33.グルーブ子爵Ⅲ
「それじゃあルイーゼ、留守番を頼んだよ。」
「分かりましたわ。行ってらっしゃい、あなた。アンドレイ、友達をたくさん作ってくるのよ。」
「はい。」
グルーブ子爵家一行が挨拶を済まし、馬車は出発した。
俺たちマンダリン家とグルーブ家、二つの貴族が馬車を相乗りして王都を目指す。
「あの…」
「どうしたんだい、カルム君?」
「本当にご一緒されて良かったのですか?」
「カルム君は僕たちと一緒は嫌?」
「いえ、そんなことはありません。」
俺の正面に座っているアンドレイが少し萎縮する。
「何が気になっているの?」
少し気になったことを尋ねる。
「貴族の外出というものは、それほど重い意味を持たないのでしょうか?」
「というと?」
「私が思うに、貴族には面子がとても重要であるのではないでしょうか。私達が馬車を相乗りして王都までやってきたと他の貴族に知られると、あまり良くないような気がするのです。」
「なるほど。」
「それに、私達貴族は領民から税を取って生活をしています。今回のように遠方まで外出する際などは、道中でお金を落とし経済を回すことも貴族としての仕事の一つだと思うのです。」
「へえ。」
子爵は何故か面白そうに笑っている。
「…偉そうに申し訳ございませんでした。」
「いや、いいよ。」
そう言うと父様に少し近寄り、小さな声でこそこそ話を始める。
「君の子供たち、皆優秀過ぎないかい?」
「…俺もそう思う。」
「カルム君なんて、僕がおいおいアンドレイに教えるつもりのことを全て理解しているじゃないか。」
「ああ。」
「本当に五歳児?」
「俺も時々疑問に思う。」
父様との話が終わると、俺の疑問にすべて答えてくれた。
「カルム君の言っていることはすべて正しい。確かに、僕達が相乗りをしているのを対抗派閥の誰かに見られると嫌味を言われるかもしれないし、旅の途中にお金を落とすことは貴族としての仕事の一つだよね。」
「はい。」
「じゃあ幾つか教えてあげよう。まずは二つ目の事だけど、別に僕たちは馬車代を浮かせるために相乗りしてるんじゃないよ。町で買った荷物を運ばせるために一番最後に付いて来させているんだ。」
「そうなのですか。申し訳ございませんでした。」
「いいよいいよ。じゃあ一つ目の話だけど、確かに、もし僕達に力が無かったら他の貴族に色々言われていただろうね。」
「ということは…」
「そう、でも誰も僕達に口出しはしない。いや、出来ないんだ。なぜなら、グルーブ家とマンダリン家は領地の大きさと貴族としての位は上位貴族に劣るけど、兵力と経済力ではどの貴族にも負けないんだ。」
「なるほど、そうなのですね。」
「うん。僕達には同じ派閥の上位貴族でも、侯爵くらいなら手出しは出来ないからね。」
そこまで話すと、横から父様が割って入ってきた。
「ヨハン、そのくらいにしておけ。相手は子供だぞ。」
「ごめんごめん、カルム君が大人っぽいからつい、ね。」
「お前は昔から溜め込むからな。あんまり無理するんじゃないぞ。」
「分かってるよ。」
二人の話を聞きながら、俺は考え事をしていた。
この国の貴族は、上から公爵・辺境伯・侯爵・伯爵・子爵・男爵があり、その下に騎士爵などがある。グルーブ子爵の話では、侯爵家は三つも位が下である父様に対して口出しが出来ないのだ。
それは、それだけ父様の領地経営がすごいのか、それとも学生時代の悪行が恐れられているのか、または他に何か理由があるのか…。
なんにせよ父様は凄い人なんだな、と一人頷いていると、向かいに座っているアンドレイが尊敬の眼差しで俺を見つめていることに気が付いた。
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