35.初めての王都
それから約三週間後、俺達はようやく王都に到着した。
その間に俺とアンドレイは親友になり、父様と子爵もそれを喜んでいるようだった。
俺はどうやら精神が肉体に引っ張られているらしい。大人の精神年齢を持っているはずの俺が、何故かアンドレイととても話が合うのである。
引き締めて行かないと、と思うと同時に若い気分を楽しんでいる俺がいる。さほど悪いことでもないのであまり気にしないようにしようと思う。
「これが王都か…。」
目の前にそびえ立つ大きな城壁と関門に並ぶ人の多さが、この街の重要さと賑わいを如実に表している。
父様の話では、ロージア王国の王都には五万人ほどの人が生活しており、大陸の中で一位を争う大都市なのだそうだ。
前世で日本の東京に住んでいた俺からすると五万人都市など田舎もいいところなのだが、まず分母が違うので何も言わないでおく。
「じゃあ僕たちはこれから屋敷に行くから、また後でね。」
「分かった。」
どうやら貴族は領地の他に王都にも屋敷を持っているらしい。
「また後でな。」
「うん!」
親子それぞれ挨拶を済まし、自分たちの屋敷へ向かう。
マンダリン家の屋敷は、領地のもの程ではないが、それでも十分大豪邸と言えるものだった。
「パーティーはいつ開かれるのですか?」
「予定より少し遅れて着いたからなぁ。明後日だ。」
「明後日ですか?」
「ああ。だから明日は急いでお前の服、靴を揃えないとな。大忙しだぞ。」
「分かりました。」
その日は早くベッドに入り、次の日になった。
朝から街に繰り出し必要なものを揃えていく。
街並みはきれいで、時折兵士のような格好の人達が歩いているので治安も悪くなさそうだ。大通りは人で混みあっている。
服を買った後、靴屋に入ると、大人数の侍女を連れ買い物をしている貴族と出会った。
どうやら五歳になった俺と同い年の少女がいて、その子のために買い物をしているようだ。
後ろで見守る父親と思しき男性の身なりから考えると、恐らく上位貴族だろう。
彼が近づいてきたので俺は道を譲ろうとしたのだが、なんと父様はその男性に正面から堂々と近づいて行ってしまった。
「よおジェイソン、久しぶりだな!」
「おぉアンドリューか!久しぶりだな!」
そして固く握手を交わす。どうやら知り合いだったようだ。
「その子が神童と噂の子か?」
「そうだ。」
「カルム・フォン・マンダリンと申します。」
「おお、礼儀正しいな。どっかの誰かとは大違いだ。」
「うるさいな。お前の子供は?」
「さっき丁度靴を選び始めてな。こうなったら長い。」
「そうか。」
俺には彼が誰だか分からないので、父様に尋ねる。
「お父様、この方はお知り合いですか?」
「お前も人に言えないな。早くカルムに自己紹介しろよ。」
「おっと忘れてた。俺の名前はジェイソン・フォン・クルール。一応この国の公爵だ。よろしく。」
そう言って気軽に握手を求めてくる。
公爵だと!?父様はそんな大物貴族にタメ口を使っているのか?
「ジェイソンは学生時代からの友人でな。冒険者パーティーを組んでたうちの一人だ。」
父様が教えてくれる。なるほど、父様の悪友のうちの一人か。それでもお前呼ばわりはどうかと思うが。
「言い忘れてたが、ヨハンも来てるぞ。」
「そうか、あいつの息子も確か今年で五歳になったんだな。」
「大人しい子だったが、もうカルムとは仲良くなってたぞ。」
「社交性ならうちの娘も負けてないぞ。なんてったって今や領内のアイドルだからな!」
男二人が我が子自慢を繰り広げている。この二人は仲が良いライバル的関係なようだ。
「そういえば、あいつの娘も今年で五歳だったよな?」
「あー…、確かそうだな。」
「はは、そりゃパーティーが楽しみだな。」
他に誰かいるのか?いるとすれば、パーティーを組んでいた四人のうちの最後の一人だろう。
そんなことを話していると、店の奥の方から少女が走って近づいてきた。
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