第2話 私の自由時間
茶化し、としか思えない謎の告白から数ヶ月。
今日もスマホの着信音が鳴る。
⇒ 新入部員が思いの外やりおる、焦る!
⇒ 演奏会の差し入れ、うまうまでした、あざす!
⇒ また入賞逃した……
例の後輩から度々送られる部活の状況やコンクールの結果。目を通すのも日常茶飯事となって久しい夏に迎えた最終決戦。私同様、悔しい思いで締め括ったようなので、慰めと労いとこれ迄の頑張りを称えるメッセージを返す。
こうしたやりとりは部活を引退した秋を過ぎても続き、冬の足音が静かに近付いても連絡は途絶えることなく机の上のスマホを震わせる。
⇒ 点Pはお掃除ロボ? 兄弟仲良く出掛けろや!
⇒ 理科の実験で受験できたら完璧にこなすのに
⇒ 作者の気持ちを知って欲しくば、多くを語れ!
送られてくる内容がいよいよ受験生らしくなってきたいま、ミツルの脅しとは無関係に自由を満喫する私の隣には、背の高い二つ年上のカレシが寄り添うようになっていた。
◆ ◆ ◆
推薦入試で進学先を早々に決定させたいと目論む彼と初めて顔を合わせたのは、入学して間もなく開かれた文化祭の委員会だった。
「え、立花さんって
「いえ、
「そうか、そうなんだ。じゃあ、貫田リョウとか羽原トウタとか分かる? 同クラなんだけど……って、二つ違うと知らないかな」
「そう……ですね、子供会でも縦割り班でも聞いたことないです、すみません」
「いやいや、謝る事じゃないから大丈夫! そうか、さすがに小学校までは同じじゃなかったか……小さい頃を知りたかったな、残念」
「え? 最後、聞き取れなかったんですけど?」
「いや、何でもないよ!」
隙間時間の世間話で同じ中学校学区だと知り、学年の壁を越えて話しかけてくれたのが始まり。
その後、委員会の集まりで遅くなった日などには『番犬代わりに』と自宅の最寄り駅まで帰りを共にしてくれるまで距離が近付くと、彼の存在が膨らんでくるのを察したかのように告白を受け、今に至っている。
夏も終わり秋の風が駆け抜ければ大学受験で特に忙しい筈なのに、何かにつけて放課後にお茶を飲んだり買い物にも付き合ってくれるので、そのお返しではないけれど彼の勉強が出来るような場所を選び、時に教えてもらいながらデートを楽しんだ。
街路樹にライトアップ用の電飾が施されて世間が浮き足立つ頃になると、目標通りに彼の進路先も決定し、日暮れの早さを理由に、駅まで自転車通学の私が駅近くに住む彼の自宅にお邪魔しながら帰宅することが多くなった。
彼は長子らしい優しさと頼もしさを持ちながらも、二人きりになると甘えたがる一面も有り、そのギャップで謎の母性本能をつい擽られてしまう。
だからといって強引な押しがあるわけではない。
初めての彼氏という私の事実を受け止めてか、今どき珍しい程ゆっくりと時を進ませてくれ、クリスマスも正月も、きゅっと手を組み合い互いに照れながらキスを交わして抱き締め合う。そんな心穏やかな日々を繰り返していた。
いつまでも甘えてばかりではいられないが、そんな焦れったい時間がとても安らぎを与えてくれて、時に愛しく思えた。
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