32.グルーブ子爵Ⅱ

 子爵はきれいな金髪イケメンで、優しそうな雰囲気を纏っている。ルイーゼ夫人は深い緑の髪を右肩に流している、恐らく子爵よりも一回り近くは若い女性だ。


「あんまりこいつの甘いマスクに惑わされるんじゃないぞ。こいつはこんな顔して相当やばいことするからな。」


「学制の頃でしょ?今では大人しくしているしあの時も指示を出していたのは君じゃないか。」


「ふん、どうだか。」


「とても素敵なご夫婦ですね。」


「はは、ルイーゼが僕より大分若いと思ったでしょ?」


「ええ、まあ。」


「ルイーゼと僕はお互いの両親が僕たちが生まれる前に決めた許嫁だったんだ。」


「そうなのですね…。」


 やはり貴族には許嫁がいるものなのだろうか。俺や兄様達には聞いたことがないが。


「うちは代々自分の結婚相手は自分で探す家系だ。お前に許嫁はいないぞ。」


 …よかった。知らない女性と結婚するのは嫌だからな。


「それよりヨハン、お前の息子はどこにいるんだ?たしかカルムと同い年だったはずだが。」


「ああ、アンドレイは少し恥ずかしがり屋でね。後で挨拶させるよ。」


「そうか。それにしてもこの辺りも昔に比べてだいぶ賑やかになったな。」


「来るたびにそう言ってるね。」


「何処の領を参考にしているんだ?」


「色んな所から良い所取りだよ。」


「お前は昔から耳が良いからな。どうせ俺たちがここに来るのも前々から知ってたんだろ?」


「いや、それはアンドレイから教えてもらった。」


「なに?」


「いやあ、うちの息子も優秀でね。君たちが屋敷を出た時点で把握して教えてくれたよ。だから念入りに歓迎する準備が出来たんだ。」


 え?屋敷を出る時から誰かに見られていたのか?


「そうなのか。」


 父様はあまり驚いていない。子爵様はそれほどすごい人なのだろう。


「この後ディナーを御馳走するから、先に二人ともお風呂に入っておいで。」


「ああ、助かる。」


「ありがとうございます。」



 風呂から上がると、食堂に案内された。


 テーブルにはとても豪華な食事が並び、椅子には子爵と夫人、そして子爵にとても似た子供が座っていた。


「来たね。じゃあ食べ始める前にアンドレイ、自己紹介よろしくね。」


「あ、は、はじめまして。アンドレイです。よ、よろしく、お願いします…。」


「俺はアンドリュー・フォン・マンダリンだ。よろしく。」


「僕の名前はカルムと言います。どうぞよろしくお願いします。」


 互いに挨拶を済ませると、五人は談笑しながらディナーを食べた。


 アンドレイは話しかけようとすると俯いてしまい話せなかったので、後ほどまた挑戦しようと思う。彼はこの世界での俺の友達第一号候補だ。


 その代わり、子爵からたくさんの話を聞くことが出来た。


 父様と子爵の仲が良いのは学園で同級生だったからだ。学生時代の父様はいわゆる問題児で、子爵や他の生徒と四人でつるんでは問題ばかり起こしていたという。夫人の話では、父様をリーダーに、子爵がライバル派閥に情報戦を仕掛けたりと滅茶苦茶なことをやっていたらしい。


 その四人は卒業後も冒険者でパーティーを組み、今日に至るまで交流が続いている。


「いつ出発するんだい?」


 話が変わった。


「いつごろ出られるんだ?」


「いつでも行けるけど。」


「じゃあ明後日にしよう。」


「分かった。」


 あれ?


「子爵様もご同行されるのですか?」


「アンドレイも今年五歳になってステータスを授かったからね。どうせなら一緒に行った方が楽しいでしょ?」


「なるほど、そうですね。」


「仲良くしてあげてね。」


「こちらこそよろしくお願いします。」


 こうして、王都への旅にグルーブ子爵家一行が参加することになった。

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