39.ひと騒動Ⅰ

「遅かったね。」


「お父様が王女殿下に見惚れてしまってな。」


「私も見惚れちゃったわ。あんなに可愛い女の子がいるなんて!」


 会場を見渡すと、王の元から戻ってなお、顔を赤らめ王女を思い出している男が年齢を問わずたくさんいた。


 アンドレイは大丈夫なようだ。案外女性への免疫があるのかもしれない。まだそういうのが分からないだけなのかもしれないが。


 

 三人で話をしながら美味しい料理を堪能していると、子供たちが数人近づいてきた。そして、先頭を歩くぽっちゃりでひと際豪華な衣装に身を包む男ん子が声を張り上げる。


「おい!お前たち!!」


 俺は口に物を詰めていたので対応できず、アンドレイは人見知りで俺の後ろに隠れてしまったので、代わりにアンジェが対応してくれた。


「いかがなさいましたか?」


「お前たちはなんで僕のところに挨拶をしに来ないんだ!僕が誰だか分かってるのか!」


 取り巻き達が「無礼だぞ!」と声を荒げる。


「存じ上げなくて申し訳ございません。お名前を伺ってもよろしいですか?」


 アンジェは大人顔負けな丁寧な口調で冷静に対応をしている。対して相手の男の子は興奮し横柄な態度をアンジェにぶつける。


「僕はダグラス・フォン・スローリー、スローリー侯爵家の跡取りだぞ!」


 ふむ、侯爵家か。なら問題なさそうだな。


「あら、そうでしたか。それは失礼しました。」


「分かったら早く名を名乗れ!」


「私はアンジェリカ・フォン・クルール。跡取りではありませんが、クルール家の長女です。」


「は、そうか!…え?」


 何かに気付いたのか、ぽっちゃりダグラス君の顔が真っ青になる。


「あ、あの…クルールとは公爵家のクルールでしょうか…?」


「ええ、私のお父様は公爵です。」


「これは失礼しました!!」


 アンジェの位を知ったダグラス君がものすごい勢いで頭を下げる。何が起こったのか分からない取り巻きはただ困惑するのみだ。


「こ、公爵家のご令嬢だと知らずに無礼を働いて申し訳ございませんでした!」


「ダグラス君」


「何をしているの!?」


 必死に頭を下げるダグラス君にアンジェが声を掛けようとしたところで、ぽっちゃりとした、いや、丸々太った大人の女性が割り込んできた。



 

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