近付く想いを見つけてよ【改訂版】

Shino★eno

第1話 キミのお願い

「今日は、ありがとうございました!」

 公立小学校から中学校への進学とは異なり、見知った顔を探す方が難しい高校生活にも漸く慣れた、初夏。かつて在籍していたコーラス部に予想以上の新入生が加わり、男女混声の可能性が濃厚になったと後輩から喜びの連絡を受けて仲間と母校へ立ち寄った帰り際、後輩の一人に不意に呼び止められる。


「先輩、ちょっとお時間貰っていいですか?」

 副部長としての心構えでも知りたいのだろうか。


「いや、個人的なお願いを、と思いましてね」

「お金の貸し借りはなしよ」


「ぷっ、中学生が他人に借金してまで何を買うんですか。そういうんじゃないですよ」

「聞きはするけれど、私が出来る事だけにしてね」


「逆に先輩にしか頼めないお願いです。先輩、高校生活を楽しむのは一年間だけにしてくださいね」


 ―――それは一体どういうこと?


「今年の受験で合格もぎ取ってあなたと同じ高校の上位クラスに食い込んだ暁には、あなたとお付き合いを始めて一生束縛するからです。

 こんなに価値観ピッタリの相性抜群な人間なんてこの世に二人といないんだから、最早運命を感じてもらわないと。抗おうなんて無駄ですよ、諦めて。

 本当はこうして告った時点から縛りたいけど、受験でまったりデートも出来そうにないから、干渉出来ないこの僅かな時間は自由に楽しんでください。

 友達百人作るもよし、中学同様部活に励むもよし、相変わらずの成績上位をキープしながら遊びまくって逆ハーレム作る……のは控えていただきたいかなぁ。好きピとイチャつくのも、うーん……まあ、仕方ない、許すとしましょう。

 先輩のは絶対に誰にも譲りたくないけど、逆に経験を積んだあなたにリードされるってのも悪くないしね。でも、来春には必ず別れてくださいね。腕力無いから、修羅場ってもボコられて亡き者になるのがオチなんで」


 ―――これは、どこからツッコむべきなのか?


「いや、一切ボケてはないですよ?」

 ちなみに、私の知る限りキミのおつむはまずまずで、我が校に入るには相当の努力が必要なはず。

 そして、学年はひとつ違えど幼い頃から同室で英会話を学び、受験期に通った学習塾でも偶然顔を合わせた幼馴染み感覚のキミへ、後輩でも塾仲間でもない恋愛感情を抱くことなど有り得ないに等しい。

 なのに、この自信は一体どこからやってくるものなのか。


「先輩〜、もう少し言い方を考えてくださいよ〜」

「冗談はいい加減にしなさいよ、ミツル」

「んー、まだ、これ以上ない存在だと肌で感じてないんですね。ならば、それもこの一年で思い知ってください。『あぁ、これが運命なんだな』って確信しますから、絶対に」

 憎たらしい程のドヤ顔を近付けて余裕たっぷりに言い切るキミには、最早、何を言っても無駄のようだ。早々に切り上げてしまおう。


「しないわよ、そんな事。相変わらず可笑しな発言ばかりね。もう帰るわ。勉強、頑張ってね、受験生」

「先輩、絶対に合格してあなたの元に向かいますから、待っててくださいね」

「いいえ、期待もしないし待ちもしません。でも、理想に向かって無事に羽ばたいてね」

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