43.食事会 開始
「……。」
帰りの馬車の中、夕日を浴びながら、父様は顔をしかめていた。
「…僕が美術館に行きたいと言った時、お父様が顔をしかめていた理由が、分かった気がします。」
「…夕日が眩しいだけだ。」
「そ、そうですか…。」
そう言うと、父様は話題を変えた。
「今から屋敷に向かうが、ヨハンとジェイソンの他に、もうひと組客が来る。仲良くするんだぞ。」
「はい。分かりました。」
父様は四人で冒険者パーティーを組んでいた。ヨハン子爵とジェイソン公爵の他にもう一人いるので、その人の事だろう。
公爵、子爵、男爵とこれまで貴族ぞろいなので、最後の一人も貴族なのだろうか。
屋敷に着くと、まだ来客はなかった。使用人たちは、貴族たちにも緊張することなくテキパキと案内をしていた。
「公爵様、以前にもここにいらしたことがあるのですか?」
「ああ、何度も来たことがあるぞ。学生の頃からな!」
やはりそうか。この公爵、妙に使用人たちと仲が良い。
中年の域に差し掛かったこの屋敷のメイド長に「太ったか?」と尋ねるなどとデリカシーのないことをしているが、嫌味な感じはなく彼なりのコミュニケーションといった感じだ。メイド長も「加齢臭ですか?臭いますよ。」とあろうことか大貴族に対してほぼ悪口のようなからかいをしたが、公爵も大きく笑って許していた。
しかし少し気にしていたのか、メイド長は若いメイドに自分の体型を尋ね、公爵はアンジェに臭いを尋ねていた。双方言葉を濁され、肩を落としている。
何をやっているんだと思いながら見ていると、屋敷の執事長が父様に何か耳打ちをしているのが見えた。
「準備が整った。まだ来ていない者もいるが、先に始めよう。」
父がそう言い、メイドたちが食堂の扉を開ける。すると、そこにはたくさんの豪華な料理が、豪快に広げられていた。
「ははは!相変わらず分かっているなこの屋敷の者たちは!!」
公爵が高笑いしながら席に飛んで行き、すぐに肉にかぶりつき始める。子爵も微笑みながらワインを口に運ぶ。
「みんな一緒に食べ始めないんですか?」
アンドレイが不思議な様子で父様に聞く。すると横から公爵が口を挟んだ。
「食事にマナーなんか要らないんだ!早く来ないと俺が全部食っちまうぞ!」
肉をまき散らしながら大きな声を出す。
「汚いな。最低限のマナーは守れ。」
父様が呆れた顔でたしなめる。すると子爵が、
「冒険者をしていたころ、どうしてもできるだけ早く食べ終わらないといけないって時がたくさんあってね。それからみんな思い思いに食べ始めるようになったんだ。」
と教えてくれた。確かに、悠長にみんなで仲良く食べてていては不都合なこともあるのかもしれない。
そんなことを話している間にも、テーブルの上の料理は見る見るうちに減っていく。早くしないと本当に無くなってしまうので、俺達も席について食べ始めた。
「おい、あんまり食べ過ぎるとあいつの分が無くなるだろ。ほどほどにしろ。」
父様が公爵にそう言ったところで、食堂の扉がバンッと大きな音を上げて開いた。
「俺達の分は残ってるか!?」
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