30.野宿Ⅲ

 俺はジョセフと二人で苦労して作り上げたものを父様に披露する。


「お父様、これをどうぞ。」


「それはなんだ?食べ物か?」


「はい。といいます。」


「いんすたんとすーぷ?このまま齧ればいいのか?」


 父様は良く分からないといった様子でスープの素であるキューブを観察している。


「いえ、容器にこのキューブを入れ、上からお湯をかけて溶かして召し上がってください。美味しいスープが出来ますよ。」


「はぁ?この四角いのがスープに?何を言ってるんだカルム。」


「だまされたと思って一度試してみて下さい。」


「しょうがないなぁ。」


 そう言って父様は俺が用意しておいた皿を受け取り、焚火でお湯を沸かして上からかける。


「お、なんだかいい匂いがするな。」


「でしょう?では召し上がってください。」


「ああ。では。」


 そう言って一口すする。


「な!?美味いじゃないか!こんなの見たことないぞ!」


「そうでしょう。僕とジョセフが二人で開発しましたので。」


「カルム、お前料理もできるのか?何でもできるな…。」


「作ったのはジョセフさんですよ。」


 俺はここ数週間を回想する。



 鍛錬が始まった。オーウェン兄様にスパルタな指導を受けるのは別に良いのだが、どうしても夜になるとお腹が空いてしまう。夕飯をたくさん食べようと思っても、五歳児の胃袋は小さいので直ぐにいっぱいになってしまう。でも足りない。


 ベッドの中で困っていると、昨日ワイアット兄様に料理長について教わったことを思い出した。


 彼なら俺の望みに答えてくれるかもしれない。


 そう期待して、彼に会いに行き事情を話した。


 新しい料理の話をすると、ジョセフは目の色が変わり俺がどのようなものを作るつもりなのか根掘り葉掘り聞いてきた。


 前世で、俺は小腹が空くとすぐに即席スープを作って食べていた。安っぽいが手軽に楽しめるあの味が好きだった。


 それを思い出しながら、あくまで俺の発想という体でジョセフに教えた。


 するとジョセフは開発に没頭し始め、夜、次の日の朝食の仕込みが終わった後寝る間も惜しんで試行錯誤を重ねた。


 もちろん俺も開発に参加した。そもそも、俺は完成品を知っているだけで料理は少ししか出来ないし、鍛錬で疲れているので食べるだけ食べて寝たかったのだが、言い出した張本人である俺が逃げ切れるはずもなく、毎日試食役として参加することになった。


 ジョセフは本当にすごい料理人だった。俺から少し聞いただけで作り方を予想・模索し、毎回完成品に近づけてきた。


 そのように夜遅くまで二人で開発を進めてきた結果、なんと数週間で前世の物に劣らない程の即席スープが完成したのである。


「カルム様、完成したこれは何と名付けられますか?」


「決めちゃっていいの?」


「もちろんです。考案者はカルム様なのですから。」


「うーん、分かった。じゃあ、インスタントスープっていうのはどうかな?」


「分かりやすくて大変よろしいですね。」


「ありがとう。」


 こうして、この世界に初めて即席スープが誕生したのである。



「この料理、どうするつもりだ?」


「どうする、とは?」


「この料理は画期的だ。売れば冒険者を中心に多くの人に求められるだろう。どうする?」


「僕には商売は分かりません。なので、どうするかはお父様にお任せします。ジョセフさんにもお聞きしてください。開発者は彼ですから。」


「分かった。」


 それから、俺と父様は黒パンをスープに浸しながら食べた。硬い黒パンが大分食べやすくなったので、持ってきておいて正解だった。


 即席スープが出来たのならインスタントラーメンも作ることが出来るだろう。今度ジョセフに教えてあげよう。


 そんなことを考えながら、俺は父様と談笑をしていた。


 

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