…


「おい、先生に喧嘩を売るな、足をどけろ。」


「お、おいてめぇ!勝手に人に触んな!」


俺は、はぁぁ…とため息をついて足を下ろそうとすると急にじたばたし始めた。


「お前が言う事聞かねぇからだろうが!」


「何様だテメェ!それと、お前呼ばわりすんな!オレァちゃんと名前があんだよ!」


何様はおまえだろ!そういえば名前…名前?前と同じか?


「る…じゃないのか。」


「…麻耶(まや)だ。覚えとけ。」


「あっ、あぁ。えと、麻耶さん…ちゃんと席に着いた方がいいと思います。」


今思えば俺、こんなガラの悪いヤンキーによくこんな言葉が出てたなぁ。昨日の丹比さんみたいな感じで話してしまっていた。心臓バックバクだよほんと。


「…ちっ。」


イライラしてるのか顔を赤くしながらもちゃんと座ってくれた。下よく見たら足組んでるけどまぁ、このくらいはいいだろう。


「ありがとう鷹木くん。では授業を続けます。」


そしてそそくさと先生はその場を後にし何事も無かったかのように授業を続けだした。まぁ、その次の授業からは足はあげなかった。しかし、いびきをかいて寝てたり、外を眺めていたりと…全く授業を受ける気が見られなかった。


ーー

「おいてめぇ!」


やっと昼だと思って弁当食おうと思ったら呼び止められた。


「うぉっ!」


足をドンッと壁にぶつけ俺の進行方向を塞いだ。足ドンっていつの時代のヤンキーだよ。


「さっきはよくもやってくれやがったな!」


「いや、あれはお前…じゃなかった、麻耶さんが悪いだろうが。」


「うるせ!オレに指図すんな!」


ガルルルっと狼のように俺を睨む…もはや狂犬だな。ほんとどうやったら同じ人でここまで性格が変わるもんかねー。


「…悪かったよ、でもあぁでもしないとなんかしでかしそうな感じだったからやったんだよ。」


「ふん、そこまで馬鹿じゃねぇよ。」


俺が謝るとそれ以上は何もしなかった。馬鹿なことをやってる自覚はあるのか?つくづくよくわからんやつだ。顔もさっきから赤いし、なんか言いたそうにモジモジしてるし。


「んで…なんで昨日オレに優しくした?」


「はぁ?」


ボソボソと周りに聞こえないように話した。さっきも言ったけど、麻耶は初めましてだ…あ、昨日の記憶が残ってんのか。彼女のインパクトが強すぎて訳分からんくなる。


「まぁ、別に大した理由はねぇよ。教科書貸すのは当たり前だし、案内に応じたのも単に俺も最近出かけてなかったからだったし」


「そっか。」


なんだ?今度は急に大人しくなりやがった。

情緒不安定かよ!


「まぁ、その…なんだ…礼は言っとく。」


「お、おう。」


ほんと調子狂うなぁ…狂犬になったり大人しくなったり


「今日…用事あるか?」


「ないけど…」


このパターンは…まさかな。


「うちに来い…」


えー!そっち!?いきなり急展開すぎませんか!?初対面で…まぁ昨日会ってたけど!


「勘違いすんな!親が昨日お前を紹介して欲しいって言われたから。し、仕方なくだ!」


ーー

というわけで放課後、俺は丹比さんの家に行くことになった。ここが丹比さんの家か。一軒家でかなり大きい。今までこんな家建ってなかった気がするけど…いつの間にたってたんだって言うくらい豪邸だ。大きな噴水に家まで何メートルあんだよって思うくらいの道のりがある。本当にこんな家あるんだな。


「ただい…」


「摩耶ちゃん!おかえりなさーい!」


やっと玄関につき丹比さんがドアを開けた途端摩耶さんに抱きついてきた女性。髪の毛は白く、短めで丹比さんに似てスタイル抜群、お姉さん…かな?


「うぉぁ!母さん!いきなり抱きつくな!って言うか早く離せっ!」


「だぁってぇ!摩耶ちゃんの時、いつも帰ってくるの遅いから…」


え!?これお母さん!?若っ!アニメかよっ!さっきの庭とかもそうだったけどどうなってんだこの家族!お姉ちゃんって言われても全く違和感ねぇよ!


「そら、あんたがこんだけベタベタしてくりゃな!」


「初めましてぇ!摩耶の母の丹比 智陽子(たじ ちよこ

)っていいまぁす!」


無視すんな!という娘の言葉をガン無視して丁寧に挨拶をしてきた。金色の髪と青い目、抜群のスタイルは丹比さんにとてもよく似ている。琉偉さんにとても似てるなぁ。


「もういい!かあさん…こいつが昨日言ってたやつだ。」


「えと、はじめまして、鷹木…」


「ようちゃんよね!琉偉から話は聞いてたの!とっても優しくしてくれたって、あの子、不思議ちゃんだから周りから距離を置かれることが多いんだけどあなたは違うみたいねぇ?」


「ま、まぁ、そうですね。」


唐突に手を握られて一瞬ドキッとしたが、その後ろの圧が怖くて正気に戻った。まぁ、何となく気持ちがわからなくもないから…。あいつも大変な思いしてきたんだろうなぁ。


「もういいか?早くオレの部屋に行くぞ?」


「もう行くの?私、まだようちゃんと話したいこといっぱいあるのにぃ!」


そう言うと俺の腕に抱きついてきた。ちょっとぉ…その…胸と色々感触が…この爆弾ボディはやばいっ!


「いや、今じゃなくていいだろが!」


掴まれてる逆の腕を掴み無理矢理ひっぺがして2階へ連れていこうとする。


「ええー!あっ、後でおやつ持っていくからね〜」


「いらん!」


ーー

「ったく。」


ここが丹比さんの部屋…五人格なだけあって色んなものが置いてある。CDや、本、ぬいぐるみ、ジャンルもバラバラだ。ホントにひとつの部屋に5人住んでるみたいだ。


「あんまジロジロ見んじゃねぇよ。」


「ご、ごめんっ!…なかなか元気なお母さんだね。」


「あぁ、母さんはオレたちに優しいからな。」


オレたち…か。ほかの人格にも同じような対応をしてるのか。すごいなあの母親。


「で、家にあがったわけだけどなにかしたいことでもあったのか?」


「…おまえ、彼女とかいんのか?」


「えぇ!?い、いねぇよ!」


摩耶からの思わぬ質問にえっ!?となった。修学旅行中の男子か!それに女の子から言われると冗談でもドキッとするからやめろ!


「そうなのか。」


ほっとしたような顔をしてるがなんだ?バカにしてるのか?


「なんでそんなこと急に聞いたんだよ。」


「う、うるせぇなぁ!関係ねぇだろ!」


「いや、俺のこと話してたから!」


絶対そんな話しないだろうやつが急にそんなこと言い出したんだ。それもわざわざ自分の部屋にまで呼んで。それってなんか深い理由があるんじゃないのか?


「……あいつ、お前のことかなり気に入ってんだよ。」


「えっ…」


それって……いや、まさかな…


「別に好きってわけじゃないっぽいけどな!勘違いすんなよ!」


ですよね〜…まぁ、わかってたさ…分かってはいたさ!!


「ただ、お前を気に入ってるからこそあいつを傷つけることがあったらオレはお前を許さねぇ!それだけだ!」


「…なんだそんなことか。」


「そんなことだと!?」


胸ぐらをつかまれ今にも手を出しそうな体勢だ。別に変な意味で言ったんじゃないんだが…


「いや、悪い意味じゃなくて!…俺は友達を裏切ったりはしないし、ましてや女の子を傷つけることなんてしないよ。」


「ならいい。」


何とか許して貰えた。まぁ、なんというか…


「なんか良い奴だな摩耶さんは…」


「はぁ!?」


「なんか琉偉のお姉ちゃんみたいだ。」


「ふ、ふん!まぁ、あいつはうたれよわいからな!心配なんだよ!」


お姉ちゃんよりも姐さん肌なのかもしれないな。


「摩耶さんのイメージが変わったよ。」


「…めろよ。」


「え?」


なんかいったか?


「だから、さん付けやめろ。呼び捨てでいい。」


確かにずっとさん付けしてたけどそれが気に入らなかったのか?


「…えっと、摩耶…さん」


「あ?」


「摩耶!摩耶ね!」


「それでいいんだ。よし、話はこれだけだ。あとは…ゲームでもすっか?あたしトランプは得意なんだよ!」


「おっ!やるか!」


よかった…どうせなら摩耶とも仲良くなりたかったから。ゲームなら俺も得意だし!


ーー

数時間後ー


「くぅぅう!!」


二人でやるトランプゲームは結構あったのだがババ抜きが得意なんだと言われ、しばらくやっていたのだが、どう考えてもこいつ…弱い。まず右に手をやると


「はぁぁぁぁっ!」


めちゃくちゃ嬉しそうな顔をするけど左に手をやると


「あぁぁぁあぁぁ…」


めちゃくちゃショックを受けた顔をする。なんだこの子…お持ち帰りしたいんだけどいいですか?


「よっしゃ!」


何とかジョーカーを取ってあげるんだけどそれだけじゃなくてジョーカーはこれだよって分かりやすくカードをあげるんだけど…


「へっ、その手は通用しねぇよっ!…あぁぁぁぁあ!!!」


ジョーカーを引いてショックを受けるのだ、やっぱり…


「可愛いな…」


「へっ!?」


顔を赤くして俺の顔を見た。えっ!?もしかして今、声に出てた!?


「にゃ、にゃにが可愛いだ!からかいやがって!!ほら早く引けよ!!」


俺の目の前にずいっとやってきた。はぁ…せめて引いたあと、カードはシャッフルしとけよ。

このままじゃいつまでたっても終わらないからジョーカーじゃない方を引いてやる。


「ほら」


「あぁぁぁぁあ!!!も1回だ!」


「いや、他のゲームを…」


「だって母さんが『あなたはババ抜きの天才ね!』って!」


あのお母さんは…もう天才と言うよりも天災だな。あの人のことだ…この表情を見て楽しんでいたのだろう。


「それに、いい加減時間だから帰らねぇと…」


「勝ち逃げすんのか!!オレに負けるのが怖いのか!!」


「違ぇよー!てか摩耶は今10連敗中でしょ!?」


「次は勝つ!!次こそ!!」


「摩耶ちゃん、良かったら泊まってもらいなさい」


いつの間に俺の後ろにいたんだ!?ドアが開いた音も聞こえなかったんだが!?いやそれよりも泊まるのはさすがにまずい!


「そうだよ!今日泊まってけ!」


「いや、それはさすがに…」


「まだお母さん話したいこといっぱいあるしぃ。お父さんにも紹介しておきたいしぃ。」


「いやいやいや、それじゃまるで彼氏みたいじゃないですか」


「違うの?」


「違います!」


「えっ…」


と摩耶は少し残念そうな顔をした。え、なんで?てかお前もいつもみたいにカッとなってキレろよ!ほんとお前可愛すぎか!


「ほら〜摩耶もまんざらでもないんでしょー」


「う、うるせぇ!もういい!とっとと帰れ!」


「今度は帰れかよ!」


「帰りたかったんだろ!!」


「わかったから押すな押すな!お邪魔しましたー!」


「またいつでもいらっしゃーい!」


にこやかな笑顔で摩耶の母親は俺を送ってくれた。なんていい人なんだ。


ーー

入口前まで来てくれたがここから先は自分で帰れる。道も覚えたし。


「ここでいいのか?」


「さすがに女の子に近所まで送らせたりしないよ。夜道は危ないしね。」


「ふ、ふん!その…なんだ。今日は…その…ありがとな。」


「ん?あぁ、また遊ぼうか。」


「うん。これからも…仲良くしてくれよっ!!」


「お、おう。」


にっと笑ってドアの方へと向かった。何あれ…超可愛いんすけど。悪そうに見えて意外とめちゃくちゃ可愛いとこあるじゃん。明日も楽しみだ。って明日?明日もあいつなのか?


ーー

そのよる、夜ご飯を食べながら摩耶はうーんと唸っていた。


「摩耶ちゃん、どうかしたの?」


「あいつ、あたし言ったんだ、顔に出やすいって…なのになぜかいい勝負だったんだよ!あいつ、強がってやがったのか?」


するとかあさんは「あらぁ〜まぁまぁ〜」と言いながらにやにやしていた。


「なんだよ!」


「それはね、摩耶ちゃんのためにわざとはずしてたのよー。」


「なんだと!あんのやろ!!手加減してやがったんだな!!今度会った時、覚えてろよー!!」


「ちょっと違うけど…ふふっ、耀司くんかー。これからも仲良くしてあげてほしいわぁ。」


ーー

心の中

『つっかれたァー!』


『お疲れ様ぁ、楽しそうでよかったねぇ。』


そういったのは髪も声もゆるふわな感じの女の子。


『おぉ、あとは任せたぞ。』


『うん、よーし!いっぱい甘やかしてあげるんだから!』


『いや、甘やかす必要はねぇだろ?』


いやいや、とてを横に振りながら摩耶はそう言った。


『私が甘やかしたいの!それとも何?摩耶ちゃん私に嫉妬してる?』


『はぁ!?』


『ふふっ、冗談よ〜顔を真っ赤にしちゃって〜ほんと可愛いんだから!』


『お前ほんと母さんに似てうぜぇ!!からかってねぇでさっさと行けー!』


『はーい!…待っててねようちゃん、佐奈ちゃんが、君を幸せにしてあげるよ。今度こそ…』


佐奈いった彼女は強い意志をむねに真ん中へたった。

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