第4話 ぶつぶつぶやく in my heart
時は少々遡り―――。
◆ ◆ ◆
立冬を迎えてヒヤッとした風が駆け抜ける教室のベランダ。眼下の中庭からは、トス練する輩やお喋りに花を咲かせる奴等の騒がしい声が響いてくる。
そんな昼休み時間に俺は紙パックジュースをチュルッと吸いながら、渡り廊下に
長い黒髪がさらっと風に揺れ、ちょっとクールで意地悪な笑みが堪らなく俺の心を鷲掴む、俺の大切なカノちゃん。
それはもう、グワッと、ガシッと掴まれている。
「はぁぁ〜、好きすぎる」
思わず出た心の声に、トウタとリョウが反応する。
ト・リ「……キモ」
俺「なんて事言うんだよ!」
ト「つーか、マジで付き合うとは思わなかったわ」
リ「絶対フラれるから慰めのカラオケまで予約した
のに怒涛のラブソングとか、地獄見たよなー」
俺「有頂天になって悪かったよ。でも、正直未だに
信じられない俺がいるのも事実……」
リ「俺ほどイケメンでもねーしな」
ト「ただ背とアレがデケェくらいだしな」
俺「他にも褒めどころは有るだろうがっ!」
ト「言うて真面目なとこくらいだな」
俺「大事なところだろうっ!」
リ「真面目過ぎってのもな。その後も大して進展し
てねーんだろ?」
俺「手は繋いでるし、抱き締めもする」
ト「ちゅーは?」
俺「推薦が受かるまでしない」
リ「逆にムラつくだろがよ!」
ト「ご褒美はもっとデカいものにしとけよ〜」
俺「……へ?」
ト「分かってんだろ?」
リ「今年のクリスマスには卒業だな」
俺「なっ、ばっ、へっ!?」
リ「前カノとの失敗はこの為にあったんだよ」
ト「一気にイッちまえよ、うぇ~い!」
俺「お前らなぁ……」
ト「高校生でもホテルの予約って出来んのか?」
リ「どうなんだろうな。まさかのカラオケ?」
ト「窓から丸見え、やべーだろ、エロいわ〜!」
他人事だと思って楽しんでやがる親友たち。
俺を置いてきぼりで何やってんだか。
―――ご褒美、か。
チラッと渡り廊下に目をやると、彼女が気付き小さく手を振る。
疚しい気持ちを抱いて些か気まずくなりながらも、応えるようにヒラヒラと手を振る。
中学三年から付き合った前カノとは最後の最後で上手くいかなくて別れた。それが少々トラウマになっていおり、コイツ等の言う様にガッツリいけないところもある。
いやいや、それ以前に彼女はまだ一年生だし。
中三の妹ともひとつしか違わない。
何より大切にしたい気持ちが強い。
でも―――。
いつか、そういう関係になっていくのだろう。
ならば、俺も覚悟を決める準備をしなければ。
◆ ◆ ◆
登校班が一緒だった兄ちゃんに彼女ができた。
同じ高校に通うふたりは、駅から楽しそうに喋りながら兄ちゃんの家に消えていくらしい。
ツヤツヤとした長い髪がさらりと風に揺れ、兄ちゃんより二つ年下の割には大人びた雰囲気で、睫毛がくるんと丸まる奥二重の右下に小さな泣きぼくろがある、超超ちょ~美人さんだ。
当の兄ちゃんは、というと。
背は高いがそんなにイケメンではない。でも長子要素だだ漏れの頼もしくて優しい感じ。ガチモテには程遠いが、分かる人には分かる魅力を持つ感じ。
まぁ、残念系ではないとだけは言っておこう。
そんな長兄とカノさんの話をウンザリしながら語る同級生の斜め後ろの席で、息抜きの小説を読むふりをして耳を
良かったじゃないの、漸く春が来て。
受験生なのに余裕ブッこきまくりだけどね。
そう言えば推薦受かったから暇なのか。
恋愛ボケしてるとそのうち叩かれるんじゃない?
いや、叩かれて別れてしまえ、いっその事。
リア充の運命ってやつですよ、抗うな。
同じ受験生として腹立つし。
高校受験の第一関門を終えた冬。
三者面談のお陰で短縮日課となり、授業が終われば即下校。こんな時だからと、同じ小学校学区の奴らと帰宅途中にダベってると、例の兄ちゃんがカノさん連れで信号を渡るのが見えた。
「ごめん、先に帰る」
本当は信じたくなかった。
だから、何としてでも邪魔をしようと思った。
今日はバレンタインデー。
他の学生より早い時間からふたりが共に居る。
思春期なんだ。
そりゃ、想像したくなくても、しちゃうだろ?
「色ボケヤローは推薦取り消しでも食らっちまえ」
「受験生はさっさと帰って勉強しろや」
ちなみにこの兄ちゃんとはこういう関係。
そんなやり取りをくすくすと笑うカノさん。
こんな男には勿体ない、クール美女。
兄ちゃんは私立中学へ進学したから知らないが。
実は地元中学の部活の先輩と後輩の間柄。
それ以前に幼い頃から同じ塾に通う顔見知り。
そして。
どさくさに告ったが本気にされず、ふりフラれな関係でもある。
知り合ったのはこちらが先なのに。
何でこんな男に捕まったのか。
あぁ、どうでもいいから早く別れてくれ。
今度こそガチ告白するんだからさ。
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